オフィスのトイレをリフォームする際に気を付けるポイント5点
皆さんこんにちは。
株式会社スペースライブラリの鶴谷です。
この記事はトイレをリフォームする際に気を付けるポイントについてまとめたもので、2025年10月29日に執筆しています。
少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思っています。
どうぞよろしくお願い致します。
オフィスビルが経年劣化によって古くなり、改修の必要性を感じたとき、まず優先的に検討したいのがトイレのリフォームです。使用頻度が高く、清潔感やデザイン、カラーリングの好みなど、テナントや利用者それぞれのニーズが分かれる設備だからです。また、空室対策としても重要であり、ビルの印象を左右する要素でもあります。
本コラムでは、オフィスのトイレをリフォーム・リノベーションする際に注意しておきたい5つのポイントを挙げ、それぞれ詳しく解説します。必要最低限の基準から、より快適で品のあるオフィスビルをつくるための視点まで、幅広く確認していきましょう。
1.【平面配置1】エレベータホールからトイレの入り口が見えていませんか?
「品のあるオフィスビル」を目指すうえで、まず気を付けたいのがトイレの入り口の位置です。エレベータを降りたときやエレベータホールで待っているときに、トイレの入り口が直接見えるレイアウトはできるだけ避けたいところです。
これはプライバシー確保の観点からも、昨今の主流となっています。トイレのドアがエレベータホールから丸見えだと、利用者は少し落ち着かないかもしれません。また、雰囲気のよいオフィスビルとしてアピールしたい場合も、トイレの入り口が目立ちすぎると全体のイメージを損なうおそれがあります。
もし、エレベータホールからトイレの入り口が視線に入るレイアウトになっている場合は、廊下の配置やトイレの入り口の位置を再検討し、できる限り目立たないようにリノベーションを進めましょう。その際、貸室面積をなるべく減らさない工夫をしながら、トイレや給湯コーナーなどの水回りをうまく再配置していくことが大切です。
2.【平面配置2】トイレの箇所数は足りていますか?
次に注意したいのが、トイレの便器数や洗面台数など「箇所数」が適正かどうかです。利用者数に対して便器が少ないと、どうしても待ち時間が発生しやすくなり、ストレスが高まります。反対に、便器数が多すぎると貸室面積を圧迫するため、賃料収入への影響が懸念されます。
●待ち時間のレベル
- ・レベル1: ほとんど待ち時間がなく、非常に良好なサービスレベル
- ・レベル2: 一般的なサービスレベル
- ・レベル3: 最低限のレベル
賃貸オフィスビルの収益を重視するなら、必ずしもレベル1を目指す必要はありません。しかし、最低限のレベル(レベル3)では「トイレがいつも混んでいる」「男女で兼用している個室がひとつだけ」という状態になりかねません。そのため、余裕があればレベル2を目指す配置にしておくほうが、結果的にはテナント満足度の向上につながります。
●法的な基準(事務所衛生基準規則)
オフィス(事務所)においては、労働安全衛生法の事務所衛生基準規則で**トイレの最低必要個数(レベル3相当)**が定められています。具体的には、次のように便器数が設定されています(例としてオフィスの天井高2.5mで、男性7割の職場の場合、女性5割の職場の場合を想定)。
- ・男性用大便所の便房数: 同時に就業する男性労働者60人以内ごとに1個以上
- →男性7割の職場で事務所面積342㎡(約103坪)以内ごとに1個以上
- ・男性用小便所の箇所数: 同時に就業する男性労働者30人以内ごとに1個以上
- →男性7割の職場で事務所面積171㎡(約51坪)以内ごとに1個以上
- ・女性用便所の便房数: 同時に就業する女性労働者20人以内ごとに1個以上
- →女性が5割の職場で事務所面積160㎡(約48坪)以内ごとに1個以上
同時に就業する労働者が常時10人以内の場合は、男女を区別しない「独立個室型の便所」を1つ設置すれば基準を満たすなど、例外的な規定もあります。しかし、これはあくまで最低限の基準です。実際には、便器がひとつきりだと誰かが使用中の場合、常に待ちが発生します。
●レベル2への配慮
ある程度の余裕を持たせるためには、女性用便所の便房数や洗面台数は2つ以上確保する、男性用小便所も2カ所以上設けるなど、混雑が起きにくい配置にするのがおすすめです。特に女性用トイレは混雑しやすいため、便房数や洗面スペースの広さも重視したいポイントといえるでしょう。利用者目線で「どこで混雑し、どのくらい待つのか」をイメージしながら、無理のない計画を立てるとスムーズです。
3.排水経路は素直に確保されていますか?
トイレのリフォーム・リノベーションを検討するときに見落としがちな要素が、排水経路です。水回りの工事には給排水工事が伴い、特に排水縦管の位置をよく確認して計画を進める必要があります。
- ・既存の縦管をできるだけ活用するのがセオリー
- ・トイレ配置を大きく変える場合、横引き管のルートも大幅に変わる可能性がある
- ・横引き管の勾配をスラブ(床)の上で取るか、スラブを貫通して下階の天井裏で取るかを慎重に検討
基本的にはリフォーム前と同じ配管方法が望ましいですが、床の段差や天井裏のスペースなどの制約から、どうしても変更を余儀なくされるケースもあります。スラブ上で勾配を取ると廊下や室内に段差が生じ、バリアフリーの観点から好ましくない場合があります。一方で、スラブ下を通す場合は下階の天井裏を工事する必要があり、工期や費用が増える可能性が高いです。
どちらを選択するにしても、建物の構造や階高、既存天井の状況などを踏まえたうえで、最適解を探ることが重要です。段差の発生や勾配不足による詰まりなど、不具合が起きないように慎重に計画を立てましょう。
4.衛生管理・ニオイ対策は十分ですか?
