皆さんこんにちは。
株式会社スペースライブラリの飯野です。
この記事は築古の賃貸オフィスビルを魅力的に再生するリノベーション戦略についてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。
少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願い致します。

目次
  1. はじめに:新しい価値を創造する“リノベーション思考”
  2. 第1章:既存ビルのポテンシャルを最大化するために —— まずはビル診断
    1. 1-1. 外壁・構造・設備の劣化状況を正確に把握
    2. 1-2. 全体像を押さえつつ、投資配分を計画
  3. 第2章:大胆なファサード刷新を“身近なもの”にするためのポイント
    1. 2-1. 大規模ビルで培われた“外壁改修のノウハウ”
    2. 2-2. 中小規模ビルにおける工期・コストメリット
  4. 第3章:内装の意匠更新で“古さ”を感じさせない空間へ
    1. 3-1. エレベーターの内壁と制御装置の改修
    2. 3-2. 洗面所・流し台の刷新でクリーンなイメージを
  5. 第4章:機能面とデザイン面のバランス —— “見える改修”と“見えない改修”をどう同時 進行させるか
    1. 4-1. 基幹設備の老朽化対策
    2. 4-2. “見えるところ”と“見えないところ”の投資配分
  6. 第5章:投資効果を高めるためのプレゼン —— 数字とストーリーの両面で説得
    1. 5-1. 賃料アップ・空室率低減のシミュレーション
    2. 5-2. ランニングコスト削減と補助金活用
  7. 第6章:中小規模ビルでの“大胆リノベ”を成功させるステップ
    1. 6-1. ビル診断と課題整理
    2. 6-2. 外観・内装と基幹設備のバランス検討
    3. 6-3. 投資効果のシミュレーション
    4. 6-4. 設計・施工の実施とPR
  8. まとめ:大規模ビルと同じ発想を“自分サイズ”に応用する

はじめに:新しい価値を創造する“リノベーション思考”

築古、築30年内外の賃貸オフィスビルが抱える課題は、外観や内装の老朽化、陳腐化だけにとどまりません。企業の働き方やテナントニーズが大きく変化しているなかで、既存ビルがどう再生し、時代の要請に応えるかという視点が、今や不可欠となっています。

近年、都市の再開発エリアでは、大型ビルが先進的なファサード改修や内装リノベーション、設備アップデートなどを積極的に取り入れ、テナント誘致や賃料アップに成功する事例が増えてきました。しかし、これは大規模ビルだけの専売特許ではありません。中小規模の築古ビルでも「的確な診断と戦略的な投資」を行えば、見違えるほどイメージアップし、収益改善が見込めるのです。

本コラムでは、そうしたノウハウを「築30年前後のオフィスビル」にも十分応用できる点に焦点を当てながら、ビルオーナーが“投資したくなる”リノベーション提案の具体策を探っていきます。市場データや専門家(スペースライブラリ)の視点を交えつつ、事例を盛り込み、長期的にメリットを生む戦略づくりのポイントを解説します。

第1章:既存ビルのポテンシャルを最大化するために —— まずはビル診断

1-1. 外壁・構造・設備の劣化状況を正確に把握

リノベーションに取り組む際、まずはビル自体の現状を正確に把握することが肝心です。築30年のオフィスビルでは、外観の古さや設備の老朽化によるトラブルが潜在的な大きなリスクとなる一方で、丁寧に診断・調査すれば「まだ十分使える部分」や「効果的に刷新すべき部分」が明確化されます。

  • 外壁ひび割れ・タイルの剥落リスク

見た目の問題にとどまらず、安全性の観点でも大きな懸念。雨漏りや内部構造へのダメージを防ぐため、微小な亀裂でも早期のチェックが不可欠です。

  • 屋上防水の劣化

雨風・紫外線にさらされる屋上は最も劣化が進みやすい箇所。漏水が起きれば内装や電気設備へのダメージに直結します。

  • 空調・電気・給排水設備の老朽度

故障リスクが増すだけでなく、エネルギー効率が落ち、ランニングコストが上がる要因にも。

  • エレベーターの制御装置・安全基準

運行停止や緊急時の安全機能に関わるため、最新基準とのギャップを早めに認識する必要があります。

★スペースライブラリの視点

「築30年ビルの場合、外観だけでなく基幹設備に意外な負担が蓄積していることが多く、診断結果で“ここまで劣化が進んでいたのか”と驚かれることがあります。特に外壁や屋上防水は、雨漏りリスクを放置するとトラブルが大きくなるため、総合診断で必ずチェックリストを作って優先度を判断します。」

