プロパティマネジメントとは?業務内容と空室率を抑えるノウハウを解説

皆さんこんにちは。
株式会社スペースライブラリの羽部です。
この記事はプロパティマネジメントについて総合的にまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。
少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願い致します。
第1章 プロパティマネジメントとは
プロパティマネジメント(Property Management) は、不動産の運営管理を「投資価値向上」や「収益最大化」の視点で戦略的に行うサービスです。
- 建物(オフィスビル・マンション・商業施設など)や土地などの不動産を対象に、日常管理業務だけでなく、テナント誘致・賃貸条件設定・バリューアップ提案など、資産価値を高める取り組み全般を担当する点が特徴です。
- 従来型の「ビル管理」や「賃貸管理」が維持・保全に重きを置くのに対し、プロパティマネジメントは投資的観点から戦略を立案・実行する点に大きな違いがあります。
- プロパティマネジメントの業務範囲は不動産所有者が本来すべき内容を含んでいます。不動産の運営管理水準を高度化するため、専門能力を結集して高度なビル経営を取り組むための選択肢としてプロパティマネジメント会社への業務委託があります。
- PMやPMerと省略表記される場合がありますが、Project ManagementやProject Managerを意味する場合があるのでご留意ください。
第2章 プロパティマネジメントの特長
1. 総合的・戦略的アプローチ
通常の賃貸管理が日常的・事務的な業務をメインとするのに対し、プロパティマネジメントでは投資的視点から収益最大化を目指すための戦略立案と実行を含みます。
- 最適な賃料設定
- 競合物件から優位性を確保する募集戦術の構築
- テナント構成や誘致戦略
- リノベーションによる付加価値向上
- 市場動向に応じたバリューアップ施策
- 適切かつ有効なコスト管理
2. オーナーの利益最大化が目的
不動産資産の投資価値を高め、賃料収入や稼働率を向上させることがプロパティマネジメントの最重要ミッション。
- 空室削減
- 賃料アップ
- 空室削減と賃料アップのバランス
- リスク対応(テナント与信・滞納対策)
- 老朽化対策、リニューアル提案
3. 幅広い専門知識・ノウハウ
建築・設備管理からリーシング・マーケティング、法務・税務など、多岐にわたる高度な知見が求められます。通常の管理会社と比べ、広範な専門家ネットワークを活用する点も特徴です。
第3章 プロパティマネジメントの具体的業務内容
1. リーシング(テナント誘致)活動
- 市場調査を行い、適正な賃料や募集プランを策定
- 仲介会社との連携や内覧対応、広告宣伝
- 希望テナント層を設定し、効率的に誘致を図る
- プロパティマネージャーによるテナント募集対応
2. 契約管理・賃料収受管理
- 賃貸借契約の締結・更新・解約・定期借家における再契約手続き
- 賃貸市場変動に応じた賃料改定対応
- 賃料滞納対応や債務管理
- 借主との各種交渉・調整
3. 建物・設備の維持管理
- 日常清掃や定期点検の立案・実施
- 管理仕様の立案・実施
- 専門業者との連携や発注管理
- 予防保全施策の立案・実施
- 修繕計画の策定・実行、緊急対応
- 管理作業や修繕履歴の情報管理
- セキュリティ確保や耐震補強の提案
4. バリューアップ・リノベーション企画
- 建物や設備の改装・アップグレード
- ブランディング向上策(ロビーリニューアル、ICTインフラなど)
5. 財務管理・レポーティング
- 管理費・修繕費の予算・実績管理
- キャッシュフロー分析、投資利回り算定
- 定期的な収支報告、空室率やリーシング状況のレポート
- 不動産運営管理情報の管理
6. マーケット分析・経営戦略提案
- 賃料相場や需要動向、競合物件の調査
- 長期的な運用計画の立案、売却・買い増しの検討
- 建物運営方針の見直し・立案
7. アセットマネジメントサポート
- 不動産売却時の物件資料作成
- アセットマネジメント会社との連携
第4章 空室率を抑えるための工夫・ノウハウ
1. マーケットリサーチと適正賃料設定
不動産の種類・用途に応じて重要なポイントは異なる場合があります。賃貸不動産ではテナント募集が最重要業務ですが、テナント種別に応じて業務内容は異なる部分があります。一般的なポイントとして、対象物件の競争力の把握と客観的評価を実施することです。更に、競合物件、周辺相場、建物特性・ターゲット層などを分析し、リーシング計画を具体的に策定します。賃貸条件の分析は不動産の用途に大きく異なります。参考までオフィスの市場分析事例について6.①-5で解説していますので、ぜひ、参考にして下さい。
市場分析が精確にできたら、それらの情報を俯瞰し、競合物件に比較して対象物件に対し、魅力あるとテナントが認識する条件を設定することで空室期間を短縮につながります。相場に比して安い条件であれば空室期間は減少しても物件の収益性が高まらない点にも留意する必要がありますので、適切な条件設定がどのような水準であるかは客観的な判断が必要です。一般的に空室による賃料収入機会損失は明確に把握されるため、プロパティマネージャーは高稼働の達成を優先する傾向があり、条件が相場水準を逸脱していないかの観点について客観的評価ができる仕組みがあるかの確認も必要となります。
2. 物件の魅力向上(バリューアップ施策)
- 物件種別に応じた機能整備
- ターゲットテナントに合致した建物設備や運営管理
- 共用部のグレードアップ・リニューアル
- オフィスビル等におけるICTインフラ整備
- テナントビル等におけるレイアウトの自由度や顧客導線の工夫
→ 物件価値を高めることで賃料アップや長期契約を促進することができます。
3. テナントとの良好な関係構築
定期的なコミュニケーションやヒアリングで入居者満足度を高め、退去リスクの低減を通じ、優良テナントのリテンションに努める必要があります。
用途違反や滞納テナントに対するタイムリーな対応と損害リスクの回避に努める必要があります。
4. 機動的かつ積極的なリーシング活動
- 仲介会社との連携強化
- ネット募集媒体・SNSの活用
- プロパティマネジメント会社自身によるリーシング活動
- 柔軟な条件交渉
→ 市場やテナントニーズに合わせ、タイミングを逃さずアプローチすることができます。
5. 経営戦略的なポートフォリオ再編
フロア分割や用途変更など、需要に合わせた柔軟な運用が空室対策に有効な場合がある。但し、一定の需要が見込まれる物件において安易に柔軟な運用を行うことは建物の質が劣化し、競争力が大幅に劣化する致命傷となる場合があるので、実績や経験が不可欠です。
6. 不動産用途別空室対策
不動産の用途ごとに求められるニーズやターゲット層、利用形態は大きく異なるため、空室対策もそれぞれに合わせたアプローチが求められます。以下では、代表的な不動産用途であるオフィス、住宅、店舗、物流施設、駐車場それぞれについて、空室率を抑えるための具体的なノウハウ・工夫を整理します。
