仲介営業に紹介される賃貸オフィスビル、されないビル
皆さん、こんにちは。
株式会社スペースライブラリの飯野です。
この記事は「仲介営業に紹介される賃貸オフィスビル、されないビル」のタイトルで、2026年1月9日に執筆しています。
少しでも、皆様に新たな気づきをもたらして、お役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
第1章:「決まらない賃貸オフィスビル」に共通する“見えない壁”
「条件はそんなに悪くないはずなんだけど、なぜかずっと空いている」
「条件はそんなに悪くないはずなんだけど、なぜかずっと空いている」――こんな“モヤモヤ空室”に悩むオーナーやビル管理会社は、決して少なくない。立地はまずまず、賃料は相場並み、設備もそれなりに整っている。物件情報の数値/図面を見ても、特段の欠点は見当たらない。
それなのに、内見案内の問い合わせすら少なく、月日だけが過ぎていく――。
まったく無視されているわけではない。データベースにはちゃんと載っているし、物件情報も世の中に出回っている。
でも、“紹介されていない”。あるいは、“紹介されても、推されていない”。その背後には、オーナーやビル管理会社の目には見えにくい、けれど確実に存在する“見えない壁”がある。
それは、テナントではなく「仲介会社の営業担当」が無意識にその物件を“避けている”こと。もしくは、“推しきれずにスルーしている”という状態だ。
「決まるかどうか」は、仲介営業が握っている
どんな物件も、テナントに良し悪しを判断してもらうには、まず誰かがその物件を紹介しなければ話は始まらない。その「誰か」とは、仲介会社の営業担当だ。
彼らは日々、膨大な物件情報を捌きながら、「この案件は決まりそうだ」と感じたものに、限られた時間と労力を注ぎ込んでいる。
ここで重要なのは、その判断が「この物件は決まりそう」という前向きな直感だけではなく、「これ、紹介したところでどうせ決まらないんじゃないか?」という“微妙な敬遠”にも左右されている、という点だ。この“避け”は、はっきりとダメ出しするものではない。
ただ、「ちょっと扱いづらそう」「内見案内しにくそう」といった曖昧な感覚によって、紹介される物件の候補から外されていく。
つまり、仲介営業にとって“紹介される物件”かどうか、この暗黙のフィルターを抜けられるかどうかが、実は最初の関門なのだ。
ここで振り落とされた物件は、データ検索のリストには載っていたとしても、実際の内見案内の候補としてピックアップされることはなく、知らないうちに、なかったことになってしまっている。
「紹介されない物件」は、空室のブラックホールに落ちる
いくら賃料を下げても、いくらトイレをリフォームしても、仲介営業に「紹介されないまま」になっている物件は、永遠に“選ばれない”。この「紹介されない状態」は、テナント募集資料に徴があるわけでもなければ、ビル管理会社のリーシングの月次報告に示されることもない。日常のやりとりのなかでも、問題点として、はっきりと言語化されることはない。だからこそ、オーナーや管理会社にとっては、気づきにくい。
けれど、現場の仲介営業は、それを“感覚として”捉えている。
──「このビル、ちょっと扱いにくいんだよな」そうした、ささやかな違和感が、紹介されないという個別の出来事として蓄積されていく。それぞれは単発の事象であったとしても、仲介営業の記憶の中で重なり合い、やがて「紹介しづらさ」という空気が、物件にまとわりついていく。明確なNG判断ではなく、いつの間にかみんなの手が伸びなくなっていく。そうなってしまえば、たとえ立地がよくても、物件のスペックが整っていても、紹介されず、内見案内されず、決まらない。“見えないスルー”によって、静かに空室ループに引きずり込まれていく。
とはいえ、そのようなメカニズムで「紹介されない物件」があるからといって、それ以外のすべての物件が“積極的に紹介されている”わけではない仲介営業の現場では、「紹介される/されない」の境界線はいつも曖昧だ。
ある営業にとっては「まあまあ」な物件が、別の営業には「ちょっと扱いづらい」になる。
