築古の中型賃貸オフィスビルの空室率を下げるための実践的テナント誘致戦略
皆さん、こんにちは。
株式会社スペースライブラリの飯野です。
この記事は「築古の中型賃貸オフィスビルの空室率を下げるための実践的テナント誘致戦略」を解説したもので、2025年11月18日に執筆しています。
少しでも、皆様のお役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
序論:築古オフィスビルの空室率問題とは?
近年、日本のオフィス市場において、中型の築古オフィスビル(1,000㎡〜5,000㎡程度)が直面している空室率の上昇が深刻な問題となっています。特に、東京においては、新築の大規模オフィスビルが次々と供給され、テナントの選択肢が広がったことで、築年数の経過したビルは競争力を維持することが難しくなっています。
本コラムでは、築古オフィスビルの特有の課題を克服し、競争力を持たせるための具体的な戦略を提案します。成功事例を交えながら、実践的な施策を提示し、築古ビルでもテナントを誘致できる可能性を示しています。
第1章:市場分析とターゲット設定
① 築古オフィスビルにおける市場の動向
(1) 中型オフィスビルの現状
近年のオフィス市場では、リモートワークの浸透や働き方改革の推進により、企業のオフィス需要に変化が生じています。賃貸オフィス市場全体としては、空室率の低下傾向が見られる一方で、中型オフィスビル(フロア面積50~100坪)については、低減傾向から底ばい状態にあります。特に築20年以上が経過したビルの空室が目立ち、空室率が緩やかに上昇傾向を示しているようにも見受けられます。
これは、築古ビルに対して、設備の老朽化や建物自体のデザインの陳腐化により、テナントが魅力を感じにくくなっているためです。こうした状況を踏まえると、築古の中型オフィスビルのオーナーは、これまで以上に慎重かつ戦略的なテナント誘致の施策を講じる必要があります。
(2) 新築大規模ビルの開発による市場への影響
近年、大手デベロッパーによる新築の大規模オフィスビルの供給が増加し、最新の設備や快適な労働環境を求める企業のニーズに応えています。特に都心部では、高機能オフィスが多く開発され、従来型の築古中型ビルは、テナントの獲得において不利な立場に置かれています。このため、従来型の築古中型ビルは市場における相対的な競争力低下が著しく、明確な差別化戦略を立てる必要性が高まっています。
(3) 企業規模別オフィス選定基準の違い
企業のオフィス選定基準は、規模や業種によって大きく異なります。一般的に大企業はブランド価値や最新設備の整ったオフィスを選ぶ傾向があり、快適性や機能性を優先します。一方、中小企業は賃料水準やコストパフォーマンス、実務性を重要視する傾向が強いです。
また、経済情勢がオフィス選定に与える影響も大きいです。景気の良い時期には、大企業、中小企業ともに設備や環境の向上を求めてオフィス移転を検討するが、景気が悪化すると特に中小企業はコスト削減のために築古ビルへの移転を選択する傾向が高まります。
2025年の日本経済の見通しとして、政府は「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への移行を目指しているものの、米国のトランプ関税政策の影響や足元の円高傾向など、不透明な要素が依然として存在しており、市場動向の予測は容易ではないです。
(4) 最新のオフィス市場動向とコスト問題
ザイマックス不動産総合研究所が2024年12月に発表した調査によると、築古ビルはエネルギー消費効率が悪く、新築ビルに比べて光熱費が高くなる傾向があり、これがテナントのランニングコスト負担を増加させ、築古ビル選定時のデメリットとなっていることが分かっています。
さらに同研究所が2025年2月に公表した調査では、築古ビルの修繕費や資本的支出の増加が著しく、オーナー側の負担も拡大していることが指摘されています。このように、築古ビルは維持管理費用の面でも課題を抱えており、収益性を高めるためには費用対効果の高い投資戦略が求められています。
② 競合との比較と築古ビルのポジショニング
(1) 築年数が経過したオフィスビルの課題
築年数が経過したオフィスビルが抱える主な課題としては以下が挙げられます。
- ・設備の老朽化:空調設備、給排水設備、電気設備といった基本的なインフラが築後20年以上経過すると著しく劣化します。設備トラブルの頻度が増え、突発的な修繕費用が発生するだけでなく、テナントの快適性や業務効率の低下を招きやすいです。
- ・イメージの陳腐化:オフィスビルの外観や内装デザインは、時代のトレンドやテナント企業のニーズに敏感に対応する必要があります。築年数が経過すると流行から取り残され、「古臭い」「使いにくい」といったネガティブな印象を与えてしまうことが多く、ブランド力や企業イメージを重視する企業から敬遠されやすくなります。
- ・競争力の低下:最新設備や優れたデザインを備えた新築ビルが市場に供給され続けているため、設備や快適性の面で新築ビルとの格差が広がり、競争力が低下します。その結果、賃料の引き下げや長期空室の発生を招き、収益力の維持が困難になります。
これらの課題は単体で存在するものではなく、相互に影響し合いながら、築古オフィスビルのテナント誘致を難しくしています。そのため、築古ビルオーナーに求められるのは、これらの課題を包括的に把握し、戦略的に優先順位を付けて効果的な改善策を講じることであります。
