複数賃貸ビルオーナー必見:マルチ・マネージャー戦略:管理会社を複数活用してリスク分散と安定運営を両立する戦略

皆さん、こんにちは。
株式会社スペースライブラリの飯野です。
この記事は「賃貸オフィスビルの管理会社を探る~ビル管理業務の基本、大手管理会社の特徴、中小管理会社との比較ポイント~」のタイトルで、2025年8月25日に執筆しています。
少しでも、皆様のお役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願い致します。
1. はじめに:複数ビルを保有するオーナーの悩み
東京都心部のオフィス事情と変化
東京都内、とりわけ都心部では、オフィスビルの需要と供給が刻々と変化しています。景気動向や企業の新陳代謝、さらにはテレワークやハイブリッドワークの普及によって、以前ほどの面積を必要としないテナント企業も増えました。一方で、ITベンチ
ャー企業やスタートアップを中心に、リモートを前提としつつも「コア拠点」となるオフィスを確保しようとする動きも見られます。
こうした多様化するニーズに対して、複数棟のオフィスビルを保有するオーナーは、「空室率をいかに抑えるか」「建物の管理品質とブランドイメージをどう維持・向上させるか」という課題と常に向き合っています。コスト最適化を図ろうと、一社の管理会社にまとめて任せるのも一つの選択肢ですが、実際には以下のような懸念を持つオーナーも多いでしょう。
- 一社に任せきりだと、管理の質が落ちたときに打つ手が少ない
- 地域やビル特性に見合ったきめ細かい対応ができていない
- もっとアグレッシブなリーシング施策を試したいが提案が少ない
そこで近年注目されつつあるのが、「複数の管理会社と契約する」というマルチ・マネージャー戦略です。本レポートでは、複数管理会社導入によるマルチ・マネージャー戦略のメリット・デメリットや具体的な進め方を紹介し、東京都内で複数のオフィスビルを保有するオーナーの皆様にとって有益なヒントを提供します。
2. マルチ・マネージャー戦略とは何か
2-1. 単一管理 vs. 複数管理の基本的な違い
単一管理(フル一括委託)
- 特徴:所有する複数ビルすべてを、一社の管理会社に委託する形態です。
- メリット:
- 窓口の一本化:オーナーは一社とのみコミュニケーションを取ればよく、管理業務の煩雑さが軽減されます。
- 契約管理の簡素化:契約書やレポートが統一され、管理業務が効率化されます。
- ボリュームディスカウント:所有ビル数や延床面積に応じて、管理料率の優遇を受けられる可能性があります。
- デメリット:
- リスクの集中:管理会社の経営状況や担当者の能力に大きく依存し、リスクが集中します。
- 画一的な管理:地域やビル特性に合わせた柔軟な対応が難しく、画一的な管理になりがちです。
- 切り替えコストの高さ:管理会社の変更には、全ビルの管理体制を見直す必要があり、時間と費用がかかります。
マルチ・マネージャー戦略(複数管理)
- 特徴:ビルごと、エリアごと、または機能(リーシング、BMなど)ごとに、複数の管理会社と契約する形態です。
- メリット:
- リスクの分散:一社の経営悪化やトラブルが発生しても、全体への影響を最小限に抑えられます。
- 相互評価と透明性:各社の実績を比較評価しやすく、競争原理が働くことで、管理品質の向上を促進します。
- 専門性の活用:各社の得意分野を組み合わせ、ビル特性やテナントニーズに合わせた最適な管理が可能です。
- デメリット:
- コミュニケーションの複雑化:複数社との連携が必要となり、調整業務が増加します。
- ブランド・品質の統一性:管理会社ごとのサービス品質にばらつきが生じ、ビル全体のブランドイメージを維持するのが難しくなる可能性があります。
- コストの増加:管理業務の重複や調整コストが発生し、全体的なコストが増加する可能性があります。
2-2. マルチ・マネージャー戦略が注目される背景
不動産投資や資産保有が多様化する中で、地域や用途の異なる複数ビルを所有するオーナーが増えています。ビルごとに需要構造やテナント層が違うため、一社の管理ノウハウだけでは十分対応できない場合があるのです。