そしてその差を生み出すのは、物件の仕様や募集条件じゃなくて、ほんの些細な空気感だ。物件情報の図面の見やすさ、写真の印象、ビル管理会社のレスポンスの速度、説明のしやすさ――何気ない要素が、“思い出されやすさ”や“引っかかりやすさ”に影響している。
つまり、「紹介される物件」とは、明確な基準で選ばれたものではなく、無数の現場感覚が重なった先に、ゆるやかに“浮かび上がってくる”ものだ。
その“紹介される(可能性が高い)物件群”というレイヤーは、誰かが定義したわけでも、リストアップされたわけでもない。
けれど、仲介営業たちの頭の中には、確かに存在している。
それは、仲介の現場で共有される“空気のような了解”として働いている。
このコラムでは、その空気の正体に迫っていく。仲介営業が物件をどう“感じ”、どう“スルーし”、どんなときに“推せなくなる”のか。その“名付けられない違和感”に、実務の現場から静かに向き合っていく。
第2章:仲介営業が“内見案内しづらい”と感じる賃貸オフィスビルの7つの実務ポイント
仲介営業が、物件を「紹介する/しない」を線引きするとき、いちばん先に見ているのは、物件のスペックでも家賃でもない。内見案内時のストレスと段取りの軽さ。ここに引っかかった時点で、その物件は静かに“候補落ち”する。紹介されない理由は、「物件力がない」からじゃない。むしろ、「ビル管理会社の実務対応」のなかに見えてくる。現場の仲介営業が“内見案内したくなる状態”になってるかどうか。答えは、内見案内の最中にちゃんと見えてくる。
①内見案内の事前対応が遅い
問い合わせしても返事が遅い。もしくは返ってこない。内見案内の調整をお願いしても半日以上音沙汰がない。物件の基本情報を確認したいだけなのに、すぐに折り返しがない。こういう“反応の鈍さ”は、それだけで敬遠される。いまどき、みんなスマホ持ってる。気合があれば、すぐに折り返しくらいできるでしょっていう話。仲介営業の現場はスピード勝負。すぐに動ける物件から優先して紹介されるのが当たり前で、反応が鈍いビル管理会社の物件は、徐々に候補にすら入らなくなっていく。
② 内見案内のときの対応
最近は、スマートロックやキーボックスを設置して、仲介営業に「勝手に見てきてもらう」スタイルも増えてきた。省力化、効率化ってことなんだろうけど、それって本当に正解なのか?現地に誰もいない内見案内は、印象に残らない。説明もない、伝わらない、記憶に残らない。仲介営業にとっても、テナントにとっても、「ただ見て帰っただけ」になる可能性が高い。
ちなみに、当社の管理物件では、原則として、専任のリーシング担当が同道する。鍵を開けるだけじゃない。その場で設備の使い方、ビルの特徴、改修履歴、テナントの動きまで、ちゃんと伝える。内見案内が「場をつくる仕事」になっているかどうか。
ここに差が出る。仲介営業にしてみれば、「内見案内しやすい」と感じる物件ってのは、
説明のしやすさとセットになってる。
だからこそ、「あのビルはちゃんと説明してくれたな」という印象が、あとで推薦されるかどうかを左右する。
もちろん、同道が重たく見えたら逆効果。重要なのは、連絡すればすぐ調整できる段取りがあるかどうか。スピード感と“気持ちのいい対応”が整っていれば、同道はむしろ武器になる。
③エントランスが暗い・入りにくい
ビルの構造上どうにもならないケースもあるんだろうけど、仲介営業の感覚ってのは正直で、内見案内の入口で「連れて来づらい」と感じた時点で、そのビルはもう負けてる。
だからこそ、エントランスの照明を明るめに設定する、余計な掲示物やよれたマットは外す、視界のノイズを減らす、そういう細かい配慮が効いてくる。大事なのは、「このビル、ちゃんとしてるな」っていう第一印象を、テナントのみならず、仲介営業に持ってもらえるかどうか。
たとえ、築古の賃貸オフィスビルだったとしても、“気合い入ってる感”は伝わる。
④ 執務スペースの室内が暑い/寒い/臭う
これ、内見案内の現場で一番冷めるポイントかもしれない。夏はサウナ、冬は冷蔵庫、湿気とタバコの臭いが混ざった室内。内見案内時、執務スペースの室内がそんなだった瞬間、仲介営業もテナントも「うわ……」となる。それだけで、その場で選択肢から消える。