(2) 新築オフィスとの競争環境と差別化ポイント
築古ビルが新築ビルとの競争を勝ち抜くためには、「低コストかつバリューアップ」を基本戦略とする必要があります。つまり、多額の投資を必要とする大規模改修を避けつつも、費用対効果の高い施策を実施して競争力を向上させるという考え方です。
具体的な取り組みとしては、使用頻度の高い空調設備やトイレ・給湯室などを部分的に更新することで快適性を改善したり、エネルギー効率を高めるLED照明の導入や省エネ空調設備への切り替え、さらには耐震性や防災設備の強化を図る方法があります。
これらの低コスト施策を効果的に組み合わせることで、築古ビルの経済的かつ実用的な価値を最大化し、新築ビルとは異なる魅力を提供できます。さらに、こうした差別化ポイントを、はっきりと打ち出すことにより、現実的かつ効果的なテナント誘致戦略を構築できます。
③ ターゲットとなるテナント像の明確化
中堅企業の本社・支社、大企業のサテライトオフィス、士業・コンサルティング企業、地域密着型企業等、ターゲットとなるテナント像を明確にして、それぞれに響く訴求ポイントを具体化し、築古オフィスビルの特性を活かしたテナント誘致戦略を考えます。
(1) 中堅企業の本社・支社
① コストパフォーマンスの強調
- ・築古ビルの最大の強みである「低賃料+必要十分な設備」を前面に出す。
- ・固定費削減のシミュレーションを提示し、実際のランニングコストを数値で示す。
② 実務的な機能性の確保
- ・「シンプルで機能的」なオフィス設計を強調。
- ・執務環境の効率化(レイアウト変更の自由度、会議室の最適配置、ネット環境の充実)を提案。
③ 企業ブランディングを損なわないオフィス
- ・「低コスト=安っぽい」イメージを払拭するため、シンプルながら清潔感のある内装やエントランスの刷新を行う。
- ・過度なデザイン改修は不要だが、「機能美」を活かした設計でブランド価値を維持できることをアピール。
(2) 大企業のサテライトオフィス
① 分散型勤務のニーズに対応
- ・「社員の通勤負担軽減+業務効率化を両立する拠点」としての役割を明確化。
- ・交通アクセスを評価し、実際の通勤時間シミュレーションを提示し、周辺環境(カフェ・コンビニ・郵便局)などを訴求し、サテライトオフィスとしての利便性を強調。
② 設備のシンプル化と低コスト運用
- ・シンプルな内装・設備ながら、業務遂行に必要な機能は十分であることを明示。
- ・「賃料を抑えながらも、Wi-Fi・セキュリティ・共用会議室など基本設備が揃っていること」をアピール。
- ・ランニングコスト比較(電気代・清掃費など)を示し、本社や競合ビルとの差別化を図る。
③ フレキシブルな契約形態
- ・大企業が求める短期契約・柔軟な利用に対応できる点を強調。
- ・「1年契約」「プロジェクト単位での使用」など、企業の拡張・縮小に柔軟に対応できる点をアピール。
(3) 士業・コンサルティング企業
① 顧客対応を重視したオフィス環境
- ・来客対応が多い士業やコンサル企業にとって、「築古=汚い・古臭い」というイメージはマイナス。
- ・清潔感を重視したエントランスや受付スペース、共用部のデザインリニューアルを行い、来客時の印象を向上させる。
- ・「応接スペースが確保しやすい」「静かな環境で業務に集中できる」など、士業・コンサル特有のニーズを訴求。
② セキュリティとプライバシーの確保
- ・機密情報を扱う業種のため、オフィスの遮音性や個室利用の選択肢をアピール。
- ・「隣のオフィスの音が聞こえにくい」「個別施錠が可能な部屋がある」などの設備ポイントを具体的に示す。
③ 立地よりもコストと質のバランス
- ・立地よりも「オフィスの質とコストのバランス」を重視する士業・コンサルに対し、「必要十分な設備で賃料を抑えられる」という合理的な価値を訴求。
- ・「都心の高額オフィスではなく、築古ながらも十分な機能を持つオフィスを適正価格で提供」と明確にメッセージング。
(4) 地域密着型企業(デザイン・広告企業など)への訴求ポイント
① 築古ビルの個性を活かしたブランディング
- ・デザイン・広告業などのクリエイティブ企業は、築古ビルの雰囲気を「個性」として活用できる。
- ・「レトロで味のある内装」「ビンテージ感を活かしたオフィスデザインが可能」といった築古ならではの魅力を前面に出す。
② カスタマイズ自由度の強調
- ・「自社のブランドイメージに合わせた改装が可能」という自由度の高さを訴求。
- ・クリエイティブ企業向けに、「内装工事OK」「リノベーション相談可能」といった柔軟な対応を提案。
③ 地域ネットワークの活用
- ・地元の企業やクリエイターとの連携を意識し、「地域のクリエイティブ拠点としての可能性」をアピール。
- ・例:「このビルの入居者は●●の業種が多く、相互連携の機会がある」「地元の店舗とコラボできる立地」といった具体的なメリットを提示。
これらターゲット企業は、築古ビルに求める設備やデザイン、コストのバランスが明確であり、マーケティング戦略やテナント誘致の方針を具体的に設計する上で重要な指標となります。
以上を踏まえ、第2章ではこれらターゲットニーズに応じた具体的なリノベーション戦略について解説します。
第2章:築古オフィスビルの魅力を引き出すリノベーション戦略
