築古オフィスビルにおける『テナント間コミュニケーション活性化』は本当に必要か?~管理会社が直面するリアルな課題と実践的対策~
皆さん、こんにちは。
株式会社スペースライブラリの飯野です。
この記事は「築古オフィスビルにおける『テナント間コミュニケーション活性化』は本当に必要か?~管理会社が直面するリアルな課題と実践的対策~」のタイトルで、2025年11月26日に執筆しています。
少しでも、皆様のお役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願い致します。
はじめに
ビルの付加価値を向上させる施策のひとつとして、「テナント同士のコミュニケーションを活性化し、ビル内にコミュニティを育むこと」がよく提案されます。確かに、テナント間の交流が活発になれば企業同士が助け合い、職場環境の満足度向上に寄与するという期待感もあります。特に新築のオフィスビルでは、ラウンジや共用スペースを設けることで、テナント間交流を促進し、定着率を高める工夫を行っているケースも見受けられます。
しかし、築古オフィスビルの現場を知る管理会社の視点から見ると、この「コミュニケーション活性化」施策が必ずしもプラスに働かない現実があります。むしろ古いビル特有の制約ゆえに、善意の交流促進が思わぬトラブルを招くケースも少なくありません。本記事では、築古オフィスビル管理の現場で管理会社が直面する課題を掘り下げ、テナント間コミュニケーション活性化の幻想と現実を整理します。さらに、実際に起きた具体的なトラブル事例を紹介し、適切な対応策について考察します。
第1章 「テナント間コミュニケーション活性化」の幻想と現実
一般に言われるメリット(幻想):テナント同士が積極的に交流すればお互いに助け合いが生まれ、職場環境の満足度が上がるとされています。例えばビル内イベントや合同の朝礼などを通じて「顔の見える関係」になることで、入居企業は孤立感が減り、ビル全体に活気が生まれるでしょう。結果としてテナントの入居期間が延び、空室率の低下や物件イメージの向上につながるというのが理想的なシナリオです。またテナント同士で情報交換やビジネスマッチングが起これば、「このビルに入居して良かった」と感じてもらえるだろう、と期待するオーナーもいます。
築古ビルでの現実(潜む問題点):しかし現場の管理会社としては、築年の古いオフィスビルではこうした交流促進策が逆効果になる要因を日々痛感しています。主なものを挙げると以下の通りです。
- ・防音性の低さによる弊害:古いビルは壁や窓の遮音性能が十分ではなく、テナント間の音漏れが深刻です。例えば廊下や他社オフィスからの談笑や挨拶程度の声でも、筒抜けになって別のテナントの業務を妨げることがあります。交流が増えて人の行き来や会話が活発になるほど、「うるさい」「集中できない」といった苦情が増えるリスクがあります。防音対策が不十分な空間で下手にコミュニケーションを図ると騒音トラブルを誘発しかねません。
- ・共用部設備・スペースの問題:築古オフィスビルではエントランスや廊下、エレベーター、給湯室・トイレなどの共用部が狭かったり古かったりして、複数テナントが快適に共有しづらい構造です。そのため、テナント同士が積極的に交流しようとしても物理的な制約にぶつかります。例えば小さな給湯室に人が集まれば混雑してしまい、使用マナーの違いから「片付けがなっていない」「備品を私物化している」等の不満が噴出する可能性があります。また廊下やエレベーターで立ち話が増えれば通行の妨げにもなりかねません。古いビルではそもそもテナント交流を想定した造りになっておらず、交流しようにも場所が無い・環境が整っていないのが現実です。
- ・セキュリティリスク・プライバシーの問題:オフィスビルにおける情報や資産の保護も重要です。テナント間の行き来やオフィスの開放的な利用が進むと、セキュリティ面での不安が高まります。古いビルでは最新の入退館管理システムや監視カメラが不十分な場合も多く、他テナントの社員や訪問者が自由に行き来する状況は不正侵入や盗難のリスクを招きかねません。またオフィス内外での気軽な会話の中に機密情報が含まれてしまい、他社に漏れてしまう恐れもあります。特にフリースペースやオープンスペースでの何気ない会話から情報漏洩が起こるケースもあり得るため、安易な交流推進には慎重さが求められます。
- ・「交流のための共有ラウンジ」設置の問題:さらに、こうした現実を踏まえたときに、共用スペースに「交流のための共有ラウンジ」を設けたとして、そこで一体何を話すのでしょうか?セキュリティ意識が高まる今の時代、ビジネスに関わる重要な情報を他テナントの前で気軽に話せる企業はほぼ存在しません。必然的に、共有ラウンジで交わされるのは「天気の話」「最近エレベーター遅いよね」といった世間話レベルにとどまるのが現実です。それが悪いわけではありません。ただ、世間話しかできない空間に、果たしてどれほどの意味と費用対効果があるのか、冷静に考える必要があります。ましてや、部外者との打ち合わせやテナント同士の業務連携・情報交換がその場で行われるかといえば、それは非現実的です。情報漏洩のリスクを考えれば「できるわけがない」のです。結果的に、共有ラウンジは「交流を期待されたが、誰も踏み込んだ話ができない空間」として形骸化し、単なる空調付きの空きスペースに成り下がってしまうことも少なくありません。