でもこれって、内見案内のちょっと前に行って空調をつけておくだけで全然変わる。やるかやらないか。結局、ビル管理会社のリーシング担当の気持ちの問題。
⑤清掃が甘い
内見案内で見られてるのは執務スペースだけじゃない。エントランスから廊下、給湯室、トイレ、共用部を含めた“内見案内ルート全体”。そこで埃がたまってたり、壁が薄汚れてたり、不要な什器が放置されてたりすると、もうその瞬間に仲介営業の心の中では“ナシ判定”が下る。築古だからこそ、清潔感が勝負になる。同じコストをかけて日常清掃の業務委託をしていたとしても、必要なのは、ちゃんとしておこうという気遣いと日常的な確認。
⑥物件情報のデータと図面が古い・ズレている・面積が曖昧
物件情報の数値と図面は、仲介営業にとっての“説明の武器”。それが現況と違う、天井高が不明、OAフロアなのかも分からないとなれば、仲介営業はもう紹介しようとは思わない。図面が古いならば、ビル管理会社であれば社内で簡単なCADを使える人はいるでしょうに、頼んで描き直せばいいんじゃないかな。「物件情報の数値と図面が整理されてる」っていうだけで、テナントの仲介営業の印象は変わってくる。
⑦物件情報の写真が少ない/画角が雑/現況とズレてる
物件情報の写真もまた仲介営業の武器。「これが今の執務スペースの室内です」とちゃんとした写真を見せられるだけでも、テナントの反応はまるで違ってくる。
でも、ありがちなのは、外観1枚と暗い室内写真が2枚だけ。しかも、内1枚はピンぼけして、見切れてて、現況とズレてる、そんな状態だったりする。仲介営業は、そういう物件を紹介する物件の候補には入れない。ただそれだけのこと。現況を反映した明るめの写真が数枚あれば十分。新築やリノベ物件なら、プロに撮ってもらってもいい。
まじで、それだけで印象が変わってくる。
ビル管理会社が“リーシング対応に慣れてるかどうか”がすべてを決める
ここまで挙げた7つの要因、全部突き詰めると、ビル管理会社が「仲介営業の現場感」を分かってるかどうか、って話になる。
- ・問い合わせにすぐ返す
- ・内見案内をスムーズに段取りできる
- ・あらかじめ空調を回しておく
- ・清掃に気を配る
- ・物件情報の数値/図面や写真をちゃんとアップデートして渡せる
不思議な気もするが、いずれも、物件のスペックじゃなくて。段取りの話だ。
でも仲介営業から見れば、それがすべて。紹介される物件になるか、候補にすら入らないか。その分かれ目は、意外とこういう“地味だけど重要なこと”にある。
第3章:「紹介される物件」には、“内見案内のイメージが湧く”空気がある
「この物件、いけそうか?」で仲介営業は動いている
仲介営業は、物件のスペックを一つひとつ冷静に比較検討してから紹介を決めているわけではない。現場ではもっと直感的に、「今回の案件でこの物件、いけそうか?」という感覚で動いている。そこにあるのは、「勝てそうな空気感」があるかどうか──つまり、仲介営業が“無理なく動けるイメージ”を持てるかどうかが、紹介されるか否かの分かれ目になる。
物件のスペックは“最低限の通過点”それ以上ではない
築年数、空調方式、トイレの仕様、共用部のデザイン──これらを含めた物件のスペックは、仲介営業にとって「見ておくべき前提条件」ではあるが、紹介されるか否かの決定打にはならない。
実際、築30年を超えていても即決される物件はあるし、逆に築浅であっても、内見案内すら敬遠される物件もある。その差を分けているのは、「内見案内に踏み切れるかどうか」という仲介営業側の心理的なハードルだ。同じエリア、同じ坪数、同じ賃料水準の物件が3つあったとしても、仲介営業が案内するのは、“無理なく動ける方”である。
仲介営業は、“決まらない内見案内”を最も嫌う
仲介営業にとっての最大のリスクは、「決まらない内見案内」に時間と手間をかけてしまうこと。
だからこそ、少しでも不安要素がある物件は、無意識に避けられていく。
たとえば以下のような経験があると、その物件については、以降、なんとなく避けられてしまうことになる
- ・内見案内の段取りが面倒(ビル管理会社の連絡が遅い・返信が曖昧)
- ・物件情報の数値や図面と実際の現地にギャップがある
