ネガティブイメージを払拭する! 築古・中型・賃貸オフィスビルオーナーのブランディング戦略
皆さん、こんにちは。
株式会社スペースライブラリの飯野です。
この記事は「ネガティブイメージを払拭する!築古・中型・賃貸オフィスビルオーナーのブランディング戦略」のタイトルで、2025年12月9日に執筆しています。
少しでも、皆様のお役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
- はじめに
- 第1章 築古・中型オフィスビルが抱えるネガティブイメージの本質
- 第2章 実は競争力を秘めている―築古・中型オフィスビルの真価
- 第3章 ブランディングとは何か?築古オフィスビルに求められる発想転換
- 第4章 最小限投資で最大効果を生む具体的バリューアップ策
- 第5章 日常管理の「当たり前」を高めるブランディング基盤作り
- 第6章 エリア×業種のマッチングを活かしたテナント戦略
- 第7章 自社メディア・サイトを主軸とした情報発信・コミュニケーション戦略
- 第8章 行政が動かない今、築古ビルオーナー自身が主体的に動くために
- 第9章 まとめ:築古ビルオーナーが主体的に取り組むべきブランディング戦略
- おわりに ― オーナーの行動が、東京のオフィスビル市場を変える
はじめに
東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)には、新耐震基準以降に建てられた築20年以上の中型オフィスビルが数多く存在しています。これらのビルはフロア面積100坪以下、延床5,000坪未満といった規模感で、目立つ一等地ではないながらも、古くから地元に根差したビジネスエリアに立地しています。
市場の注目はどうしても新築や超大型ビルに集まりがちですが、実際には、築古の中型オフィスビルこそが都心オフィスマーケットを支える重要なストックです。安定した中小企業、士業や専門職、公益団体などの多様な業種ニーズに対応でき、柔軟な賃料設定が可能な点で、都市の経済活動を下支えする存在となっています。
しかし、行政や市場関係者は再開発プロジェクトばかりに注目し、築古中型オフィスビルへの明確なビジョンや支援策は乏しい状況です。その結果、「古い」「設備が陳腐」といったネガティブイメージが先行し、オーナーは対応に苦慮しています。
本コラムでは、オーナー自身がこの状況を打開するために取り組める「実践的なブランディング戦略」について提案します。管理運営の改善、テナント戦略、情報発信の工夫を通じて、保有オフィスビルのブランド力向上につながる方法を考えていきます。
第1章 築古・中型オフィスビルが抱えるネガティブイメージの本質
都心に根強く残るネガティブな先入観
都心において「築古のオフィスビル」という言葉が持つイメージは、率直に言って決して良いものではありません。「古びた外観」「設備の老朽化」「管理の手薄さ」といった、ネガティブな先入観が根強く市場に定着してしまっているのが現状です。
このようなネガティブイメージが、実際にどのような要素で形成され、テナントの選択心理にどう影響を与えているのか。その構造をまず明確に捉える必要があります。
築古ビルに対する市場評価とテナント企業の心理
テナント企業は、ビル選びを単に「空間の確保」としてだけでなく、自社のイメージ形成や社員満足度に直結する重要な経営判断として位置づけています。
ここで重要なのは、実際のビルの機能性や安全性よりも、「見た目の印象」や「心理的な快適性・安心感」が大きく評価を左右するという現実です。
たとえば、訪問客や社員が毎日出入りする際に、最初に目にするビルの外観が古ぼけていたり、共用スペースが薄暗く清掃が行き届いていない状況では、そのビルに入居すること自体が企業イメージに悪影響を与えると判断されます。
テナント企業は「自社のビジネスにふさわしい環境かどうか」「自社のブランディングにプラスになるか」を無意識のうちに見極めています。つまり、実際の使用価値が十分にあったとしても、「古さ」「古びた雰囲気」が入居判断を躊躇させる最大の原因になっているのです。
視覚的な古さ(外観・内装)の具体的問題点
築古のオフィスビルでは、外壁の色褪せや塗装の剥がれ、ひび割れ、老朽化した看板や案内表示などが視覚的なイメージを著しく損ないます。
また、内装面でも、古いデザインの壁紙、摩耗が目立つ床材、黄ばんだ照明器具といった要素が、「老朽化したビル」という印象を強めます。
一度「古いビル」という印象を抱かれてしまうと、いくら内部を綺麗にしていても、その第一印象を回復するのは極めて困難です。「視覚的な第一印象」の影響力を軽視している限り、築古ビルの価値向上は望めません。