1-2. 全体像を押さえつつ、投資配分を計画

総合診断の結果、ビルのどこに大きな問題があり、どこを優先的に改修すべきかが見えてきます。ここからは、ビルオーナーがどれくらいの予算を投資し、どこに力を入れるかを検討する段階です。

  • 「見た目の印象」と「安全性・省エネ性能」のバランス

ファサードやエントランスのデザイン変更はテナント誘致に直結しますが、基幹設備の更新を後回しにすると大きなリスクが残ります。投資の配分をどう調整するかがポイントです。

  • 段階的な投資アプローチ

中小ビルの場合、一気にフルリノベするのではなく、外壁改修は今期、内装刷新は次期など、段階的に行う方法も一般的です。工事期間の長期化やテナントへの影響を最小限に抑えながら、“ポイント改修”でイメージを大幅に変えることが可能です。

★スペースライブラリの視点

「投資の優先順位をどう決めるかは、ビルオーナーの資金力やビルの将来計画次第。まずは大きなリスクを除去し、そのうえで“テナントにアピールできる部分”をしっかり手を入れるのが定石。改修後のレントロール(賃料収支)を想定し、投資回収シミュレーションを早めに提示するのが大切です。」

第2章:大胆なファサード刷新を“身近なもの”にするためのポイント

2-1. 大規模ビルで培われた“外壁改修のノウハウ”

再開発エリアの大型ビルでは、ガラスカーテンウォールメタルパネルの採用で外観を一新し、大きな差別化を実現しています。しかしこの手法は、決して大規模ビルだけの特権ではありません。中小規模ビルでも以下のような方法でモダンなファサードが得られます。

1. 既存外壁を下地として活用

完全撤去のコストを抑えつつ、新素材を重ね貼りや上貼りすることで、施工期間短縮・コスト削減とデザイン刷新の両立を図ります。

2. 先進的な素材の組み合わせ

ガラス、メタルパネル、セラミックタイルなどを併用し、視覚的な変化と耐久性を両立。

3. 外断熱+省エネ性能向上

外壁改修のタイミングで断熱性能を高めれば、光熱費削減やテナント企業の環境負荷低減に繋がり、付加価値となります。

★スペースライブラリの視点

「外壁改修の際は足場を組むため、一度の設置で複数の作業(下地補修、防水工事、サイン変更)をまとめて行うのが得策です。中小ビルの場合、施工面積が限られている分、工期が短く済むメリットがあり、テナントへの影響も少なく抑えられます。」

2-2. 中小規模ビルにおける工期・コストメリット

中小規模ビルのリノベーションは、大規模ビルほど施工範囲が広大ではないため、以下の点で有利になります。

  • 迅速な施工でビル稼働への影響を最小化

足場解体や資材搬入が短期で完了し、テナントや周辺住民との調整がスムーズ。

  • コスト面での優位性

面積が小さい分、外壁改修にかかる総コストは少額に抑えやすい。

  • 賃料アップや空室率改善への即効性

外観が大きく変われば、テナントからの問い合わせや内覧が増えやすく、改修の成果が早期に表れやすい。

★スペースライブラリの視点

「外壁を替えると、ビルの印象が“古くさい建物”から“現代的なビル”へ劇的に変わるので、入居する企業も“ここならお客様を招きたい”と思いやすくなります。工期が短くなるメリットは、中小ビルにとって大きい利点と言えます。」

第3章:内装の意匠更新で“古さ”を感じさせない空間へ

3-1. エレベーターの内壁と制御装置の改修

テナントが朝晩必ず利用するエレベーターは、“ビルの印象”を左右する重要なスペースです。

1. 制御装置の更新

古い制御システムは故障率が高く、メンテナンス費もかさみます。最新の制御装置に更新すれば、故障リスクの低減やエネルギー効率向上を実現します。

2. 安全機能の強化

バックアップ電源や非常停止装置など、安全面のアップデートでテナントの安心感を高めます。

3. キャビン内装リニューアル

パネル素材や照明を一新し、モダンなデザインへ。高耐久・防汚素材を用いると清掃が楽になり、管理コストも下がります。

★スペースライブラリの視点

「エレベーター改修の良いところは、機能更新によってビルの安全性と快適性を一気に底上げできる点。見た目の変化も大きく、テナントが毎日“このビルっていいね”と感じるきっかけづくりになります。」

