坪数だけで選ぶと失敗する。賃貸オフィスの“本当に見るべき”寸法ガイド
皆さん、こんにちは。
株式会社スペースライブラリの飯野です。
この記事は「坪数だけで選ぶと失敗する。賃貸オフィスの“本当に見るべき”寸法ガイド」のタイトルで、2026年1月27日に執筆しています。
少しでも、皆さんに新たな気づきをもたらして、お役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
坪数は“外形”にすぎない。実際に使えるかどうかは、梁下最小高・スパン・最狭有効幅の3点で決まる。写真の印象はあてにならない。まずは最低値から読み、図面と、現況を測量した結果が揃っているかを見る。これだけで、無駄な内見とレイアウトの誤読は、かなり減らせる。
第1章:まずは常識、一人あたり面積の目安―「広い」「狭い」の前提を揃える
オフィス選びの現場では、「この物件は〇〇坪です」と聞いた瞬間に、頭の中で“何人分か”をざっくり割り算してしまうことが多い。
だが、それだけで判断するのは危ない。なぜなら、同じ人数を収容する場合でも、必要な面積はレイアウトによってまったく違ってくるからだ。
まず押さえておきたいのは、「何人分」という考え方は、執務席だけなら成り立つということ。しかし、実際のオフィスには会議室、通路、複合機スペース、収納などが必ず必要になる。それぞれの機能が必要とする面積の“単位”はバラバラだ。
- 執務席は「1人あたり㎡(または坪)」
- 会議室は「1室あたり㎡」
- 通路は「全体に対する面積の比率(%)」
これを1つの指標、たとえば「1人あたり〇坪」に単純化してしまうと、会議室がつくれない、通路が狭い、什器が置けないといった「詰まり」があとから出てくる。
最初に“粒度をそろえる”ことで、あとからのズレを防ぐことができる。
以下に、執務・会議・バックヤード・通路それぞれの「最低〜標準」面積の目安をまとめた。ここではあえて単価や仕様の話はせず、数字の読み方にだけ集中しておく。
| 用途 | 最低 | 標準 |
|---|---|---|
| 執務席(1人) | 3.0~3.5㎡(0.9~1.1坪) | 4.0~4.5㎡(1.2~1.4坪) |
| 小会議室(4名/室) | 8~10㎡(2.4~3.0坪) | 10~12㎡(3.0~3.6坪) |
| 中会議室(8名/室) | 14~16㎡(4.2~4.8坪) | 16~20㎡(4.8~6.0坪) |
| 大会議室(12名/室) | 22~24㎡(6.6~7.3坪) | 24~30㎡(7.3~9.1坪) |
| バックヤード(複合機・収納等/人) | 0.5~0.8㎡(0.15~0.24坪) | 0.8~1.2㎡(0.24~0.36坪) |
| 通路・共用動線(床全体に対する比率) | 25~30% | 30~35% |
【ざっくり配分(通路を除く実効面積の内訳)】
執務:会議:バックヤード=6:3:1
この“前提合わせ”ができていれば、以降の判断はぐっとシンプルになる。
次章では「天井がどこまで使えるか」を見るための梁下最小高から入り、続けてスパンと最狭有効幅――使いにくさの原因になりがちな3つの寸法を、図面と現況を見ながらどう読むか、具体的に解説していく。
第2章:天井高は「平均」より「最低」を見る
――会議室が成立するかは、1本の梁で決まる
オフィスの第一印象において、“天井が高いかどうか”は強い影響を持つ。
広さ、開放感、抜け感――こうした要素と直結しており、「なんとなく良さそう」と感じる空間の多くは、実際に天井高が取れている場合が多い。
だが、「印象」だけで判断してしまうと、失敗する。
実際には、会議室のスペースが確保できない。収納棚を入れようとしても天井に当たってしまい入れられない。空調が梁と干渉して設置できない。実際に机、什器を配置してしまうと、抜け感が無く狭苦しい。
空室のときの見た目の「高さ感」と、レイアウトとして“成立する高さ”は別物なのだ。
天井高には「平均」と「最低」がある
天井高には、2種類の表記がある。多くの不動産広告に記載されるのは以下のとおり