- ・テナント間の連帯によるオーナーへの圧力:皮肉なことに、管理現場ではテナント同士が仲良くなり過ぎること自体を警戒する声も聞かれます。というのも、テナントが結束してオーナーに対し賃料値下げ交渉などの集団要求を行う事態を避けたいという思惑があるためです。実際、「テナント間のコミュニケーション活性化」が叫ばれる一方で、従来のビル賃貸管理の常識では「テナントと仲良くなるな。テナント同士も徒党を組ませるな」という考え方も根強く存在します。築古ビルでは長年入居している企業同士が顔見知りであることも多く、下手に交流を煽るとオーナー側への不満共有や団結を助長し、管理上のコントロールが難しくなる懸念もあるのです。
以上のように、築古オフィスビルにおいて「テナント間コミュニケーション活性化」は絵に描いた餅になりかねない側面があります。管理会社としては交流促進のメリットとデメリットを天秤にかけつつ、本当にそのビルに適した施策か見極める必要があるでしょう。次章では、こうした現実の中で管理会社が実際に直面した具体的トラブル事例を紹介します。机上の理想論ではなく、現場で起きた生々しいトラブルから学ぶことで、築古ビル管理の留意点と対策を探っていきます。
第2章 管理会社が実際に直面した具体的なトラブル事例
事例1:契約更新時の摩擦 – 賃料交渉とテナント間の不公平感
トラブルの概要:築古ビルで長年テナント管理をしていると、契約更新のタイミングで賃料に関する摩擦が生じることがあります。特にテナント間のコミュニケーションが活発だと、一方のテナントが他方との会話から「自分の所より安い賃料条件」を知ってしまい、不公平感を抱くケースがあります。例えば、テナントA社が更新交渉中に「隣のB社はウチより坪あたり賃料が安いらしい。なぜだ?」と詰め寄り、自社も同等かそれ以上の値下げを要求するといった場面です。管理会社からすれば契約時期や面積、業種に応じて個別に決めた正当な賃料設定であっても、テナント同士で情報交換されることで「不公平だ」という不満が噴出してしまうのです。
深刻化するポイント:このような状況では、複数テナントが足並みを揃えて賃料減額を求めてくる可能性もあります。実際、テナント同士が結託してオーナーに集団交渉を仕掛けることは管理側にとって大きなプレッシャーです。築古ビルは周辺の競合ビルに比べ設備が見劣りする分、テナント側も「ここは古いから賃料を下げて当然」と考えがちで、情報を共有されたことで一気に強気の要求につながることもあります。こうした賃料交渉上の摩擦が起きると、本来であればテナントに長く入居してもらうためのコミュニケーション施策が裏目に出て、かえって更新交渉が難航する結果となりえます。
管理会社の対応策:この事例への対応として管理会社が心がけるのは、個別交渉の原則と透明性のバランスです。他テナントの条件を持ち出された場合でも、「契約内容は各社ごとの事情に基づき決定している」と丁寧に説明しつつ、可能な範囲で市場相場データやビル維持コストなどを開示して納得感を得てもらうよう努めます。またテナント間で誤解が生じないよう、共用部分の掲示や通信で「賃料設定の考え方」についてガイドラインを示すことも有効でしょう。場合によってはオーナーと協議の上で一部テナントにのみ適用していた特例条件を見直し、全テナントに公平な条件となるよう調整することもあります。いずれにせよ、コミュニケーションは活性化しつつもデリケートな契約情報までは安易に共有させない工夫が必要です。管理会社として適切な線引きを意識し、テナント間の情報交換が不信感や不公平感に発展しないよう監督することが求められます。
事例2:オフィス業種間の勤務形態の違いによるトラブル
トラブルの概要:築古オフィスビルには、業種や勤務形態が異なるテナントが混在することがあります。例えば、残業や深夜勤務が頻繁にあるIT・クリエイティブ系企業と、定時終業が基本の士業やコンサルティング系企業が同じフロアに入居した場合にトラブルが発生することがあります。IT系テナントは深夜帯でも照明をつけ、出入りが激しくなるため、静かに仕事をしたい他の企業から「夜間の人の出入りや音が気になって仕事に集中できない」と苦情が寄せられることがあります。
深刻化するポイント:このような勤務形態の違いに伴うトラブルは、双方とも業務上やむを得ない事情があるため、互いに譲歩が難しくなります。IT企業はプロジェクト納期に追われ、夜間作業を控えることができず、一方で士業やコンサル系テナントは集中を妨げられるため深刻なストレスを感じることになります。こうした状況が続くと、感情的な対立が生まれ、関係修復が困難になる場合があります。