3-2. 洗面所・流し台の刷新でクリーンなイメージを

オフィスのトイレや給湯室は“ハード”だけでなく、テナントのワークスタイルや衛生意識にも影響を与える場所です。

1. レイアウト変更やバリアフリー対応

通路幅を広げ、スムーズに動線が確保されるデザインを採用。車椅子対応や多目的トイレの設置で対応力を高めます。

2. 最新設備の導入

節水型や自動洗浄・自動水栓などの衛生陶器を導入し、清潔感・省エネ性をアップ。

3. 照明と収納スペースの工夫

照明を明るく、かつ人感センサーにすると安全性と省エネを両立。小物や清掃用品を収納できるスペースも整え、見た目の雑多感を解消。

★スペースライブラリの視点

「トイレや給湯室の改修は、意外なほどテナントからの評価が上がります。特に女性スタッフの多い企業や外部来訪者が多いオフィスでは、“水回りが綺麗”というのがビル選定の大きなポイントになるのです。」

第4章:機能面とデザイン面のバランス —— “見える改修”と“見えない改修”をどう同時 進行させるか

4-1. 基幹設備の老朽化対策

築古ビルで深刻化しがちな基幹設備の劣化は、稼働停止や事故のリスクに直結します。

  • 給排水管の更新

サビや漏水リスクを考慮し、耐食性・耐久性の高い素材に切り替え。局部的な補修に終始せず、一部フロアや系統ごとの完全更新を検討することも。

  • 受変電設備の交換

老朽化が進むと停電・火災リスクが高まり、最新機器へのアップデートで安全性と省エネ効果を高めます。

  • 空調機器の高効率化

インバーター式や省エネモデルを導入し、テナントの快適度と電気代削減を同時に達成。

★スペースライブラリの視点

「基幹設備を後回しにすると、一度事故が起きた際のコストやイメージダウンが甚大です。テナント満足度だけでなく、ビル全体の経営リスク軽減を意識しながら、見えない部分にもしっかり投資することが長期的な安定収益に繋がります。」

4-2. “見えるところ”と“見えないところ”の投資配分

  • 見える投資:外壁・エントランス・エレベーターホール・トイレ内装など、“一目で変わった!”とわかる部分。テナント誘致や賃料アップへ直結しやすい。
  • 見えない投資:電気系統や空調機、配管、制御装置など、普段は目に触れないが故障時のリスクが大きい部分。建物寿命や安全性を左右するため、優先度も高い。

★スペースライブラリの視点

「『見せる改修』でテナントにアピールしつつ、同時に『見えない改修』をコツコツ進めるのが理想形です。大きな“裏のリスク”を先に解消しておけば、改修後のビルに企業が安心して長く入居し続けてくれます。」

第5章:投資効果を高めるためのプレゼン —— 数字とストーリーの両面で説得

5-1. 賃料アップ・空室率低減のシミュレーション

  • 改修前後の家賃シナリオ

周辺相場を参考に、家賃がどの程度アップできるかを具体的に示す。空室だったフロアが最終的にどれくらい埋まるかを複数シナリオで想定。

  • 空室率改善と実質収益

投資前は平均空室期間が6ヶ月あったのが、改修後2ヶ月に短縮すれば、年間収入増がどれほどになるかを見える化する。

★スペースライブラリの視点

「『どれくらい賃料を上げられるか』だけでなく、『どれくらい空室が減るか』も重要。実際、空室率低減効果が大きいなら、トータル収益が明確に向上します。数字で実証すれば、ビルオーナーの投資意欲を高める後押しになります。」

5-2. ランニングコスト削減と補助金活用

  • LED照明・高効率空調

ランニングコスト低減をシミュレーションし、長期の光熱費削減メリットを提示。

  • BCP対策

災害時の継続稼働性を高める設備投資(非常用電源・断熱改修など)で、企業の防災ニーズに応えられるビルとなるアピールも有効。

★スペースライブラリの視点

「ランニングコスト削減効果や公的支援を上手く組み込めば、投資回収シミュレーションが現実味を帯びてきます。特に省エネ設備導入で得られる補助金は見逃せないポイントです。」

第6章:中小規模ビルでの“大胆リノベ”を成功させるステップ

6-1. ビル診断と課題整理

専門家の総合診断を受け、外壁・基幹設備・内装などの問題点を洗い出し、“今すぐ対処すべき”と“後回しでもOK”を分けます。

  • 現場写真や測定データの提示

客観的根拠を持ってビルオーナーや投資家に現状を説明できるよう、報告書を作成。

  • 予算見積りとリスク評価

改修費の大枠、放置した場合のリスクコストを比較し、優先度を決定。

★スペースライブラリの視点

「建物診断のレポートがしっかりしていれば、ビルオーナーが投資判断しやすくなります。見た目が平気そうでも、実は配管や防水が危険水域になっていたなんてケースもあるので、データと写真で“今、何をしなければいけないか”を明確にします。」