- ・共用部など、現地での印象が説明しづらい
- ・過去に提案したが、決まらなかったことがある
そうした小さな“引っかかり”が重なると、対象物件は仲介営業の記憶のなかで「いけそうにない」として扱われるようになっていく。
空室の原因は、“紹介されないこと”にある場合もある
空室が長引くと、つい「賃料が高いのか?」「設備が古いのか?」と、物件側の条件に原因を探しがちだ。
けれど実際には、仲介営業の側で「紹介する対象に入りにくくなっている」ことこそが、最大のボトルネックになっているケースも多い。
しかも、空室が長期化しているという事実そのものが、営業にとって説明しにくい要素になり、「今回もやめておこうか」という静かなスルーを誘発する。
その結果、また空室が続く──という悪循環に陥ってしまう。
空室対策は、“紹介されやすい状態”を整えることから始まる
本当の空室対策は、物件のスペックをいじることでも、過剰な演出をすることでもない。
まず必要なのは、「紹介しやすい状態」を地道に整えることだ。
たとえば以下のような準備があると、仲介営業はぐっと動きやすくなる
- ・数値・図面・写真などの物件情報が正確に揃っている
- ・現地の状態が安定している(照明、空調、清掃など)
- ・ビル管理会社のレスポンスが早く、やり取りにストレスがない
- ・「この物件、こういう人なら合うかも」と説明しやすい特徴がある
仲介営業が「これは勝てそうだ」「案内のイメージが湧く」と感じた瞬間、
その物件は、自然と“紹介される物件”に引き上げられていく。
そして、そこに乗れなければ、テナントに選ばれる以前の段階で、勝負は終わってしまう。
第4章:「内見案内される物件」には、気配りとテンポがある
「紹介されない理由」を潰すだけでは、紹介される物件にはならない
多くのビルオーナーやビル管理会社が空室対策としてまず手をつけるのが、
共用部の清掃や物件写真の撮り直し、図面やスペック表の更新といった「基本的な整備」だ。
それ自体は間違っていない。だが、それだけで仲介営業の記憶に残る“紹介される物件”になれるかというと、話は別だ。
仲介営業が本当に内見案内したくなるのは、「このビル、気が利いてるな」と感じたときだ。
その評価を左右するのは、紙の上の物件のスペックではなく、内見案内の現場で体験する“動きやすさ”の感触だ。
この章では、その感触を生む「内見案内設計のセンス」について掘り下げていく。
「清掃されている」だけでは、必ずしも「ちゃんとしている」とは思われない
たとえば、共用部を清掃しておくこと。確かに重要だ。だが、それは“やってあって当然”の話だ。
仲介営業が評価しているのは、さらにその先──「あと一歩、気が利いているかどうか」である。
たとえば
- ・内見案内前に十分な時間をかけて空調を回し、暑さやニオイを感じさせない
- ・エントランス清掃のタイミングを調整し、余計なものが視界に入らない空間を整える
- ・エレベーターのカゴを1階に戻しておき、スムーズに内見階へ移動できるようにする
- ・ビル管理会社のリーシング担当が玄関で出迎え、すぐに内見が始められる体制にしておく
こうした細やかな配慮の積み重ねが、仲介営業に「このビル、内見案内しやすいな」という安心感を残す。
これは、築年数でもリノベーションの有無でもなく、内見案内において「現場の気配り」でつくられる感触だ。
この気配りは、単なるマニュアル対応でもなく、一方的な営為でもない。
仲介営業との間にある、言葉にもならない阿吽の呼吸のようなやりとり――互いの動きや感覚に呼応しながら整えていく、繊細なコミュニケーションの積み重ねである。
“スムーズに終わる内見案内”が、次の紹介を引き寄せる
仲介営業にとってもっとも重要なのは、「内見案内がスムーズに終わるかどうか」だ。
1日に複数の物件を回る営業にとって、段取りの読みやすさ・所要時間の予測しやすさは重要な評価軸となる。
たとえば
- ・ビル管理会社との連絡がスムーズで、返答も的確
- ・現地に着けばすぐ内見案内が始められ、無駄なく説明できる
- ・所要時間の見通しが立ちやすく、次の予定にも響かない
こうしたテンポの良い内見案内は、仲介営業の中に「またこのビル使いたい」という記憶を残す。