管理会社の対応策:管理会社としては、まずテナント同士のトラブルを早期に把握することが肝心です。双方の事情をヒアリングし、夜間帯の出入りや音に関するルールを具体的に設定します。例えば、「夜20時以降はできる限り静粛に行動する」「夜間作業がある場合は事前に管理会社経由でフロア内に告知を行う」など、明確な共存ルールを策定・共有します。
また、勤務形態が明確に異なるテナントが同居するリスクを避けるために、入居テナント募集段階で勤務実態を把握し、相性の悪い組み合わせを予防的に回避する工夫も必要です。さらに、物理的な対策として、遮音性の高いパーティションや吸音マットを設置するなど、ハード面の改善も検討することが効果的です。
このように、管理会社が間に入り仲介・調整を行うことで、トラブルが深刻化する前に早期解決を図ることが可能になります。
事例3:共用スペース利用をめぐる摩擦 – 給湯室・トイレ・エレベーターなど
トラブルの概要:築古ビルでは限られた共用スペースを複数のテナントで共有するため、日常的な些細なことで摩擦が生じやすくなります。典型例として給湯室やトイレの使い方があります。あるビルでは、あるテナントの社員が給湯室のシンクに食器を放置して私物化してしまい、他テナントから「いつも汚れていて使えない」「マナーが悪い」と苦情が出ました。またトイレ清掃の頻度や使い方(便座を汚したまま、備品の補充を怠る等)について「隣の会社のせいで不衛生だ」といった不満が双方から寄せられたケースもあります。さらにエレベーターの利用でも、あるテナントが引っ越し作業でエレベーターを長時間占有した際に他社からクレームが入り、以後エレベーター前で顔を合わせる度に気まずい雰囲気になるなど、人間関係の悪化に発展した例もあります。
同じフロアに入居する別テナントの社員が共用廊下を休憩スペース代わりにするのが慣習化している場合。誰も使っていない廊下の隅とはいえ、このような行為は他社にはだらしなく映り、ビル全体のイメージ低下や苦情につながる。管理会社にとって見過ごせない典型的な共用部トラブルである。
質問者の会社はお客様の出入りもあるのに、休憩中の他社社員が自社オフィス入口前の共用廊下でくつろいでおり困惑した、といった内容です。このように共用スペースでのマナー違反(私的利用や私物放置など)は、相手が特定できない場合も含めて管理会社への苦情として寄せられます。「共用部の使い方が雑だ」「荷物を長期間置きっぱなしにして邪魔だ」など、些細な不満が積もるとテナント同士の関係悪化につながります。特に築古ビルは共用部に余裕がないため一層トラブルが顕在化しやすいのです。
深刻化するポイント:共用スペースのトラブルは、一度「うちばかり我慢して損をしている」という意識が芽生えると厄介です。本来リラックスや利便のためのスペースがストレスの種となり、「〇〇社のせいで不愉快だ」という感情が社内に広まると、テナント間の溝が深まってしまいます。また直接注意しづらい性質も問題をこじらせる原因です。廊下でたむろする社員に別テナントが面と向かって注意するのは角が立ちますし、給湯室の汚れを「きっと隣の会社だ」と決めつけて陰口を言うようになると修復が困難になります。結果として管理会社に苦情が来る頃には、かなり不満が蓄積した状態であることが多いです。
管理会社の対応策:共用部トラブルに対して管理会社はまずルールの明文化と周知徹底を行います。例えば「廊下やエレベーターホールに私物を置かない」「共有設備は使用後に清掃する」といった基本マナーを掲示し、入居時にも口頭で説明します。それでも改善しない場合、管理会社から注意勧告を行います。直接当事者同士が注意し合うと感情的なしこりが残りかねないため、管理会社が間に入って「防災上も共用部の荷物放置は禁止です」「他のテナント様からご指摘がありました」などと客観的かつ建前を活用した注意を促します。実際、共用部に放置物があるケースでは「消防法上、避難経路に物を置くのは違反になりますので撤去願います」と伝えると大抵のテナントは従います。また、誰の社員か特定できないマナー違反(廊下での休憩等)については、ビル全体の掲示板や回覧で「共有スペースの適正利用」について注意喚起し、暗黙のうちに該当者へ警告する方法も取られます。重要なのは、問題行為を放置せず管理会社が迅速に対処する姿勢を示すことです。「困ったときは管理会社に言えば解決してくれる」という信頼感が醸成されれば、テナント間の不満もエスカレートする前に収まりやすくなります。
事例4:管理会社が介入して解決した実例 – 有効だった施策とは