東京都内のオフィスビル市場は、グレードや立地、テナント層の多様化が顕著です。
例えば、スタートアップ企業には柔軟な契約条件や共用スペースの充実が求められる一方、大企業にはセキュリティ対策やブランドイメージの維持が求められます。
また、超高層ビルに大企業が集約していた時代から一変し、シェアオフィスやコワーキングスペース、ベンチャー向けの中小規模オフィスなど、「オフィスのあり方」が細分化しています。
大手管理会社に全ビルを一括委託していると、以下のような問題に直面しがちです。
- 地域ニーズを捉えきれない:都心五区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)と城東エリアではテナント特性が大きく異なっており、地域ごとのニーズを担当者が十分に把握できていな場合があります。
- 大手同士の横並び施策:同レベルの賃料設定や画一的な内装提案に留まり、付加価値が生まれにくい状況となりがちです。
- 提案力の停滞:大手管理会社からすると無数の物件の一つに過ぎず、機械的に画一的なサービスを提供しがちであり、オーナー固有のニーズを深堀りして、ビルごとの個性を活かした付加価値の創出を目指した提案が滞りがちです。
こうした懸念を解消するために、複数の管理会社と契約し、マルチ・マネージャー戦略を採用して、それぞれの強みを活かしつつリスクを分散するアプローチを選ぶオーナーが増えています。一つの管理会社に依存しない運営体制を整えることで、大手管理会社の豊富なネットワークを活用しながらも、別の管理会社によるきめ細かなサービスを補完的に受ける、といった柔軟性を確保できるのです。結果として、空室リスクが分散され、家賃水準の維持やテナント満足度の向上にも繋がりやすくなります。
3. リスク分散の意義
3-1. 管理会社固有リスクとは
管理会社にも企業としての固有リスクがあります。東京都内のビル管理を得意とする会社といっても、下記のようなリスクをゼロにはできません。
1 経営状態の悪化
管理会社もしくはその親会社が、突然の業績不振や合併・吸収により、担当部門の組織変更が発生するリスク。サービス品質の低下や担当者大量離脱に繋がるケースもあります。
2 優先度の問題
特に、大手管理会社の場合、「もっと大規模・高グレードの物件」を優先し、オーナーの物件が後回しにされることが起こり得ます。
3 担当者の異動・退職
管理の要となるのは、現場を仕切るPM(プロパティマネージャー)やBM(ビルマネージャー)担当者です。大手管理会社でも実際の最前線は担当者個人の力量に依存します。優秀な人材が抜けると、それだけでクオリティが下がる可能性があります。
3-2. 市場変化や地域特性のリスク
都心と郊外、オフィス街と商業エリアでは、必要とされるリーシング手法やテナント誘致のネットワークが異なります。一社だけで全エリア・全ジャンルをカバーしようとすると、ローカルな動向(地域特有のテナントニーズや賃料相場)を掴みきれないまま画一的な手法を押し通してしまう恐れがあり、結局どこかで最適化不足が起こり、空室やテナント離脱につながるリスクが大きいといえます。
特に東京のオフィスビル市場は、エリアごとに特性が大きく異なります。例えば、丸の内エリアでは大企業向けのハイグレードオフィスビルが中心である一方、渋谷エリアではスタートアップ企業向けのクリエイティブオフィスビルが中心です。それぞれのエリア特性に合わせた管理戦略が必要となります。
4. マルチ・マネージャー戦略導入のメリット
4-1. リーシング力・営業力の強化
複数の管理会社が同時にオフィス空室を埋めようと動けば、管理会社間の競合が生まれます。各社が自社ネットワークや仲介チャネルをフルに活用し、少しでも早くテナントを決めようと努力するため、結果的にオーナーの空室率低減に寄与しやすくなります。
4-2. テナント満足度向上と収益安定化
ビルごとに最適化された提案や細やかなサポートが受けられるため、テナントからのクレームや要望にも素早く対応しやすくなります。テナント満足度が高まれば、長期入居率が上昇し、収益の安定化につながります。
4-3. 専門性の使い分けでサービス向上
