同じ90坪でも失敗するオフィス、成功するオフィス|その差は「最低値」にある
オフィス選定では坪数や賃料に目が向きがちですが、同じ面積でもテナントから選ばれる物件と選ばれない物件があります。
その差を生むのは、梁下最小高やスパン、最狭有効幅といった「使える空間」を左右する数字です。
本コラムでは、坪数だけでは見えないオフィスの競争力とオーナーが確認すべきポイントについて解説します。
- どんな人向け?
- オフィスビルの価値や競争力を見直したいオーナー
- テナント募集や空室対策に課題を感じている方
- 物件の「使いやすさ」を客観的に評価したい方
- 本コラムのポイント
- 坪数だけではオフィスの価値や使いやすさは判断できない
- 梁下最小高・スパン・最狭有効幅がレイアウト自由度を左右する
- 物件の競争力を把握するには平均値ではなく最低値を見ることが重要である
- 結論
オフィスの価値を決めるのは坪数ではありません。テナントが実際に使いやすいと感じる空間であるかどうかです。
その判断には、梁下最小高・スパン・最狭有効幅という3つの重要指標を確認することが欠かせません。
物件の競争力を正しく把握するためには、平均値ではなく最低値を見る視点が重要です。
坪数だけでオフィスを評価しない
オフィス選定では、まず坪数に目が向きます。
「90坪なら何人入る」「100坪あれば会議室も確保できる」
このような考え方は一般的ですが、実際の運営では坪数だけで判断すると失敗します。
なぜなら、坪数は空間の大きさを示す数字であって、実際に使える空間量を示す数字ではないからです。
坪数だけでオフィスを評価すると、同じ90坪でも次のような問題が発生します。
- 予定していた会議室が入らない
- 執務席数が想定より減る
- 通路が狭くなる
- 収納が確保できない
- 什器搬入に支障が出る
オフィスの使いやすさは面積ではなく、空間の形状や寸法によって決まります。
オーナーとして物件価値を判断する際も、坪数だけを見るべきではありません。
重要なのは、テナントが実際にどれだけ使いやすい空間として評価するかです。
その判断材料になるのが、梁下最小高・スパン・最狭有効幅という3つの重要指標です。
オフィスの使いやすさやレイアウト自由度は、最終的にこの3つによって大きく左右されます。
面積は「何人入るか」ではなく「何が成立するか」で考える
オフィスでは「1人あたり何坪」という考え方だけでは十分ではありません。
重要なのは、執務席だけでなく会議室や収納、通路まで含めて成立するかどうかです。
一般的な目安は以下の通りです。
| 用途 | 最低目安 | 標準目安 |
|---|---|---|
| 執務席(1名) | 3.0~3.5㎡ | 4.0~4.5㎡ |
| 会議室(4名) | 8~10㎡ | 10~12㎡ |
| 会議室(8名) | 14~16㎡ | 16~20㎡ |
| バックヤード | 0.5~0.8㎡/人 | 0.8~1.2㎡/人 |
| 通路・共用動線 | 床面積の25%~ | 床面積の30%~ |
また、一般的な配分の目安は次の通りです。
- 執務エリア:60%
- 会議室等:30%
- バックヤード:10%
同じ面積でも、この構成が成立する物件と成立しない物件があります。
つまりオフィスの価値は坪数ではなく、どれだけ機能が成立するかで決まります。
一方で、オーナーが評価しているポイントと、テナントが実際に重視しているポイントが一致しているとは限りません。
空室が続く場合、賃料や募集条件だけでなく、こうした評価軸のズレが影響しているケースもあります。
築古オフィスビルで見落とされがちな改善の考え方については、こちらのコラムで解説しています。
あわせて読みたい: [ なぜ空室が埋まらないのか|築古オフィスビルで見落とされがちな「改善のズレ」 ]
そして、その成立性を左右するのが、これから紹介する3つの重要指標です。
見るべき数字① 梁下最小高 ― 天井高は平均値ではなく最低値を見る
募集図面には「天井高2,500mm」と記載されていることがあります。
しかし実際に確認すべきなのは平均天井高ではなく、梁下最小高です。
梁下最小高とは、梁が最も低くなっている部分の床からの高さを指し、実際のレイアウトはこの最低値によって制限されます。