築古オフィスビルの競争力を高め、テナント誘致を成功させるためには、リノベーションを戦略的に行う必要があります。ただし、大規模な投資を行うことは現実的ではなく、費用対効果を考慮しながら、最小限の設備投資で最大の効果を引き出すことが求められます。本章では、築古オフィスビルの価値を向上させるための具体的なリノベーション戦略を紹介します。
① 設備投資を最小限に抑えつつ効果的にバリューアップ
(1) 最小投資で大きな満足度向上を実現するポイント
築古オフィスビルにおける設備投資のポイントは、「利用頻度が高く、テナントの満足度に直結する箇所から優先的に改善すること」です。特に、トイレ、空調、照明の改善は、コストを抑えつつ快適性を大きく向上させる効果があります。
- ・トイレの改修:築年数が経過したオフィスビルでは、トイレの古さがテナントの満足度に大きな影響を与えます。ウォシュレットの設置、照明のLED化、清潔感を重視した内装の改修など、小規模な改修でも印象が大きく向上します。
- ・空調設備の改善:築古ビルでは、空調設備の老朽化が快適性に直結する問題となります。全館空調の入れ替えはコストが高いため、部分的な設備交換や、個別空調の導入が現実的な選択肢となります。
- ・照明のLED化:LED照明の導入は、光熱費削減と快適性の向上の両面でメリットがあります。オフィスの明るさを確保しながら、電気代の削減にもつながるため、優先して実施すべき施策の一つです。
(2) 老朽化設備の部分的アップグレードとコスト試算
設備改修に際しては、全面改修ではなく、費用対効果の高い部分的なアップグレードを実施することが重要です。
| 設備項目 | 改修内容 | 想定コスト (1フロアあたり) | 効果 |
|---|---|---|---|
| トイレ | 便器交換・壁紙張替・LED照明導入 | 100万~300万円 | 清潔感向上、テナント満足度UP |
| 空調 | 部分交換(主要ユニットのみ更新) | 200万~500万円 | 快適性向上、ランニングコスト削減 |
| 照明 | 全LED化 | 80万~150万円 | 光熱費削減、明るい空間演出 |
コストを抑えつつ、テナントの評価が高まりやすい施策を優先的に実施することで、築古ビルの魅力を向上させることが可能です。
② デザインとブランディング
(1) 「レトロ感を活かす」 vs. 「モダンに刷新する」戦略
築古ビルのデザイン戦略には、大きく分けて、「レトロ感を活かす」方法と、「モダンに刷新する」方法の2つがあります。
- ・レトロ感を活かす:築古ビルの「味わい」を前面に打ち出し、ヴィンテージ風の内装やデザインを取り入れる。特に、デザイン・広告・クリエイティブ系の企業にはこの雰囲気が人気がある。
- ・モダンに刷新する:外観や内装をシンプルで洗練されたデザインに統一し、新築ビルに近いイメージを作る。スタートアップ企業や士業向けのオフィスでは、清潔感と機能性が求められるため、このアプローチが適している。
(2) 築古ビルならではの個性を打ち出すブランディング手法
築古ビルの「個性」を打ち出すことで、ターゲット企業に対する訴求力を高めることができます。
例えば、
- ・ネーミングの工夫:単なる住所名ではなく、ビルのコンセプトを表現したネーミングを採用する(例:「○○クリエイティブオフィス」)。
- ・エントランスのリノベーション:エントランスはビルの第一印象を決める重要な要素です。照明や植栽を活用し、デザイン性の高い空間を作ることで、印象を大きく変えることができる。
(3) テナントの要望に沿った間仕切り(会議室の柔軟な対応)
テナントの要望に応じて、間仕切りの柔軟な設計を取り入れることで、入居のハードルを下げることができる。
特に、
- ・固定壁ではなく可動式パーティションを活用し、レイアウト変更が容易な設計にする。
- ・会議室や共有スペースの用途をカスタマイズできるようにし、テナントの希望に対応する。
(4) 光熱費削減につながる改修(LED照明、省エネ空調、断熱強化など)
築古ビルの運営コスト削減の観点から、省エネルギー対策も重要です。
- ・LED照明の導入:電力消費を抑え、長寿命で維持管理の負担を軽減できる。
- ・省エネ空調の導入:最新の高効率空調システムを導入し、エネルギーコストを削減する。
- ・断熱強化:窓ガラスの二重化や遮熱フィルムの導入により、夏場・冬場の空調負荷を軽減する。
(5) スマートロック・顔認証システムの導入
近年、セキュリティ強化と利便性向上のために、スマートロックや顔認証システムの導入が進んでいます。
これにより、
- ・物理鍵の管理が不要になり、セキュリティが向上する。
- ・テナントの利便性が向上し、入居率アップにつながる。
これらの施策を組み合わせることで、築古ビルの価値を最大限に引き出し、テナント誘致の競争力を強化することができます。
次章では、リノベーションによって高めたビルの価値を、どのように企業ブランドと結びつけ、効果的なPRを行うかについて詳しく解説します。
第3章:企業ブランディングとPR戦略
築古オフィスビルの競争力を高めるには、単なる物件の改修だけでなく、ブランド価値を構築し、適切なPR戦略を展開することが重要です。特に、新築ビルとの競争が激しい市場では、ターゲットとなるテナント層に向けたブランディングと情報発信を強化することで、築古ビルの独自性を際立たせることができます。
