古い賃貸オフィスビルの内装をどう変える?人材に選ばれる空間づくりの実務ポイント
築古オフィスビルの競争力は、立地や賃料だけで決まる時代ではありません。近年は人材確保や出社回帰の流れを背景に、働く環境そのものが企業の重要な経営課題になっています。そのため、内装は単なる見た目の改善ではなく、採用力や社員定着率にも影響する要素として注目されています。
本コラムでは、テナントに選ばれる内装の条件や、築古ビルでも実践できる改善ポイントについて解説します。
- どんな人向け?
- 築20〜40年程度のオフィスビルを所有・運営しているオーナー
- 空室対策や物件価値向上のためにリノベーションを検討している方
- テナントに選ばれるオフィスづくりのポイントを知りたい方
- 本コラムのポイント
- テナントは内装のデザインだけでなく、働きやすさや管理状態まで見ている
- 築古ビルでも印象・機能・柔軟性を整えることで競争力を高められる
- 大規模改修を行わなくても、共用部や設備の改善によって価値向上は可能である
- 結論
築古ビルが選ばれない理由は、築年数そのものではありません。テナントが求めているのは、清潔で快適に働ける環境と、企業活動を支える機能性です。内装を単なる修繕ではなく、人材確保や企業成長を支える空間投資として捉えることで、築古ビルでも十分な競争力を発揮できます。重要なのは流行を追うことではなく、誰にどのような働き方を提供するのかを明確にし、その目的に沿った内装づくりを進めることです。
なぜ今、内装が人材確保のカギになるのか
かつてのオフィスは、机と椅子が並ぶ「作業場」として考えられていました。しかし現在、オフィスは企業の文化や採用力を映す空間へと変わっています。テレワークが広がった後だからこそ、企業は「なぜ社員が出社するのか」を改めて考えています。
その答えの一つが、社員が出社したくなる内装です。単にきれいな空間をつくるだけでは不十分です。社員が集中でき、来客に良い印象を与え、企業らしさを伝えられる空間であることが求められます。
つまり、内装は見た目の問題ではありません。テナント企業にとっては、採用・定着・組織づくりに関わる経営課題です。ビルオーナーにとっても、内装改善は空室対策ではなく、選ばれる理由をつくる投資です。
内装改善を含む築古ビルのバリューアップ施策については、以下のコラムでも詳しく解説しています。
あわせて読みたい: [ 築古の賃貸オフィスビルを魅力的に再生するリノベーション戦略 ]
テナントは内装のどこを見ているのか
テナント企業の内見では、総務担当者や移転担当者が細かく空間を確認します。
彼らは社員が毎日使う場所として物件を見るため、オーナーが思う以上に実務的な視点で判断しています。
| チェック項目 | 着目されるポイント例 |
|---|---|
| エントランス | 清潔感、明るさ、来客への印象 |
| 共用部 | 廊下・EVホールの古さ、照明、安全性 |
| 天井・床 | 開放感、OAフロア、配線のしやすさ |
| 照明・空調 | 照度不足、温度ムラ、快適性 |
| トイレ・給湯室 | 清潔感、臭い、使いやすさ |
| サイン類 | 案内表示の統一感、視認性 |
特に重要なのは、エントランス、廊下、トイレです。これらは社員も来客も必ず使うため、ビル全体の印象を決めます。
どれほど立地が良くても、共用部が暗く、古く、清潔感に欠けていれば、内見段階で候補から外されます。
築古ビルでも選ばれる内装の条件
築年数が古いこと自体は、必ずしも弱点ではありません。問題は、古さがそのまま放置されていることです。
適切に手を入れれば、築30年以上のビルでも「ここなら働きたい」と思わせることは可能です。
選ばれる築古ビルに必要な内装価値は、次の3つです。
- 印象:最初の数秒で「きちんとしたビル」と感じさせること
- 機能:空調、照明、配線、セキュリティが実務に耐えること
- 柔軟性:レイアウト変更や働き方の変化に対応できること
内装リノベーションでは、派手なデザインよりも、清潔感と使いやすさを優先すべきです。
白を基調にした壁、明るい照明、統一感のあるサイン、手入れされた床材だけでも、空間の印象は大きく変わります。
一方で、見た目だけを整えても不十分です。OAフロア、個別空調、通信環境、電源容量など、入居後に困らない機能が整っていなければ、テナントは長く定着しません。印象と機能を同時に整えることが、築古ビル再生の基本です。
共用部と専有部で優先すべき改善点
内装改善では、まず共用部から着手するのが有効です。
共用部は内見時の第一印象を決めるうえ、すべてのテナントが日常的に使う場所だからです。
| 区分 | 改善ポイント | 具体例 |
|---|---|---|
| 共用部 | エントランス | 床・壁・照明・サインの更新 |
| 共用部 | EVホール・廊下 | LED化、壁紙更新、視認性向上 |
| 共用部 | トイレ | 器具交換、臭気対策、照明改善 |
| 専有部 | 床・壁・天井 | OAフロア、クロス、床材更新 |
| 専有部 | 設備 | 空調ゾーン、照度設計、配線整備 |
特に費用対効果が高いのは、照明とトイレです。
照明をLED化し、明るさと色味を整えるだけで、古い印象はかなり薄れます。
トイレは社員の満足度に直結するため、器具や鏡、照明、臭気対策を優先して見直すべきです。
オフィスリノベーション全体の進め方や費用対効果については、以下のコラムも参考になります。
あわせて読みたい: [ オフィスリノベーションのポイント6選|空室対策・費用・設計の考え方を解説 ]
内装は「流行」ではなく「目的」で考える
最近は、グレージュ、ニューミニマル、ホームライクといった内装トレンドが語られます。
しかし、言葉だけをなぞっても意味はありません。大切なのは、その背景にある働き方を理解することです。
グレージュは落ち着きと安心感を生み、ニューミニマルは視覚的なノイズを減らし、ホームライクは緊張をやわらげます。
つまり、どれも「働く人が無理なく過ごせる環境をつくること」を目的としています。
オーナーが考えるべきなのは「流行の内装にすること」ではありません。このビルは誰に、どんな働き方を提供するのかを明確にすることです。小規模でも集中しやすい空間にするのか、来客導線を重視するのか、専有空間の落ち着きを強みにするのか。そこに方針があるビルは、築年数を超えて選ばれます。
今すぐできる実務アクション
大規模改修をしなくても、着手できる改善はあります。
- エントランスの汚れや不要物を取り除く
- 共用部照明をLED化し、明るさを統一する
- 廊下やEVホールの壁紙や床まわりの仕上げを更新する
- トイレの臭い対策と水栓まわりを見直す
- サインや掲示物を整理し、統一感を出す
これらは高額な演出ではありませんが、管理が行き届いている印象をつくるには十分です。
築古ビルでは何かを足すよりも、古さや統一感のない印象を取り除くことが先です。
まとめ
築古ビルが選ばれない理由は、築年数そのものではありません。
整っていない印象、使いにくさ、管理されていない空気感が敬遠されるのです。
内装は、テナント企業にとって採用力や社員定着に関わる重要な要素です。
だからこそ、ビルオーナーは内装を単なる修繕ではなく、人材確保を支える空間投資として捉える必要があります。
清潔で明るく、使いやすい環境を整えながら、テナントが自社らしく活用できる余白を残すことが重要です。
その積み重ねが、築古ビルの競争力をつくります。
古いことは弱みではなく、整っていないことが弱みです。
内装を見直すことは、ビルの印象を変え、空室対策と資産価値向上の両方につながる現実的な一手です。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2025年11月17日執筆