御徒町の新築ランドマークオフィス「NEWS X 御徒町」はこうして生まれた―都市計画・建築・施工の舞台裏
皆さんこんにちは。
株式会社スペースライブラリの鶴谷です。
この記事は「NEWSX 御徒町」のビル開発についてまとめたもので、2026年1月21日に執筆しています。
御徒町駅近くに誕生した新築オフィスビル「NEWSX 御徒町」。その都市計画・建築計画・素材選定・施工プロセスまで、オフィスビル開発の裏側を開発担当者の視点からご紹介します。
少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。
東京都台東区台東四丁目。御徒町駅にほど近い、上野・秋葉原エリアから少し外れたこの一角は、低層の住宅や古いオフィス、飲食店が混在する、東京らしい雑多さの残る街区です。TPM株式会社(株式会社スペースライブラリの親会社)では、この場所に地上10階・延床約1,700㎡の中規模オフィスビル「NEWSX 御徒町」を開発しました。建築設計・監理はMMAAAが行い、2025年1月に竣工しています。
私たちがこのプロジェクトで目指したのは、「御徒町のぎっしり建て込んだ街に、もう一度“余白”を取り戻し、同時に都市の“ランドマーク”として存在感を獲得すること」でした。建物名称の“X”には、人・情報・ビジネスが交わる場と、ファサードのX字フレームの両方の意味を込めています。
都市計画:御徒町のぎっしり建て込んだ街に、広場のような余白を
敷地は三方を隣地に囲まれ、前面の道路も決して広いとは言えません。ここに一般的なオフィスビルを建てると、建物が道路際まで迫り、街路はますます窮屈になります。結果として建物の高さは道路斜線で決まってしまい、容積率を消化できません。
そこでNEWSX 御徒町では、建物を道路境界や隣地境界から大きくセットバックし、前面・側面に広がりのある公開空地を確保しました。歩行者から見ると、周囲のビルの合間にふっと視界が抜ける場所が生まれ、細街路の途中に小さな「広場」が挿入されたような感覚になります。その結果として、道路斜線を緩和する「天空率制度(空が見える率を確保することで道路斜線の緩和を受け計画)」により、建物高さは10階・41mまで可能となり、容積率をほぼ消化することができました。
この外部空間は、植栽を配置できるだけでなく、エントランスピロティから眺められる開放的な庭としても機能します。1階エントランスホールはピロティを経由してこの庭と連続しており、街から建物内部へ、自然に視線と動線が引き込まれる構成としました。また、隣地境界からの5mの離隔は、いわゆる「延焼ライン(隣地からの延焼のおそれのある範囲)」を外すことになり、この建物は開口部を防火設備にする必要性から解放されています。
防火地域などの都市計画上の制約が厳しいエリアでありながら、ただ規制に従うだけでなく、「どれだけ建て込んだ街に開いた余白をつくれるか」を軸にボリュームスタディを重ねた結果、開口部は防火設備の矩形の連続から解き放たれ、“異なる空間の質” “スケール感”を獲得し、都市に新たな表情を生み出しています。
建築計画1:X字フレームが形づくる立体的なファサード
外観のもっとも大きな特徴は、2層分をひとまとまりとしたX字の構造フレームです。前面の大きなガラスの奥に、この斜めのラインが連続することで、周囲の街並みの中でもひと目で「NEWSX」とわかる強いアイコンを獲得しています。
このX字フレームは単なるデザインモチーフではなく、構造の骨格でもあります。高くスリムなボリュームを確保しつつ、地震力を外殻で効率的に負担することで、室内側に不要な柱や梁を増やさずに済む計画としました。外壁に構造を押し出すことで、内部のオフィスフロアはすっきりとした矩形のワンルーム空間となり、テナントが自由にレイアウトを組める柔軟性を生んでいます。
斜めのフレームは、日射や視線に対するフィルターとしても機能します。昼間は直射日光を和らげ、夜間には室内の明かりがフレームに反射して、通りから見上げたときに立体的な陰影を生み出します。都市のスカイラインに対しても、昼と夜で表情を変える存在になることを意図しました。
建築計画2:テナントが“プライドを持てる”オリジナルな場
標準階は、柱型や設備シャフトを最小限に抑えたシンプルな平面計画とし、1フロア1テナントから、複数階利用まで幅広い使い方に対応できるようにしています。