本章では、オフィスビルのブランド力を向上させるため、会社を挙げて取り組んでいる、インターネットでのマーケティング戦略について詳しく解説します。
① オフィスビルのブランド力を高める方法
(1) 築古ビルのリブランディング成功事例
築古ビルのリブランディングとは、単なる建物の改修ではなく、「ストーリー」や「コンセプト」を持たせることによって、新たな価値を創出するプロセスです。以下に、成功事例を紹介します。
- 事例①:築30年の築古オフィスビルをクリエイティブな業務環境のオフィスとして再生
- ・レトロな外観を活かしつつ、内装をモダンに改修。
- ・インターネットの自社チャンネル:プロパティ・ジャーナルでも積極的に情報発信し、入居率が改善。
- 事例②:歴史的建造物を活かしたブティック・オフィス
- ・伝統的な意匠を残しながら、最新の省エネ設備を導入。
- ・歴史的な価値をブランディングに活用し、「唯一無二のオフィス空間」として訴求。
- ・高付加価値化に成功し、賃料を引き上げて満室状態を維持。
(2) 「歴史×モダン」などのコンセプト戦略
築古ビルならではの強みを活かすために、「歴史×モダン」などのコンセプトを明確に打ち出すことが重要です。
- ・「レトロ×テクノロジー」:築古ビルの味わい深い外観に、最新のITインフラやスマートオフィス設備を組み合わせます。
- ・「サステナビリティ×伝統」:リノベーション時に環境配慮型の設備を導入し、エコフレンドリーなオフィスとしてブランディング。
(3) 企業にとってのブランド価値をどう伝えるか
テナント企業がオフィスを選ぶ際、「自社のブランド価値を高められるか」が重要な要素となります。そのため、築古ビルに入居することがブランド戦略にプラスになることを明確に伝える必要があります。
- ・「オフィスの個性が企業の個性を高める」というメッセージを発信。
- ・デザイン・広告・IT企業など、ブランドイメージを重視する業種に特化した訴求を行う。
- ・成功事例を積極的に発信し、「このビルに入ることで得られるメリット」を明確に打ち出す。
② マーケティング・広告戦略
(1) 自社で不動産ポータルサイトの展開
現在、会社を挙げて取り組んでいる不動産ポータルサイトでは、自社メディア・サイト「プロパティ・ジャーナル」を設け、ビル・メンテナンス、プロパティ・マネジメント、リノベーション、仲介など、当社の多面的な業務展開を横断しながら、さまざまな切り口で情報発信を行っています。これは、単なるテナント誘致のためのツールではなく、不動産業界全体に向けた知見共有の場として活用することを目的としています。
(2) 「オフィスビル=働く環境の一部」としてのコンテンツの打ち出し
築古ビルの価値を「働く環境の一部」として強調するために、インターネットマーケティングを駆使した情報発信が必要となります。特に、自社メディア「プロパティ・ジャーナル」を中心に、次のような施策を展開します。
- ●ストーリーテリングによるブランド訴求
- ・「このオフィスに入居することで、企業の魅力が高まる」というコンセプトを、具体的なストーリーで発信。
- ・実際の入居企業の成功事例を取り上げ、築古ビルが企業の成長に貢献する事例を紹介。「こんな風に改装可能!」といったクリエイティブな使い方の具体例も紹介。
- ・写真の活用:「築古でも快適なオフィス空間」という視覚的訴求を強化。昼と夜のビルの雰囲気を比較できるように、複数のシチュエーションで撮影。テナントが働くイメージが湧くように、オフィスレイアウトを工夫した写真を掲載。
- ●SEO対策を施したコンテンツマーケティング
- ・「築古ビル オフィス」「コストパフォーマンスの高いオフィス」などの検索ワードを意識した記事を次々と作成しアップ。
- ・専門家集団とタッグを組んで、Google検索で上位表示されるようなコンテンツ設計を行い、継続的な流入を確保。
- ●SNSでの情報拡散とブランド強化
- ・オーナー・管理会社が築古ビルの魅力を発信する際には、SNSの活用も効果的。
- ・LinkedInを活用し、BtoB企業に対して築古オフィスの価値をPR。
- ・Instagramではビジュアルを重視し、リノベーション事例やオフィス環境の魅力を訴求。
- ・X(旧Twitter)では、最新の空室情報やキャンペーン情報をリアルタイムで発信。
このように、インターネットマーケティングを駆使し、築古オフィスの魅力を発信することで、テナント誘致の成功率を高めることができます。
③ ターゲットに合わせた訴求ポイントの明確化
ターゲット企業のニーズに応じて、デジタルマーケティング上での訴求ポイントを明確化し、それぞれの関心に合った情報を適切なチャネルで届けます。具体的には、WEBサイト、SEOコンテンツなどを活用し、ターゲット企業が求める価値を視覚的・言語的に訴求します。
1.中堅企業の本社・支社向け:「コストパフォーマンスの高い実務的なオフィス」
▶ メッセージ例
- ・「経費削減を実現!築古オフィスでも実務効率の高いワークスペース」
- ・「本社移転でランニングコスト30%削減!コストパフォーマンス重視のオフィス」
- ・「執務スペースはシンプルに、コストは賢く。実務に最適な快適空間を提供」
2.大企業のサテライトオフィス向け:「分散型勤務に最適なコンパクトオフィス」
▶ メッセージ例
- ・「分散型勤務の最適解!コストを抑えたサテライトオフィス」
- ・「都心からのアクセス良好、効率的な働き方を実現する新しい拠点」