設備の老朽化・機能性低下が引き起こす懸念
テナントがオフィスに求める基本的な条件は、「安全」「快適」「便利」です。
空調が効きにくい、エレベーターが頻繁に故障する、給排水設備のトラブルが多いといった設備の問題は、日々の業務遂行を妨げる大きなリスクです。また、インターネット環境や電気容量の不十分さも、現代のビジネスにおいては致命的な弱点となります。
こうした問題があると、「このビルでは業務効率が悪化する」と判断され、テナント企業から敬遠される原因となります。
管理不十分が与える負のイメージ
管理体制の問題は、設備の古さ以上に強いネガティブな印象を与えます。
共用部の清掃が不十分でゴミや汚れが目立つ、照明が切れたまま放置される、故障やトラブル対応が遅いなどが続くと、「このビルは管理が行き届いていない」「オーナーや管理会社に関心がない」といったイメージが定着します。
こうした信頼の欠如がテナントの退去を促し、新規入居の難しさを助長します。
ネガティブイメージ克服による具体的なメリット
逆に、これらのネガティブ要因を明確に把握し、着実に改善していくことで、大きなビジネスチャンスが生まれます。
視覚的な改善や設備の更新、管理体制の徹底を進めることで、テナント企業の評価は確実に向上し、物件の稼働率が高まります。
「古くても安心できるビル」というブランドイメージを構築できれば、テナントの定着率も高まり、長期的な収益安定化にもつながります。
こうした明確なメリットを念頭に置きながら、次章では築古・中型オフィスビルが持つ競争力の本質について掘り下げていきます。
第2章 実は競争力を秘めている―築古・中型オフィスビルの真価
一般的な誤解と隠されたポテンシャル
都心5区の築古・中型オフィスビルは、「古い」「競争力がない」といったイメージを持たれがちですが、実際には明確な魅力と競争力を秘めています。
この章では、そうしたビルが持つ本質的な強みと、やや二流立地だからこそ発揮できるポテンシャルについて掘り下げます。
築古・中型オフィスビルの本当の魅力とは?
手頃で安定した賃料設定の魅力
築年数の経過した中型オフィスビルは、周辺の新築や大型ビルに比べて賃料が手頃で安定しています。賃料負担は企業経営の安定性や事業継続性に直結するため、適正価格での長期契約は中小企業や公益法人などにとって大きなメリットです。
中小企業・専門職・公益団体などの需要にマッチ
中型ビルの規模は、中小企業や専門職、公益団体などにとって「ちょうどいい」サイズ感です。士業、コンサルティング企業、財団法人、団体事務所などは大規模なオフィスを必要とせず、合理的な賃料と空間を求める傾向にあります。
こうした企業・団体は長期入居する傾向があり、稼働率の安定化に大きく寄与します。
中型ならではの柔軟性のあるスペース構成
中型オフィスビルの特性として、以下のような柔軟性を持った空間構成が挙げられます。
・1フロア1テナント利用がしやすく、独立性を確保できる
・構造的制約が少なく、レイアウト変更や内装調整が容易
・テナントの成長や組織変更に応じたレイアウト再構成が可能
最小限の改修で最大限の効率化を実現できる点が、特定のテナント層にとって大きな魅力となります。
「やや二流立地」の持つ可能性
築古・中型オフィスビルは、超一等地ではなく「やや二流」と評される立地であることが多いですが、これにも独自のポテンシャルがあります。
超一等地にはない魅力
超一等地は賃料・管理費が高く、入居企業にとっては大きな負担になる可能性があります。一方、やや二流の立地であれば、
・賃料がリーズナブル
・都心部へのアクセスが良好
・実質的な利便性に問題が少ない
などの理由から、経済的メリットと利便性の両立が可能です。
歴史的なインフラや街の成熟度
こうした立地は歴史的に業務街として成熟しており、
・飲食店、小売店、金融機関が充実
・業種の集積によるネットワーク効果
といった点で、入居企業にとって利便性の高い環境が整っています。
地価・賃料のバランスが良く、事業継続性を支える
安定的で負担の軽い賃料は、企業の事業継続性に直結します。無理のないコストで都心に拠点を維持できる点は、テナントの定着率向上と稼働率維持に繋がります。
築古・中型オフィスビルの本質的な競争力を再認識することが、ネガティブイメージを払拭し、ブランディングへと繋がる第一歩です。
次章では、こうした魅力を市場に伝えるために必要な「ブランディング」という考え方について掘り下げていきます。