つまり、“スムーズな現場体験”が、「紹介される物件」の記憶を形成していく。
「説明しやすさ」は、仲介営業にとって最大の安心材料になる
整えられた物件情報(図面・写真・スペック表)は、ただテナントに渡す資料ということだけではない。
仲介営業がテナントに説明するときに立つ“言葉の足場”であり、
その安定感があるかどうかが、紹介に踏み切れるかの判断基準になる。
たとえば
- ・「天井高2,600ありますよ」
- ・「このフロア、士業が入っていて静かです」
- ・「トイレは去年リニューアル済みで照明もLEDです」
これらが自然に口をついて出るように整っていれば、仲介営業は安心して内見案内できる。
さらに、現地でビル管理会社のリーシング担当がその場で補足できれば、仲介営業は“さらに動きやすく”なる。
重要なのは、「どんな風に説明されたいか」まで見越して整えてあること。
それが、“説明しやすいビル”と評価される分岐点になる。
「仲介営業の動線」から逆算して設計する
結局のところ、空室が埋まるかどうかの入り口は、「紹介されるかどうか」だ。
そしてその鍵を握っているのは、テナントではなく仲介営業だ。
だからこそ、すべての整備と準備は「仲介営業の動線」から逆算して考えるべきだ。
仲介営業の動きは
- 1.物件情報を見て候補に入れる
- 2.内見案内の段取りを組む
- 3.現地で内見案内し
- 4.内見案内後に説明を補足し
- 5.テナントの反応を踏まえて再提案する
この流れが“つっかえずに流れる”ビルこそが、紹介される。
そのために必要なのは、物件のスペックの高さではなく、「段取りと現場の整え方」だ。
空室を埋める前に、“内見案内される条件”を整える
空室が出たとき、すぐにリノベや賃料調整に走る必要はない。
その前に問うべきは、「このビル、仲介営業に紹介されているか?」ということだ。
仲介営業にとって
- ・“動きやすい”ビルか
- ・“面倒くさい”ビルか
この分岐は、たった数秒のテンポとわずかな段取りの差で決まってくる。
だが、そのわずかな差を丁寧に積み上げている物件だけが、現実に“次も紹介される”物件になっている。
空室対策の成否は、すでに内見案内の現場で決まっている。
第5章:「決まるビル」とは、仲介営業が“最後に推せる”ビル
「テナントが選ぶ」のではなく、「仲介営業が選ばせている」
テナントが最終的に契約するのは、内見案内された複数の物件のうち、たった1件だけ。
だが、その選定を誰がどう後押ししたか──そこを見落としてはいけない。
内見案内が終わると、営業担当は必ず聞く。「どうでしたか?」と。
返ってくるのはたいてい、曖昧な反応だ。
- ・「まあまあ良かったです」
- ・「他の物件も見てみたいですね」
この曖昧なやりとりの裏で、営業担当はすでに判断している。
「このビル、決め打ちしていいか?それともやめておくべきか?」
この“静かな線引き”が、提案の流れを決めている。
つまり、「決まるビル」とは、仲介営業が「選ばせたい」と思ったビルだ。
「推せるか/推せないか」は、自分の仕事のリスクで決まっている
仲介営業がビルを“推す”とき、そこには「この案件、自分が責任を持てるか?」という明確な判断がある。
判断の基準はシンプルだ。「あとで面倒にならなそうか?」という一点。
たとえば以下のような要素が揃っていると、営業は安心して提案できる
- ・ビル管理会社の対応が的確で速い(質問に即答できる)
- ・内見案内の段取りがスムーズで、現地での補足も破綻がない
- ・物件情報(図面・写真・数値)の精度が高く、現況と整合性がとれている
- ・物件のスペックが明記されていて、テナントの質問にも即答できる
- ・入居後にトラブルになりそうな要因が見当たらない(過去のクレーム事例も少ない)
これらは、すべて「自分の仕事にリスクが跳ね返ってこない」ことを確信できる材料であり、
“推せるかどうか”は、それをどこまで仲介営業が肌で感じられるかで決まる。
「わからない」は、最大のブレーキ
仲介営業にとっての“ちゃんとしてるビル”とは、「スムーズに説明できるビル」のことだ。
逆に言えば、説明に詰まりが出た瞬間に「推せない」側へ傾く。