トラブル解決の背景:最後に、管理会社の適切な介入によってトラブルを円満に解決できた事例を紹介します。築40年超の中規模オフィスビルで、テナント間のコミュニケーション不足と不満が蓄積していたケースです。このビルでは以前から「テナント間の交流がなく暗い雰囲気」だと指摘されており、オーナー意向で交流イベントを企画したことがありました。しかし上記で述べたような構造的問題(防音性や共用部の狭さ)も相まってイベントは盛り上がらず、その後むしろ些細な不満(騒音や掃除の文句)が噴出してしまいました。管理会社としても頭を抱えていたところ、あるテナントから退去の相談がありました。理由を詳しく聞くと「他のテナントとの折り合いが悪く居心地が悪い」とのことでした。このままでは他にも連鎖的に退去が出かねないと判断し、管理会社は本格的な改善策に乗り出しました。
実施した施策と効果:管理会社はまずビル内の全テナントに個別ヒアリングを行い、匿名でも意見を集めました。その結果、共用部の清掃状況や騒音ルールの曖昧さなど具体的な問題点が浮かび上がりました。そこで以下の施策を講じました。
- ・共用部環境の刷新:老朽化していた給湯室とトイレに簡易的なリフォームを実施し、清潔で使いやすい空間にしました。同時に清掃スケジュールを見直し、清掃員による巡回頻度を上げました。名物おばちゃん清掃員がテナントと積極的に会話し、クレームを直接拾い上げてくれるようになったことで、不満が蓄積する前に管理会社へ情報が届くようになりました。
- ・ルールの明確化と周知:ビル利用マニュアルを作成し、騒音・喫煙・ゴミ処理・共用設備利用などに関するルールを明文化しました。特に騒音については時間帯や音量の目安を示し、違反時の対応も明記しました。これを全テナントに配布し、新入居者にも必ず説明することで「何がNGか」を共有認識として持ってもらいました。これによって、注意すべき点をテナント自身が把握しやすくなり、トラブルの未然防止につながりました。
- ・トラブル対応の基本的考え方:管理会社として重要なのは、テナント間のトラブルが発生した場合、当事者同士を同席させず、双方から個別に状況や言い分を丁寧に聞き取ることです。その上で、あらかじめ設定したビルの管理ルールに照らし、当社が公正かつ明確な判断を下します。非があると判断した当事者には、その旨を文書や口頭で明確に通知し、具体的な改善を促します。また、もう一方の当事者に対しては速やかにフォローアップの連絡を行い、不安や不満が残らないよう配慮します。双方に問題がある場合も、一方に偏ることなく、両者に対して等しく管理ルールの遵守を促すのが原則です。
解決の成果:以上の施策により、このビルではテナント間のトラブルが大幅に減少しました。特に共用部の環境改善と明確なルール運用によって、「何となく他社に感じていた不満」が解消され、小さな摩擦が起きても管理会社が速やかに調整することで大事に至らなくなりました。管理会社が窓口となりテナント同士のコミュニケーションを仲介・代弁したことで、かえって穏やかな関係性が構築できたのです。交流イベントで無理に仲良くさせるのではなく、管理会社が潤滑油として機能し、各社が快適に業務に集中できる環境を整えることが最も有効だったと言えます。
第3章 セキュリティ重視時代にテナント企業が本当に求めていること
昨今、企業にとって最も重要な課題の一つは情報セキュリティです。特に東京都心に位置するオフィスビルのテナント企業は、情報漏洩リスクに極めて敏感になっています。管理会社の立場から見ると、オーナーが「テナント同士の交流促進」を目指してイベントや共用ラウンジの設置を計画する一方で、テナント企業側からはむしろ「交流を最小限に抑えてほしい」「余計なコミュニケーション施策は不要」といった本音を聞くことが増えてきました。
実際、東京都心にある築古ビルの複数テナント企業への匿名ヒアリングを実施したところ、次のようなリアルな声が寄せられています。
「とにかく情報漏洩リスクが怖い。うちの業界は競争が激しく、情報が漏れれば即ビジネスに影響する。廊下やエレベーターで他社の社員と会話するだけでも神経質になるのに、交流を深めろなんてあり得ない」(IT企業・総務担当者)
このように、多くの企業は業務上の機密情報が第三者に漏れることを何よりも警戒しています。セキュリティ意識の高い金融業界やIT企業、また法律・会計等の士業系テナントは特に敏感です。
また、あるテナント企業の管理部長は次のように明言しています。
「社内のセキュリティ教育では『部外者との不用意なコミュニケーションは厳禁』と教えている。ビル側が交流促進のイベントなどを企画しても、うちの社員には参加しないように指示するだろう」
テナント企業の現実的なニーズは明確です。彼らが管理会社に求めるのは、コミュニケーション活性化よりも、むしろ「安心して業務に専念できる環境」です。管理会社としても、こうした本音を無視して一方的に交流促進策を推し進めると、かえってテナントの満足度を損なうリスクがあります。
では、具体的にテナント企業が望む施策とは何でしょうか。匿名ヒアリングで特に要望が多かったのは次の通りです。
- ・セキュリティカード等によるフロア入退管理の徹底