第3章 ブランディングとは何か?築古オフィスビルに求められる発想転換
表面的な改修だけでは、選ばれ続けない
築古の中型オフィスビルが市場での競争力を取り戻し、テナントから継続的に選ばれる存在になるためには、単なる設備の更新や清掃の徹底といった「表面的な改善」だけでは限界があります。
もちろん、目に見える改善は大切です。しかし、それだけでは“このビルに入居したい”という感情的な納得や共感までは生まれません。そこで重要になるのが、「ブランディング」という視点です。
ここでいうブランディングとは、広告的な演出や過度なイメージづくりではありません。築古のビルが持つ歴史、地域との関連性、日々の誠実な管理姿勢といった“実直な価値”をきちんと伝え、物件としての存在意義を再認識してもらうための戦略的なアプローチです。
ブランディングとは「違い」を育て、「共感」を呼ぶこと
ブランディングとは、自分が保有している物件の個性や魅力を明確にし、市場において独自のポジションを確立していくための取り組みです。
それは単に他と違うという意味ではなく、「その物件がなぜ選ばれるべきか」「どんな価値を持っているのか」を、明確に言葉にして伝える作業です。そして、それを一過性の打ち出しで終わらせるのではなく、日々の運営を通じて誠実に実践していく──その積み重ねこそが、長期的な信頼と共感につながっていきます。
そのために、以下のような観点からの整理と発信が求められます。
差別化による独自性の確立:
他の物件とは異なる固有の特徴やメリットを見つけ出し、その差別化ポイントを明確に伝える。
ストーリーを含めた価値の創造:
建物そのもののスペックにとどまらず、その背景にある魅力的なストーリーや価値を創り出し、感情的な共感を呼ぶ。
一貫性のあるメッセージの発信:
築古ビルがテナント企業にどう映るべきかというイメージを明確に描き、そのイメージを一貫して訴求し続ける。
テナントとの長期的で安定した関係構築:
ブランディングを通じてテナントからの共感と信頼を獲得し、長期的な入居・関係維持を実現する。
築古だからこそ持てる「語れる価値」を言語化する
築古・中型オフィスビルには、新築や大型物件とは違った価値があります。それをしっかり「言語化」し、「語れる状態」にすることがブランディングの第一歩です。
たとえば以下のような要素は、築古物件だからこそ打ち出せる“魅力”になります:
手頃で安定した賃料体系:
新築や大規模ビルよりもリーズナブルで安定した賃料を提供でき、中小規模の企業にとって無理のない事業運営を支えます。
柔軟で機能的な空間利用:
構造的な制約が比較的少なく、テナントの規模や業態に合わせて間取りやレイアウトを調整しやすいため、入居企業にとって実用的で居心地の良いオフィス空間を提供できます。
落ち着いた雰囲気と信頼感:
時間を重ねた建物だからこそ醸し出される落ち着き、過去の入居実績が与える信頼など、数字には表れない価値がある。
こうした要素を明確かつ魅力的なストーリーに仕立て上げることで、築古ビルの価値を効果的に伝えることができます。
テナント企業の“無意識のニーズ”に応える視点転換
テナント企業は、物件を選ぶときに「合理性」と「安心感」の両方を求めています。
築古ビルが持つ“古さ”を単なるマイナスとせず、次のようなかたちで“プラスの価値”として再定義することができます:
「古いが、丁寧に維持されている」という印象づくり:
共用部の清掃や修繕の状況を具体的に示すことで安心感を与える。
過去の入居実績を価値にする:
長年にわたって多くのテナント企業が安心して入居し続けてきた実績を示すことで、築古物件に対する信頼性を高める。
適切なリニューアルによる価値向上:
予算的に大がかりな工事が難しくても、小規模ながら効果的な改修を行い、その過程や成果を魅力的なストーリーとして伝える。
こうしたテナントの気づいていないニーズに丁寧に応えていくことが、結果として物件全体の魅力と信頼感につながっていきます。
地に足のついたブランディングへ
「築古」という現実を無理に隠したり覆い隠すのではなく、誠実に受け止め、それでも“このビルなら大丈夫”と納得してもらえるような物件であること。
これこそが、築古ビルに求められるブランディングの本質です。
次章では、こうしたブランディングの基盤を築くために必要な、具体的な物件改善の方法──“最小限投資で最大効果”を生むバリューアップ策について掘り下げていきます。
第4章 最小限投資で最大効果を生む具体的バリューアップ策
築古・中型オフィスビルの魅力を引き出すためには、多額の投資を行うのではなく、最小限のコストで効果的な改善を図ることが重要です。ここでは、投資効率が高くテナントの評価向上につながるポイントを整理します。