①オフィス(事務所)の空室対策
①-1. テナントニーズの的確な把握
- レイアウトの柔軟性
テナントが希望する区画面積・レイアウトへ対応できるよう、フロアの分割や共用部の使い勝手を考慮する。 - 設備の充実
光回線やWi-Fi環境、空調設備、セキュリティ強化など、オフィスに求められるインフラを整備する。
①-2. リノベーション・内装の刷新
- 共用部やエントランスの改修
エントランスやエレベーターホールなどのデザイン性を高め、ビル全体のイメージアップを図る。 - スケルトンオフィスの提案
入居者が自由に内装を設計できるように、躯体のみ(スケルトン)の状態で賃貸するケースも増えている。
①-3. 適切な賃貸条件・契約条件
- フリーレント期間の設定
入居初期のコスト負担を軽減することで検討ハードルを下げる。実際の適用に際し、フリーライドの問題があるため、約定での工夫が求められる。レントロールが表面的には良くなるため物件価値が増大したように見える場合がある。但し、フリーレントの濫用は実際の不動産収益を制限し、キャッシュフロー上で把握できるため、不動産市場の専門家は実質的な評価するため、場合によっては評価を落とす場合があるため、物件の競争力に応じた設定が必要である。 - 短期契約やオプション契約への対応
スタートアップ企業など、長期契約を避けたいテナントにも対応できるようにする。
①-4. 効果的なリーシング活動
- 不動産仲介会社との連携強化
テナント誘致力の強い仲介業者への情報提供や専任契約などを活用する。 - オンライン広告・内見対応
バーチャル内見やオンラインでの情報発信を充実させ、遠方の企業にもアプローチする。 - コワーキングスペースとのハイブリッド化
小規模区画をコワーキングとして運営し、稼働率を維持する取り組みも有効。
①-5. 市場分析
- 実際のテナントの目線で評価する
募集チラシや物件情報に記載された内容だけでは正確な比較ができません。対象物件を選択肢とする具体的なテナントのニーズを想定し、そのニーズに応じて評価した場合、どのような順位となるかを把握する必要があります。賃貸条件が異なる物件間の比較は極めて困難なので順位付けは同一賃貸条件であると仮定した場合で想定することができます。 - 付帯条件を勘案する
賃料、管理費以外に保証金、更新料、償却費、フリーレント、ネット率などを把握し、実質賃料ベースで比較する。 - 正確な契約面積を把握する
オフィスビルの契約面積の計算方法は物件により異なるため、同じ契約面積であっても実際にレイアウトをすると収容内容が異なることが通例である。この点、正確に把握するには貸室面積のネット率を確認する必要があります。 - 実際に現地で物件を確認する
ネット上で確認しただけでは物件の評価はできませんので、現地確認は必須です。またテナントの変動やリニューアルの実施など物件の状況は刻一刻変化するので、過去に見たことがある物件でも再確認が必要です。
② 住宅(マンション・アパート)の空室対策
②-1. 室内設備・デザインの向上
- リフォーム・リノベーション
築古物件の場合は、水回りや壁紙・床材の刷新などで室内の印象を大きく改善できる。 - 省エネ・スマートホーム化
IoTデバイスや省エネ設備の導入は、入居者にとって魅力的な付加価値となる。 - 賃貸ポータルサイトの選択肢項目
インターネット無料、追い炊き、バストイレ別、室内洗濯機置場、ゴミ集積場、オートロックなど貸室内容に応じた人気設備の導入
②-2. 賃料・契約条件の柔軟性
- 敷金・礼金の見直し
近年は敷金・礼金を抑えた物件が好まれる傾向があり、初期費用負担の低減が空室対策に寄与する。 - ペット可・定期借家契約など差別化
ペット可物件や定期借家契約などの仕組みを導入することで、ニッチなニーズを取り込みやすくなる。
②-3. 入居者募集の宣伝強化
- ポータルサイトへの掲載・SNS活用
SUUMO、ホームズなどの大手ポータルやSNS等をフル活用し、幅広い層にアプローチする。 - 仲介会社との連携・囲い込み対策
仲介会社に物件の魅力を正しく伝え、優先して紹介してもらえる関係を築く。
②-4. 管理・サービス品質の向上
- 24時間トラブル対応・セキュリティ強化
急な設備トラブルや防犯面の対応が充実していると、入居継続率が高まり、空室を防ぎやすい。 - 共用部の清掃や美観維持
ゴミ置き場の管理や廊下・階段の清潔感は内見時の印象を左右する重要なポイント。
③ 店舗(商業施設)の空室対策
③-1. ターゲット顧客とテナントのマッチング
- 集客力の高いテナント構成
アンカーテナントや人気ブランドを誘致し、周辺テナントに相乗効果をもたらす構成を意識する。 - 客層の分析とコンセプト設定
地域の人口動態やトレンドを踏まえ、ショッピングセンター全体や商業ビルのコンセプトを明確化する。
③-2. 共用スペースの演出・改修
- 館内環境のアップデート
空調や照明、サイネージなどを最新化し、来店者に快適で魅力的な印象を与える。 - イベント・催事スペースの活用
季節イベントやポップアップショップを行い、集客力を高めつつ空いている区画の活用を図る。
③-3. 賃貸条件の工夫
- 売上歩合制や短期契約の活用
新規出店のリスクを下げたいテナント向けに、固定賃料だけでなく歩合賃料を取り入れる。 - 内装工事費用補助・出店支援
初期投資コストが大きい場合、オーナーが工事費用の一部を負担するなど支援策を講じる。
③-4. 周辺施設・デジタル施策との連携
- 地域とのコラボレーション
地元のイベントや行政施策との連携で、集客を拡大。 - オンライン×オフライン(OMO)戦略
店舗の情報をSNSなどで発信し、来店誘導に繋げる。通販やモバイルオーダーなどとの併用も検討。
④ 物流施設(倉庫など)の空室対策
④-1. 施設仕様の充実
- 耐荷重・天井高・床荷重などのスペック
物流企業が求める物理的条件(フォークリフト対応、ハイピックラック対応)を満たすことが重要。 - ドッグシェルターやトラックヤードの整備
入出荷効率を高める設備があると、物流企業からの引き合いが増える。
④-2. 立地特性を活かす
- 主要高速道路・港湾・空港へのアクセス
物流施設は交通インフラへのアクセスが最重要要素。立地を強みとして明確にアピールする。 - 周辺の労働力・雇用確保
作業員確保のしやすさが企業にとっての決め手になるケースもあるため、周辺環境の情報提供を行う。
④-3. 運営・管理体制のアピール
- 24時間対応・セキュリティ
倉庫内のセキュリティシステムや防犯カメラ、警備体制などの充実度はテナント企業の安心材料となる。 - 共用施設(休憩室・食堂など)の整備
現場作業員にとって働きやすい環境を用意することで、テナントの離脱を防ぎやすい。
④-4. 契約条件の柔軟化
- 定期借家契約・短期契約
需要に合わせて柔軟な契約期間に対応できれば、繁忙期だけの利用なども取り込める。 - 賃料交渉や共有コスト負担の調整
企業の物流コスト圧縮のニーズに対応し、賃料や共益費の負担をバランスよく設計する。
⑤. 駐車場の空室対策
⑤-1. 駐車場形態に合わせた料金設定
- 月極・時間貸し(コインパーキング)の併用