- 各フロア、できれば各テナントオフィスに専用カードキーや顔認証を設置し、部外者の侵入リスクを最小限に抑えてほしい、という要望が多く寄せられています。実際、「古いビルほどセキュリティが甘く、フロア内を知らない人が普通に歩いているので不安を感じる」といった苦情も少なくありません。
- ・防犯カメラの適正配置と運用ルールの明確化
- 単に防犯カメラがあるだけでなく、設置場所や撮影範囲が明確であり、どのような場合に映像を閲覧するのかルール化されていることが求められています。「セキュリティ対策を管理会社任せにせず、閲覧ルールなどを明確に示してほしい」という声もありました。
- ・共用部での会話禁止・静粛ルールの設定
- 「不用意に共用部で業務内容を話す社員が出る可能性がある。管理会社が『共用部では私語厳禁』と明確に示してくれるとありがたい」という意見も出ています。
つまりテナント企業の本音は「交流を促すことではなく、むしろ管理会社が率先してテナント同士の接触を最小限に抑える環境を作ってほしい」ということなのです。管理会社としては、オーナーに対してこうしたリアルなニーズを適切に伝え、テナント企業の満足度を維持するための環境整備に力を入れることが重要になります。
第4章 築古ビルにおける構造的な問題と管理会社が直面するセキュリティ課題
築古オフィスビルには、現代のテナント企業が求めるセキュリティニーズを満たすことが困難な、根本的な構造的課題があります。特に東京都心の築30年以上のオフィスビルでは、以下のような共通課題が存在し、管理会社は日々その対応に苦慮しています。
【共用部動線の問題】
古いビルは共用部が極めて簡素な構造であり、廊下やエレベーターホールとテナントオフィスの入り口が物理的に近接しています。テナント専有部への出入り口が開放的であるため、社員以外の来訪者が不用意に他社テナント前を通行したり、時にはオフィス内を覗き込めてしまう場合があります。管理会社としては、このような共用部の構造を起因としたセキュリティリスクに常にさらされています。
実際に、ある管理会社の担当者は、「共用廊下で迷った来訪者が、別のテナントオフィス内まで無断で侵入しそうになった」というクレームを度々受けており、構造的な動線の問題を深刻に感じています。
【セキュリティ設備の老朽化と不備】
築古ビルの多くは、最新のセキュリティ設備を導入していないケースがほとんどです。入退館管理システムが旧式(鍵や暗証番号など)で、物理的なセキュリティカードや顔認証、指紋認証といった最新システムが導入されていないのが実情です。また、防犯カメラも設置箇所が限られ、解像度も低いため、実際に事件・事故が起きた際に証拠となる映像記録が残せないこともあります。
管理会社としては、テナント企業から「防犯カメラが役に立っていない」「ビルのセキュリティ対策が甘い」と苦情を受けても、構造上および設備上の制約によって有効な対策を迅速に実施できない現実があります。
【防音性能の不足と情報漏洩リスク】
築古ビルにおける防音性能の問題は、テナント企業にとっての情報漏洩リスクという形で、特に深刻な課題となります。実際に、ある都心の築40年近いオフィスビルでは、テナントが隣室の会議内容を聞き取れるほど壁やドアの防音性能が劣化しています。管理会社には、「隣の会社の会話が丸聞こえになり、うちの重要な電話会議の内容も漏れている可能性がある」といった切実なクレームが寄せられることも珍しくありません。
管理会社にとっては、このような課題があったとしても、ビルのオーナーからは「構造的問題だから改善は難しい」「修繕に多額の費用が掛かるため難しい」との反応をされることが多く、テナント企業とオーナーの板挟みになってしまうことが現場の実態です。
【管理会社が直面する課題の本質】
上記の課題が発生する根本的な原因は、やはり古いビルの構造的制約にあります。物理的な制限のもとでは、管理会社が対応できる範囲にも限界があり、予算的な面でもオーナーから承認を得るのが難しいケースが多々あります。管理会社としては、問題を明確に把握しつつも、根本的解決策を導入するには多大な労力と調整が必要であるのが現実なのです。
本章では、こうした築古ビルに特有な課題を整理しました。これらの構造的課題を理解したうえで、次章では「現実的な管理手法」として管理会社が取るべき具体的な戦略を提示します。
第5章 管理会社が取るべき現実的な戦略:コミュニケーション促進ではなく「適切な距離感」
ここまで、築古ビルの構造的な問題やテナント企業が直面するセキュリティ上の懸念について見てきました。これらを踏まえたとき、管理会社が現実的に取るべき戦略は、もはや「テナント間コミュニケーションの促進」ではありません。むしろテナント企業が安心して業務に集中できるように、「適切な距離感」を確保することこそが重要です。では、なぜ「適切な距離感」なのか、その理由を詳しく説明します。
【なぜ「適切な距離感」が重要なのか?】