費用対効果を重視した外観リフレッシュ
エントランス周りや共用部の部分的な改善:
目につきやすいエントランスや共用スペースの目に付く壁の傷を修復し、念入りに洗浄する等により、ビルの印象を手軽に改善できます。外壁全体を改修するような大規模投資は不要であっても、来訪者が最初に目にする部分を丁寧に整えることで、「きちんと管理されている」「印象が良い」と感じてもらえるようになります。
サインや表示の改善:
案内表示や看板を現代的なデザインで刷新し、視認性や統一感を持たせることで、ビル全体の印象を明るく清潔に演出することが可能です。
外部照明の工夫:
特に冬場の夕方以降や、曇天時の薄暗さはビル全体の印象に影響を与えます。適切な位置にLED照明を設置するなど、夜間でも安全で快適なイメージを与える演出が有効です。防犯面での安心感にもつながります。
内装・共用部の部分的リニューアル
ロビー・エントランスの改善:
入居者や来訪者が必ず通過するロビーやエントランスは、そのビルの“顔”とも言える空間です。床材の張り替え、照明の更新など、限られた範囲であっても意図的に整えることで、第一印象の改善につながります。
床材や壁紙の部分的更新:
すべてを新しくする必要はありません。たとえば汚れが目立つ箇所だけをピンポイントで貼り替える、劣化の激しい部分を目立たない素材に変えるといった工夫で、全体としての清潔感・安心感を演出できます。
設備の最適改善の考え方
優先順位を決めた設備更新:
設備のすべてを一度に交換するのは現実的ではありません。そこで、特にテナントが日常的に使用し、快適性に直結する空調・トイレ・照明といった部分に優先順位を置き、段階的に機能性を向上させることが有効です。
予算配分の最適化:
設備更新の投資には限界がありますが、テナントの業種や働き方に応じてニーズを的確に把握することで、限られた予算でも最大限の満足度を引き出すことができます。
設備改善の成果は一見して分かりづらいため、更新した内容やその効果を丁寧に説明し、テナントへの安心感や信頼感につなげるコミュニケーションも重要です。
このように、最小限の投資で最大限の効果を引き出す取り組みは、築古ビルの価値を確実に押し上げ、テナントからの評価を高めることができます。次章では、こうしたバリューアップの基盤となる「日常管理」の視点から、築古ビルに求められる管理の質とブランディングとの関係を考えていきます。
第5章 日常管理の「当たり前」を高めるブランディング基盤作り
基本的な管理の徹底がブランディングに重要な理由
日々の管理体制が整っているかどうかは、テナントにとって非常に大きな安心材料になります。特に築古物件においては、「しっかり管理されているかどうか」が、ビル全体の評価や信頼性を左右する重要な要素となります。
管理の質が安定すれば、テナントの満足感は自然と高まり、それが長期的な入居や信頼関係の構築につながります。また、退去の抑制にも効果があり、結果として物件の収益性や稼働率の安定化をもたらします。
築古ビルならではの管理ポイント
築古物件においては、新築にはない独特の管理上の配慮が求められます。
徹底した日常清掃とメンテナンス体制:
古い建物は、汚れや劣化が目立ちやすいため、日々の清掃やメンテナンスを怠らないことが重要です。たとえば共用部の床の汚れ、壁の傷、照明の切れなどは、テナントが「このビルは大丈夫か?」と不安を感じるきっかけになります。逆に、清掃が行き届き、常に清潔で整っている状態を維持していれば、「このビルはしっかりしている」という印象を持ってもらえます。
迅速で的確なトラブル対応:
水漏れ、空調不良、エレベーターの異常など、突発的なトラブルが起きたときの対応スピードは、テナントの評価に直結します。連絡から対応完了までが早ければ、「信頼できる管理体制がある」と判断され、逆に遅れれば不信感を生みます。
管理会社の社内営繕チームによるアドホックで機敏な対応:
外部業者に頼るだけでなく、自管理会社の社内に営繕の体制がある場合は、ちょっとした補修や修繕を迅速かつ柔軟に対応できる点で大きな強みとなります。テナントの「今すぐ直してほしい」「ちょっとだけ直してもらえればいい」というニーズに応えられることで、信頼性が一段と高まります。
管理の質を高める外部パートナー選定基準
築古ビルのブランディングを支えるもう一つの鍵は、管理業務を担う外部パートナーとの連携です。
信頼できる管理会社の選定:
管理業務を委託する際は、実績や担当者の質、対応スピード、トラブル時の柔軟性などを十分に確認する必要があります。単なる価格の安さだけで選ぶと、対応力や品質に課題が残る可能性もあります。
定期的なコミュニケーションと連携強化:
管理会社との連携を密にし、迅速で的確な対応力を維持。
こうした日常管理のクオリティが、築古ビルの価値を底上げし、長く選ばれる物件としての信頼感につながっていきます。次章では、物件の立地と業種ニーズを掛け合わせたテナント戦略について考察していきます。
第6章 エリア×業種のマッチングを活かしたテナント戦略
築古・中型オフィスビルの競争力を最大化するためには、物件の立地するエリア特性とターゲットとなる業種のニーズを的確にマッチングさせることが非常に重要です。この章では、都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のそれぞれが持つ業種クラスターの特徴を掘り下げ、それに基づいた効果的なテナント誘致の具体的な考え方を整理します。
都心5区エリア別業種クラスターの特徴を踏まえた誘致ターゲット選定
●千代田区:士業・公益団体・シンクタンク
千代田区は皇居や官公庁街に隣接し、落ち着いたイメージと高い信頼性を持っています。弁護士・税理士・公認会計士などの士業や、公益財団法人、調査研究機関(シンクタンク)など、社会的な信用や安定性を重視するテナントにとって理想的なエリアです。
【誘致のポイント】堅実な管理運営体制、セキュリティの徹底、落ち着いたオフィス環境を明確にアピールすること。
●中央区:金融・商社・人材サービス
中央区は古くから日本橋・京橋エリアを中心に金融機関や商社が集中しています。また、人材派遣や人材紹介サービスの企業も数多く集積しており、ビジネスの中心地としての利便性が高く評価されています。
【誘致のポイント】交通アクセスの利便性、ビジネスサポート環境の充実を訴求。オフィスレイアウトの柔軟性など、企業が求める効率的な業務環境を提供する。
●港区:外資・メディア・広告・情報通信
港区には外資系企業やメディア、広告代理店、情報通信系企業が多数存在します。多様な文化や価値観が集まり、新しいトレンドや情報が生まれるエリアとして高い評価を受けています。
【誘致のポイント】国際性やクリエイティブなイメージを強調。高速インターネットや情報通信インフラの充実、現代的でスタイリッシュな内装・共用空間を訴求する。
●新宿区:教育・出版・専門サービス・バックオフィス需要
新宿区は教育関連施設や出版社、専門サービス業、企業のバックオフィスなどが集まり、業務効率を重視した企業ニーズが高いエリアです。また、交通アクセスの良さから地方拠点を置く企業の東京事務所としてのニーズもあります。
【誘致のポイント】堅実で効率的な空間設計、リーズナブルで安定したコスト設定、きめ細かいビル管理サービスの提供を明確に訴求する。
●渋谷区:IT・クリエイティブ・アパレル・デザイン業
渋谷区はITやクリエイティブ関連、アパレル、デザイン事務所など、新しい発想や柔軟なワークスタイルを持つ企業が多く集まります。若い世代を中心に多様な働き方が受け入れられるエリアとして、創造性を活かしたビジネスが活発です。
【誘致のポイント】カジュアルで自由度の高いオフィス環境、柔軟な契約条件、クリエイティブな発想を刺激するような共用部や施設を提供する。
実際の成功事例を踏まえたテナントマーケティング戦略
実際に成功している事例を分析すると、次のような要素が共通しています。
明確なターゲット設定に基づくマーケティング:
特定の業種や企業規模にフォーカスし、そのニーズに沿った具体的なメリットを明示。
効果的な情報発信:
自社ウェブサイトやSNSなどを活用し、ターゲットに直接響く情報を一貫して発信。
細かなニーズに対応する柔軟な運営体制:
契約条件や入居後のフォローアップなど、テナントの状況に応じた柔軟な対応を実践。
これらの戦略を踏まえてエリア特性と業種クラスターを正しく理解し、ターゲット企業のニーズを的確に把握した上でマーケティング活動を展開することで、築古・中型オフィスビルの競争力は大きく向上します。
第7章 自社メディア・サイトを主軸とした情報発信・コミュニケーション戦略
築古・中型オフィスビルの競争力を維持し向上させるためには、単に物件の改善や管理体制を整えるだけでなく、テナントや市場に向けた効果的な情報発信とコミュニケーションが不可欠です。この章では、当社自身のメディア・サイトを中心に、築古・中型オフィスビルの魅力を伝え、ブランディングを推進するための具体的な戦略を解説します。