- 平均天井高:スラブから床までの高さを、梁や設備を含めて平均化した数値。
- 梁下最小高:梁が最も出っ張っている部分の床からの高さ。
そして実務上は、この梁下最小高のほうが圧倒的に重要である。
なぜなら、オフィスのレイアウトは常に「最も低い場所」に制限されるからだ。
実例:平均2,500mmでも、梁下でアウトになる
たとえば、「天井高2,500mm」と聞いて安心して内見に行って、実際に測ってみたら、梁下が2,300mmしかないというのはよくある話だ。
見た目は開放感があるが、その低い部分に会議室を配置しようとすると、ガラス間仕切りの高さが足りない。
さらに、照明器具、空調吹出口、火災報知器などの設備が梁に干渉することで、レイアウトが制限される。
梁の出っ張りが1本あるだけで、会議室の位置・構成・仕様がすべて変わってしまう。
加えて、通常、OAフロア(配線用の二重床)が設置されているので、更に床が50〜70mm嵩上げされているため、天井までの実効高さはさらに下がってしまう。
建築の図面上、「2,300mmあるから安心」と思っていたら、実際にはOAフロアが設置されてて、2,250mmしかなかったということになる。
これはガラス間仕切りの製品仕様にギリギリ引っかかる寸法であり、数十mmの差が「できる/できない」を分けるラインなのだ。
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 梁下最小高 (はりした・さいしょうこう) | 梁が最も下がっている部分の床からの高さ(mm) |
| 梁成(はりせい) | 梁の厚み(スラブ下から梁下までの寸法) |
| OAフロア (オーエーゆか) | 配線スペース確保のため、床をかさ上げする二重構造の床材。仕上げ床面が高くなるため、天井までの高さは減る |
表記の基本ルールは「最低→平均」の順に
不動産広告やマイソクに出てくる天井高は、たいていが平均値表記だ。
しかし、それではどの部分で制限されるかが見えない。だからこそ、レイアウト判断の基準としては次のような表記が望ましい。
梁下2,300mm(平均2,450mm)/OAフロア50mm含む
→実効天井高:2,250mm
このように最低値を先に明示し、目減り分を控除した実効値を把握することで、はじめて「レイアウトが成立する高さ」が判断できる。
写真と印象の“落とし穴”
広告やWebサイトの写真を見て、「このオフィス、広くて天井も高そうだな」と感じることはよくある。加えて、平均天井高が2,500mmと書かれていれば、開放的な印象を受けやすい。
光がよく回り、天井もすっきりと写っている写真には、人の感覚を“広く・高く”錯覚させる効果がある。だが、内見で現地に立ってみると、印象が一変することがある。
「思ったより低い」「梁がこんなに出ていたとは…」というがっかり感は、写真と現実の情報がずれているということ。このズレは、写真が撮られるときの工夫やテクニックにも理由がある。
①写真は「梁を避けて撮る」
広告や物件紹介用の写真では、梁が写り込まないように構図が調整されていることが多い。広く見えるアングル=“梁が写らない角度”であることが多く、結果として天井高の“実用上の最低値”が見えないままになっている。梁がないように見えても、実際は天井の中央を横断する大きな梁が存在することもある。
②天井材や照明で「演出されている」
また、照明計画や天井材そのものが“広く見えるように設計されている”ケースもある。
天井が白く反射性の高い素材で仕上げられ、照明器具が天井面にフラットに納まっていると、それだけで空間は“高く・明るく”感じられる。だが、それはレイアウト可能性とは別の話である。どれだけ「映える」設計がなされていても、梁下が物理的に低ければ、間仕切りや什器配置は制限される。
③広角レンズが「奥行きと高さを誇張する」
内観写真はたいてい広角レンズで撮られており、奥行きや高さが実際より大きく見えるように補正されている。
スマートフォンでも同様で、広角で撮るほど、空間の“抜け”は強調される。