たとえば
- ・物件情報の数値/図面と現地にズレがある
- ・物件のスペック資料に載っていない仕様がある
- ・「この点ってどうなってます?」とテナントに聞かれて、物件情報を見ても、回答しようがない。
- ・「あとでビル管理会社に聞いておきますね」が何度も出てくる
こうした些細な「わからなさ」の積み重ねが、仲介営業の判断を鈍らせる。
「何かあったらまずいな」という不安が勝った時点で、そのビルは“提案候補”から外れる。
最後の一押しが“自然に出る”ビルだけが残る
最終的にテナントが意思決定をする場面で、「ここで決めませんか?」という一言が自然に出せるかどうか。
そこには、仲介営業の中で、確信が育っている必要がある。
- ・ビル管理会社の対応に不安がない
- ・入居後のトラブルやクレームが想定しにくい
- ・提案後、フォローの必要があまりなさそう
これらの「先が読める」「リスクが低い」という安心感が、仲介営業の背中を押す。
だから、“決まるビル”には、必ず「安心して推せる空気」が流れている。
第6章:仲介営業の“つま先”が止まるビル
──「内見案内されない理由」は、スペックではなく“足もと”にある 「なんとなく違う」──物件は“頭”ではなく“足”で選ばれている
「今回はやめておきましょうか」
「この物件、ちょっと違う気がするんですよね」
仲介営業が内見で物件を訪れたとき、物件資料を見返すわけでもなく、募集条件を詳細に比較するでもなく、
その場の“空気”を感じ取って、すっと引き返すことがある。
その判断は、頭ではなく身体――もっと言えば、「足」がしている。
- ・なんか足取りが重い
- ・立っていて落ち着かない
- ・暑い、臭い、声が響く
- ・どこをどう説明していいかわからない
物件情報の数値/図面にもスペック表にも書かれていない、言語化しにくい情報。
だがその微細な“ノイズ”が、「この物件はやめようかな」と営業の“つま先”を止めてしまう。
「違和感」とは、理屈よりも先に反応している身体のセンサー
たとえば──
- ・エントランスの空気がもたついている
- ・共用部に、空室のよどみが漂っている
- ・ドアノブの手触りが異様に古い
- ・声が反響して落ち着かない
- 「・ここを見せよう」と思える軸がない
こうした要素は、必ずしもテナント本人が認識するとは限らない。
でも、仲介営業がその空間でうまく動けないと、「やめておこう」という判断が生まれる。
「このビル、図面で見たときは良かったんだけど、内見してみるとちょっと違いましたね」
──テナントがそう言うとき、その“ちょっと違う”の正体は、仲介営業と共有された言語化されない違和感なのだ。
「ノイズがないこと」が、物件を自然に“通過”させる
では、仲介営業がスムーズに案内できる物件には、何があるのか?
実は、目立った魅力や演出があるわけではない。
むしろ、「邪魔をしない」「拒否されない」状態があるだけだ。
たとえば
- ・暑くない/寒くない
- ・臭くない
- ・暗くない
- ・動線に迷わない
- ・共用部に気まずさがない
こうした「ノイズのなさ」は、いわば“マイナスの排除”にすぎない。
でも、それこそが仲介営業の足どりを軽くし、説明のテンポを崩さず、自然に内見案内ルートを組み立てられる鍵になる。
「選ばれるビル」は、拒否されなかった物件なのかもしれない
成約に至るビルが、必ずしも魅力的とは限らない。
仲介営業が止まらず、テナントが違和感なく進んでいった結果、「ここで決めましょうか」と静かに決まることがある。
つまり勝負を分けているのは、“推せる魅力”ではなく、
“拒否される違和感”がなかったかどうかだ。
仲介営業が立ち止まらず、説明が詰まらず、つま先が止まらない状態で動けた物件。
それが「決まるビル」の共通点である。
必要なのは、「整っている」こと。
その整いは、仲介営業の身体が反応しない“静かな正常さ”のことだ。
言い換えれば、物件が仲介営業という回路にスムーズに接続される条件が、きちんと揃っているということ。
それだけで、紹介も、内見案内も、提案も、流れるように動き出すのだ。
第7章:その賃貸オフィスビルは、“紹介される物件”として認識されているか?