自社メディア・サイトを活用したストーリーづくりとSEO強化
築古中型ビルを「魅力的な物語」に変えるコンテンツマーケティング
当社が運営するメディア・サイトでは、単なる物件スペックや価格の提示にとどまらず、それぞれのビルが持つ個性やストーリーを魅力的に伝えるコンテンツを継続的に発信します。
具体的には、過去のテナントの成功事例や、そのビルで行われたリノベーションや改善事例の裏側を紹介したり、実例の紹介を通じて現場の声や雰囲気を伝えるコンテンツを展開します。
たとえば、「ビル管理者が語る、築30年超ビルの魅力と維持管理のポイント」や、「テナント企業が語る、築古ビル選択が事業成功に寄与した理由」など、具体的で共感を呼びやすいストーリーを掲載し、築古ビルへの理解や好感度を高めます。
継続的なコンテンツ発信で閲覧数を高める手法
SEO(検索エンジン最適化)対策として、定期的かつ計画的な記事更新を行います。エリア別オフィスマーケットのトレンド分析や、築古物件特有の管理運営のポイント、テナント誘致成功事例、業界の最新情報など、ターゲット企業や関係者が検索しやすいテーマを選定し、具体的なノウハウや情報を提供することで、自然な検索流入を増加させます。
また、SEO対策としてキーワードの適切な使用、モバイル対応、読みやすい記事構成、内部リンクの最適化なども徹底し、自社メディア・サイトへのアクセス性を向上させます。
ビル管理会社としてのブランド構築との相乗効果
「プロのビル管理者」としてのブランドを表現するコンテンツの考え方
当社のビル管理会社としてのブランド構築において、自社メディア・サイトのコンテンツは企業の個性や価値観を明確に表現する重要な手段です。当社が重視する「誠実な管理運営」「まやかしのない本質的な改善」「テナントとの長期的な信頼関係構築」などの理念を、事例紹介、コラム記事を通じて具体的に伝えます。
さらに、当社が日頃取り組む地道なビル管理作業やトラブル対応の舞台裏を紹介することで、テナントや見込み客に対し、透明性や信頼性をアピールします。
コラムによる具体的なコンテンツ営業戦略
定期的に更新するコラムを通じて、業界のトレンドや具体的な管理・運営のノウハウを分かりやすく提供します。これにより、当社の「賃貸オフィスビル・マーケットの専門家」「頼れるパートナー」という位置付けを市場に印象付けます。
たとえば、「築古・中型オフィスビルにおける費用対効果の高い管理方法とは?」や、「テナント視点で考える、長期入居したくなるビルの条件」など、テナント企業や仲介会社が興味を持ちやすいテーマでコンテンツを構成し、見込み客の関心を引きます。
各種不動産情報サイト、SNS活用のサブ施策としての位置づけと使い分け
当社が展開する自社メディア・サイトを主軸としつつ、不動産情報サイトやSNSなども効果的に活用して、自社メディア・サイトへの誘導や市場での情報認知度を高めます。
不動産情報サイト:
物件のスペック、賃料など客観的で具体的な情報を掲載し、実務的なニーズを持つテナント企業や仲介会社への訴求を図ります。
SNS(Facebook、X(旧Twitter)、Instagramなど):
リアルタイム性や親しみやすさを重視し、自社メディアの新規コンテンツ更新の告知や、管理・運営の舞台裏など、気軽で身近な情報を発信も検討課題です。SNSを通じた情報拡散やエンゲージメントを高め、自社メディア・サイトへの訪問を促進します。
第8章 行政が動かない今、築古ビルオーナー自身が主体的に動くために
東京都の政策を見ると、大規模再開発や一部の先進的なリノベーション事例への支援は行われていますが、個別の中型・築古ビルへの細かなサポートや具体的な施策展開には限界があります。これは財政的・人的なリソースの制約からもやむを得ない側面があり、築古・中型ビルの価値向上については、最終的にはオーナー自身の主体的な意思に委ねられているのが現実です。
東京都においても、老朽化したビルストックの活用に関して近年ビジョンを示し始めています。小池知事の掲げる「未来の東京」戦略では、既存建築物をリノベーションし、新たな需要に応える用途へ転換する方針が明記されています。例えば「老朽化した建築物を改修し、市民から需要の高い住宅へと転換」するといった既存ストック活用策も示され、古いオフィスビルを住宅などにコンバージョンして都市に潤いを与える取り組みが強調されています。
また、歴史的・文化的価値のある建物は保存・活用して街のにぎわい創出につなげる方針も示されており、東京都は新築偏重ではなく「成熟都市として魅力を高めるまちづくり」の一環で築古ビル再生を位置づけています。