立地条件によっては月極と時間貸しを併設し、稼働率を高める。 - 相場を踏まえた柔軟な賃料設定
周辺エリアの競合状況や需要を見極めて、割高感・割安感のない料金を設定する。
⑤-2. ユーザーの利便性向上
- キャッシュレス決済や予約システムの導入
スマホ決済や事前予約が可能なシステムを導入し、利用者の利便性を高める。 - セキュリティ対策・照明の確保
防犯カメラや出入口のゲート管理、夜間の照明など、安全で安心できる環境を整備する。
⑤-3. プロモーション・認知度拡大
- 看板・サインの最適化
近隣からの視認性を高め、駐車場の存在がわかりやすいようにする。 - 周辺施設との提携や割引
商業施設や飲食店との提携割引により、利用者数の増加を狙う。
⑤-4. 混雑状況の見える化
- 空き状況のリアルタイム表示
スマートフォンやデジタルサイネージで空き台数をリアルタイムに表示し、利用者を誘導する。 - ピークタイム・オフピークの料金差
曜日や時間帯で料金を変動させ、稼働率を均等化する取り組みも有効。
⑥まとめ
プロパティマネジメント業務において空室率を抑えるためのノウハウ・工夫として以下の項目について具体的な内容・計画を明確にする必要があります。これらの具体的な内容については個々のプロパティマネジメント会社および物件担当者により異なる場合がありますので、不動産所有者はしっかりと内容を確認し、不明点を確認しながらリーシング業務を進める必要があります。
- 対象物件と競合市場の正確な把握
- 商品としての物件の魅力向上施策
- リーシング活動の強化と契約条件を個別最適化
- 情報発信・マーケティングの最適化
第5章 専門業者が持つノウハウの事例
1. 大手プロパティマネジメント会社のネットワーク活用
- 幅広い仲介業者やテナント企業との取引実績
- 企業移転計画など先行情報の入手と積極的リーシング
- 市場データの蓄積
2. 専門アナリストやコンサルタントの在籍
- 市況や賃料相場、競合物件の動向をリアルタイムで把握
- 中長期的な運営戦略や投資計画を総合的にサポート
3. 技術的提案力(建築・設備面)
- 大規模修繕やリノベーションの企画・監修
- 安全性・快適性向上のアドバイスや費用対効果分析
- 長期の運営実績に基づく知見
4. 多様なリーシング戦略
- 用途別(オフィス、商業、物流など)に異なる交渉術や集客ルート
- WEBや内覧会など多面的なマーケティングによる早期成約
- 直販リーシング業務の実施
第6章 従来の不動産管理手法との比較
項目 | 従来の不動産管理 (ビル管理等) | プロパティマネジメント (PM) |
---|---|---|
主目的 | 日常維持管理 (トラブル対応など) | 資産価値・収益の最大化 |
範囲 | 設備管理・契約事務 (定型業務) | リーシング・バリューアップ・財務分析 等 |
アプローチ | 受動的 (問題発生時対応が中心) | 能動的・戦略的 (収益増・空室減へ積極提案) |
専門知識 | 施設管理技術・基本的な契約知識 | 不動産投資・マーケ・建築・法務など総合力 |
報酬形態 | 管理委託料 (定額) | プロパティマネジメントフィー (歩合・成功報酬型含む) |
- 従来管理は「建物を正常に維持」するのが目的。一方、プロパティマネジメントは「投資成果」を重視し、より攻めの姿勢で戦略を組み立てる。
- プロパティマネジメント報酬は従来の定額管理より高額になる場合もあり、成果報酬型を採用することも多い。
第7章 不動産オーナーが注意すべき点
- プロパティマネジメント会社の実績・得意分野の確認
物件種別(オフィス、商業、マンションなど)やエリアとの相性をチェック。 - 費用対効果の検討
プロパティマネジメントフィーが高くても、空室率削減や賃料アップが伴えば十分採算が取れるかをシミュレーション。 - 収益連動
不動産所有者の収益増加がプロパティマネジメント会社の収益増加につながる点で物件収益改善に向けたインセンティブが生じる点はプロパティマネジメント運営管理のメリットとなるが、労力に見合わない報酬水準ではインセンティブが機能しない場合がある。利益相反については第10章にて言及。 - コミュニケーションと情報共有
一任するだけでなく、オーナー自身も定期的に報告を受けながら戦略に参加。 - 長期的視点での投資判断
リノベーションや修繕など、大きなコストを要する場合は資産価値向上の観点でタイミングを見極める。 - 契約内容のチェック
業務範囲・報酬体系・責任分担を明確化。成功報酬率や修繕工事の発注方法などを事前に確認する。 - 他の運営管理方式との比較
不動産運営管理実績のある所有者(法人を含む)にとってビル運営管理全般を外部に委託することは大きな決断です。そのため現状の運営方式、管理メンテナンスのみ外注、サブリース事業者への一括賃貸などと比較することでより精緻な判断が可能と思われます。
以下に他の運営方式の概要と比較した場合のプロパティマネジメント方式のメリットを挙げます。
ビル運営方式には様々な形態がありますが、プロパティマネジメント(PM)方式が広く採用されている理由や、他方式との比較を「不動産所有者の視点」で解説します。以下では各方式の概要と、それに伴うメリット・デメリットを整理します。
1. 不動産所有者による直接運営管理方式
概要
- 不動産所有者(企業や個人オーナー)が自らテナント募集や契約管理、施設維持管理を行う。
- 設備管理の一部を専門業者に依頼することはあっても、基本的な運営判断・実務はオーナー側で担う。
メリット
- コスト削減
・外部のマネジメント会社に支払うフィーが不要。
・管理コストを抑えやすい。 - 経営方針の反映が直接的
・オーナーの判断で迅速に運営方針を決定・変更できる。
・オーナー自身の意思が直接テナント募集条件や改修計画に反映される。 - 自社リソースの有効活用
・すでに不動産管理部門などを持つ法人オーナーであれば、自社スタッフやノウハウを活用できる。
デメリット
- 専門知識・人的リソースの不足リスク
・賃貸管理のノウハウやマーケット知識、法務対応などが不足している場合は対応に限界がある。
・維持管理やリーシング業務に時間と労力を取られ、本業に支障をきたす恐れも。 - 管理クオリティのばらつき
・適切なテナント対応ができず、テナント満足度の低下や賃料下落につながるリスクがある。
・一括管理システムやテナント管理ソフトなどを導入しないと、情報管理の非効率やミスが起こる可能性が高い。
2. ビルメンテナンス会社への管理業務委託方式
概要
- 設備管理・清掃・警備など、建物のメンテナンス領域を専門とする会社に委託する方式。
- テナント募集や契約管理についてはオーナーが直接行う場合も多いが、維持管理に関する技術的な部分はビルメンテナンス会社が担当。
メリット
- 設備管理・清掃などの専門性確保
・建物のハード面のメンテナンスに特化しているため、専門的な対応が期待できる。 - 部分的なアウトソーシングで柔軟性
・オーナーが賃貸管理やリーシングは自前で行いたい場合でも、施設管理だけ委託できる。
デメリット
- 賃貸管理はオーナー負担
・テナント募集や賃料交渉などの専門知識・手間はオーナー側に残る。