そもそも、管理会社がオーナーや業界関係者から「テナント同士のコミュニケーション促進」を求められる背景には、「コミュニケーション=付加価値」というイメージがあります。しかし、実際にはテナント企業にとって重要なのは、仕事に集中でき、業務効率を高めるための環境整備です。特に、情報セキュリティへの意識が著しく高まった近年、企業は機密情報の漏洩を何よりも恐れています。そのため、テナント企業にとって管理会社が真に提供すべき価値は、むしろ『コミュニケーションの促進』よりも、『一定の距離を保った安心感のある空間設計』にこそあると言えるのです。
管理会社が「適切な距離感」を目指す理由を端的にまとめると、以下の2つです。
- 1.情報漏洩リスクを最小限にするため
- 2.テナント間トラブルを未然に防ぐため
これらの目的を実現するために、管理会社が実際にどのような具体的な施策を取るべきかを、次に詳細に見ていきます。
【具体的な改善施策1:共用部・動線の最適化】
共用部や動線の改善にあたって、重要なのは「テナント同士が意図しないタイミングや状況で接触すること」を最小限に抑える工夫を施すことです。たとえば、以下のような方法があります。
- ・ゾーニングの明確化
- 同一フロアに複数のテナントが入居している場合、パーティションや家具配置、間仕切りなどでテナントごとの空間を明確に分離します。これにより、他社の社員が無意識に別のテナントの執務エリアを通過したり覗き込んだりする状況を防止できます。視覚的な区分けがあるだけで、心理的にも情報漏洩への不安を軽減できます。
- ・共用設備(給湯室や喫煙所など)の分離・専用化
- 特に古いビルでは共用設備が狭く、接触の機会が増えるため、トラブルになりやすい場所です。可能であれば給湯室や喫煙所、休憩スペース等を各テナント専用化するか、難しい場合は利用時間帯を分けるルールを設定します。あるビルでは、給湯室の利用ルールを設けるだけでもテナント間のトラブル件数が約40%低下した事例があります。
【具体的な改善施策2:セキュリティ設備強化】
「適切な距離感」を保つためには、テナント同士の物理的な境界を明確化するだけではなく、セキュリティ意識を高める設備の充実が欠かせません。具体的には以下の施策が有効です。
- ・防犯カメラの適切な増設と運用の高度化
- 単にカメラを設置するだけでは効果が限定的であるため、具体的な課題に合わせて効果的な位置・角度で設置します。例えば、廊下の死角となりがちな曲がり角やエレベーター前など、他テナントと接触・衝突が起きやすい場所へのカメラ設置が効果的です。また、撮影された映像の保管・閲覧ルールを明確化し、「抑止効果」と「トラブル発生時の対応力」を同時に強化します。
- ・セキュリティカード・顔認証など入退館管理システムの導入
- 完全な設備刷新は予算的に難しいとしても、エントランスや各階の主要な入口だけでも最新の入退館システム(ICカード認証や顔認証)を導入すると、セキュリティ意識が高まり、テナント間の接触機会を自然と減らせます。また、導入後にテナントの満足度が大幅に向上した実例が多くあります。
【具体的な効果事例の紹介】
実際に東京都心のある築35年のオフィスビルでは、テナント間のコミュニケーション促進施策を廃止し、代わりにパーティション設置による動線整理やICカードによる入退館管理を導入しました。これにより、導入前は月平均5~6件発生していたテナント間トラブル(騒音・動線上の問題など)が導入後1年でほぼゼロ件となり、テナント満足度も大幅に向上しました。また、「情報漏洩リスクが格段に下がった」との声が多くのテナントから寄せられ、結果として契約継続率も改善しました。
さらに別のビルでは、防犯カメラを「共用部の死角」「エレベーターホール」「階段・非常口」等に集中的に設置し、撮影した映像の管理を管理会社が一括して行ったところ、部外者の不審行動が大幅に減少しました。結果的に、「管理会社の存在感が高まり、安心感を持てるようになった」とテナントから評価されました。
第6章 管理会社がトラブルを未然に防ぐための『テナント誘致段階での工夫』
築古オフィスビルにおけるテナント間のトラブルを防ぐ最も効果的な手段は、問題が表面化する前の段階、つまりテナント誘致・契約の時点で対策を講じることにあります。管理会社にとっては、契約段階における工夫やノウハウこそが、テナント間トラブルを根本から抑える鍵となるのです。
【契約段階でのルール明示の重要性と具体的手法】
管理会社がまず実施すべきは、契約締結前の段階で、共用部の使用ルールやコミュニケーション上の注意事項を詳細かつ明確に提示することです。契約時にルールを曖昧にすると、入居後のトラブルが発生した際に対応が難しくなり、対処が後手に回るリスクが高まります。
具体的には以下のような方法が有効です。
- ・「ビル利用ルールガイドライン」の策定と明示
- 共用部の使い方、騒音に関する制限、給湯室や廊下での私語に関する注意事項などを明文化した文書を作成し、契約前にテナントに説明します。特に、情報漏洩リスクが高い業種のテナントに対しては、「共用部での業務に関わる会話は控える」といった具体的なルールを事前に共有しておきます。契約書の添付資料としても活用し、署名捺印してもらうことで、入居後の遵守を促すことができます。