- ・「高額な新築オフィスは不要。シンプル&機能的な築古ビルを活用」
3.士業・コンサルティング企業向け:「信頼感のあるデザイン性+プライバシー確保」
▶ メッセージ例
- ・「お客様との信頼を築く、静かで落ち着いたオフィス環境」
- ・「士業向けの快適ワークスペース。機密情報の管理も安心」
- ・「築古でも清潔感のある空間。顧客の信頼を生むオフィス設計」
4.地域密着型企業(デザイン・広告企業など)向け:「ユニークなデザインと自由度の高いオフィス」
▶ メッセージ例
- ・「個性を活かせるオフィス!築古ならではのレトロモダンな空間」
- ・「自由度の高いレイアウトで、ブランドイメージを最大限に表現」
- ・「デザイン会社・クリエイター必見!こだわりのオフィスを作れる物件」
次章では、ブランディングによって向上したオフィスの価値を、実際にテナント誘致につなげる具体的な戦略について詳しく解説します。
第4章:効果的なテナント誘致戦略
築古オフィスビルの空室率を改善し、安定的なテナント確保を実現するためには、効果的なテナント誘致戦略が欠かせません。本章では、競争力のある賃料戦略と契約条件の設定、さらにテナントの意思決定プロセスを理解した上での営業戦略について詳しく解説します。
① 賃料戦略と柔軟な契約条件の設定
(1) 競争力のある価格設定
築古オフィスビルの賃料設定は、新築ビルや競合物件との差別化を図りながら、ターゲット企業にとって魅力的な価格帯を設定することが重要です。具体的な方針として以下が挙げられます。
- ・周辺相場の徹底調査:近隣オフィスビルの賃料相場を調査し、市場に適した価格帯を設定する。定期的な市場調査を行い、競争力のある賃料を維持することが求められる。
- ・コストパフォーマンスを重視:築古ビルの特性を活かし、「手ごろな価格で快適なオフィス環境を提供する」ことを前面に打ち出す。賃料を適正に抑えつつ、内装や設備の一部を改修することで、費用対効果の高い選択肢を提供できる。
- ・長期契約割引の導入:長期契約を結ぶことで賃料を抑えるプランを用意し、安定したテナント確保を狙う。特に、一定期間以上の契約に対してインセンティブを設けることで、長期的な収益の安定化が期待できる。
(2) 「賃料減額 vs. 高付加価値化」の選択肢
築古ビルの競争力を高めるためには、単なる賃料の引き下げだけでなく、付加価値を向上させる選択肢も考慮すべきです。
| 選択肢 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 賃料減額 | 低コストで入居を促進しやすい | 収益性が低下する可能性 |
| 高付加価値化 | 改修やサービスを強化し、適正な賃料を維持 | 初期投資が必要 |
築古ビルの場合、設備投資によるバリューアップが可能なケースも多いため、「適度な投資による高付加価値化」で競争力を維持する戦略が有効です。
(3) 保証金・更新料など契約条件の見直し
テナント誘致のハードルを下げるためには、契約条件の柔軟性を高めることも重要です。
- ・保証金の低減:初期費用を抑えることで、特にスタートアップ企業や中小企業の入居を促進。保証金を従来の相場よりも低く設定することで、契約成立のハードルを下げる。
- ・更新料の見直し:長期入居を促進するために、更新料を低く設定する。特に、長期契約の場合には更新料の免除や低減措置を導入することで、長期間にわたる安定収益の確保が可能になる。
- ・フレキシブルな解約条件:短期間でも入居しやすい契約プランを用意し、サテライトオフィス需要にも対応。テナントの事業展開に合わせた柔軟な解約条項を盛り込むことで、入居率向上につなげる。
② テナントの意思決定プロセスの理解と営業戦略
(1) 企業がオフィス移転を決定するまでの流れ
企業が新しいオフィスへの移転を決定するプロセスは、複数のステップを経るため、その流れを理解し、適切なタイミングでアプローチすることが重要です。
- ●社内決裁のプロセス
- ・総務部門や経営陣が移転先を検討し、予算や条件を決定する。
- ・役員会や取締役会での最終決裁を経て、正式な契約に至る。
- ●コスト試算のポイント
- ・賃料、保証金、改装費、光熱費などのトータルコストを試算し、企業の予算と照らし合わせる。
- ・築古ビルの優位性(低コストや自由度の高さ)を示すことで、意思決定を後押しする。
- ●現地視察・交渉の重要性
- ・実際のビルの雰囲気や利便性を確認するため、現地視察が重要。
- ・視察時に具体的な契約条件を交渉することで、成約の可能性を高める。
(2) 意思決定プロセスに沿った営業アプローチ
企業の意思決定プロセスを踏まえた営業アプローチを展開することで、成約率を高めることができます。
- ●士業・コンサル企業への直接営業
- ・弁護士、会計士、コンサルタントなど、少人数で業務を行う企業に対し、築古ビルの静かな環境やコストパフォーマンスの良さを訴求。
- ・セミナーや業界向けイベントなどを通じた関係構築も有効。
- ●地元企業との関係強化
- ・地域密着型の企業とのネットワークを強化し、地元の企業が移転先として検討しやすい環境を整える。
- ・商工会議所や地域経済団体と連携し、築古ビルの利点をPR。
- ●オフィス需要の高い業種リストアップとターゲティング
- ・市場調査をもとに、特定の業種(スタートアップ、IT企業、クリエイティブ業界など)に特化した営業戦略を展開。