具体策として、東京都は既存ビルの改修を後押しする制度も開始しました。2024年度から「中小規模事業所のゼロエミッションビル化支援事業」を立ち上げ、中小企業等が所有する中小オフィスビルの省エネ改修に対し、調査設計費や断熱・空調設備更新費用の一部を助成しています。
さらに報道によれば、東京都は2025年度から民間の既存ビル再生プロジェクトに対する整備費助成制度も検討しており、先進的なリノベーション事例を公募・支援する方針です。こうした東京都の施策からは、築古オフィスビルを含む既存ストックの活用を促進し、安全性・快適性や環境性能を高めつつ都市の競争力維持を図るスタンスがうかがえます。もっとも、都心部では大規模再開発による超高層オフィス計画も推進されており、東京都は大規模再開発による都市更新と、既存中小ビルのリノベ支援の双方を並行して進めている状況です。
一方、業界団体である日本ビルヂング協会連合会(JBOMA)も、築古オフィスビルが抱える課題について問題提起し、行政への要望活動を行っています。同連合会は全国のビルオーナー・ビル管理会社約1300社を会員とする組織で、毎年政府に対して税制改正要望などロビー活動を実施しています。
例えば令和6年度税制改正に関する要望では、老朽化ビルの建替え・改修を後押しするための税制優遇措置の拡充を国に求める提言を提出しています。具体的には、耐震改修や省エネ改修を行った際の固定資産税減免措置の延長・拡大や、建替え時の譲渡所得税特例(いわゆるビルの立体買換え特例)の要件緩和などを求め、築古ビル更新のインセンティブ強化を図ろうとしています。
しかし、これら行政や業界団体の施策には一定の限界があります。行政の補助や支援策は公共的意義が認められる範囲、つまり耐震や省エネ、防災といった公益性の高い分野に限られることが多く、内装や設備更新、ICT環境整備などのテナント誘致に直接関わる改修は原則対象外です。これは、中型オフィスビル・オーナーが実際に市場競争力を高めるために必要な施策が、公的支援ではカバーされにくいことを意味します。
また、制度の利用には煩雑な申請手続きや書類整備が必要であり、中小規模のビルオーナーにとって実務的な負担が大きいのも課題です。申請に必要な専門知識や人的リソースが不足している場合、制度の利用自体が困難になります。さらに、行政の財政には限りがあり、助成制度の対象は多くの場合、先進的事例やモデルケースに絞られるため、都内の多くの中型築古ビルがその恩恵を受けることは難しいという現状があります。
結局のところ、公的支援は中型・築古ビルの再生においては補完的な役割にとどまり、多くの場合は市場原理に基づいて競争力の有無が試されることになります。そのため、オーナー自身が主体的かつ積極的にビルの価値向上に取り組まざるを得ない状況が続いています。
こうした現実を受け止め、築古・中型ビルのオーナーに求められるのは、行政や業界団体の支援を待つのではなく、自らが主体的に動き、自分たちの物件を再評価させるための具体的な行動を取ることです。次章では、このようなオーナー自身が実行可能で効果的な施策を、ブランディングの視点から詳しく掘り下げていきます。
第9章 まとめ:築古ビルオーナーが主体的に取り組むべきブランディング戦略
築古・中型オフィスビルには、どうしても「古い」「設備が遅れている」といったネガティブなイメージがつきまといます。しかし、このネガティブなイメージをただ受け入れるのではなく、むしろ積極的に改善し、ポジティブな特徴として再構築することで、市場において十分な競争力を持つ物件へと再評価される可能性があるのです。そのためには、オーナー自身が主体的かつ戦略的にブランディングに取り組むことが極めて重要です。
ここでいう「ブランディング」とは、表面的なリフォームや一時的な話題作りではありません。それは自物件の固有の価値や魅力を見出し、それを明確なメッセージとして市場やテナントに訴求し、長期的な信頼関係を築いていく継続的なプロセスを指します。ブランディング戦略を丁寧かつ計画的に進めることにより、テナントからの共感と信頼を得て、持続的な入居率の安定化と収益向上を図ることが可能になります。
では、具体的にオーナーがどのような施策を進めていけばよいのかを見ていきましょう。
① 日常管理の徹底と効率的な設備改善
ビルの第一印象は、訪れるテナント企業や関係者にとって極めて重要な判断材料です。特に古いビルにおいては、清掃が行き届かない、照明が暗い、設備が不調であるといった小さな問題点がすぐにネガティブな印象として定着してしまいます。そこで、日常の清掃管理を徹底することで建物の清潔感を常に維持し、設備点検を定期的に行い、問題発生前に未然に防ぐ仕組みを作ります。