内装は、構造体のコンクリートを現しとしたラフな仕上げを基本としつつ、天井を張らずにワッフルのようなスラブをそのまま現しとして、天井高を3mしっかり確保することで、コンパクトながらも伸びやかな空間を実現しました。そこにテナントが好みのレイアウトを計画し家具を持ち込むことで、それぞれの企業らしさを表現したオリジナルな場となることを目指しました。
どこにでもあるオフィス空間=均質空間ではなく、オリジナルな場=人・情報・ビジネスが交わる場であり、テナントが、そこで働く一人ひとりがプライドを持って働く場となることを目指しています。
6階にはテラスと連続するフロアを設け、室内から連続してテラスに出られるようにしています。オフィスワーカーが街の空を感じられる半屋外空間は、このエリアにはまだ少なく、NEWSX 御徒町ならではの付加価値となっています。
建築計画3:素材感の追求
1. ピロティ・エントランスの床仕上げ「ビールストーン」
1-1. 「コンクリート洗い出し」との違い
土間やテラス、玄関先などの床面仕上げでは、昔から「洗い出し」という工法が用いられてきました。コンクリートを流し込み、硬化前に表面を洗い流して骨材を露出させるもので、素朴で味わいのある表情が得られる一方、目地が多くなりがちで、ひび割れや欠けなどの経年劣化が目立ちやすい側面もあります。
NEWSX 御徒町のピロティ・エントランスでは、この洗い出しに代えて、ベルギーのBEAL社が開発した「ビールストーン」を採用しました。コンクリートと特殊樹脂を混合したモルタルを施工し、硬化後に研ぎ出すことで骨材を浮かび上がらせる工法です。従来の洗い出しに比べて表面がより滑らかで、シームレスな印象を持ちながら、素材感もしっかりと感じられる仕上がりになります。
1-2. 目地のない美しさと耐久性
ビールストーンは、大面積をほぼ目地なしで連続して仕上げることができる点が大きな特徴です。エントランスのように人の出入りが多い場所では、床のラインが途切れずに広がっていくことで、空間全体がすっきりと見え、モダンで洗練された印象をつくり出します。
また、樹脂を混合したモルタルにより防水性・防汚性が高く、屋外で雨水や紫外線にさらされる環境でも、劣化や汚れが進行しにくい点も利点です。日常的な清掃と、適切なタイミングでの表面保護処理を行うことで、長期間にわたって高級感のある質感を維持できます。
細い街路に面したピロティ空間は、通りから最初に目に入る「顔」にあたる場所です。そこで選んだビールストーンは、「街にひらかれた広場」であると同時に、「オフィスビルのエントランスとしての品格」を両立させるためのキー・マテリアルとなっています。
2. エントランス・外壁の壁仕上げ「アルミパネル」と「RC打ち放し」
エントランス周りと外壁の一部には、アルミパネルとRC打ち放しを組み合わせた仕上げを採用しています。
アルミパネルは、着色陽極酸化塗装複合皮膜による仕上げとし、金属本来の素材感を活かしながら、耐候性・耐久性を高めています。強く主張しすぎないシルキーな光沢は、ガラスやコンクリートと合わせても馴染みがよく、時間帯や天候によって微妙に表情を変えます。
さらに、パネル割付のスケールや目地のリズムを綿密に検討することで、10階建てというボリュームを感じさせつつも、歩行者目線では過度な「圧」を与えないよう調整しています。フラットになりがちな金属外装に、わずかな陰影とリズムが生まれることで、細街路のスケール感に寄り添いながら、オフィスビルとしての端正さを両立させています。
また、陽極酸化皮膜は塗装に比べて経年劣化が穏やかで、退色や剥離が起こりにくいという特徴があります。メンテナンス頻度を抑えつつ、長期にわたって清潔感のある外観を維持できることも、都市に建つオフィスビルの外装材として重要なポイントです。
一方で、RC打ち放しの壁は、型枠の目地やコンクリートの細かな表情がそのまま現れる、もっとも素直な素材です。X字フレームがつくるシャープなラインをRC打ち放しで構成することで、ガラスやアルミパネルの質感とも対比され、建物としての「存在感」を感じられるようになりました。
打ち放し仕上げは、打設精度や養生の質がそのまま表情に現れるため、施工段階から綿密な計画と管理を要します。本プロジェクトでは、型枠の目地ピッチやセパ穴の位置をデザインとして整理し、構造体そのものを「見せる」ことで、装飾に頼らない力強さと、都市的なラフさを両立させています。