- ・各業種のニーズに沿った提案を行い、ビルの特性とマッチする企業を狙う。
これらの戦略を組み合わせることで、築古オフィスビルの魅力を最大限に引き出し、効果的なテナント誘致を実現することができます。
次章では、実際の成功事例をもとに、テナント誘致の具体的な実践方法や注意点について解説します。
第5章:事例研究と実践的アドバイス
築古オフィスビルのバリューアップを成功させるためには、実際の事例を参考にしながら効果的な施策を学ぶことが重要です。本章では、築古ビルの成功事例と失敗事例を紹介し、それらから得られる実践的なアドバイスをまとめます。
① 築古オフィスのバリューアップ成功事例
(1) 築30年以上のオフィスビルを改修し、満室化したケース
築古オフィスビルの老朽化は避けられないが、適切なリノベーションとマーケティング施策を組み合わせることで、高い入居率を維持することは十分に可能です。ここでは、実際に成功した事例を紹介します。
- 事例①:築35年のオフィスビルを段階的に改修し、3年で満室化
- ●築35年を超え、空室率が40%を超えていた中型オフィスビル。管理コストの上昇と入居者の減少が課題であった。
- ●設備改修の優先順位を明確にし、段階的に改修を実施。
- ・まず、テナントの不満が大きかったトイレ、空調、照明の更新を実施。清潔感の向上とエネルギーコスト削減を両立。
- ・その後、エントランスのリニューアルを行い、外観イメージの改善に着手。
- ●コストを抑えながらもテナントの利便性を向上させる施策を実施。
- ・古いオフィスの「狭い・暗い・使いにくい」という印象を払拭するため、共用部のデザインを明るくシンプルに改修。
- ・一方で、専有部の改修はテナントのニーズに応じて実施し、無駄な改装コストを抑えた。
- ●自社メディアを活用したプロモーションにより、ターゲット層に的確にアプローチ。
- ・自社メディア「プロパティ・ジャーナル」による築古オフィスの特集記事を展開し、築古ビルの魅力を再認識させる。
- ・Instagram・X(旧Twitter)も活用し、リノベーションのビフォーアフターを発信。
- ●結果として、3年以内に満室稼働を達成し、賃料も5%上昇。
- 事例②:築古ビルの「レトロ感」を活かしたブランディング戦略
- ●築40年のオフィスビルを、「クラシック×モダン」なデザインで差別化。
- ●歴史的な建物のデザインを活かし、内装には洗練されたモダン要素を取り入れることで、独自のオフィス空間を演出。
- ●ターゲットをデザイン・広告関連の企業に絞り込み、ニッチな市場で差別化に成功。
- ・高級感とクリエイティブな雰囲気を強調し、感度の高い企業に訴求。
- ・「歴史を感じさせるオフィス」というコンセプトを前面に出し、ブランド価値の向上を図った。
- ●結果として、賃料を維持しながら高稼働率を実現し、空室率は10%以下に低下。
(2) 企業とのコラボレーションで空室率を改善した事例
築古ビルの活用は、地元企業や業界特化型企業とのコラボレーションによって更なる価値を生み出すことが可能です。
- 事例③:ビル内の1フロアを特定業種向けにカスタマイズし、安定収益を確保
- ●空室が続いていた築古ビルの1フロアを、IT企業向けに特化したレイアウトへ変更。
- ●配線や通信設備を強化し、「即入居可能なITオフィス」として訴求。
- ●業界イベントやセミナーを通じて、IT関連企業の認知を高め、6カ月以内にフロアの満室化を達成。
- 事例④:地元企業との連携で築古ビルを活性化
- ●立地を活かし、地元企業とのネットワークを強化。
- ●商工会議所や地元メディアと協力し、築古ビルの魅力を発信。
- ・地元新聞や地域密着型のオンラインメディアに特集記事を掲載。
- ・地元企業とのビジネスマッチングイベントを開催し、新たなテナント候補を獲得。
- ●結果として、空室率が改善し、地元企業の入居比率が30%増加。
以上の成功事例から、築古ビルのバリューアップには以下のポイントが重要です。
- 1.計画的な改修とコストコントロール:設備更新の優先順位を明確にし、段階的に進めることで、投資対効果を最大化できる。
- 2.ターゲット層を明確にしたブランディング:築古ビルの特性を活かし、適切な市場に向けてアピールする。
- 3.地元企業や特定業種との連携:地域経済とのつながりを活用し、テナントの安定確保を図る。
次のセクションでは、築古ビルの失敗事例を紹介し、避けるべきポイントについて解説します。
② 失敗事例から学ぶ
築古オフィスビルのバリューアップには、適切な戦略と計画が欠かせません。しかし、計画が不十分であったり、実施方法に問題があると、期待した成果が得られず、むしろ空室率が悪化してしまうこともあります。ここでは、過去の失敗事例を紹介し、そこから学ぶべきポイントを詳しく解説します。
(1) 中途半端な改修が逆効果になった例
失敗事例①:エントランスの改修のみ実施し、統一感を欠いた結果、逆に印象が悪化
- 背景・経緯
- ・築年数が40年を超え、入居率が低迷していたオフィスビル。老朽化によるイメージダウンが顕著になり、オーナーは「とにかく第一印象を良くしよう」とエントランス改修に着手。
- ・しかし、周辺相場や競合ビルのリニューアル状況について、十分なリサーチを行わないまま、エントランスだけ豪華にする方向で予算配分が決定された。
- 具体的な改修内容