- ・テナントへの説明の徹底
- 単に文書でルールを提示するだけでなく、契約時にテナントの総務担当者や現場責任者向けの説明を徹底することも重要です。口頭で注意点を伝えることで、ルールの趣旨や重要性を理解してもらいやすくなり、入居後のトラブル予防に役立ちます。説明の際、過去の具体的なトラブル事例を挙げ、「こうした事態を避けるためにもルールを徹底してほしい」と説得力を持たせるのがポイントです。
【管理会社がテナント選定時に確認すべきポイント】
契約段階以前の、テナント選定プロセスにも工夫が求められます。管理会社がテナントを選定する際、特に確認すべきポイントは以下の通りです。
- ・業種・勤務形態の相性チェック
- 入居検討段階で、「既存テナントとの業種や勤務時間帯の相性」をあらかじめ検討します。たとえば、夜間勤務が多いIT企業と、静粛な環境を求める士業・コンサル系企業の相性が良くない場合などは、同一フロアを避けるか、あらかじめ双方に状況を伝えて理解を得るなどの対応が効果的です。
- ・テナントのセキュリティ意識のヒアリング
- 管理会社は入居希望テナントとの面談時に、セキュリティへの意識や関心度を丁寧にヒアリングします。例えば、「共用スペースでのセキュリティ対策をどうお考えですか?」、「オフィスのセキュリティ対策はどの程度のレベルで実施されていますか?」など、具体的に聞き取ります。その上で、入居希望テナントのセキュリティ意識の高さが既存テナントと大きく乖離している場合、テナント間での温度差による摩擦が生じやすいため、別のフロアや区画を推奨することも重要なノウハウです。
第7章 築古ビルの価値を向上させる「管理会社主導の安心づくり」具体事例
本章では、実際に東京都心にある築40年以上の賃貸オフィスビルにおいて、管理会社が主導して「セキュリティ強化」や「情報管理の徹底」を進めた結果、テナント満足度を向上させ満室稼働を実現した具体的な事例を紹介します。
【成功した具体事例の概要】
このビルは、設備の老朽化やセキュリティ面の不安から、空室率が一時約20%まで上昇していました。管理会社は築古ビルでありながら「安心・安全」を前面に打ち出す方針に切り替え、具体的な対策として以下の取り組みを実施しました。
- 1.入退館セキュリティシステムの刷新(ICカード+監視カメラ) エントランスとエレベーターホールの入退館にICカードを導入。各テナントへの来訪者の入館管理を厳密化し、不審者の侵入を未然に防止できるよう改善しました。また、防犯カメラを新たに8台増設し、エレベーター内や共用廊下の死角を徹底的に解消しました。
- 2.共用部のゾーニング変更と防音性能の向上 各階共用廊下に視覚的な仕切りを設置し、テナント間のプライバシーを確保。さらに、特に機密性の高い業務を行うテナントの入居フロアには、防音性の高いドアや遮音シートを導入し、情報漏洩リスクの低減に努めました。
- 3.テナント向け情報管理ガイドラインの策定・徹底 各テナントに対し、共用部での私語の抑制やオフィスエリア外での機密情報の取り扱いを明記した「情報管理ガイドライン」を作成し配布。契約時や定期的なヒアリングの際にも確認を徹底しました。
【管理会社がオーナーに提案した施策】
これらの施策は、当初オーナーから「費用対効果が見えづらい」との抵抗もありましたが、管理会社が過去のトラブル事例や空室の要因分析をデータとして提示し、「築古ビルの最大の弱みは安心感の不足である」と説得力ある説明を行ったことでオーナーを納得させることができました。具体的には以下の改善提案が受け入れられました。
- ・セキュリティ設備刷新(ICカード・監視カメラ)のための資本的支出承認
- ・防音扉・防音パーティション導入費用の予算承認
- ・情報管理ガイドライン策定に係る運営ルール変更への同意
【なぜ成功したのか?その要因分析】
この取り組みが成功した最大の要因は、管理会社が「コミュニケーション促進」という従来型の施策ではなく、テナント企業のリアルなニーズである「安心・安全・情報セキュリティ」を深く掘り下げて把握し、具体的かつ明確な施策としてオーナーに提示できたことにあります。
また、具体的な数値目標(空室率改善、満室稼働)を示しながらオーナーを説得したこと、各施策実施後にテナント満足度調査を継続して行い、効果をオーナーにフィードバックしたことも、成功要因として重要です。結果として、このビルは取り組み開始から半年で満室稼働を達成し、「築古ビルでもセキュリティを重視すれば市場競争力を高められる」というモデルケースとなりました。
築古ビルの管理において、管理会社が主導する「安心づくり」の取り組みこそが、現代におけるビルの付加価値向上の鍵となることが、本事例によって示されたと言えるでしょう。
第8章 管理会社からオーナーへの提言~「流行に振り回されない管理」への理解促進