・リーシング戦略などはビルメンテナンス会社の範囲外となり、総合的なサポートは期待しづらい。 - 管理範囲の調整が必要
・ビルメンテナンス会社がどこまでを対応するのか、契約・コストとのバランス調整が煩雑になる可能性がある。
3. サブリース会社に一括賃貸方式
概要
- 不動産所有者がサブリース会社に建物全体を一括で貸し出し、サブリース会社が転貸借契約を行う方式。
- サブリース会社は一定の保証賃料をオーナーに支払い、テナントへの転貸で利益を得るモデル。
メリット
- 安定収入の確保
・サブリース会社と契約で定めた賃料が保証されるため、空室リスクをサブリース会社が負担する形になる。 - 管理業務の大幅軽減
・テナント対応、賃貸管理はサブリース会社側が行うため、オーナーの管理負担は小さい。
デメリット
- 保証賃料の引き下げリスク
・市場環境や契約更新のタイミングで、サブリース会社から賃料の減額要請がなされるケースがある。
・「空室保証」と言いつつ一定期間後に契約見直しが入ることも多い。 - オーナーの収益アップ余地の制限
・市場賃料が上昇しても、サブリース契約上の賃料が固定的に決まっていると、追加の収益獲得機会を逃す可能性がある。 - サブリース会社の経営リスク
・サブリース会社が経営不振に陥った場合、安定収入が保証されないリスク。
4. 不動産ファンド組成による証券化方式
概要
- 不動産所有者がビルをSPC(特別目的会社)などに移転し、そのSPCが発行する証券(不動産投資信託・私募ファンドなど)を投資家に販売する形で資金を調達し、管理運営を行う方法。
- 組成したファンドやJ-REITなどの運用会社(アセットマネジャー)がPM会社やビルマネジメント会社を統括し、運営管理にあたる。
メリット
- 資金調達とリスク分散
・オーナーは資産の流動化や現金化が可能となる。
・投資家から資金を集めることで、開発投資やリニューアルに資金を充当しやすい。 - 専門的かつ高度な運営
・アセットマネジメント会社が運用戦略を立案し、PM会社が実務を担当するため、プロ同士による高度な運営が期待できる。 - 物件価値向上による収益最大化
・ファンドの運用成績を向上するために資産価値向上施策(リニューアル投資・テナント誘致など)が活発に行われる傾向がある。
デメリット
- 所有権の希薄化
・実質的にオーナーが物件をファンドに売却して、オーナー自身は出資者のひとり・または運用会社という立場になる場合もあるため、自由度が下がる。 - ファンド組成コスト
・設立費用、投資家への分配、アセットマネジメント報酬など、コストが多岐にわたる。 - 運用体制の複雑化
・ファンド規約、投資家対応、金融商品取引法などの法規制への対応など、運用上の制約やコンプライアンス負荷が増える。
6. まとめ/不動産所有者の視点
- プロパティマネジメント方式は、総合的な管理を専門家に委託しながらも、所有者が主導権を保ちやすい点が最大の特徴です。管理コストは発生するものの、テナント満足度向上や収益最大化に向けたノウハウが得られます。
- 直接運営管理方式は、オーナーが主体となり管理コストを抑えられる一方、専門知識や人的リソースが必要となります。本業をもつ法人や個人オーナーにとっては、時間やノウハウ面の負担が大きい可能性があります。
- ビルメンテナンス会社への委託方式は、建物設備や清掃・警備などのハード面管理が中心で、賃貸管理面がカバーされない場合が多いことに留意が必要です。
- サブリース会社への一括賃貸方式は、オーナーの安定収益確保に繋がりますが、賃料の見直しやサブリース会社の経営リスクが伴います。また、上昇局面での収益拡大の余地が制限される可能性があります。
- 不動産ファンド組成による証券化方式は、大規模な物件や開発案件で活用されることが多く、資金調達やリスク分散と引き換えに、所有権・運営の自由度が低下するなど、オーナーの立ち位置が変わる点に注意が必要です。
選択のポイント
- 運営コストとリソースのバランス
・オーナーの人的リソース(専門知識・組織体制)が十分か、どの程度の管理コストをかけられるかが大きな分かれ道。 - リスク許容度
・空室リスクや賃料下落リスクをどこまでオーナー自身が負担するか。サブリースの場合はリスク移転が期待できるが、その分リターンの上限も限定されやすい。 - 物件の規模・性質
・小規模物件であれば、PM会社やメンテナンス会社に支払うフィー割合が大きくなり不利になる場合も。大規模物件なら不動産ファンド組成による資金調達がメリットをもたらすことがある。 - 事業戦略・資金戦略
・自社ビジネスと不動産事業をどのように位置付けるか、長期保有か短期売却か、などの経営方針に応じて最適な運営スキームが異なる。
結論
- プロパティマネジメント方式は、ビル運営を総合的にカバーでき、オーナーの戦略や方針も反映しやすいため、最もオーソドックスかつバランスの取れた方法と思われます。
- 一方で、オーナー自身のリソース状況やリスク許容度、物件の性質・規模によっては、直接運営やサブリース、不動産ファンド組成など他の方式を選択するほうが適している場合もあります。
- 重要なのは、物件価値・収益性の最大化とオーナーの負担・リスクが最適化されるかどうかという視点で選択することです。オーナーとしては、これらの方式を比較検討しながら、経営戦略に合致した運営スキームを選定する必要があります。
第8章 プロパティマネジメントの歴史
8.1 米国におけるプロパティマネジメントの歴史
- 19世紀末~20世紀初頭:不動産投資の拡大と管理の分化
都市化に伴う人口増で不動産投資が活況となり、管理業務を外部に委託する仕組みが始まる。 - 1920~1930年代:大恐慌と管理専門職の成立
世界恐慌で不動産市況が低迷し、商業不動産やアパートの管理専門業者が台頭。
1933年にIREM(The Institute of Real Estate Management)が設立され、教育・資格制度が整備され始める。 - 戦後~1950・60年代:サブアーバニズムとプロパティマネジメント業の拡張
郊外住宅地や大規模開発が増え、全国規模でプロパティマネジメント会社の需要が拡大。 - 1970~1980年代:不動産投資の高度化と専門性向上
REITやファンドの隆盛により、投資家のニーズに応じたバリューアップ・財務分析が進化。 - 1990年代以降:グローバル化とIT技術の導入
大手プロパティマネジメント会社が海外へ展開し、システム化・データ活用が急速に進む。
8.2 日本におけるプロパティマネジメントの発展
- バブル期以前~1990年代:ビル管理からプロパティマネジメント概念の導入
従来は設備保守や清掃中心だったが、バブル崩壊後に「投資資産としての不動産」視点が浸透し始める。 - バブル崩壊後~2000年代前半:投資視点の導入とプロパティマネジメント需要の高まり
不動産不良債権や空室率増加により、本格的なプロパティマネジメント手法が米国から導入される。
2000年にJ-REITが導入され、投資運用ニーズが拡大。 - 2000年代中盤~2010年代:プロパティマネジメント会社・AM会社の台頭と専門化