- ・エントランスの壁面や床材を高級感のある素材に変更。ロビーにはデザイナーズ家具を導入し、まるで高級ホテルのような雰囲気を演出。
- ・その一方で、オフィスフロアや共用部の内装・設備は老朽化が進んだまま放置され、外観と内部でギャップが生じてしまった。
- 結果・問題点
- ・内覧に訪れた新規テナント候補からは「エントランスと実際のオフィスフロアとの落差が激しく、逆に不安を感じる」との声が多数。
- ・既存テナントからはエントランスの雰囲気向上を喜ぶ声もあったものの、新規入居には結びつかず、投資回収の見込みが立たなくなった。
- ・管理上も、エントランスと他の部分で清掃やメンテナンスの基準が異なり、結果的に運営コストが増加した。
- 教訓
- ・改修はビル全体のバランスを考え、統一感を持たせることが重要。
- ・見た目だけの変更ではなく、実際の使い勝手や快適性の向上を優先すべき。
- ・優先度の高い設備更新(空調・照明・トイレなど)とのバランスを考えた改修計画を立てる。
- ・投資範囲の決定前に、ユーザー目線での動線や利用シーンをシミュレーションし、複数の改修案を比較検討する。
(2) ターゲット設定を誤ったために空室が続いた例
失敗事例②:高級感を打ち出したが、立地特性とミスマッチで誘致が難航
- 背景・経緯
- ・交通アクセスがやや不便なエリアにある築30年超のオフィスビル。周辺は中小企業向けの賃料帯が主流で、豪華な設備を求める企業はあまり多くない環境だった。
- ・オーナーは「同エリアの他ビルとの差別化」を図るために高級感路線を選択。内装や外観を大規模にリニューアルし、その分賃料を大幅に値上げする計画を打ち出した。
- 具体的な改修内容
- ・内装をハイグレード仕様に一新。高価な床材や照明、グレードの高いセキュリティシステムを導入。
- ・見栄え重視である一方、エリア全体のニーズや、テナントが負担可能な賃料帯を慎重に検討することを怠りがちだった。
- 結果・問題点
- ・内覧には「設備は確かに良いが、このエリアでこの家賃は高すぎる」という声が多く、契約に至らないケースが続発。
- ・広告宣伝にも力を入れたものの、そもそもの立地が高級志向の企業にとって好条件とはいえず、半年以上空室が埋まらなかった。
- ・結局、大幅な賃料見直しとターゲット層の再設定を行った後に、ようやく入居率が改善。
- 教訓
- ・立地に応じたターゲット設定が不可欠。周辺市場の需要を調査し、それに合った戦略を立てる。
- ・賃料の引き上げは慎重に検討し、エリアの相場と競争力を考慮する。
- ・ハイグレード化を行う場合は、付加価値を明確に打ち出し、ターゲット層に強く訴求するマーケティングが必要。
- ・リニューアル後の家賃設定だけでなく、共益費や初期費用などテナント目線での総費用も考慮する。
(3) リノベーション投資の配分ミスによる損失事例
失敗事例③:過剰な内装投資を行ったが、賃料に反映できず採算割れ
- 背景・経緯
- ・築35年のビルで「大規模リノベーションにより高級感を演出すれば、高い賃料でも借り手がつくだろう」と期待して、多額の投資を決定。
- ・オーナーはデザイン事務所を招聘し、見た目の斬新さを追求する方針をとったが、同時にターゲットとする企業の業種や予算帯については深い考察がなかった。
- 具体的な改修内容
- ・木目調のフローリングや、オフィスには珍しい色使いのガラスパーティションを採用。ロビーや共用部にも最新デザイナーズ家具を導入。
- ・物件の魅力を高める狙いだったが、そこまでの豪華さを求めない企業には「華美すぎて維持管理費も高そう」という印象を与えた。
- 結果・問題点
- ・コスト重視の企業が多いエリアにもかかわらず、内装の豪華さに見合うだけの家賃を設定できなかった。
- ・当初の賃料設定ではテナントがつかず、値下げしても投資コストの回収が困難に。リニューアル後の収支計画が完全に狂ってしまった。
- ・最終的に、一部の豪華設備を撤去し、賃料と内装のバランスを取り直すことで入居率は回復したものの、投資回収の遅れや無駄な経費が経営を圧迫。
- 教訓
- ・リノベーションは投資額とリターンのバランスを考えるべき。
- ・市場調査を行い、ターゲット企業が求める改修内容を把握した上で計画を立てる。
- ・必要以上の高級化はリスクが高いため、コストパフォーマンスの観点を重視する。
- ・設備の選定には、内覧時のインパクトだけでなく、稼働後のランニングコストや運用面の利便性も考慮する。
(4) 失敗事例から導き出されるポイント
上記のように、築古オフィスビルのバリューアップを計画・実行する際には、「外観や内装の豪華さ」「ターゲット層との合致」「投資とリターンのバランス」「行政や周辺環境への配慮」など、さまざまな要素を総合的に検討する必要がある。失敗事例に共通するポイントとしては以下が挙げられます。
- 1.周辺市場の状況分析の不足
- 相場や需要の動向を把握しないまま改修や賃料設定を行うと、ニーズとの乖離が生じやすい。
- 2.改修範囲とコンセプトの不整合
- 建物全体を通じた統一感の欠如や、用途変更に伴う行政上の手続きなどが後手に回ると、時間・費用面でロスが大きくなる。
- 3.投資コストの過度な先行
- 見栄えや豪華さを優先しすぎて採算が取れなくなり、結果的に撤去や再工事で余計な支出を招くケースもある。
- 4.ターゲット層の誤認
- 立地特性を踏まえた客層分析や、賃料と設備のマッチングが不十分だと、空室率低減どころか悪化のリスクも高まる。