トイレをリフォームする際、衛生管理とニオイ対策は見落とせない重要ポイントです。どんなにデザイン性を高めても、ニオイや汚れが目立つようでは利用者の不満につながりやすいからです。清潔感を維持するためにも、以下のような点を意識しましょう。
4-1. 清掃性を考慮した仕上げ材の選定
床や壁の仕上げ材によっては、汚れがつきやすかったり落ちにくかったりすることがあります。特に目地が多いタイルや、表面がザラザラした素材は汚れが蓄積しやすいため、清掃性を考慮した素材やコーティングを選ぶのがおすすめです。汚れがたまったときに簡単に拭き取れるかどうか、清掃スタッフの手間やコストにも配慮しましょう。
4-2. 換気設備の強化と消臭機能の導入
トイレのニオイ対策として、換気扇の風量アップや排気ダクトの増設、あるいは脱臭機の導入などを検討すると効果的です。機械換気が不十分だと、こもったニオイがなかなか排出されず、利用者に不快感を与えます。近年は、天井埋め込み型の消臭・脱臭装置や自動消臭機能付きの便器など、さまざまな選択肢があります。導入コストはかかるものの、快適な空間づくりに直結するため、リフォーム時に合わせて検討するとよいでしょう。
4-3. 手洗い・衛生用品の充実
洗面台の数やハンドソープ、ペーパータオル・ジェットタオルなど、清潔を維持するための設備も大切です。オフィスであれば、従業員だけでなく来客が使うケースも考えられます。洗面スペースが狭いと水はねや混雑を起こしやすく、清潔感を保ちにくい要因となります。
また、感染症対策の観点から、自動水栓(センサー式)や非接触型のハンドドライヤーなどの導入も検討してみましょう。設備を充実させることで、衛生環境の向上だけでなく、企業のイメージアップにもつながります。
5.バリアフリー・ユニバーサルデザインを意識していますか?
オフィスビルの利用者は、年齢や身体的状況など実にさまざまです。快適なオフィス環境を整えるうえで、バリアフリーやユニバーサルデザインの視点は欠かせません。バリアフリーに対応したトイレを整備することで、より多様な人々に使いやすいオフィスを実現できます。
5-1. 段差の解消
前述の排水経路の問題と関連して、段差の解消は大きな課題となります。スロープや手すりの設置、車いす利用者が回転できるスペースの確保など、法的な基準だけでなく実際の使いやすさを考慮した計画が重要です。
5-2. 多目的トイレの設置
車いす利用者だけでなく、高齢者や妊婦、乳幼児連れの利用者など、さまざまな人々が安心して使える多目的トイレを設けることも検討しましょう。洗面台やベビーベッド、緊急呼び出しボタンなどが備わった多目的トイレは、ビルの価値を高める大きなポイントです。
5-3. 安全性と快適性
手すりの位置やドアの開閉方向、床の素材選びなど、高齢者や身体障がい者に配慮した設計はもちろん、全ての利用者が快適に使える工夫を意識しましょう。実際に車いすでの動きをシミュレーションするなど、リフォーム前にしっかりと確認しておくことが重要です。
まとめ
オフィスのトイレをリフォームする際は、まずは平面配置やトイレの箇所数、排水経路をプロの視点で見直してもらうのがおすすめです。とくに以下の5つのポイントに注目すると、利用者の満足度を大きく左右する要素を押さえられます。
- 1.エレベータホールからトイレの入り口が直接見えていませんか?
- プライバシーの確保や品のあるオフィスのイメージづくりに大きく影響。
- 2.トイレの箇所数(便器・洗面台など)は十分ですか?
- 待ち時間を減らしつつ貸室面積を確保する、バランス感覚が重要。
- 3.排水経路は素直に確保されていますか?
- スラブ上・下の配管ルートや勾配を慎重に検討し、段差や詰まりを回避。
- 4.衛生管理・ニオイ対策は十分ですか?
- 仕上げ材の選択や換気設備の強化など、清潔感を維持するための工夫。
- 5.バリアフリー・ユニバーサルデザインを意識していますか?
- 段差の解消や多目的トイレの設置など、誰もが使いやすい空間づくり。
リフォーム費用と施工会社の選び方
トイレのリフォーム費用は、**便器1台あたり約100~200万円(洗面台や内装費用を含む)**が一般的な目安です。デザイン性の高い設備を導入したり、排水方式を大幅に変更したりすると、費用がさらにかさむ場合があります。機能面やデザイン性を優先しすぎると、工事の複雑化によるトラブルを招く可能性もあるため、建物診断の知見を持つ設計・施工会社とともに無理のない計画を立てることが大切です。
リフォームやリノベーションは既存建物を活かして進めるため、建物の図面や現況の調査が欠かせません。給排水設備や構造の制約、必要なバリアフリー対応の範囲などを事前にしっかり把握し、プロと十分に打ち合わせを行いましょう。トイレの使いやすさは、オフィスビル全体の満足度とイメージにも大きく影響します。テナントや利用者の立場に立った配慮を積み重ね、より魅力的なオフィスを実現してください。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
設計チーム
鶴谷 嘉平
1994年東京大学建築学科を卒業。同大学大学院にて集合住宅の再生に関する研究を行いました。
一級建築士として、集合住宅、オフィス、保育園、結婚式場などの設計に携わってきました。
2024年に当社に入社し、オフィスのリノベーション設計や、開発・設計(オフィス・マンション)を行っています。
2025年10月29日執筆