- ベンチャー向けオフィスに強い:IT系スタートアップの集客ノウハウやコミュニティづくり
- 大手企業向けオフィスに強い:充実した施設管理メニューや高グレードな内装提案
- サブリースや一棟貸しに強い会社など
このように、物件のタイプや立地に合わせて複数の管理会社を組み合わせれば、トータルの運営品質が一社委託時よりも高まる可能性があります。
4-4. 管理コストの最適化
一見、複数社に委託するとコストが増えるように思えます。しかし、必要なサービスだけを選択して発注できるため、無駄なパッケージ料金を払わなくても済むケースがあります。また、複数社に見積もりを取る過程でコスト比較ができ、結果的に管理料の引き下げ交渉が進むこともあるでしょう。
4-5. ノウハウの多元化とイノベーション
複数の管理会社と意見交換するうちに、オーナー自身が異なる管理モデルや運営手法を学べるメリットは大きいです。たとえば、ある会社が提案する最新のオフィスレイアウトやテナント誘致策を、別のビルでも横展開できるかもしれません。この過程でオーナーとしての経営スキルが向上し、不動産運用全体のイノベーションにつながることがあります。
5.マルチ・マネージャー戦略導入のデメリット・注意点
複数管理会社を導入する際には、以下の点に注意が必要です。
5-1. 総コストの上昇
- 一括契約と比較してボリュームディスカウントが適用されにくいため、管理報酬全体が上昇する可能性があります。
- 複数の管理会社の調整を外部コンサルタントに委託する場合、追加費用が発生します。
5-2. 管理対象の切り分け
- 複数棟の建物や隣接する複数のビルを管理する場合、管理会社の担当範囲を明確に定める必要があります。
- 責任範囲が曖昧になると、トラブル発生時の対応が遅れる可能性があります。契約段階で詳細な取り決めが必要です。
5-3. 統一的な方針・品質管理の困難さ
- 複数の管理会社が関わることで、各社のオペレーションの違いから、統一感のあるビル管理やブランディングが難しくなる場合があります。
- オーナーが求める一定水準の管理・保守品質を維持するために、管理会社間の連携と情報共有が重要です。
5-4. 情報・ノウハウの分散リスク
- 管理会社ごとにレポート形式やKPI設定が異なると、オーナー側での情報集約・分析が困難になります。管理会社が情報を囲い込むことで、オーナーが全体の状況を把握しにくくなるリスクがあります。
- 必要な情報を一元化する仕組みを構築し、情報共有を促進することが重要です。
6. ケーススタディ:実際の活用例
6-1. 都心部でオフィスビルを複数保有する事例
A氏は東京都港区に2棟、千代田区に1棟のオフィスビルを保有していた。最初は大手管理会社Xに一括で委託していたが、空室率や賃料水準が思うように改善しない状況に不満を感じていた。X社にとってA氏の3棟は「ミドルグレードのビル」であり、より大型・高額案件に比べ後回しにされている印象がありました。
そこで、港区の2棟はX社のまま、千代田区の1棟を別のY社へ切り替えた。Y社は千代田区周辺の高層ビルや中規模オフィスへのリーシング実績が豊富で、かつ地元の仲介業者との関係が強かった。結果的に空室区画にIT系企業をすばやく誘致し、競合ビルより高い賃料設定で成約できた。この成功を機にA氏は残り1棟も徐々にY社へ移行し、結果的にお互いの成長を促す形になりました。
6-2. 新築オフィスビルと既存ビルを組み合わせた運営事例
このビルのオーナーは、すでに御徒町周辺で複数のオフィスビルを保有していましたが、これまでは主に大手管理会社A社に任せていました。しかし、新築ビルが加わったことで、「従来からの中小規模ビル」と「最新鋭の高グレードビル」を別々の管理会社に委託するようにしました。
- 既存ビル群:地域密着型で中小テナント誘致に長けたB社に継続依頼
- 新築ビル:空室埋めや大手企業への訴求に実績のあるC社に委託
この結果、B社は従来と変わらないかたちで周辺マーケットを熟知した営業を行い、一方のC社は新築ビルの魅力を活かしたバリュエーションを積極的にPRする方針を打ち出した。両社が各々の物件で実績を競い合うため、テナント探しの速度や提案内容に相乗効果が生まれ、オーナー全体のポートフォリオ安定にも寄与しました。