──仲介営業の「世界」からこぼれ落ちた物件たち 「スペックは悪くないのに、なぜか決まらない」
物件情報の数値/図面を見れば、特に大きな欠点は見当たらない。
立地も悪くない。賃料も相場通り。設備も古すぎるわけじゃない。
──それなのに、内見案内も入らず、問い合わせも続かず、いつまで経っても空室が埋まらない。
オーナーやビル管理会社にしてみれば、「なぜ決まらないのか、まったく分からない」と首をかしげるしかない。
だが、仲介営業の側から見ると、そうした物件にはある“距離感”が生まれている。
それは、物理的な距離ではなく、“紹介される世界”から心理的にこぼれてしまっている物件という距離感だ。
仲介営業の中にある、“紹介される物件”という幻想
仲介営業は、毎日何十、何百という物件情報に目を通している。
だが、そのすべてを一物件ずつ比較検討している時間はない。
仲介営業の判断は、データ、数値による評価というより、「扱える気がするか/しないか」という感覚で下されている部分が大きい。
- ・「このエリアの物件は大体スムーズに進む」
- ・「このビル管理会社は、現況とのズレが少ない」
- ・「このシリーズの物件は、内見案内しやすい」
こうした“感覚的な地図”は、営業個人の経験に加え、同僚や業者間の会話、成功体験・失敗体験の共有のなかで、
共有知のようなかたちで形づくられている。
つまり、営業担当の頭の中には、「紹介していい(紹介できる)物件」のイメージが、幻想として漂っている。
その幻想に映り込めない物件は、物件のスペックに見るべきポイントがあったとしても“存在しないも同然”になってしまう。
「物件情報がある」≠「紹介の対象になっている」
物件情報が届いている、ポータルに掲載されている、メールで案内された――それは物件の情報が“存在している”というだけにすぎない。
仲介営業の頭の中で「内見案内候補」として浮上してこなければ、その物件は紹介されない。
たとえば、ビル管理会社のリーシング担当が、仲介営業に対してアプローチをしたとしても
- ・物件情報の数値/図面を送ってもスルーされる
- ・内見調整の提案をしても、後回しにされる
- ・現地案内をしても「また今度」と流される
こうして、物件は静かに仲介営業の思考の“視界の外”へと押し出されていく。
これは、テナントに「選ばれなかった」物件ではない。「そもそも選ばれてすらいない」紹介されていない物件である。
「紹介される物件」から、こぼれていく過程
仲介営業の中で「紹介される物件」として認識されるには、小さな記憶の積み重ねが必要だ。
逆に、その信頼が損なわれるのも、一つひとつの些細な体験から始まる。
- ・現地と物件情報の写真が微妙にズレていた
- ・ビル管理会社との連絡がちょっとかみ合わなかった
- ・内見案内時に少し説明が詰まった
- ・テナントから不満が出たことがある
- ・過去の案件で、何となくスムーズに進まなかった
こうした断片的な違和感が、やがて「なんとなく扱いづらいビル」の印象となって蓄積する。
さらにやっかいなのは、それが個々のビルだけにとどまらず、ビル管理会社の名前や物件ブランドごとに“印象の連鎖”が起こることだ。
いつの間にか「この管理会社の物件、なんかやりづらいんだよな」と、無意識に敬遠されるようになっていく。
選ばれないのではなく、「認識されていない」状態
ここが重要なポイントだ。
紹介されないビルは、「選ばれなかった」のではない。“選ばれる以前に、見えていない”のである。
- ・物件のスペックは整っている
- ・募集条件も妥当
- ・物件情報の数値/図面も写真も更新されている
──にもかかわらず、案件が動かないのは、その物件が仲介営業の中にある「紹介できる物件」の幻想に映っていないからだ。
これは、テナントに「評価されなかった」という問題ではない。
そもそも“見えていない、視界に入っていない”という問題なのだ。
空室対策は、「紹介の風景」に再び入り込むことから始まる
空室が埋まるビルは、必ずしもスペックで勝っているわけではない。
ただ――紹介されている。
それだけだ。
物件情報が共有され、案内が組まれ、内見が実施され、候補に上がる。
つまり、「紹介される物件」として、日々の営業プロセスの中に位置づけられている。
だから空室対策として、
- ・物件情報の図面を更新して、磨くこと
- ・物件情報の写真を演出すること
- ・募集条件を調整すること
これらはもちろん有効な手段だ。
だがそれらよりも先に、本質的にテコ入れすべきは、「紹介という現実」の中に、再びそのビルを映り込ませることにある。
「紹介される幻想」に、もう一度参加すること
仲介営業は、毎日物件情報を見て、扱っている。
そのなかで、誰に言われるわけでもなく、いつしか「紹介していい物件とは何か」という暗黙の了解が形成されていく。
それは、誰かが明示的に選んでいるわけではない。
でも確かに、「扱える物件の気配」は滲み出ている。