特にOAフロアを設置すると50~70mm程度床が上がるので、注意が必要です。
その結果、以下のような状態になることも珍しくありません。
- 天井高:2,500mm
- 梁下:2,300mm
- OAフロア施工後:2,230~2,250mm
一般的には梁下最小高2,300mm前後がひとつの目安になります。
そして梁下最小高が不足すると、以下のような問題が発生します。
- ガラス間仕切りの計画が制限される
- 収納家具の選択肢が減る
- 圧迫感が強くなる
- 会議室配置が難しくなる
オーナーが考えるべきなのは見た目ではなく、テナントがレイアウトを組めるかどうかです。
そのためには、平均天井高ではなく梁下最小高を確認する必要があります。
見るべき数字② スパン ― レイアウト効率を左右する構造寸法
スパンとは、柱芯から柱芯までの距離です。
同じ面積でも、スパンの取り方によって使いやすさは大きく変わります。
例えば、以下は整形でレイアウトしやすい物件です。
- 6,900mmが3回連続する空間
- 7,200mmが4回連続する空間
一方で、柱が多い、スパンが細かい、空間が折れ曲がるといった物件では、執務席や会議室の配置効率が落ちます。
テナントが求めているのは広さではなく、無駄なく使える空間です。
そのためスパンは単純な寸法ではなく、どれだけ連続しているかまで確認する必要があります。
特に島型デスクを並べる一般的なオフィスでは、同じスパンが連続するほどレイアウトしやすくなります。
見るべき数字③ 最狭有効幅 ― 運営上の制約を決めるボトルネック
物件を見る際、多くの人は広い部分に注目しますが、実際に問題になるのは「最も狭い部分」です。
例えば、エントランスやEVホール前、コア周辺や搬入動線などです。
デスクや書庫は最も狭い箇所を通過できなければ搬入できないため、通路幅も重要になります。
一般的な目安は以下の通りです。
- メイン通路:1,200mm以上
- 最低通路幅:800mm以上
これを下回ると「人がすれ違えない」「椅子を引くと通れない」「台車搬送が難しくなる」といった問題が生じます。
最狭有効幅は図面上の平均値ではなく、実測による最低値を確認することが重要です。
3つの重要指標を見極めるための確認ポイント5点
オフィスの価値を判断する際は、次の5項目を確認してください。
- 入口の有効開口幅:ドア枠やクローザーを含めて実測
- 代表スパン:執務席を配置する想定エリアの柱芯間距離を確認
- コア前最狭幅:搬入動線のボトルネックを確認
- 柱から壁までの奥行き:収納や書庫の配置可否を確認
- 梁下最小高:会議室を想定するエリアで確認
計測は必ずmm単位で行い、最低値から記録することが重要です。
また、図面と現況が一致しているかも確認してください。
図面が古く、実測値と異なる場合はその図面を前提に判断するべきではありません。
まとめ:坪数ではなく「使える空間」で判断
同じ坪数、同じ賃料でも実際の価値は大きく異なります。
梁下最小高が確保され、スパンが整い、最狭有効幅にも余裕がある物件は、テナントがレイアウトしやすい傾向があります。
その結果、次のような状態につながりやすくなります。
- 入居検討が進みやすい
- 退去リスクを抑えやすい
- 長期利用につながりやすい
一方で、坪数は同じでも最低値に問題がある物件は、レイアウト制約が増えます。
その差は募集条件には表れませんが、テナントは内見の段階で確実に評価しています。
物件の価値を判断する際に見るべきなのは坪数ではなく①梁下最小高、②スパン、③最狭有効幅という最低値です。
テナントに選ばれるオフィスを見極めるためには、まず最低値を見る。これがオーナーに求められる視点です。
こうしたレイアウト上の制約が見つかった場合でも、必ずしも大規模な改修が必要とは限りません。
どの部分を優先的に見直すべきか、費用対効果を踏まえたリニューアルの考え方については、こちらのコラムで詳しく解説しています。
あわせて読みたい: [ オフィスリノベーションのポイント6選|空室対策・費用・設計の考え方を解説 ]
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2026年1月27日執筆