アセットマネジメント(AM)とプロパティマネジメントの分業体制が確立。大手・外資系の参入で専門性が飛躍的に向上。 - 2010年代~現在:個人オーナー・中小物件への浸透と多角化
不動産投資の裾野拡大とIT活用が進み、シェアオフィスや高齢者住宅など多様な運用形態に対応。
8.3 日米の違いと相互影響
- 制度面・商習慣の違い
米国はプロパティマネジメント関連資格や法制度が早期から整備、日本は宅建業法や分業体系が複雑。 - 投資文化の違い
米国では不動産売買が機動的に行われ、日本はバブル崩壊後に徐々に投資志向が高まった。 - 相互影響
日本でもAMと連携した米国型プロパティマネジメントが広まる一方、日本独自のきめ細かなサービスが海外で評価されつつある。
第9章 専門家ネットワークの活用
プロパティマネジメントの現場では、テナントや近隣とのトラブルが訴訟や法的手続きに発展することもあります。プロパティマネジメント会社は弁護士・司法書士・税理士・建築士など専門家ネットワークを活用しながら問題を解決します。
- 法務専門家との連携
・賃貸借契約の法的レビュー
・トラブル・クレーム対応、訴訟手続きサポート
・立ち退き
・滞納者からの債権回収 - 税務・財務専門家との連携
・不動産所得の申告・税務アドバイス
・キャッシュフロー分析や相続・贈与の相談 - 不動産鑑定士・調査会社との連携
・適正賃料算定や物件評価額の把握
・物件デューデリジェンス(DD)支援
・売却時の境界・地積等の測量 - 建築士・設備エンジニアとの連携
・法的適合性や安全性の確認
・リニューアル・耐震補強などの企画
・売却時のエンジニアリングレポート作成対応
プロパティマネジメント会社が担う主な役割
- 初期窓口対応と専門家手配
- 専門家選定のサポート・コーディネート
- 専門家候補の抽出・提案の選定作業
- 必要資料の整理・提供
- オーナーへの報告・提案
- 和解交渉や行政対応の実務代行
注意すべきポイント
- 契約範囲・費用負担の明確化
- 専門家との契約形態と報酬体系の確認
- 守秘義務や個人情報の取り扱い
- オーナーの意思決定プロセスの確立
- プロパティマネジメント会社の法務実績・ノウハウ確認
第10章 プロパティマネジメント会社との利益相反
プロパティマネジメント会社とオーナーの間では、報酬形態や業務範囲によって利益相反が生じる可能性があります。主なケースと対策は以下のとおりです。
- 賃料設定やテナント誘致における相反
・低賃料で空室を早期に埋めたいプロパティマネジメント側 vs. 高賃料で収益を取りたいオーナー側
・対策:賃料ライン設定、客観的な市場データ活用、報酬体系の工夫、セカンドオピニオン、条件改訂履歴の把握 - メンテナンス・修繕工事に関わる相反
・自社グループへの高額発注など
・必要性のない作業・工事の提案
・コスト削減を優先するあまり仕様不足により追加工事が発生するなど却ってコスト上昇となる
・対策:相見積もり取得、一定額以上の発注はオーナー承認、手数料開示 - 自社案件優先や情報操作
・プロパティマネジメント会社が同地域で自社物件を優先的にリーシングするリスク
・対策:リーシング報告義務、複数仲介会社の併用、競合物件との優先順位ルール明文化
・留意点:このリスクは理論上のリスクに過ぎず、実際にそのような対応ができるプロパティマネジメント会社であれば、リーシング能力が極めて高いため、結果的に競合物件より早期成約が見込まれることが通例。そもそも物件選択権はテナントにあるため自社物件を優先したと認識できても実際にはテナント選定の結果に過ぎず、その峻別は極めて困難である。従って、そのような懸念がある場合、プロパティマネジメント会社に納得できるよう説明を求めるのが先決と思われる。 - テナント交渉時の不公平
・プロパティマネジメント会社がトラブル回避を優先し、オーナーに不利な条件を飲ませるリスク
・オーナーが事前に提示した条件のなかで最もテナントに有利な形で合意となるリスク
・対策:重要交渉は事前協議、定期的なレポート・コミュニケーション
・留意点:プロパティマネジメント会社の姿勢に不満を感じる場合が頻繁に生じる場合はプロパティマネジメント会社に納得できるよう説明を求めるのが先決と思われる。オーナー自身で交渉することが可能であればその対策も検討されたい。そもそもプロパティマネジメント会社にとってオーナーがクライアント(発注者)であり、オーナー利益を阻害するのは極力避けるのが通常の企業の判断なので、そのようなリスクは理論的に存在しつつも、実務的にどこまで発生し得るかはプロパティマネジメント会社の方針というより、プロパティマネジメント担当者個人の問題の可能性も含めて確認すべき点と思われる。 - 情報開示不足や不正確な報告
・レポートの改ざんや費用過大計上
・対策:第三者監査、明細レベルでのデータ共有、システム導入による可視化
・留意点:プロパティマネジメント会社の単純なミスの可能性もある。そのようなミスが発生しないような対策としてどのような対応をしているかを確認することが先決と思われる。 - プロパティマネジメント会社の体制
・リソース不足。料率の安いプロパティマネジメント会社は担当するプロパティマネージャーの担当物件が多いため、対応力に制限がある場合がある。
・対策:システム導入(DX化)による可視化、業務量の把握
・留意点:標準的な不動産運営管理システムが存在しないため、ビルオーナー毎に異なるシステム対応が必要など生産性向上には限界がある。そのため料率の比較でなく、案件によるプロパティマネジメント会社収入を想定のうえ、利益率が妥当な水準であるかを検討する必要がある。
利益相反を回避・軽減するための基本姿勢
- 契約書への明文化
- 透明性の確保(レポートの客観性・監査体制など)
- 複数業者・専門家との比較検討
- 定期的なコミュニケーションとモニタリング
- オーナー自身の知識・意識向上
第11章 不動産の投資価値向上とは
「投資価値向上」 とは、物件がより高い評価額・賃貸需要・収益性を得る状態を指します。例えば:
- 評価額・売却価格の上昇
- 賃料アップや空室率改善
- 優良テナントの長期入居による安定性向上
- ブランドイメージの向上
投資価値を向上させるための主な取り組み
- バリューアップのための資本投下
・リノベーションや修繕、設備更新
・省エネ・環境配慮型改修(ESG投資対応) - マーケティング・ブランディング強化
・ターゲット層の明確化
・統一感あるデザインやネーミングの導入 - 資金調達や資本政策の最適化
・金利や物件価値を踏まえたリファイナンス
・不動産ファンドやリートとの協働 - 地域社会・行政との連携
・再開発や公共プロジェクトと絡めて物件価値を底上げ
・地域コミュニティへの貢献による周辺環境の向上 - アセットマネジメント(AM)との連携
・ポートフォリオ全体で売却・買い増しを最適化
・プロパティマネジメント現場情報をAMが投資判断に活用
第12章 プロパティマネジメント会社のDX化
日本の不動産管理業界は近年、不動産テック(IT・クラウドサービス)や電子契約の解禁などでDX化が進んでいますが、他業種に比べるとまだ十分とはいえません。
1.クラウド型賃貸管理システムの導入
- 入出金や契約管理の効率化
