選ばれる築古オフィスビルとは?|テナントの声から考える競争力向上のポイント
東京都心では築30年以上の中小規模オフィスビルが増加しており、空室対策や資産価値維持がオーナーの大きな課題となっています。一方で、築古ビルだからこそ選ばれるケースもあります。
本コラムでは、都心5区の市場動向やテナントニーズの変化を踏まえながら、築古オフィスビルが直面する課題と、競争力を維持するための考え方について解説します。
- どんな人向け?
- 築古オフィスビルの空室対策を検討しているオーナー
- 中小規模オフィスビルの資産価値向上を考えている方
- リノベーションや設備更新の方向性を検討している方
- 本コラムのポイント
- 都心5区における築古・中小規模オフィスビルの現状が分かる
- テナントが築古ビルに求める条件や課題が理解できる
- 築古ビルの競争力を高めるための考え方が分かる
- 結論
築古オフィスビルの課題は、築年数そのものではなく、テナントが求める設備や快適性とのギャップにあります。
そのため、賃料を下げるだけでは競争力の維持は難しく、空調や共用部の改修、セキュリティ強化などを通じて現代のニーズに対応することが重要です。
築古ビルでも適切な改善を行えば選ばれる可能性はあります。
建替えか現状維持かではなく、自社ビルに合った改善を進めることがこれからのビル経営には求められます。
都心5区のオフィスビル市場で進む「築古化」
東京都心では大規模な新築オフィスビルの供給が続いています。
一方で、1970年代後半から1990年代にかけて建設された多くのオフィスビルは築30年を超え、老朽化への対応が必要な時期に入っています。
特に注目すべきなのが中小規模オフィスビルです。
調査によると、都心5区の賃貸オフィス市場では棟数ベースで9割以上を中小規模ビルが占めています。
また、中小規模ビルの平均築年数は約34年とされ、大規模ビルよりも老朽化が進んでいます。
| 項目 | 中小規模ビル | 大規模ビル |
|---|---|---|
| 平均築年数 | 約34年 | 約26年 |
| 棟数割合 | 9割以上 | 1割未満 |
つまり、今後のオフィス市場の課題は「築古ビル問題」であり、その中心は中小規模ビルであると言えます。
これまでは新築や築浅ビルが市場を牽引してきました。
一方で現在は、築古でも選ばれるビルと、選ばれないビルの差が広がっています。
築古オフィスビルで空室が長期化する理由
近年、築古オフィスビルのオーナーを悩ませているのが空室の長期化です。
背景には、新築オフィスビルへの移転が進んでいることがあります。
大手企業が新築ビルへ移転した後、空いた区画がなかなか埋まらない「二次空室」が増えています。
なぜこのような状況になるのでしょうか。
それは企業のオフィス選定基準が変化しているためです。
| テナントが重視すること | 内見時によく聞かれる声 |
|---|---|
| フロアの使いやすさ | 柱が多くレイアウトしづらい |
| 働きやすさ | 天井が低く圧迫感がある |
| 建物の印象 | エントランスが暗い |
| 設備性能 | 建物全体に古さを感じる |
つまり問題は「築年数」そのものではありません。
古さによって生じる不便さや使いづらさが、空室の原因になっているのです。
テナントが感じている築古ビルの課題5点
テナントの評価を見ると、課題は大きく5つに整理できます。
1.設備の老朽化
最も多いのが設備に関する不満です。
トイレや給湯室が古い、空調が効きにくい、照明が暗い、電気容量が不足しているなど、設備の老朽化は日々の業務にも影響します。
設備更新を計画的に進めるための考え方については、以下のコラムもご覧ください。
あわせて読みたい: [ オフィスビルの長期修繕計画とは?|計画的に資産価値を高めるために ]
2.レイアウトの使いづらさ
築古ビルでは、柱が多い、天井が低い、間仕切りが多いといった特徴があります。
近年主流のオープンオフィスとの相性が悪く、テナントから敬遠される要因になっています。
3.快適性の不足
空調性能への不満も少なくありません。
窓際だけ暑い、フロアごとの温度差が大きい、換気が不十分といった問題は、従業員満足度の低下につながります。
4.エレベーター性能
中小規模ビルでは、エレベーターの更新が進んでいないケースもあります。
待ち時間の長さや運行速度の遅さは、日常的なストレス要因になります。
5.IT・BCP対応不足
近年は、通信環境やセキュリティ、非常用電源、防災対策なども重要な評価ポイントです。
築古ビルではこれらが十分でない場合があり、移転を検討する理由になることもあります。
賃料を下げても埋まらない時代になっている
築古ビルの強みとして「賃料の安さ」が挙げられます。
しかし現在は、それだけで選ばれる時代ではありません。
実際には、次のような事例も増えています。
- フリーレントを付けても反響が少ない
- 周辺相場より安くしても決まらない
- 内見数そのものが増えない
なぜなら、テナントは賃料だけで判断していないからです。
例えば、光熱費や共益費が高い、空調効率が悪いといった問題があれば、総コストでは割高になる可能性があります。
そのため、賃料を下げるだけでは競争力を維持できません。
設備や運営面を含めた改善が必要です。
築古ビルにも需要は存在する
一方で、築古ビルだからこその需要もあります。
特にスタートアップ企業やデザイン会社、クリエイティブ企業などでは、築古ビルが選ばれるケースも少なくありません。
| 築古ビルに需要がある企業 | 選ばれる理由 |
|---|---|
| スタートアップ企業 | コストを抑えやすい |
| デザイン会社 | 内装を自由に変更しやすい |
| クリエイティブ企業 | 独特の雰囲気を活かせる |
| ベンチャー企業 | 他社との差別化がしやすい |
ただし、築古であれば選ばれるというわけではありません。
空調更新やセキュリティ強化、共用部改修、防音対策、Wi-Fi環境整備など、現代のテナントニーズに対応した設備改善は欠かせません。
つまり築古であること自体が問題ではなく、古さを残しながら現代のニーズに対応できるかどうかが重要なのです。
オーナーが取るべき現実的な選択
東京都では再開発支援制度も進められていますが、中小規模ビルオーナーにとっては活用のハードルが高いのが現実です。
建替えには、多額の資金、立退き交渉、解体費用、融資調達などの課題があります。
そのため、多くのオーナーにとって現実的なのは、段階的な設備更新やリニューアルです。
実際に、次のような取り組みよって稼働率を改善した事例も少なくありません。
- 空調更新
- エントランス改修
- トイレ改修
- セキュリティ強化
重要なのは「何を改善すれば選ばれるのか」を見極めることです。
実際にリノベーションによって競争力を高めた事例については、以下コラムもご覧ください。
あわせて読みたい: [ 築30年でも満室に|賃料を下げないオフィスリノベーションの実例と費用感 ]
まとめ
都心5区では築古の中小規模オフィスビルが市場の大部分を占めていますが、新築ビルとの競争は今後さらに激しくなると考えられます。
その中で重要なのは単純な賃料競争ではなく、以下のような取り組みを積み重ねることです。
- 設備の老朽化への対応
- テナントニーズの把握
- 共用部や空調の改善
- 快適性の向上
築古ビルの競争力は築年数ではなく、テナントが求める価値を提供できるかどうかで決まります。
建替えか現状維持かという二択ではなく、自社ビルに合った改善策を見極めながら資産価値を高めていくことが、これからのビル経営に求められる考え方です。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2025年12月4日執筆