6-2. 外観・内装と基幹設備のバランス検討

ビルの将来計画(ターゲットテナント、想定賃料、運用期間)に合わせ、以下のプランを試作。

  • 見た目重視プラン:ファサード変更、エントランス刷新に多くの予算を割き、インパクトを狙う
  • 機能面重視プラン:給排水・空調・電気系統などを最優先にアップグレード
  • バランス型プラン:外観やエントランスを適度に更新しつつ、基幹設備にも一定投資を行い、リスク回避とイメージアップを両立

★スペースライブラリの視点

「目立つ改修でテナント誘致力を大きく上げるか、トラブルを防ぐためにまず基幹設備を改修するか。ビルオーナーの意向や資金計画に応じ、少なくとも“絶対やらねばならない部分”と“後回しでも影響が小さい部分”を区分しておくのがコツです。」

6-3. 投資効果のシミュレーション

  • 賃料アップ率:ビフォーアフターで家賃がどの程度上げられるか、周辺競合物件の事例を参照。
  • 空室率改善:改修後、問い合わせ数が増え、フロア稼働率がどれくらい上昇するかを見込み。
  • ランニングコスト削減:空調・照明更新でのエネルギー費の減少、修繕費の削減などを数値化。

★スペースライブラリの視点

「シミュレーションには、保守的なケースと楽観的なケースの両方を用意すると、ビルオーナーにとってリスクとリターンをイメージしやすいです。成功事例だけでなく、そこから学ぶ失敗事例も織り交ぜると説得力が増します。」

6-4. 設計・施工の実施とPR

  • テナントとのコミュニケーション:工事スケジュールや騒音への配慮を丁寧に伝え、協力を得る。
  • 改修後のイメージ発信:SNSやメディアを活用して“こんなビルに生まれ変わります”を写真・動画で紹介。
  • プロジェクト全体のストーリーづくり:築30年のビルが“未来を担うオフィス”へ変貌するプロセスを共有することで、周囲の共感や話題化を誘発。

★スペースライブラリの視点

「工事中はテナントに負担がかかりがちですが、“完成後の魅力”を明確に示すことで理解を得やすくなります。工事過程をオープンにしたり、ラウンジスペースの進捗写真を掲示したり、期待感を演出することが重要です。」

まとめ:大規模ビルと同じ発想を“自分サイズ”に応用する

築30年を超えるオフィスビルでも、的確な診断+効果的なリノベーション投資により、テナントから「ここで働きたい」「ブランドイメージに合う」と思われる物件へと生まれ変わらせることができます。大規模ビルが用いる先進ノウハウを、中小ビル規模に合わせてアレンジすれば、費用対効果を高めることも十分可能です。

  • 外壁の新素材重ね工法:塗装リニューアルだけでなく、メタルやガラス素材で大胆に外観を刷新
  • エレベーター更新:制御装置と内装を変えて、毎日の利用シーンを快適に
  • 洗面所や流し台の近代化:バリアフリーや節水型設備で、利用者が“気持ちいい”と思える空間へ
  • 基幹設備の更新で安全性と省エネ向上:配管や空調など“見えない部分”も同時に整備し、長期的リスクを低減
  • 投資効果を数値化して提示:賃料アップ、空室率改善、ランニングコスト削減など、複数シナリオで回収期間を見せる

★スペースライブラリの総評

「リノベーションは、ビルオーナーや投資家からすれば大きな決断ですが、築30年ビルでも成果が出やすい“ポイント改修”を戦略的に組み合わせれば、投資リスクを抑えながら大きく収益を伸ばすことができます。設備や外観の“見える改修”でイメージアップを狙いつつ、“見えない基幹設備”を更新することでテナントが安心して長く使えるビルへ。そんな両輪が回れば、テナント誘致力が高まり、賃料アップや空室削減に繋がります。」

新築を建てるには資金も時間もかかる一方、既存ビルが築いてきた立地や構造の強みは依然として大きな資産です。そこに最新のデザインや設備を組み合わせ、“攻め”と“守り”のバランスをとったリノベーション計画を練り上げれば、築古ビルでも十分に競争力を取り戻せるでしょう。テナント企業が“このビルに入って良かった”と感じる改修を施し、さらに投資メリットをビルオーナーにしっかり伝えることが、持続可能な賃貸経営への近道となるのです。