とくに床と天井の距離が写真のフレームいっぱいに広がっていると、実際の数値以上に「高い」と錯覚することになる。
第3章:レイアウト基準寸法の最低ライン
――「何坪あるか」より、「どこで詰まるか」を先に見る
オフィスレイアウトは、意匠や雰囲気の話ではない。動線と寸法の積み上げで成立する“構造物”だ。
そして、その構造が成立するかどうかは、「最も狭い場所で何が通るか」「どこに机が入るか」によって決まる。
“何坪あるか”よりも、“どこで詰まるか”を先に見たほうが、失敗は減る。
ここでは、実際のレイアウトを考えるときに基準となる寸法の“最低ライン”を3カテゴリに分けて整理する。
3-1 通路幅:800mmを下回ると人がすれ違えない
オフィスの通路幅は、建築基準法でも最小限の寸法が定められている。
ただし、執務空間としての快適性や業務効率を考えるなら、法基準より実運用での最低ラインを意識すべきだ。
| 通路の種類 | 最低ライン(推奨) |
|---|---|
| メイン通路(人がすれ違う) | 1,200mm |
| サブ通路(片側通行) | 900mm |
| 背面通路(椅子の後ろを通る) | 800mm |
さらに、最近はキャスター付きの大型チェアが一般的なので、「800mmあれば通れる」はもはや限界値。これを下回ると、イスが引けない・人がぶつかる・カートが通らない、といった支障が出る。
狭さが“人の動き”を制限しないか?という視点は必要不可欠だ。
3-2 机間・背面:600mmでは足りない
机を並べるときの“前後”の取り合いは、席効率に直結するポイント。
しかし、椅子を引く・立ち上がる・人が後ろを通るといった一連の動作を成立させるには、単なる寸法以上の余白が必要になる。
対面の机間:1,800mm(900mm×2人分)
背面スペース:900mm以上(イス+通路)
※オフィスチェアの奥行き:600〜700mmが一般的
つまり、「背面に900mm」と言っても、椅子を引いた状態+人1人がギリギリ通れる程度。
これを「最低寸法」として見ておくことで、「会議室の椅子が壁にぶつかる」「すれ違いざまに背中が当たる」といった事態を防ぐことができる。
3-3 会議室の成立寸法:ガラス間仕切りで“作ったつもり”が、機能しない理由
小規模オフィスでありがちな誤算が、4名会議室の面積不足だ。
壁ではなく、ガラス間仕切りで空間を囲い、必要最小限の面積で「抜け感」も確保したつもり――。
が、いざ完成してみると、そこはまるで“ガラス張りの監禁室”のような狭さになってしまっていた。そんな失敗事例は少なくない。
| 人数 | 必要面積の最低目安(㎡) | 坪換算(目安) |
|---|---|---|
| 4名 | 8〜10㎡ | 2.4〜3.0坪 |
| 6名 | 12〜14㎡ | 3.6〜4.2坪 |
| 8名 | 14〜16㎡ | 4.2〜4.8坪 |
■面積不足で起こる“レイアウト崩壊”
上の数値は、最低限の通路・出入り・椅子の引きが取れる前提のラインだ。
この寸法を下回ると、以下のような不具合が必ず発生する。
- テーブルの端から人が出入りできない
- 椅子を引くと壁やガラス仕切りに接触してしまう
- スクリーンやモニターを配置しても、見づらい席がある
見た目上は会議室として成立していても、機能として破綻している。
特に「通路幅」と「着席時の引き寸法」が取れない会議室は、使いにくいどころか、日常的なストレスの原因になる。
■空間は“使えるかどうか”で評価される
レイアウトを成立させるには、「最低限の面積」が何㎡かを理解し、それを現地で採寸・確認することが欠かせない。
寸法が足りていない会議室は、あとでいくら家具やデザインで工夫しても、使い勝手そのものが改善されることはない。
会議室をガラス仕切りで囲うなら、まず「狭くても成立する条件」ではなく「狭すぎると破綻する条件」から逆算することが重要だ。
透明な素材で“逃げる”のではなく、物理的に必要な寸法を確保することが、本当に使える空間をつくる唯一の方法である。