6-3. 複数会社の組み合わせパターン
- パターンA:大手管理会社+地域密着型管理会社
大手のネットワークを活かしつつ、地域特性に強い小回りの利く会社を補完的に活用
- パターンB:用途別・グレード別に管理会社を切り分ける
同じ港区内でも、ハイグレードビルとミドルグレードビルを別会社に割り振る
- パターンC:リーシング特化型とBM特化型を分ける
リーシング部門の強い会社に空室対策を重点的に依頼し、日々の設備管理や清掃は設備・清掃系に強い別会社が担当
7. マルチ・マネージャー戦略の運営ポイント
7-1. 初期方針の策定とビル特性の分類
まずは、「なぜ複数管理会社を導入するのか」を明確にしましょう。
- 空室率の改善
- リスク分散
- 新築ビルのブランド戦略
- 修繕等、トラブル対応の迅速化
それぞれのビルの築年数・グレード・立地・ターゲットテナント層を一覧化し、どのような管理会社が最適かを検討します。
7-2. 業務範囲と連携ルールの明確化
複数管理会社が接する部分(例えば駐車場や共有エントランス)がある場合、契約書で責任範囲を明確化しないと、清掃や設備点検に漏れが生じやすいです。「会社Aは日常清掃を担当し、会社Bは定期清掃・設備保守を担当」といった具合に、業務分担をきちんと定義しておくことが大切です。
7-3. 定期的なレビューと評価制度
複数管理会社を導入する最大の強みは、比較検討がしやすい点です。各社が提出するレポートを定期的に見比べ、空室率の変化、家賃単価の推移、テナント満足度のヒアリング結果などを可視化しましょう。成果を上げている会社にはインセンティブを与え、伸び悩んでいる会社には改善要求を行うことで、長期にわたるモチベーションを維持できます。
7-4. 総合窓口(コーディネーター)の活用
複数の管理会社が関わると、オーナー自身がすべてを把握するのは大変です。とくに10棟以上保有するような大型オーナーの場合は、複数の管理会社のコーディネーターを立てるのも有効です。社内に専門人材を配置してもいいですし、外部のコンサル会社に依頼してもかまいません。複数の管理会社との連絡・調整を一本化し、オーナーは最終意思決定に注力する体制が整えば、複数管理会社のメリットを享受しやすくなります。
7-5. コミュニケーション手段の整備とIT活用
進捗共有やタスク管理を一元化、管理レポート、必要な書類や写真、図面などを閲覧できるクラウド型プロジェクト管理ツールの導入も検討課題です。このようなITツールを駆使することにより、物件ごとに管理会社が異なっても、見落としや二重対応を防ぎ、複数の管理会社の連絡・調整を効率的に行うことができるかもしれません。
8. 管理会社の選び方:チェックリスト
最適な管理会社を選ぶためには、以下の項目を慎重に評価することが重要です。
8-1. 実績・専門分野の把握
- エリア実績:
- 管理会社が重点を置いているエリアを確認します。特に、所有物件が所在するエリアでの実績は重要です。
- 例:中央区、港区、新宿区、渋谷区など、特定のエリアに強みを持っているか。
- テナント層:
- 管理会社が得意とするテナント層を確認します。
- 例:大手・上場企業が多いか、中小・ベンチャー企業が多いか。
- 成功事例:
- 類似規模・グレードのビルにおける成功事例を確認します。具体的な成果や実績を把握することで、信頼性を判断できます。
8-2. 費用体系と見積もり比較
- PMフィー(プロパティマネジメント費用):
- 家賃収入に対する割合(◯%)や固定金額など、費用体系を確認します。
- リーシング手数料:
- テナント成約時の手数料を確認します。
- 例:月額賃料の◯ヶ月分など。
- BM費用(ビルマネジメント費用):
- 設備点検、清掃、警備などの実費やマージンを確認します。
- 追加サービス:
- リニューアル提案、改修プロジェクト管理などのコンサルティング費用を確認します。
- 費用対効果:
- 最安値だけでなく、サービス内容や付加価値とのバランスを考慮することが重要です。
8-3. チーム体制と担当者の安定性
- 担当者の経験と能力:
- 担当者の経験年数や専門知識を確認します。
- サポート体制:
- 担当者へのサポート体制やバックアップ人員の有無を確認します。
- 担当者の安定性:
- 担当者の異動頻度を確認し、長期的な関係を築けるかを見極めます。
8-4. 組織の健全性と信頼度
- 財務状況:
- 過度な赤字決算や債務超過がないかを確認します。
- コンプライアンス意識:
- 不正請求や下請けトラブルの有無を確認します。
- 社内教育・研修体制:
- 担当者を育成する仕組みが整っているかを確認します。
8-5. レポーティングや契約更新条件
- 報告フォーマットの統一:
- 複数管理会社を利用する場合、最低限のレポート項目を統一できるかを確認します。
- 契約更新条件:
- 契約更新のタイミングや手続き、解約時のペナルティなどを確認します。
- 緊急対応の体制:
- 夜間・休日のトラブル時に迅速に対応できるかを確認します。
9. マルチ・マネージャー戦略の具体的な導入ステップ
マルチ・マネージャー戦略をスムーズに導入するためには、以下のステップを踏むことが重要です。
9-1. 現状分析と社内(オーナー側)意見集約
- 現状分析:
- 現在の管理体制における問題点を洗い出し、複数管理会社化の目的を明確にします。
- 社内意見集約:
- 経営陣、財務担当、運営担当などの意見をまとめ、優先順位を設定します。
9-2. 管理会社へのRFP(提案依頼)
- RFP作成:
- 複数の候補管理会社に対し、ビルの概要、現状の課題、要望をまとめたRFPを提示します。
- 提案内容の比較:
- 各社の提案内容、見積もり、チーム編成などを比較しやすいようにフォーマットを統一します。
9-3. 比較検討とプレゼンテーション
- 候補の絞り込み:
- RFP回答をもとに、費用、担当者、実績などの総合点で上位候補を絞り込みます。
- プレゼンテーション:
- 最終候補の数社にプレゼンテーションを依頼し、担当予定者と直接面談してフィーリングを確認します。
9-4. 複数契約の締結と業務開始準備
- 契約締結:
- 契約条件を慎重に確認し、契約を締結します。
- 業務開始準備:
- 鍵やセキュリティの移管、テナントへの周知、清掃・保守業者との連携切り替えなど、管理会社ごとに調整を行います。
- 進捗管理:
- プロジェクト管理ツールなどを活用し、進捗を可視化します。
9-5. モニタリングとPDCAサイクル
- 定期レポートとKPIモニタリング:
- 運営開始後は、定期レポートやKPIモニタリングをもとにPDCAサイクルを回します。
- 評価と改善:
- 空室率、賃料推移、修繕やトラブルの対応状況などを総合的に評価し、必要に応じて契約内容や運営方針を修正します。
10. 今後の展望:多様化する管理ニーズにどう備えるか
オフィスビル市場は、テクノロジーの進化、働き方の変化、テナントの多様化など、多くの要因によって急速に変化しています。このような状況下で、ビルオーナーは将来を見据え、多様化する管理ニーズに柔軟に対応していく必要があります。
10-1. テナント満足度向上とブランド強化
- 競争によるサービス向上:
- 複数管理会社の導入は、サービス品質の向上を促します。各社が競争することで、テナントへの対応速度、設備管理の質、清掃の徹底度など、あらゆる面でサービスの向上が期待できます。
- テナントは、より質の高いサービスを提供するビルを選ぶ傾向にあります。複数管理会社によるサービス競争は、テナント満足度を高め、結果としてビルのブランド価値向上につながります。
- 差別化されたサービス:
- 各管理会社が独自の強みを生かしたサービスを提供することで、ビル全体の付加価値を高めることができます。例えば、ある会社はテナント交流イベントの企画に強く、別の会社は最新の省エネ技術に精通しているといった具合です。
- テナントの多様なニーズに応じた、きめ細やかなサービスを提供することで、テナントの満足度を向上させ、長期的な入居を促進します。
10-2. リスク分散からイノベーション創出へ
- 多角的な視点とアイデア:
- 複数管理会社の導入は、リスク分散だけでなく、イノベーションの創出にもつながります。各社が持つ異なるノウハウやアイデアが融合することで、新たなサービスや管理手法が生まれる可能性があります。