執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁

東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。

2025年8月25日執筆

飯野 仁
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そこで当社は、専有部の改修ではなく、フロア共用部であるトイレと給湯コーナーにフォーカスしたリノベーションをオーナー様に提案しました。新築オフィスビルのような最新設備とはいかないまでも、スタイリッシュな印象を与えつつ、清潔感と使いやすさを両立させることを目指したのです。 デザインコンセプト:「品のある」「スタイリッシュ」かつ「利用者が快適に使える空間」改修範囲:男女トイレ+給湯コーナー(同フロア内) 2-3. リノベーション内容の詳細 1. 洗面台シンプルで機能的かつデザイン性も備えたものを選定。鏡を壁に直接貼り付けるのではなく、少し浮かせるように設置し、鏡の裏側にLED照明を仕込んで空間に奥行きと明るさを演出。女性用洗面台は、お化粧道具などを置けるスペースを十分に確保。2. 便器・個室の選定丸みを帯びた親しみやすいシルエットでありながら、スタイリッシュなデザインのものを採用。日常的に使用する空間であるからこそ「癒される場所」というコンセプトを重視。個室内の床や壁面には、汚れが目立ちにくく、掃除もしやすい素材を選び、メンテナンス性にも配慮。3. 給湯コーナー照明やカラースキームをトイレと統一感のあるものにし、フロアのイメージを統一。シンクやカウンターの素材は、水回りの清掃性を高めるためにステンレスや耐水性に優れた材料を選定。スタッフが気持ちよく利用できるよう、換気や採光面にも留意。 2-4. 費用感と投資回収 リノベーション費用:約600万円(税抜)回収期間の目安:入居が決まれば、おおよそ半年程度で回収可能 築30年のビルであり、フロアの広さや間取りにもよりますが、トイレと給湯室の改修のみで約600万円というのは比較的リーズナブルな費用感です。もちろん、仕上げ材や設備機器のグレードによって上下はしますが、古いトイレを使い続けたまま空室が埋まらないリスクを考えれば、「半年で回収可能」という投資判断は十分妥当性があります。 3. 具体的な事例紹介:オフィスB 3-1. 概要と課題 所在地:五反田駅から徒歩4分建物規模:地上10階地下1階建て築年数:35年空室フロア数:10フロアのうち5フロアが空室 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賃料の大幅な値下げ空室が続けば、なんとか埋めようと賃料を下げざるを得なくなる。一時的にテナントが決まっても、周辺相場より安い賃料で契約せざるを得ず、収益が安定しない。2. ビル全体の資産価値低下古い共用部のままではビル自体のイメージが悪く、空室率が高止まりする。オフィスビルの評価額も低下し、将来的な売却やリファイナンスの際に不利になる。3. 負のサイクル入居が決まらない → さらに賃料を下げる → テナントの質が下がり、追加の改修コスト発生 → オーナー収益悪化 → ビル維持費すら捻出しにくくなる一度こうしたサイクルに陥ると、抜け出すのに大きなコストと時間が必要。 行動しないリスクを考えると、リノベーションこそが「最良の空室対策」であると言っても過言ではありません。 5. リノベーション会社の選定ポイント リノベーションを成功させるためには、実績とノウハウを持ったパートナー企業の選定が不可欠です。オフィスリノベーションを検討する際は、以下のような観点で比較検討すると良いでしょう。 5-1. 業務範囲の明確さ 設計、施工、PM(プロパティマネジメント)、BM(ビルメンテナンス)など、どこまで包括的に対応してくれるのか確認しましょう。ワンストップで全工程を任せられる会社もあれば、設計は設計事務所、施工は別会社と分離しているケースもあります。窓口が分散するほどコミュニケーションロスが発生しやすく、工期延長やトラブルの原因になりかねません。 5-2. 実績の有無 似たような規模や築年数のオフィスビルでのリノベ実績があるかどうかをチェックします。事例が豊富なほど、想定外のトラブルへの対応経験も積み上がっており、安心感があります。事前に実際の施工事例(写真や図面)を見せてもらい、デザインや仕上がりのテイストを確認すると失敗が少なくなります。 5-3. アフターサポート リノベーション後の不具合についてどの程度の期間、保証してくれるのか。