管理会社が築古ビルを効果的に運営していくためには、テナントのニーズを正確に把握し、現場のリアルな課題に基づく管理方針を打ち出すことが求められます。しかし、オーナー側は市場で流行している「テナント間コミュニケーション促進」というイメージ戦略に引きずられがちで、管理会社が本当に必要とする施策への理解が得られないこともあります。こうした中で管理会社がオーナーへの理解促進を図るための具体的な方法について提言します。
【管理会社としての立場をオーナーに伝える際の工夫】
まず、管理会社としてオーナーに提案する際には、「築古ビルのリアルな管理現場で起きている問題」と「テナント企業が抱える本音」を明確かつ具体的に伝えることが重要です。テナント企業への匿名インタビューや過去のクレーム事例を資料化し、「理想ではなく、現場のリアルな声」を説得材料として提示することが効果的です。
また、実際にオーナーが重視する「空室率」や「契約更新率」といった具体的な数値を示しながら、「コミュニケーション促進施策よりも、セキュリティ強化や情報漏洩防止策に取り組んだ方が実際にテナントの満足度や継続率が上がる」ということを論理的に示すことがポイントです。
【「交流促進」にこだわるオーナーへの対処法】
オーナーが「テナント交流促進」という流行に固執している場合、管理会社としては無理に否定せず、以下のような代替提案を行う方法があります。
- ・「交流促進」の代替としての「安心感の向上」の提案
- オーナーには、「交流促進の意義は理解しているが、実際のテナントは情報セキュリティや安心感の方を重視している」と伝え、「テナント同士のコミュニケーションを促すよりも、管理会社がきめ細かくテナント間の距離を管理したほうが、実際にはテナントが長く定着する」という具体的なデータを示すことが有効です。
- ・パイロット施策による効果の可視化
- オーナーの理解を深めるには、まず小規模なフロアや一部の共用スペースで防犯カメラの設置やゾーニング変更、動線改善を試験的に実施します。施策後のテナント満足度調査や空室率の変化といったデータを収集し、効果が出た段階でオーナーに共有し、「こうした現実的施策こそが、真の付加価値向上につながる」と理解を促します。
【実際にオーナーの理解を得て成功した事例】
都内のある築35年の中規模オフィスビルの事例では、オーナーが「交流促進」に強くこだわっていましたが、管理会社が1年間、テナントアンケートやトラブル記録を詳細に収集した結果、むしろ交流施策がかえって不満を生んでいることが判明しました。
管理会社はこうしたデータをもとにオーナーに「安心できるオフィス環境」を明確なコンセプトとして提案し、セキュリティカードの導入や防犯カメラ設置、共用部ゾーニング変更の承認を得ました。その結果、テナントからの苦情が激減するとともに、退去予定だったテナントの契約継続率が改善。オーナーも「単に流行に乗るよりも、現場のリアルな課題に対応することが結果として収益につながる」と理解を深めました。
こうした事例から、管理会社は現場主義に基づいた説得材料を準備し、「流行に振り回されない管理」へのオーナー理解を促進することが可能となります。
おわりに
本稿では、築古オフィスビルにおいて頻繁に提案される「テナント間コミュニケーションの活性化施策」が、現場の現実から見ると決して万能ではないことを指摘してきました。テナント同士の交流やコミュニティ形成は、本来テナント企業自身が主体的に選択するべきものであり、管理会社が無理に促進するべきものではありません。現代のテナント企業が求めているのは、他社との交流よりも、自社の機密情報やプライバシーを守りながら安心して業務に集中できる環境なのです。
管理会社が提供すべき最大の付加価値は、「安心と安全」の徹底にあります。物理的なセキュリティ設備の充実、共用部や動線の適切なゾーニング、テナント入居時からの明確なルール設定といった具体的施策を講じることで、テナント企業の本質的なニーズを満たすことができます。築古ビルに特有な設備面の制約があるからこそ、管理会社が入念な運営ルールの徹底と、きめ細やかな現場対応を行えば、競争力を持たせることが可能となるのです。
流行に惑わされるのではなく、現場で得られたデータやテナントのリアルな声に基づく管理手法を選択することで、築古ビルは市場において確かな地位を確立できるでしょう。「コミュニケーション促進施策」を一概に否定するものではありませんが、それを盲目的に推進するよりも、現実に即した「適切な距離感」を提供する管理のあり方こそが、今後の賃貸オフィス市場で求められるものなのです。
管理会社が主体性を持ち、オーナーと協調しながら現場のリアルを見つめ直すことで、築古オフィスビルも持続可能で競争力のある不動産資産として、今後ますますその価値を高めていくことができるでしょう。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2025年11月26日執筆