✔ポイントは「平均値」ではなく「最狭部」に誘導すること
ここまで挙げた寸法は、いずれも抽象的な平均値では意味がない。
見るべきは、「入口で一番狭いところ」「柱と壁の間の最小幅」「会議室の実効幅」など、実際に“詰まる場所”である。
図面や現地で数値を拾うときは、一番狭い場所の寸法を赤で囲いながら実測して確認するくらいの精度が必要だ。
第4章:失敗を避ける3つの数字
――梁下最小高/スパン/最狭有効幅を“最低値”から読む
オフィスのレイアウトは、図面上の「面積」や「見た目の広さ」だけでは判断できない。
同じ坪数であっても、机を島型で素直に並べられるか、会議室が成立するか、荷物をストレスなく搬入できるか──そうした「使える/使えない」の分かれ目は、たった3つの寸法に左右されている。
それが、梁下最小高・スパン・最狭有効幅である。
この3つを「最低値から」確認するだけで、レイアウトが成立するかどうかの目処はほぼ立つ。以下、それぞれの寸法が持つ意味と、判断のポイントを整理しておきたい。
①梁下最小高
天井の高さは、空間の印象を決定づける要素としてよく語られる。
だが、レイアウト上の実務を左右するのは「平均天井高」ではなく、梁が最も出っ張っている部分から床までの高さ(=梁下最小高)である。
この寸法がしっかり確保されていれば、ガラス間仕切りで会議室を組むことができ、棚や什器も高さを気にせず配置できる。
逆にここが足りないと、ガラス仕切りが立たない/書庫が入らない/圧迫感が出るといった、見た目ではわからない問題が発生する。
よくある誤解は、マイソクや広告に「天井高2,500mm」と書かれていると、それを信じてしまうことだ。しかし、実際には梁が大きく出っ張っていて、最低部は2,300mmしかないというケースも少なくない。数値が、OAフロア設置分を考慮していなかったとしたら、そこから50mmが差し引かれ、実効では2,250mmになる。
「表面の数字上では高さが足りてるのに」レイアウトとしては成立しない──そんな“落とし穴”がここにある。
②スパン(柱芯―柱芯)
次に見るべきは「スパン」、すなわち柱と柱のあいだの距離である。
ここで重要なのは、単なる寸法だけでなく、その連続性(=スパンが同じピッチでどこまで続くか)も含めて見るという視点だ。
このスパンとその連続数を把握することで、島型デスクを何列配置できるか/会議室を何室並列で取れるか/収納棚がいくつ入るかが見えてくる。
たとえば「6,900mmスパン」と聞くと、それだけで“広い”と感じるかもしれない。
だが、実際に図面を見ると、それが2連で途切れてL字に折れていたり、雁行して直線が崩れていたりすることがある。
そうなると、島型2列での席配置はうまくいかず、通路がまっすぐ確保できない/想定した席数が入らないといったズレが生まれる。
このズレを防ぐためには、「6,900mm×3連」のように、距離(mm)と連続数(○連)をセットで表記・確認する必要がある。
単なる広さよりも、標準的なレイアウトモジュール(例:島型2列+通路=約4,200mm)を何連続で入れられるかが効率を左右するのだ。
③最狭有効幅(入口/コア前/主要通路)
最後に確認すべきは「最狭有効幅」。これは、入口・コア前・主要通路などにおける、最も狭い箇所の“実効寸法”のことを指す。
この寸法は、図面上の数値だけでなく、ドアやクローザーの形状、段差、梁・柱の出っ張りなどによっても変動するため、現地での実測が不可欠である。ここを見落とすと、「図面上は1,200mmと書かれていたが、実際の開口は900mmしかなかった」という事態に陥る。
このズレによって、什器やコピー機が搬入できない/想定していたレイアウトが実施できないといった問題が起きる。
日常的な動線でも、人がすれ違えない/カートが通れない/避難時の安全確保が困難といった支障につながる。また、車椅子の通行にも影響するので、バリアフリーの観点からも重要な寸法である。
チェックの基本は、まず図面上で最狭部を赤囲みで明示しておくこと。