メンテナンスや定期点検、トラブル時の連絡体制などはどうなっているのか。工事後のフォローが手厚い会社であれば、安心して長期的にビル運営を続けることができます。 6. オフィスリノベーション成功へのステップ ここまでオフィスリノベーションの事例や費用感、リノベーション会社の選定ポイントを述べてきましたが、具体的に進めるにあたってどのようなステップを踏むべきかを整理しましょう。 1. 現状分析と課題抽出空室状況やテナントの退去理由、周辺の競合オフィスの特徴などを調査し、現状の課題を洗い出します。例えば「トイレの老朽化がネック」「エントランスに魅力がない」など、優先順位をつけて改善すべき点を絞り込みます。2. リノベーションの目的・コンセプト設定投資回収を念頭に置いたうえで、「どのようなテナントをターゲットにしたいのか」「ブランドイメージをどう変えたいのか」を明確にします。オーナーや管理会社、リノベーション会社で方向性をしっかり共有することで、工事内容のブレを防ぎます。3. 概算費用の試算・資金計画リノベーションにかけられる予算を決め、どの程度の仕上がりを目指すかを調整します。金融機関からの借入や自己資金の投入など、資金計画を具体化し、想定賃料収入とのバランスを検討します。4. プランニングとデザイン検討設計担当者と打ち合わせを重ね、設備機器の仕様、内装デザイン、レイアウトなどを詰めていきます。実際の使用場面を想定しながら、メンテナンス性や耐久性、将来的なリフォームのしやすさなどにも配慮します。5. 施工・現場管理工事が始まったら、現場管理者が進捗や品質をチェックしながら工程を進めます。テナントや近隣ビルへの配慮、騒音・振動対策など、トラブルが起きないよう注意しつつ作業を遂行します。6. 引き渡し・アフターサポート竣工後には、オーナー・管理会社立会いのもとで最終チェックを行い、問題がなければ引き渡しを受けます。不具合が見つかった場合は速やかに補修を行い、保証期間やメンテナンス体制も確認しておきます。 7. まとめ:リノベーションがもたらす未来 オフィスビルの空室対策としてのリノベーションは、単なる「古い設備を新しくする」だけでなく、ビルの資産価値そのものを高め、入居テナントの満足度を劇的に向上させる力を持っています。オフィスAのように1フロアのトイレ・給湯室の改修であっても、短期間で投資を回収でき、空室を埋める効果を発揮します。また、オフィスBのように複数フロアとエントランスをまとめてリノベーションする大規模プロジェクトは、さらに大きなインパクトを生み出し、ビル全体のブランディングを一新することが可能です。もしリノベーションを行わず放置してしまえば、空室期間の長期化や賃料値下げのリスクが高まります。とりわけ建物が築数十年を超えてくると、設備の老朽化が進行し、ビルのイメージダウンが避けられません。こうした状況を打破するには、適切なタイミングでリノベーションに投資し、収益アップとビルの長寿命化を両立させる戦略が重要になります。最後に、リノベーションの成否を左右するのは「どの会社に依頼するか」「どれだけ明確なコンセプトを持って進められるか」です。費用対効果のシミュレーションを行い、信頼できるパートナーと協力して計画を進めることで、オーナーにとってもテナントにとっても魅力あふれるオフィスを実現することができるでしょう。オフィスビルが生まれ変わる瞬間は、オーナーにとっても大きな楽しみの一つです。美しく改修されたトイレやエントランス、明るいエレベーターホールを見ると、「これならきっとテナントに選ばれる」と確信が持てるはずです。そして実際に、そのビルで働くテナント企業の社員が快適に日々を過ごし、ビジネスを発展させていく姿は、オーナーや管理者にとっても誇りや喜びにつながるのではないでしょうか。一度きりの改修ではなく、長期的に建物を維持・運営していく視点を忘れずに、定期的なメンテナンスや部分的なリノベーションを計画的に進めていくことで、建物の価値を着実に保ち、さらには高めていくことができます。ぜひ本稿で紹介した事例を参考に、皆様のオフィスビルでも最適なリノベーション計画を練ってみることをお勧めします。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ 設計チーム 鶴谷 嘉平 1994年東京大学建築学科を卒業。同大学大学院にて集合住宅の再生に関する研究を行いました。 一級建築士として、集合住宅、オフィス、保育園、結婚式場などの設計に携わってきました。 2024年に当社に入社し、オフィスのリノベーション設計や、開発・設計(オフィス・マンション)を行っています。 2025年8月25日執筆