時間の経過とともに、わずかな汚れや色のムラが現れていくことも、RC打ち放しならではの魅力です。ガラスやアルミが常にフレッシュな光を反射するのに対し、コンクリートは街の空気や時間を受け止めながら、少しずつ表情を変えていきます。その対比によって、NEWSX 御徒町のファサードには「新しさ」と「時間の積層」が同居することを意図しました。
3. 都市を象徴する素材「ガラス」
NEWSX 御徒町のファサードでもう一つ重要な役割を担っているのが、「ガラス」です。細街路に面したセットバック空間から見上げると、エントランスから上階にかけて、透明度の高いガラス面が大きく立ち上がり、内部の気配を街ににじませています。オフィスワーカーの動きや光の揺らぎが薄く透けることで、建物は閉じた箱ではなく、「働き方」や「時間」の流れが外に滲み出るメディアのような存在になります。
一方で、ガラスは周囲のビルや空、街路の風景を映し込み、刻々と変わる都市の表情を写し取ります。朝の柔らかな光、昼の強い日差し、夕方の街灯やネオンサイン――そうした光の変化がそのままファサードの色温度を変化させ、同じ建物でありながら、時間帯によってまったく違う印象を見せます。とくに夜間は、内部照明によってX字フレームや構造体のシルエットが浮かび上がり、細街路の中でひときわ印象的な「光のボリューム」として現れます。
また、ガラス面は単なる透明な壁ではなく、室内環境の質を左右する性能面でも重要な素材です。日射をコントロールしつつ十分な採光を確保することで、執務空間に明るさと開放感をもたらしながら、省エネルギー性にも配慮した計画としています。都市の密度が高いエリアであっても、「閉じる」のではなく、「調整しながら開く」ための媒体としてガラスを位置づけました。
これら四つの素材――ビールストーン、アルミパネル、RC打ち放し、ガラス――を組み合わせることで、NEWSX 御徒町は、単なる通過する都市空間ではなく、「触れて歩きたくなる素材のレイヤー」を感じられる都市空間になるよう意図しています。素材感を追求することで、触れてみたくなる“存在感”を感じさせる建築を目指しました。
施工計画:複雑な構造を高い精度でつくり上げる
本計画では、X字フレームを含む立体的な構造を高い精度で実現することが、施工上の最大のテーマでした。
敷地に余裕がないため、仮設ヤードや資材の置き場が限られるなか、BIM(3次元モデル・情報管理)による事前検討とモックアップ施工を繰り返し、鉄筋の納まりや型枠の精度を検証しながら工事を進めています。特に、斜材と柱・梁が交差する部分は配筋が極めて密になるため、コンクリートの充填性を確保する工夫を重ねました。
また、周辺は住宅やオフィスが密集する環境であるため、騒音・振動や安全対策にも細心の注意を払い、24か月の工期のなかで近隣との共存を図りながら工事を完了させています。施工計画そのものも、このエリアに新しいオフィスビルをつくるための「都市インフラ」と位置づけ、設計者・施工者・開発者が一体となって取り組んだプロジェクトでした。
これからの中規模オフィスのプロトタイプとして
NEWSX 御徒町は、延床約1,700㎡という中規模オフィスビルでありながら、ぎっしり建て込んだ都市に開かれた“余白”としての空地と、X字フレームによるアイコニックで存在感のある外観、そして“素材感”にこだわったエントランス空間を備えています。
私たちは、本プロジェクトを通じて、「スケールは大きくなくても、都市に対して大きなインパクトを与えられるオフィスビルはつくれる」という手応えを得ました。
これからも、街の文脈を読み解きながら、働く人・企業・地域が交差する“X”のような場を、ひとつずつ丁寧に増やしていきたいと考えています。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
設計チーム
鶴谷 嘉平
1994年東京大学建築学科を卒業。同大学大学院にて集合住宅の再生に関する研究を行いました。
一級建築士として、集合住宅、オフィス、保育園、結婚式場などの設計に携わってきました。
2024年に当社に入社し、オフィスのリノベーション設計や、開発・設計(オフィス・マンション)を行っています。
2026年1月21日執筆
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