- 例えば、テナント向けの内装提案、共用スペースの有効活用、地域コミュニティとの連携など、多岐にわたるアイデアが生まれることが期待されます。
- オーナーと管理会社の共創:
- オーナーと管理会社が協力し、ビルの付加価値を高める取り組みが重要になります。管理会社の専門知識とオーナーのビジョンを組み合わせることで、テナントにとって魅力的なビルを実現できます。
- 管理会社同士のノウハウの共有をオーナーが促すことで、よりイノベイティブな提案が生まれやすくなります。
10-3. DX・IT活用の加速と複数社連携
- データ連携と効率化:
- クラウドシステムやIoT機器を活用したビル管理が普及する中、複数管理会社とのデータ連携が重要になります。オーナーが共通のプラットフォームを提供し、各社がデータを共有することで、効率的なビル管理が可能になります。
- 例えば、エネルギー消費量、設備稼働状況、テナントからの問い合わせ情報などを一元管理することで、迅速な意思決定や問題解決が可能になります。
- AIによる高度な管理:
- 将来的には、AIを活用したビル管理がさらに進化することが予想されます。空調管理の最適化、テナント満足度の予測、異常検知など、AIによる高度な分析と自動化が進むでしょう。
- 複数社で、AIなどを活用したデータを共有することで、より精度の高い予測や、より効率的な管理が可能となります。
- セキュリティの強化:
- DX化が進むと同時に、サイバーセキュリティ対策も重要になります。複数社でセキュリティ情報を共有し、連携して対策を行うことで、より強固なセキュリティ体制を構築できます。
11. まとめ:マルチ・マネージャー戦略はオーナーと管理会社のWin-Winを生む
東京都内で複数のオフィスビルを保有するオーナーにとって、一社への一括委託は分かりやすい反面、リスク集中やサービス停滞の問題をはらんでいます。そこで注目されるのが、物件の特性やエリアに合わせて複数の管理会社と契約、マルチ・マネージャー戦略を採用し、リスク分散とサービス最適化を同時に狙うアプローチです。
- メリット:競争原理によるサービス向上、専門性の使い分け、オーナー自身の運営ノウハウ向上など
- デメリット:コミュニケーションの複雑化、コスト増、品質管理のばらつきなど
しかし、適切な方針策定や契約範囲の明確化、定期的な評価システムの導入により、これらのデメリットは十分にコントロール可能です。むしろ、複数管理会社それぞれが強みを発揮し、お互いに成長を促す関係が築ければ、オーナー側は安定した収益と物件価値向上を得られ、管理会社側も顧客満足度の高い実績を積むことができます。
ニュースでも、新築のオフィスビルが竣工する際に、あえて管理会社を分けて運用するオーナーが増えてきています。今後、働き方改革やDX化の進展に伴い、オフィスニーズはさらに多様化し、物件ごとに最適な管理手法を選ぶ重要性が増すでしょう。最後に、本レポートの要点を振り返ると以下のとおりです。
- マルチ・マネージャー戦略導入の背景:都内のオフィスマーケット変化や管理会社リスクへの対処
- メリットとデメリットの整理:サービス向上やリスク分散、反面コミュニケーション難度やコスト増
- ケーススタディ:都心の複数ビルオーナーA氏や、NEWS X 御徒町ビルの新築運営事例など
- 運営ポイント:明確な方針設定、責任範囲の定義、総合窓口やIT活用による調整の効率化
- 将来展望:DXやテナントニーズ多様化に対応し、リスク分散がイノベーションを促す可能性
複数ビルを保有しているからこそ、物件ごとに最適な管理会社を組み合わせられるという強みを活かし、ビルオーナーとしての資産価値最大化を図ってみてはいかがでしょうか。複数社と協業することで生じる新たな気づきやノウハウの蓄積は、長期的な不動産経営の安定と成長をもたらすはずです。
マルチ・マネージャー戦略の活用は、オーナーと管理会社の両者がWin-Winの関係を構築できる手段として、今後ますます重要になっていくでしょう。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2025年8月25日執筆