オフィスをリノベーションする際に検討すべきポイント6点

皆さんこんにちは。株式会社スペースライブラリの鶴谷です。この記事はオフィスをリノベーションする際に検討すべきポイントについてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思っています。どうぞよろしくお願い致します。 近年、日本のオフィス需要は多様化の一途をたどっています。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、テレワークやハイブリッドワークが普及し、多くの企業が「働く場所」そのものを見直す動きが活発化しました。一方で、オフィスビルのオーナーや管理会社にとって、オフィス空室率の上昇は深刻な問題です。特に築年数の経ったビルでは、競合物件と比較して設備が古く、内装も時代遅れに感じられてしまい、テナント候補から敬遠されがちです。 そうした課題に対する解決策の一つが「リノベーション(改修)」です。オフィスビルの印象を一新し、設備やデザインをアップデートすれば、入居率の向上や家賃アップにもつながる可能性があります。本稿では、ビルオーナーやプロパティマネジャーに向けて、オフィスをリノベーションする際に特に検討しておきたい6つのポイントを詳しく解説します。 目次1. ビルの印象を左右する「動線計画(平面図の活用)」2. トイレの内装・衛生陶器のデザイン性3. エントランスホール・エレベーターホールの演出4. セキュリティ5. リノベ設計・PM・BMに強いリノベーション会社の選定6. 費用・収入・延払い・融資まとめ 1. ビルの印象を左右する「動線計画(平面図の活用)」 1-1. 動線計画が重要な理由 オフィスビルの空室対策を考えるうえで、まず初めに着目したいのが「動線計画」です。動線は、利用者がどのようにビル内を移動するかを左右するものであり、オフィスの快適性やプライバシー確保の度合いを大きく左右します。たとえ内装や設備を最新にアップグレードしても、使い勝手の悪い動線や不快感を与えるレイアウトでは、入居テナントから十分な評価が得られない場合があります。 1-2. 竣工図面の読み込みとチェックポイント 既存の建物には「竣工図面」や「管理図面」が存在することが多いです。リノベーションをする際には、まずそれらをもとにして現状の間取りや配管経路、柱や梁の位置などを正確に把握する必要があります。具体的なチェックポイントとしては、以下が挙げられます。 1. エレベーターホールとトイレ・給湯室の位置関係 エレベーターホールからトイレへ向かう動線が執務エリアから分離されているか。エレベーターホールからトイレの扉が直接見えないか。 2. 廊下の幅や扉の位置 ユニバーサルデザインに配慮し、車椅子や台車が通りやすい幅があるか。避難経路として十分な幅と安全性が確保されているか。 3. 配管・配線ルート トイレや給湯室を移動する場合、上下階の配管経路との整合性が取れるか。空調や電気配線を変更する際の工事範囲はどの程度か。 1-3. トイレが執務室から直接入る形式の問題点 既存のビルでは、かつての設計思想から「執務室から直接トイレに入る」形式が採用されているケースがあります。この形式には以下のようなデメリットが存在します。 音や気配が執務スペースに伝わりやすいトイレの使用状況が周囲にわかりやすい衛生面への不安感が高まりやすい こうした問題を解消するためには、廊下を新設または再配置して、トイレへのアプローチを執務スペースから切り離すリノベーションが有効です。 1-4. トイレの扉がエレベータホールから見える場合の対処 エレベーターホールからトイレの扉が丸見えになっていると、エレベーターを待つ人がトイレの出入りを目撃してしまい、利用者がプライバシーを確保しづらくなり、来訪者も不快に思ってしまうといった問題があります。扉を別の位置に移動したり、間仕切り壁を設置したり、あるいは目隠し用のスクリーンを設置したりすることで、ビル全体の雰囲気を損なわずにプライバシーを確保することができます。 1-5. 動線計画の重要性とコストメリット 動線計画を最適化するには、壁の新設や扉の移動に伴う工事費が発生しますが、そこに投資する価値は高いです。動線が改善されることで、テナントの満足度や入居率が上がり、長期的には家賃増収や空室リスクの低減が期待できます。投資コストとリターンを比較検討し、「本当に必要な改修は何か」を考えることが重要です。 2. トイレの内装・衛生陶器のデザイン性 2-1. トイレがオフィスビルの価値を左右する理由 トイレは来訪者や従業員が必ず利用する場所であると同時に、清潔感と快適性が求められる空間です。オフィスビルを選ぶ際、テナントは執務スペースだけでなく、水回りの状態を重視するケースが多々あります。