- 主なシステム例:「@Propert」「イタンジBtoB」「ReDocS」など
2.契約関連の電子化
- IT重説や電子契約の普及
- 法的要件やオーナー・借主の理解が必要
3.入居者アプリ・IoT活用
- スマホから修繕依頼や入退室管理
- 故障予兆検知や省エネ監視システム
4.DXを阻む要因と今後の動向
- 法規制や商習慣の複雑さ
- システムのカスタマイズ負担
- 大手企業の積極導入により競合優位性を高める流れが加速
- “業界標準”と呼べるシステムはまだ確立されておらず、今後プラットフォーム競争が本格化
第13章 プロパティマネジメント会社の特徴
以下に、各プロパティマネジメント会社の特徴をより具体的に解説し、代表的な企業例や活用メリットを加えて内容を充実させました。プロパティマネジメント会社を選定する際のポイントとしてご参考ください。
1. 不動産仲介会社が母体のプロパティマネジメント会社
特徴
- リーシング(賃貸募集・テナント誘致)力の高さ
もともと不動産仲介業務を得意としているため、賃貸需要に関する情報やテナントのネットワークが豊富。空室対策やテナント誘致では強みを発揮し、物件の稼働率向上を目指しやすい。 - マーケット情報の収集力
日常的に取引事例や市況データを扱っているため、賃料設定や市場動向を踏まえた運営計画が立てやすい。
代表的な企業例
- シービーアールイー株式会社
シービーアールイー株式会社のプロパティマネジメント業務は、グローバルな視点と国内の豊富な実績を活かし、不動産資産の価値最大化や安定運用を実現する総合的なサービスが特徴です。テナント誘致から施設の維持管理、リスク管理、さらにはESG対応に至るまで、幅広い領域をカバーし、オーナーや投資家にとって頼れるパートナーとして機能しています。 - ジョーンズラングラサール株式会社
ジョーンズラングラサール株式会社のプロパティマネジメント業務は、グローバルで培った先進のノウハウと国内マーケットの特性を組み合わせ、オーナーに最適化された資産運用をサポートすることが特徴です。テナント誘致やリレーション強化、IT・データ分析の活用、長期的な修繕・リニューアル戦略、そしてESG・サステナビリティへの対応など多角的な観点から不動産価値の最大化を目指しています。グローバルな視点と高水準のコンプライアンス・リスク管理体制を活かし、質の高いサービスを提供することにより、オーナーや投資家の多様なニーズに応えています。
活用メリット
- テナント誘致や賃貸管理を重視したい場合に有効
入居率の確保、退去後の新規テナント募集スピード向上が期待できる。 - 最新のマーケット情報を活かした賃料設定や物件活用
相場観に基づいた提案が得られ、収益最大化を図りやすい。
2. 不動産デベロッパーが母体のプロパティマネジメント会社
特徴
- 開発や運営計画のノウハウが豊富
新築開発や再開発の経験があり、建築・設計段階から携わることで長期的視点で物件の価値を高める戦略を得意とする。 - 資産価値の向上施策
大規模修繕・リノベーション、コンバージョン(用途変更)などを検討し、資産価値を中長期的に高める。
代表的な企業例
- 三井不動産ビルマネジメント株式会社
三井不動産ビルマネジメントのプロパティマネジメント業務は、「三井不動産グループとしての総合力」「多様な用途や大規模案件への対応力」「建物価値向上を重視した管理・リーシング」「最新技術やノウハウの活用」「防災・セキュリティ面での高い安心感」「サステナビリティへの配慮」といった点が大きな特徴です。総合デベロッパーグループの強みを活かしつつ、きめ細かな運営と資産価値向上の両立を目指したサービスが強みとなっています。 - 三菱地所プロパティマネジメント株式会社
丸の内エリアの大規模再開発などを手がけてきたノウハウを基に、全国の大型ビル・商業施設のPMを行う。
・三菱地所プロパティマネジメントのプロパティマネジメント業務は、
・三菱地所グループの総合力
・大規模・複合再開発に対応できる豊富な実績とノウハウ
・ブランドイメージと建物価値を高める運営戦略
・防災・セキュリティ面での高度なリスクマネジメント
・ICT・IoTを取り入れた効率的かつ先進的な管理体制
・ESG/サステナビリティへの強いコミットメント
などを強みとしており、大型オフィスビルから商業施設に至るまで、総合的かつ高品質なプロパティマネジメントサービスを提供しています。 - 東急不動産SCマネジメント株式会社
東急不動産が開発・運営を行うショッピングセンターなどのマネジメントを手がける。東急不動産SCマネジメントのプロパティマネジメント業務は、単なる建物管理にとどまらず、商業施設の収益最大化と価値向上を包括的に支援する総合力が特徴です。東急グループのネットワークや街づくりの視点を活用しながら、テナント誘致・契約管理からイベント企画、地域連携、環境対応まで多岐にわたる業務を一貫して行う点が強みといえます。商業施設の運営と社会的・地域的な意義の両面を重視し、サステナブルかつ魅力ある施設づくりに取り組む姿勢が、東急不動産SCマネジメントのプロパティマネジメントの大きな特色です。
活用メリット
- 長期的視点で物件の運営を考えたい場合に有効
開発・再開発案件の実績が豊富で、投資回収や収益性を踏まえた提案が可能。 - 施設全体のブランディングや価値向上施策に強み
大規模商業施設や複合施設などの運営にも長けており、収益改善のアドバイスを受けやすい。
3. 建物管理会社が母体のプロパティマネジメント会社
特徴
- 清掃や設備メンテナンスのオペレーションに強み
日常清掃や定期点検、設備保守などの品質が高く、コスト管理やトラブル対応にも迅速に対応できる。 - 建物管理の専門知識・資格者が多数在籍
設備管理技術者やビルクリーニング技能士など、管理面での資格保有者が多く、建物の安全性と快適性を重視する運営が可能。
代表的な企業例
- 東京キャピタルマネジメント株式会社
大手管理会社 日本管財グループ企業
東京キャピタルマネジメント株式会社のプロパティマネジメント業務は、不動産投資やアセットマネジメントと強く連動した視点で行われている点が大きな特徴です。オーナーの収益最大化やリスク軽減を意識しながら、以下のポイントを包括的にサポートします。
1. 投資家目線・オーナー目線に立ったバリューアップ提案
2. 多様な用途への対応と専門チームによる柔軟なPM業務
3. リーシング戦略とテナントマネジメントの強化
4. 建物・設備管理を通じたコスト最適化と品質維持
5. 透明性の高いレポーティングとコミュニケーション
6. ESG/サステナビリティを意識した運営手法
こうした総合力を発揮することで、東京キャピタルマネジメントは長期的・持続的な資産価値向上を目指すオーナー・投資家のパートナーとして、プロパティマネジメントサービスを提供しています。 - 日本ハウズイング株式会社
管理会社本体がプロパティマネジメント業務を受託する体制。国内トップクラスの分譲マンション管理戸数を誇り、ビル・商業施設等の管理にも実績を持つ。
日本ハウズイング株式会社(本社:東京都新宿区)のプロパティマネジメント業務は、下記のような強み・特徴を備えています。
1. マンション管理大手としての実績とノウハウ