内見の際は、該当箇所にメジャーを当てて実測して撮影し、数値として記録しておく。このとき、図面の更新日と撮影日も合わせて確認する。図面の更新日が極端に古くて、実測した結果と図面の数字が整合していなければ、その図面は信用できない。
✔数字の順序を変えるだけで判断は変わる
坪数や写真の印象ではなく、梁下最小高→スパン(距離×連続数)→最狭有効幅(要現地実測)という順番で、最低値を確認する。
これだけで、レイアウトの成立可否/什器の搬入可否/日常動線の快適性といった実用面の判断が驚くほどスムーズになる。
無駄な内見、無理なレイアウト調整、見落としによる追加工事──そのすべては、「この3つの最低値を確認していたかどうか」で回避できる。
第5章:同じ坪数でも“使える”が分かれる理由
――数字が違えば、レイアウトも変わる
図面上の「坪数」が同じでも、実際に使えるかどうかはまったく別の話だ。
前章で取り上げた3つの寸法――梁下最小高・スパン・最狭有効幅は、オフィスの“使い勝手”を左右する本質的な要素であり、この3点が悪いと、どれだけ広く見えても実際のレイアウトは崩れてしまう。
ここでは、坪数がほぼ同じである2つのケースを比較しながら、何がレイアウトの成立を分けたのかを見ていく。
ケースA:使える物件
坪数:94.2坪(311.5㎡)|梁下最小:2,300mm|スパン:6,900mm×3連|最狭有効幅:1,050mm
この物件では、梁下最小高が2,300mmと明示されており、平均2,450mm、OAフロアは50mmという情報も併記されていた。
天井仕上げ後の有効高は2,250mmとなるが、ガラス間仕切りの設置、什器配置に大きな問題はない。
スパンは6,900mmが3連続で伸びており、島型デスクを2列で並べた上で、メイン通路も1,200mm幅で確保できる。梁と柱はすべて壁際に集約されていて、内側に干渉しない構造となっている。
入口幅は1,100mm、共用部ではありますが、エレベーター/トイレ/給湯スペース等のコア前も1,050mmが確保されており、搬入動線もストレスがない。
図面と現況の更新日も揃っており、寸法の読み違いリスクは極めて低い。
→特記事項:レイアウトプランが“そのまま当たる”。席効率が高く、会議室も変形せず設置可能。通路設計がシンプルで、初期プランを大きく変更せずに運用できる構造。
ケースB:“歪む”物件
坪数:94.0坪(310.8㎡)|梁下最小:2,250mm(平均2,500mm)|スパン:6,900mm×2連+L字折れ|最狭有効幅:900mm(入口部)
坪数はケースAとほぼ同等だが、レイアウトが成立しない“詰まり”が各所に存在していた。
まず、梁下最小高が2,250mmしかなく、OAフロア分を差し引いた実効天井高は2,200mmに届かない。その箇所では、ガラス間仕切りを立てるには厳しく、会議室の仕様の変更を余儀なくされる。天井に空調ダクトが走る箇所ではさらに天井が下がり、空間にムラと圧迫感が出る構成だった。
スパンは6,900mmだが、2連で折れてL字に曲がっている。
島型デスクは2列目の通路が確保できず、結果的に“変則L字型”の席配置になってしまう。
会議室も雁行レイアウトにより矩形を保てず、壁が斜めに食い込む設計になった。
さらに、入口部の有効幅が900mmしかなく、大型の什器や冷蔵庫の搬入が物理的に難しい。
エレベーター/トイレ/給湯スペース等のコア前(共用部)も柱の張り出しで一部850mmとなっており、人のすれ違いにも支障が出る設計だった。
→特記事項:レイアウトは当初プランから大きく変更。席数の減少・動線のジグザグ化・レイアウト修正コストの増大につながった。導入前の設計段階での「詰まり」検出ができていれば、回避できた案件である。
| 比較項目 | ケースA | ケースB |
|---|---|---|
| 梁下最小高 | 2,300mm (OAフロア控除後:2,250mm) | 2,250mm (OAフロア控除後:2,200mm) |
| スパン | 6,900mm×3連(直線) | 6,900mm×2連(L字折れ) |