- ・メール対応の早さ
- ・質問への回答の正確さ
- ・現地の内見案内のスムーズさ
- ・雰囲気のノイズの少なさ
- ・物件資料の写真・図面の見やすさ
そうした小さなやり取りの積み重ねが、「あのビルなら紹介できそうだ」という幻想を静かに育てていく。
そしてこの幻想の中に、物件がもう一度参加できたとき、はじめて“空室が埋ま”っていく。
勝負は、「物件のスペック」や「募集条件」だけじゃなく「意識の中に存在しているか」
空室を抱えるビルが、まず意識すべきは、
「リノベーションをした方が」「募集条件を合わせた方が」についての検討はさておいて、問うべきは、「このビルは、いま仲介営業の頭の中に存在しているか?」ということだ。
わずかな違和感の解消、説明のしやすさ、内見案内のテンポ感、応対の信頼感――
そうした繊細な相互作用のなかで、物件は徐々に「紹介される風景」に滲み出していく。
このプロセスは、いわば共同幻想の境界線を少しずつ湿らせる作業に近い。
乾いて離れてしまったビルを、じりじりと“中”へ引き戻す営みだ。
空室対策とは、募集条件調整、リノベーションだけじゃない。
「紹介される物件」として、現実のなかにもう一度浮上できるかどうか。
その一点にかかっている。
最終章:賃貸オフィスビルは“扱われる”ことで、息を吹き返す
──「紹介される」という現実に、もう一度つながるために
いま、賃貸オフィスビルの空室に悩んでいるオーナーの中には、
募集条件を見直して。リノベーションも手掛けて、あとは運かタイミングの問題だと感じている人も少なくないかもしれない。
だが、本当に問い直すべきなのは、そういった「建物そのもの」なり「条件」ではなくて、そのビルがいま――
仲介営業の“日常の風景”に、ちゃんと存在しているかどうかだ。
賃貸オフィスビルは、「紹介される物件」という“流通”の中で初めて存在する
どれだけ良い条件で募集を出しても、仲介営業の意識にのぼらなければ、その物件は紹介されない。
紹介されなければ、案内もなく、提案もされず、選ばれることもない。
賃貸オフィスビルの情報サイトに掲載されていようと、物件の写真が綺麗だろうと、「流れていない川」に浮かぶだけの存在になってしまう。
この現実は残酷だが、正確でもある。
空室が埋まるビルと、いつまでも決まらないビルとの差は、仲介営業に扱われて、「紹介される」かどうか、まさに、そこなのだ。
共同幻想は、意図的にはつくれない。けれど、整え、育てることはできる
仲介営業が「あの物件なら扱える」と感じるとき、そこに誰かの指示やルールがあるわけではない。
それは、日々のやりとりのテンポ、空間の印象、説明のしやすさ、対応の正確さといった、無数の断片的な経験のなかから、じわじわとにじみ出てくる“気配”のようなものだ。
この気配は、強引につくることはできない。だが、整えることはできる。
たとえば、不自然な間取りにちょっとした内見案内の導線を足すこと。
質問への回答を翌日に回していた内容を、当日中に返すこと。
どれも地味だが、そうした小さな対応の積み重ねが、仲介営業の身体と意識の中に「この物件、扱いやすいかもしれない」という感覚を、確実に残していく。
そして、その“感覚”が一人だけでなく、複数の仲介営業のあいだで、
なんとなく共有され、なんとなく語られ、なんとなく思い出されるようになったとき――
それはもう、“共同幻想”として立ち上がっている。
誰かがつくるものではない。だが、確かに「そこにある」と皆が思い始める。
その幻想の中に入り込めた物件だけが、「紹介されるビル」として再び現実に浮かび上がってくるのだ。
空室対策とは、「存在を取り戻す」ための運用である
いったん、仲介営業の記憶からこぼれ落ちたビルを、もう一度“紹介の風景”に戻すには、それなりの時間と丁寧な対応・運用が必要になる。
だが、それらの努力によってビルが再び扱われはじめた瞬間、空気は確実に変わる。
物件のスペックや募集条件で他を圧倒できないとしても、
仲介営業の動線の中に入り、意識にのぼり、身体が自然と動くようになったとき、
そのビルは再び“紹介される可能性のある場所”に浮上している。
空室対策とは、物件のスペックなり、募集条件の調整だけじゃなくて、仲介営業の記憶への再接続だ。「紹介される物件」という共同幻想に、もう一度接続されるための地道な回復プロセスなのだ。
終わりに:あなたのビルは、もう一度“扱われる側”に戻れるか?
いま、この瞬間にも、無数のビルが「存在していない」ものとして日々の営業活動をすり抜けていく。
紹介されないビルには、永遠に声がかからない。
だからこそ問いたい。
そのビルは、いま誰の現場に“存在している”か?
いま、誰の手によって“扱われている”か?
空室を埋めるとは、誰かの記憶に、身体に、日常に――もう一度“戻る”ことなのだ。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2026年1月9日執筆