2. 多彩な用途(オフィス・商業施設・賃貸住宅など)への対応
3. 設備メンテナンスから長期修繕計画までの包括的サポート
4. バックオフィス業務(会計・賃料管理・保険など)の一括代行
5. 24時間365日体制のコールセンターと緊急対応
6. コミュニティ形成や生活サポートなどソフト面の充実
7. サステナビリティ・環境対策に配慮した管理
これらを総合的に行うことで、居住者・テナントの満足度向上と資産価値維持・向上を両立させるPMサービスを提供している点が、日本ハウズイングの大きな特徴と言えます。最新の事例や具体的なサービス内容は、日本ハウズイング公式サイトや直接の問い合わせにてご確認ください。 - 株式会社東急コミュニティー
東急グループの建物管理会社で、首都圏を中心に戸数・棟数ともに多数の管理実績を有する。株式会社東急コミュニティー(本社:東京都世田谷区)のプロパティマネジメント業務は、東急グループの総合力と豊富な管理実績を背景に、以下のような特徴を持っています。
1. グループネットワークを活かした総合的なマネジメント
2. マンション管理からオフィスビル、商業施設、公共施設まで多彩な実績
3. 建物・設備の維持管理と資産価値向上を目指す長期的な視点
4. リーシング戦略・テナントマネジメントの強化
5. 24時間365日体制の緊急対応と充実したバックオフィス機能
6. 環境・地域を意識したサステナビリティ対応
これらを総合的に行うことで、オーナー・投資家の収益最大化と利用者の満足度向上、さらには街づくり視点の付加価値創出を実現する点が、東急コミュニティーのPM業務ならではの強みといえます。 - 伊藤忠アーバンコミュニティ株式会社
伊藤忠アーバンコミュニティ株式会社(本社:東京都中央区)のプロパティマネジメント業務は、以下のような特長を通じてオーナー・投資家の資産価値最大化と利用者・入居者の満足度向上に取り組んでいます。
1. 伊藤忠商事グループの総合力と信頼性
2. マンション・オフィス・商業施設・物流施設など多様な管理実績
3. 建物・設備の予防保全と価値向上を重視した長期的視点
4. リーシング戦略とテナントマネジメントの強化
5. 24時間365日のコールセンターと充実したバックオフィス業務
6. 環境・社会に配慮したESG/サステナビリティ対応
これらを総合的に実践することで、長期的かつ安定的な運営・収益確保と社会的価値の向上を同時に目指すことが、同社のPM業務ならではの強みといえます。
活用メリット
- 建物の維持管理・保守品質を重視したい場合に有効
設備の故障リスク低減やクレーム対応がスムーズで、オーナー・入居者双方の満足度向上に寄与。 - 運営コスト管理や日常清掃の精度に期待
日常のオペレーションを熟知しており、コストの最適化を図りやすい。
4. ゼネコン(建設会社)が母体のプロパティマネジメント会社
特徴
- 工事や修繕に関する知識・ノウハウが豊富
大規模修繕・改修工事を含め、建設・リフォームが主軸にあるため、建物の構造や工事費の適正化に強い。 - 技術力や工事の品質管理における強み
ゼネコンとして培った品質管理手法をPM業務に活かし、耐震補強など専門性の高い提案も可能。
代表的な企業例
- 鹿島建物総合管理株式会社
スーパーゼネコン・鹿島建設のグループ会社で、建物管理・PMなどを幅広く手がける。鹿島建物総合管理株式会社のプロパティマネジメント業務は、「鹿島グループの総合力」と「ビル管理の専門性」を掛け合わせて、不動産オーナーが求める資産価値向上とコスト最適化を両立させることを目指している点が最大の特徴です。単なる日常管理だけでなく、建物の維持管理からテナント戦略、リニューアル提案まで、一貫したサポートを提供し、不動産価値を長期的に維持・向上させることに強みがあります。 - 清水総合開発株式会社
清水総合開発株式会社のプロパティマネジメント業務は、「清水建設グループの総合力」と「不動産の価値創造」を結びつけ、建物運営から開発・リニューアルまでを一貫してサポートする体制が大きな特徴です。清水建設と連携し、大規模建築物の管理・再開発支援などを推進しています。建物の長期的な資産価値の維持・向上と、オーナーの収益最大化を目指した戦略的な運営管理を実施し、テナントや利用者にとっても安心・快適な空間を提供することに強みがあります。 - 大成有楽不動産
大成有楽不動産株式会社のプロパティマネジメント業務は、「大成建設グループの総合力」と「戦略的な運営管理」を融合させ、不動産オーナーの収益向上と資産価値の維持・向上を支援する点に特徴があります。大成建設の知見を活かし、オフィスや商業施設の管理やリニューアル工事を総合的に行います。建物の長期的なライフサイクルを見据えた運営計画や、テナント誘致・管理のノウハウ、安心・安全のリスクマネジメントを組み合わせた総合的なPMサービスを提供していることが強みです。
活用メリット
- 建物の構造面や長期修繕計画を重視したい場合に有効
建築の専門家が多く、長寿命化や改修による価値向上に関するコンサルティングが受けやすい。 - 大規模プロジェクトや特殊用途物件の管理での安心感
技術・工事力をバックに、トラブル時の緊急対応や特殊設備への対応が迅速。
5. ハイブリッド型(合弁・協業によるPM会社)
特徴
複数の事業領域の強みを兼ね備えることが期待できる。
- 株式会社エムエスビルサポート
オフィス不動産仲介会社の三幸エステートと総合デベロッパーの三井不動産の合弁で誕生。三幸エステートはオフィス仲介や移転支援、テナント誘致などで豊富な実績を持つ。三井不動産は大規模開発やオフィスビルの運営、商業施設の開発など総合デベロッパーとして国内トップクラスの実績を誇る。
リーシング力+開発・運営ノウハウが融合した総合的なオフィスPMサービスを提供しています。
活用メリット
- 「仲介会社 × デベロッパー」という背景から、リーシング力と開発ノウハウの両面を有する。
- グループ企業・提携企業との連携により幅広いソリューション、物件の取得・仲介から開発、管理までワンストップで行い、ノウハウやネットワークを相互補完できる。
- オフィス市場に精通しているため、テナント誘致から建物運営まで一体的にサポートを受けられる。
- 将来的にビル全体の大規模リノベーションや付帯施設の拡張などを計画する際にも、デベロッパー視点のノウハウを活かせる。
プロパティマネジメント会社選定のポイント
- 物件の特性やオーナー側の目的を明確化
- 賃貸収益の最大化を狙う場合は、賃貸仲介やリーシングに強い会社。
- 長期の運営計画や再開発を念頭におくなら、デベロッパー系。
- 建物管理の品質重視なら、建物管理会社系。
- 大規模修繕や特殊工事の技術力を求めるなら、ゼネコン系。
- 提供メニュー・対応範囲の確認
- リーシング、管理、設備保全、会計処理など、総合対応が可能か。
- 一部業務のみ委託する場合でも柔軟に対応してくれるか。
- コスト面とサービスのバランス
- 管理費用が安いだけでなく、対応品質や緊急時のリスク管理能力も重要。
- ランニングコストと修繕積立を含めた長期的なコスト試算を比較検討する。
- 実績と信頼性
- 取り扱い物件の類似事例や管理実績をヒアリング。
