オフィスをリノベーションする際の減価償却の考え方とは?
皆さんこんにちは。
株式会社スペースライブラリの鶴谷です。
この記事はオフィスをリノベーションする際の減価償却についてまとめたもので、2025年11月7日に執筆しています。
少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。
オフィスビルなどの建物や車両といった資産は、年数の経過とともに価値が減少していきます。こうした価値の減少分を経費として、耐用年数にわたり計上していく会計処理を「減価償却」と呼びます。
減価償却を行うことで、企業は毎年その分の経費を多く計上できるため、利益が減って税金の負担を軽減できる効果があります。
今回は、オフィスビルのリノベーションをご検討されているオーナー様に向けて、リフォーム・リノベーション費用の減価償却の仕組みや計算方法、そして耐用年数について解説します
1.資本的支出とは
リフォームやリノベーションを行った場合、その費用は「資本的支出」か「修繕費」のどちらかに区分されます。費用を減価償却できるかどうかは、まずその費用が「資本的支出」に該当するかで判断されます。
「資本的支出」とは、固定資産の修理・改良のために支出した費用のうち、その資産の使用可能期間を延長し、または価値を増加させる部分に対応する金額を指します。
2.減価償却費の計算
原則として「資本的支出」にあたる工事費用は、もともとの減価償却資産と種類・耐用年数が同一の新たな資産を取得したものとして取り扱われ、そこから減価償却費を計算します。
一方、資産の通常の維持管理や資産の原状回復を目的とする支出(=「修繕費」)は、その支出があった年に一括して経費計上が可能です。
3.修繕費とは
以下に該当するものは「修繕費」として処理できます。
- ・修理・改良のために要した費用が20万円未満の場合
- ・修理・改良などが、おおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績等から明らかな場合
- ・原状を回復するために支出した費用
また、修理・改良費用のうち「資本的支出」か「修繕費」かが明らかでない金額がある場合、次のいずれかに該当するときは修繕費として損金経理をすることができます。
- ・その金額が60万円未満の場合
- ・その金額が、その修理・改良などを行った固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
4.減価償却とは
賃貸経営に限らず、建物などの減価償却資産は使用を続けるうちに経年劣化で年々価値が下がっていきます。そのため、取得時に全額を経費計上するのではなく、使用可能期間(耐用年数)にわたって分割で経費として計上していく必要があります。
これが「減価償却」の基本的な考え方です。建物だけではなく、室内外の設備や機械装置など、時間の経過によって価値が下がるものは対象となります。一方、土地のように価値が減らないものは対象外です。
なお、リノベーション工事の内容によっては、新設・交換した住宅設備なども減価償却の対象となりますが、単なる原状回復を目的とする「修繕費」に該当する場合は、工事の完了した年に一括経費として計上できます。
5.減価償却のポイント「耐用年数」とは
「耐用年数」とは、その資産がどれくらいの期間使えるかを示すものです。減価償却の対象となる建物や設備には、税法上「法定耐用年数」が定められており、その期間にわたって減価償却を行うことになります。
例えば、オフィスビルの建物の場合、以下のように構造によって法定耐用年数が変わります。
| 建物の構造 | 耐用年数 |
|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 50年 |
| 金属造(骨格材の肉厚が4mmを超えるもの) | 38年 |
建物附属設備の場合は、用途によって次のように定められています。
| 建物附属設備 | 耐用年数 |
|---|---|
| 冷房用・暖房用機器 | 6年 |
| インターホン | 6年 |
| 電気設備(照明設備を含む) | 15年 |
| 給排水・衛生設備、ガス設備 | 15年 |
6.リノベーション費用の減価償却計算方法
減価償却の計算方法には、「定額法」と「定率法」の2種類があります。資産の種類ごとに利用できる方法は決まっており、建物は定額法のみが原則ですが、建物附属設備は定率法も選択可能です(もちろん定額法で計算することも可能です)。
【建物】定額法の計算方法
**「リフォーム費用 × 定額法の償却率」**で求めます。
たとえば、金属造(骨格材の肉厚が4mm超)に分類される建物を1,000万円かけて改装した場合、耐用年数が38年で償却率が0.027と定められているので、
1,000万円 × 0.027 = 270,000円
となり、年間27万円を減価償却費として計上します。
(参照)国税庁:減価償却資産の償却率表
【建物附属設備】定率法の計算方法
**「(リフォーム費用 - 償却累計額) × 定率法の償却率」**で求めます。
たとえば、共用部のトイレ(給排水・衛生設備、耐用年数15年)を500万円かけて更新した場合、償却率は0.133となります。
1年目:
(5,000,000円 − 0) × 0.133 = 665,000円
2年目:
(5,000,000円 − 665,000円) × 0.133 = 576,555円
…というように、年を追うごとに計上できる額が減少していきます。
定額法・定率法 それぞれの特徴
- ●定額法のメリット
- ・計算がシンプルで、初期の減価償却費が定率法に比べて少ないため、初年度の経費を抑えられます。
- ・デメリットとしては、建物などの収益力が下がり保守費用が増えてくる後年になるほど、減価償却費の負担比率が高くなる点が挙げられます。
- ●定率法のメリット
- ・早い段階で多く費用計上できるため、投資額の回収を比較的早められます。
- ・デメリットとしては、初期の償却負担が大きくなることで、早期に利益を圧迫する可能性があるほか、年数が経過するにつれて節税効果が薄れていきます。
7.まとめ
オフィスビルのリノベーションの際は、単純に工事費だけを考えるのではなく、減価償却や耐用年数の知識を踏まえて資産運用を検討することが、節税対策にもつながります。
同じ工事内容でも「資本的支出」に当たるのか「修繕費」に当たるのかで処理が大きく変わる場合もありますので、詳細は施工会社や信頼できる税理士など専門家に相談されるのがおすすめです。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
設計チーム
鶴谷 嘉平
1994年東京大学建築学科を卒業。同大学大学院にて集合住宅の再生に関する研究を行いました。
一級建築士として、集合住宅、オフィス、保育園、結婚式場などの設計に携わってきました。
2024年に当社に入社し、オフィスのリノベーション設計や、開発・設計(オフィス・マンション)を行っています。
2025年11月7日執筆