| 最狭有効幅 | コア前:1,050mm | 入口:900mm、コア前:850mm |
| 会議室 | 矩形レイアウトが可能 | 壁面が歪み、音響・映像機器の納まりに制約 |
| 搬入動線 | スムーズ | 要分解・手持ち搬入が必要 |
| レイアウト修正 | ほぼ不要 | 初期プランからの調整多数 |
「面積は同じでも、使い方がまるで違う」
これは、見た目や図面のスペックだけでは分からない。
最低値の3つの寸法だけで、レイアウトの自由度もコストも、入居後の満足度も決まってしまう。
次章では、こうした寸法を内見の現地確認の際に役立つ「内見メモのテンプレート」を提示する。内見時にどこをどう測ればよいかを、5点に絞って示す。数字に落とすための最短ルートである。
第6章:内見前のメモ・テンプレ
――見るのは5点だけ、測る順番も決まっている
これまで見てきたように、レイアウトの可否は「面積」ではなく、梁下最小高・スパン・最狭有効幅の“最低値”で決まる。
問題は、それを内見時にどうやって確認するかだ。
この章では、事前に準備しておくべきチェックポイント5点と、現場での計測・記録ルールを提示する。
「写真はあるけど寸法がない」「どこを測ったかわからない」とならないために、計測・記録の形式化が欠かせない。
| 項目 | 測定ポイント | 寸法の意図 |
|---|---|---|
| 1.梁下最小高 | 会議室想定箇所の梁帯下 | ガラス間仕切り・什器高さの可否判断 |
| 2.代表スパン | 島型席想定箇所(柱芯−柱芯) | 机配置・通路確保の基準寸法 |
| 3.入口の有効幅 | 開口部の内寸(ドア枠含む) | 搬入の可否/バリアフリー |
| 4.コア前の最狭幅 | 廊下の動線部(共用部) | 動線の詰まり・緊急時避難通路確保 |
| 5.柱〜壁の奥行き | 区画端部(柱芯〜壁芯) | 書庫や収納列の設置余地確認 |
→これだけで、席効率・会議室成立・搬入可否・日常動線の詰まりは読み解ける。
✔計測・記録ルール:誰が見てもブレない寸法になるために
以下のルールを徹底することで、現地で測った数字が「使えるデータ」になる。
あとで確認できるように、必ず写真と図面をリンクさせる。
1.すべてmm単位で記録する
→2,300mm/1,050mm/6,900mm。cm表記や「約」表現は禁止。
2.最低値→平均値の順に書く
→「梁下最小2,300mm(平均2,450mm)」のように、先に“制限値”を示す。
3.位置を明記する(写真と図面を連動)
→「位置①/7F西側梁帯」など。図面には赤囲み+ラベルで反映。
→撮影した写真にも「位置①」とA4紙で写し込む/後処理で赤丸など明示。
4.撮影日と図面の更新日を併記
→「写真:2025年9月8日撮影/図面更新日:2025年3月末」など。図面と現況写真の位置を同期させた上で、図面が最新更新であることも確認。
✔テンプレート例(テキスト形式)
■内見メモ|〇〇ビル7F|2025年9月8日
位置①|梁下最小:2,300mm(平均2,450mm/OAフロア50mm)→実効:2,250mm
位置②|代表スパン:6,900mm×3連(直線)
位置③|入口幅:有効1,050mm(ドア枠含む)
位置④|コア前最狭:900mm(柱張り出しあり)
位置⑤|柱〜壁奥行:1,300mm(収納設置可)
第7章:FAQ(よくある質問)
――よくある疑問を、数字と手順で即答する
オフィス選定で頻出する質問は、実は多くが「数字の見方」で片づく。ここでは、誤解されがちなポイントを5本に絞り、最低値・mm単位・定義→結論の順で答える。
Q1.天井高はどれくらい必要?
A.梁下最小で2,300mmを確保することが目安。平均値ではなく最低値を見る。OAフロアで50〜70mm下がるため、実効は2,230〜2,250mmになる。
- 2,300mm以上→標準什器・ガラス間仕切りは成立
- 2,200〜2,250mm→設備干渉や圧迫感が残る
- 2,200mm未満→会議室や高書庫の設置が制限される
Q2.「何坪で何人」は当てになる?