大規模な設備投資が難しい場合でも、既存設備を最大限に活用し、小規模な改善で効果的に価値を向上させることができます。具体的には、エントランスの壁や床のリニューアル、照明のLED化、トイレや給湯室の衛生設備更新など、目に見えて分かりやすいポイントから改善を進めることが効果的です。こうした細やかな対応を着実に進めることで、「しっかりと管理されている」という印象を築き上げ、入居テナントの満足度を向上させることができます。
② 市場動向の収集・分析とテナントターゲッティングの明確化
築古・中型ビルの競争力向上には、最新の賃貸オフィスビル市場動向や周辺エリアの業種傾向を把握し、適切なテナントを明確にターゲットすることが不可欠です。具体的には、エリアごとの業種集積状況を分析し、自ビルがどの業種のニーズを満たすことができるのかをしっかりと把握することです。
例えば、法律事務所や会計事務所といった士業、公益団体やシンクタンク、あるいはIT系やデザイン系企業など、自物件の立地や設備環境に最も適合するテナント層を明確にします。その上で、それらターゲット企業のニーズに即したサービスや空間作りを行い、ピンポイントで魅力的な提案を実施することで、効果的なテナント誘致を図ることが可能になります。
③ ネガティブイメージの払拭を目指した効果的な情報発信
オフィスビルのブランド価値を向上させるためには、テナントや市場への情報発信が極めて重要な要素です。特に、築古ビルが持つネガティブなイメージを覆すためには、単なる物件情報やスペックを提示するだけでなく、そのビルが持つ独自の魅力やストーリーを伝えることが必要です。
具体的には、物件のネーミングやロゴを新しく制作する、ウェブサイトやパンフレットで改修内容や管理運営の舞台裏を積極的に伝える、過去のテナント企業がそのビルを選んだ経緯や成功した事例を紹介するといったアプローチを採用します。これらの情報を魅力的かつ統一されたブランドイメージとして発信することにより、ポジティブな評価を市場やテナント企業から得ることができます。
また、専門的なブランディング支援を行う企業をパートナーとして活用し、より効果的かつ効率的にブランド戦略を推進していくことも選択肢の一つです。
当社は、このようなブランディング施策を全面的に支援します。ビル管理運営からマーケティング、情報発信までを一貫してサポートすることで、オーナーが築古ビルの持つ真の価値を引き出し、市場競争力を効果的に高めるパートナーとなります。ぜひ私たちと共に、築古ビルの新たな可能性を切り開いていきましょう。
おわりに ― オーナーの行動が、東京のオフィスビル市場を変える
築古・中型オフィスビルは、単に「老朽化した物件」として扱われる存在ではありません。都市のインフラとして、中小企業や専門職、公益団体といった多様な事業主体を支え、ビジネスの多様性と柔軟性を下支えする“都市の土台”とも言える存在です。
しかし、現実にはスポットライトが当たりにくく、政策面でも支援の網が行き届かない領域にあります。そのなかで問われているのは、オーナー自身が「自分の物件をどう位置づけるか」「どんな価値を提示するか」という“姿勢”と“構想力”です。
行政に期待できることには限界があります。だからこそ今、築古ビルの再評価を進め、物件ごとの個性や地域とのつながりを活かしながら、自ら価値を再定義する行動こそが、最も現実的で力強い選択肢になってきています。
都市に求められるのは、ただ新しく建て替えることではなく、「いまある資産を、いかに持続可能なかたちで活かし続けるか」という視点です。そしてそれは、誰かの大規模な投資や革新的なテクノロジーに頼るものではなく、日々の地道な管理と、一つひとつの判断の積み重ねによってこそ実現されていきます。
私たちは、そうした“今あるものを活かす力”を信じています。築古・中型オフィスビルの価値を掘り起こし、現代のテナントニーズに丁寧に応えながら、新たなブランドとして再構築していく。そんな持続的で誠実なブランディングの取り組みこそが、これからの東京を支えるオフィスマーケットの“質”を底上げする鍵になると考えています。
そして、何よりもそれを可能にするのは、オーナー自身の意思と行動です。私たちはその一歩を、実務と戦略の両面から支え続けていきます。
ともに、築古ビルの未来を、東京都心の未来を、つくっていきましょう。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2025年12月9日執筆