これらの失敗事例とポイントを踏まえ、築古オフィスのバリューアップに取り組む際は、 「マーケット調査」・「投資計画の精査」・「全体コンセプトの統一」・「関係者とのコミュニケーション」 を怠らないことが重要です。成功事例だけでなく、失敗例から学ぶことで、無駄なコストや時間の浪費を避け、効果的な改修とテナント誘致が実現できるでしょう。
③ すぐに実践できるポイント
これまでの成功事例・失敗事例から得られた知見を踏まえ、今すぐ取り組める具体的なアクションをまとめました。予算やビルの状況に応じて柔軟に取捨選択し、効果的なテナント誘致につなげましょう。
(1) テナント目線で「優先度の高い改善」をピックアップする
- ●小規模改修から着手
- まずはテナント満足度に直結する箇所(トイレ、空調、照明など)の改修を最優先とする。大規模リノベーションよりも費用対効果が高く、短期間での印象改善につながる。
- ●統一感を意識した改修
- 一部だけ豪華にしても逆効果になるケースが多い。エントランスや共用部、オフィスフロアのデザインやメンテナンス基準をある程度そろえることで、「古い箇所が放置されている」というイメージを与えにくくする。
(2)「発信力・PR」を強化する
- ●ビフォーアフターの写真で訴求
- 小規模でも改修を行った場合は、ビフォーアフターの写真を積極的に公開する。築古ビル=「暗くて古い」というネガティブな先入観を一気に払拭しやすい。
- ●自社メディアで情報発信
- 空室情報やキャンペーン告知、改修の進捗状況を、自社メディア「プロパティ・ジャーナル」で、特集記事を展開して情報発信。
- ●ターゲット層ごとの刺さるキーワードを用意
- 「コスパ」「レトロ感」「ブランディング効果」など、ターゲット企業が関心を持ちやすいキーワードを明確にし、広告やコンテンツで繰り返しアピールする。
(3) 無理のない「投資計画」と「収支バランス」の再確認
- ●段階的改修スケジュールを作成
- 一度に多額の投資を行わず、優先度の高い箇所から順に改修を進める。その都度、テナントの反応と費用対効果をチェックしながら計画を微調整する。
- ●リーシング担当との密な連携
- 改修や賃料設定に関する最新情報を常に共有し、投資計画とリーシング状況が合致しているかを確認。「賃料に転嫁できる投資額の範囲」を見極め、過度な先行投資を避ける。
最終章:築古オフィスビルの空室率低減に向けて
築古の中型オフィスビルが新築・大型物件と競合する中で安定した稼働率を確保するには、「ターゲット企業を明確にする」「低コスト・高効果のリノベーションを実施する」「企業ブランディングを意識した魅力づくり」「デジタルマーケティングの最大活用」という4つの要素が重要となります。
まず、ターゲットの明確化では、企業規模や業種ごとに求められる設備や価格帯が異なるため、立地や物件特徴に合った客層を見極めることが不可欠です。築古物件でも、コストパフォーマンスやレトロな雰囲気を好む企業は意外に多く、そのニーズに適切に応えることが空室率改善の第一歩となります。
次に、低コスト・高効果のリノベーションでは、設備の老朽化が顕著にあらわれるトイレ・空調・照明など、テナントの満足度に直結する箇所から優先的に手を入れるのが有効です。小規模な投資でも、内覧時の印象や入居後の快適性を大きく向上させることができる点が大きな強みです。
また、テナント企業が自社のブランド価値を高めたいと考える以上、物件側でも「企業ブランディングを意識した空間づくり」を提案する必要があります。築古物件ならではの良さをあえて活かしつつ、清潔感と機能性を整備することで、新築ビルにはない独自の魅力を提供しやすくなります。
さらに、デジタルマーケティングを最大限活用することで、情報発信力を強化し、対象となる企業へ直接アプローチしやすくなります。自社メディアなどを活用し、ビフォーアフターの写真・費用対効果の事例などをわかりやすく発信すれば、「築古=古い・汚い」という先入観を一気に払拭できます。
今後の展望と戦略的まとめ
不動産市場では、新築大型物件だけでなく、築古ビルの活用にも新たな可能性が生まれつつあります。コロナ禍以降、企業のオフィス戦略は柔軟性を求められるようになり、固定費を抑えながら必要十分な機能を確保できる物件の需要は引き続き根強いです。そこに合致する形で、築古オフィスビルは「低コストかつ柔軟な空間」を強みとして、今後も市場で一定の存在感を保てるでしょう。
もちろん、新築・大型物件と比べた際の老朽化や競争力低下といった課題は避けられません。しかし、本コラムで示した「ターゲットを明確にする」「段階的に投資して価値を高める」「情報発信を強化する」という3つの軸を押さえれば、空室率の改善と安定収益の確保は十分に実現可能です。
リノベーション技術やデジタルツールの進歩によって改修コストの負担も以前ほど高くなくなり、オーナー自身が物件の強みを見極めて効果的に発信することで、築古物件でも“古くても強いビル”としての地位を築けます。
結局のところ、「ターゲットを定め、必要最低限の改修を的確に行い、魅力をデジタルで発信する」というシンプルな方程式こそが、築古オフィスビルの空室率を下げ、収益を安定させる最良の戦略といえます。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2025年11月18日執筆