A.執務席だけなら目安になるが、全体では不十分。
- 執務席:1人あたり1.2〜1.4坪(4.0〜4.5㎡)
- 小会議室:4名で約2.5〜3坪
- 通路:床面積の25〜35%
「坪÷人数」で算出しても、入口幅や最狭有効幅が詰んでいれば実際には成立しない。レイアウト検討の際、動線設計で行き詰るケースの方が多い。
Q3.図面に有効寸法が無い場合は?
A.現地で5点を測るだけで十分。
①梁下最小高
②代表スパン(柱芯−柱芯)
③ 入口幅(有効)
④コア前最狭幅
⑤柱〜壁奥行
すべてmm単位で最低値を先に。場所を図面上、特定して、その場の写真も撮影。図面更新日/撮影日も合わせて記録する。
Q4.会議室を何室確保できるかはどう判断する?
A.4名会議室=約2.6m×3.4m(8〜9㎡)をモジュール化して図面に当て込む。
- 梁下が2,300mm未満ならガラス間仕切りは成立しにくい
- スパンが途切れると矩形会議室が歪みやすい
- 最狭幅が900mm未満だと、入退出で詰まる
「坪数÷人数」ではなく、モジュールが繰り返し入るかで判断する。
Q5.搬入で失敗しないためには?
A.入口とコア前の“最狭有効幅”を見る。
- 搬入の基準:最低900mm、理想1,050mm以上
- 車いす・担架の通行:建築基準法・消防基準上も900mm未満は原則不可
- ドアクローザー・枠・段差でさらに削られるため、現地で有効開口を実測することが必須。
まとめ:坪数は“外形”。最低値がすべてを決める
オフィスの検討は、つい「何坪あるか」という数字に引っ張られる。だが、実際に使えるかどうかを決めるのは、延べ面積ではなく最低値の寸法だ。
本コラムで繰り返し示した「3つの数字」
- 梁下最小高
会議室や什器の設置可否を左右する決定的な寸法。
天井の「平均値」ではなく、“最低値−OA控除後”を必ず確認する。
数字が同じでも、実質の可動域には大きな差が出る。
- スパン(柱芯―柱芯)
島型デスクが「素直に」並ぶかどうかを決めるのは、長さそのものではない。
スパンの連続数(○連)とセットで見て、レイアウトの“流れ”を読む。
- 最狭有効幅
搬入・避難・動線が支障なく通るかどうかを決める、現場のリアルな制約条件。
図面だけでは読み取れないため、赤囲み+実測で“最低値”を明示する必要がある。
“面積”だけで判断する危うさ
第5章のケース比較でも示したように、同じ「94坪」であっても、
梁下、スパン、最狭幅のほんの数百ミリの差によって、レイアウトの成立可否が分かれる。
- ケースA
梁下2,300mm/スパン3連直線/最狭幅1,050mm→素直に席と会議室が入る
- ケースB
梁下2,250mm/スパン途切れ/最狭幅900mm→席が歪み、会議室が成立しない
坪数が同じでも、「数字の内訳」が違えば、空間の意味も変わってしまう。
逆に言えば、数字を正しく読めれば、ミスマッチを避けられるということでもある。
内見での実務ルール
内見のときに見るべきは、内装の仕上がりや写真映えではない。
測るべきは、“最低値の5点”だ。
- 梁下最小高
- 代表スパン(長さと連続数)
- 入口幅
- コア前の最狭部
- 柱〜壁の奥行き
この5点をメジャーで実測して押さえておくだけで、レイアウトや什器搬入の成否は見えてくる。
そしてもうひとつ重要なのは、最新更新の図面と現場写真の場所を同期させること。
この2つがずれていて対応しない図面は、もはや“信頼できない”と判断すべきだ。
最後に:見るべきは「広さ」ではなく、「最低値」
坪数や平均天井高、写真の印象。
これらはどれも、空間の“印象”には影響しても、実際の可・不可は教えてくれない。
本当に知るべきなのは、“もっとも低い”“もっとも狭い”“もっとも短い”数値。
梁下最小高、スパンの連続性、最狭有効幅——この3つを、mm単位で最低値から読むこと。
それが、賃貸オフィスの空間を「使えるかどうか」で見極める唯一の基準になる。
「面積を信じる目」ではなく、
「最低値を見る目」こそが、オフィスを見る力になる。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2026年1月27日執筆