- 担当者の経験や会社のサポート体制(24時間緊急対応など)の有無をチェック。
まとめ
プロパティマネジメント会社は、その母体企業の特性や専門領域によって「リーシング」「開発・運営計画」「建物管理」「工事・修繕」など得意分野が異なります。しかし、各社とも総合的なPM業務をカバーしている場合が多く、必要に応じて提携先企業やグループ会社と連携し、専門外の業務にも対応します。
重要なのは、自身の所有物件の現状や将来的なビジョンを踏まえて、最適なパートナーを見つけることです。賃貸収益を重視するのか、建物の長寿命化や改修を重視するのか、ブランディングや資産価値向上を優先するのかなど、目的に合ったプロパティマネジメント会社の選定をおすすめします。
第14章 プロパティマネジメント業務関連キーワード
以下に、プロパティマネジメント(PM)業務において押さえておきたい主なキーワードと、その概要をまとめました。各用語の理解を深めることで、効率的かつ戦略的な管理業務が可能になります。
プロパティマネジメント(Property Management)
不動産の管理・運営に関する業務全般。建物の維持管理、テナント対応、賃貸借契約管理、収支管理などを含む。
リーシング(Leasing)
テナントの誘致・契約締結・更新交渉などを通じて空室を埋め、稼働率を高める活動。
稼働率(Occupancy Rate)
建物や施設などの賃貸可能面積・戸数のうち、実際に賃貸契約が成立している割合。投資収益性の重要な指標。算定方法に注意が必要。
レントロール(Rent Roll)
各テナントの契約賃料・契約期間・支払い状況などを一覧化した資料。管理の現状を把握し、収益予測・キャッシュフロー分析に活用。
PMレポート(Property Management Report)
プロパティマネジメント会社がオーナーに提出する管理報告書。収支やテナント動向、クレーム状況などをまとめる。意思決定や改善提案に必要な資料。
キャッシュフロー(Cash Flow)
賃料収入・駐車場収入などのインカムと、修繕・光熱費・管理費用などのアウトフローの差し引きを管理・分析することで、資産運用の健全性を把握。
AM・アセットマネジメント(Asset Management)
AMは不動産の資産運用戦略を立案・実行、PMは不動産の現場管理や日常運営を担う。両者の連携が重要。
サブリース(Sublease)
管理会社や転貸事業者が、物件を一括借上げしてサブリース契約を行う仕組み。空室リスクを軽減できるが、契約内容次第でオーナー・借り手双方に影響が及ぶ。
CAM(Common Area Maintenance:共用部管理費)
商業施設やマンション等の共用部分の維持管理に充当する費用。清掃や警備、照明、空調などが対象。
長期修繕計画(Long-Term Repair and Maintenance Plan)
建物の老朽化対策や設備更新に関する計画。費用を計画的に積み立て、物件の価値を維持・向上させるための戦略的な取り組み。
設備管理(Facility Management)
建物内の空調・電気・給排水・エレベーターなどの設備を最適な状態で維持する業務。故障リスクやクレームを抑え、快適な居住・利用環境を提供。
テナントリテンション(Tenant Retention)
既存テナントとの良好な関係を維持し、更新率を高める施策。クレーム対応や定期的なコミュニケーション、設備改善などが含まれる。
リスクマネジメント(Risk Management)
自然災害・経済情勢の変動・法規制の変更などのリスクを分析・評価し、事前に対策を講じること。保険の活用も含む。
コンプライアンス(Compliance)
建築基準法、消防法、宅地建物取引業法など関連する各種法令や条例を順守すること。違反が発覚すると事業停止やイメージダウンにつながる。
収益管理(Revenue Management)
家賃設定・テナント構成の最適化、キャンペーンの活用などで収益を最大化するための戦略的取り組み。
支出管理(Expense Management)
共用部の光熱費や修繕費、清掃費用などのコストを最適化・削減するための管理。定期的に見直しを行い、バランスの取れた運営を目指す。
資産価値向上(Asset Value Enhancement)
建物改修や共用部リニューアル、サービス向上などを通じて不動産のバリューアップを図る。テナント満足度の向上や、投資家へのアピールにも繋がる。
不動産投資信託(REIT: Real Estate Investment Trust)
多数の投資家から資金を集め、不動産に投資する商品。PM業務においては、報告体制や運営の透明性が重視される。
サステナビリティ(Sustainability)
建築物の省エネルギー化や環境負荷の低減、入居者の快適性向上を目指す取り組み。ESG投資の流れで重要度が高まっている。
デューデリジェンス(Due Diligence)
不動産取得時や売却時に行う徹底的な調査・査定。物件の法的リスク・建物状況・収支状況などを把握し、正確な価値を判断するためのプロセス。
コンストラクションマネジメント(Construction Management)
建築・改修工事などの計画立案から施工管理までを総合的にマネジメントする業務。品質・コスト・スケジュールをコントロールし、資産価値の維持・向上を図る。
第15章 プロパティマネジメント業務のまとめ
プロパティマネジメントは、不動産の運営管理を「収益最大化・投資価値向上」という観点で行う総合サービスです。
- 空室率抑制や賃料アップ、バリューアップ提案に強みを持つ一方、高度な専門知識・ネットワーク・コストが必要。
- オーナー側は、プロパティマネジメント会社のノウハウ・実績・得意分野を把握し、費用対効果とコミュニケーションを重視。
- 長期的視点でパートナーを選び、投資戦略を慎重に立案・遂行することで、収益と資産価値の向上を実現できる。
最終的なポイント
- プロパティマネジメント会社選び
オーナーの物件特性と合致するプロパティマネジメント会社を選び、実績や報酬形態などを契約段階で十分に確認する。 - 投資価値向上
バリューアップ施策やマーケティング、資金調達戦略を総合的に組み合わせ、キャッシュフローと評価額を高める。 - DXの活用
デジタル技術・システムを積極導入し、効率的かつ透明性の高い管理を目指す。 - 長期的視点での運用
単年の収益だけでなく、将来的な資産価値やテナントの安定性を考慮して経営判断を行う。
プロパティマネジメントは「不動産投資成功の鍵」を握る重要分野です。オーナーにとっては、プロパティマネジメント会社との適切な協力関係の構築が、収益性向上と資産価値アップの大きな一歩となるでしょう。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
代表取締役
羽部 浩志
1991年東京大学経済学部卒業 ビルディング不動産株式会社入社後、不動産仲介営業に携わる
1999年サブリース株式会社に転籍し、プロパティマネジメント業務に携わる
2022年サブリース株式会社代表取締役就任(現職) ライフワークはすぐれた空間作り
2025年8月25日執筆