とりわけ築年数の古いビルでは、トイレ設備が古くて狭い、デザインが時代遅れである、清掃が行き届いていない、といったイメージを抱かれやすくなります。 2-2. トイレに求められる機能とデザイン トイレは、単に用を足す場所ではなく「リフレッシュスペース」としての役割も果たします。たとえば洗面台周りに間接照明を設置したり、壁面にアートや植物を配置したりすることで、トイレを落ち着いた雰囲気に演出することが可能です。男子と女子を分けるのはもちろん、女子トイレの洗面台鏡を大きくし小物を置けるようにしたり男子トイレには小便器を設けることは、スペースの許す限り行うべきでしょう。また、以下のような機能とデザインを備えると、さらにテナント満足度が向上します。 自動洗浄機能やウォシュレット機能自動便座開閉機能洗面カウンターの広さと使いやすさセンサー付きの蛇口や照明抗菌・防臭性の高い仕上げ材明るい色合いとスタイリッシュな衛生陶器の採用 2-3. 上品かつ格調高いデザインの重要性 高級ホテルのような雰囲気を目指すオフィスビルも増えています。特に都心部やブランドイメージを重視する企業が多いエリアでは、トイレや給湯室が「ビルのステータス」を示す指標として捉えられることも珍しくありません。デザイン性の高い衛生陶器やタイル、間接照明を組み合わせることで、「このビルに入居するのは快適である」と感じさせることができます。テナントが内覧した際、最終的に「ここに決めたい」と思ってもらえるかどうかは、トイレ・給湯室のインパクトが影響を及ぼすケースも多いのです。 2-4. デザイン性のないトイレがもたらすデメリット もしデザイン性のない器具を導入してしまった場合、せっかく執務スペースを最新仕様に改修していても、テナントからは「設備が古臭いビルだ」というイメージをもたれがちです。特に若い世代の従業員が多い企業では、SNSの発達により職場環境が話題になることも珍しくありません。トイレがおしゃれで快適なスペースであることは、企業ブランドの向上や社員のモチベーションアップにもつながります。(トイレは共用部なのでオーナー様が設えるべき部分になります。) 2-5. 実例:照明演出によるトイレ改修の効果 あるビルオーナーが行った実例では、築30年のビルで老朽化したトイレを全面改修し、照明計画に力を入れました。洗面カウンターに間接照明を取り入れ、鏡面の裏側にLEDを仕込むことで、利用者の顔をほのかに照らす工夫を施しました。結果として、女性スタッフの多い企業から高い評価を得て、空室が一気に解消したケースもあります。このように、トイレの印象アップが意外なほど大きなリターンにつながることもあるのです。 3. エントランスホール・エレベーターホールの演出 3-1. 「ビルの顔」を演出する重要性 エントランスは、ビル全体の第一印象を決定づける「顔」のような存在です。来訪者が初めてビルに足を踏み入れる際、エントランスが洗練されていれば「このビルはきちんと管理されている」「ここで働くのは気持ちが良さそうだ」というポジティブな印象を持ちます。逆に暗くて狭いエントランスや、老朽化が目立つエレベーターホールでは、魅力を感じてもらえず、テナント候補に敬遠されがちです。 3-2. 空間デザインのポイント エントランスホールやエレベーターホールのリノベーションには、多くの場合で以下の要素が検討されます。 1. 広さと解放感 無駄な壁や柱がないか。少し広めにスペースを確保できる余地があるか。 2. 素材選び 床や壁の仕上げ材に高品質・耐久性のある素材を使う。大理石や御影石、セラミックタイル、漆喰など、グレードアップしやすい素材を検討。 3. 照明計画 明るさだけでなく、演出照明を配置して空間に奥行きや高級感を与える。LEDダウンライトや間接照明を用いるなど、照明のバリエーションを増やす。 4. カラーコーディネート ビルのコンセプトカラーを設定し、壁や床、サインに統一感を持たせる。テナントや来訪者の嗜好を踏まえた、落ち着いたカラーリングあるいはガラスや白い壁で透明感のある空間にする。 3-3. 家賃収入とのバランス エントランスやエレベーターホールがリニューアルされ、外観・内観のクオリティが高まれば、結果として家賃の引き上げや空室率の低下が期待できます。どの程度コストをかけるかは、改修後の家賃収入や投資回収期間とのバランスで決めることが大切です。例えば、フルリノベーションに1億円かかる場合でも、その後の家賃収入が年間で2,000万円増加する見込みがあれば、5年程度で回収できる計算になります。もちろん家賃が上がるだけでなく、稼働率が上がればトータルの家賃収入は増加します。また、次回の修繕あるいはリノベーションはいついくらを予定しておくか。こうしたシミュレーションを行い、投資リスクとリターンを比較して判断しましょう。 3-4. 実例:エントランスに貸会議室を設置 あるビルでは、エントランスホールの一部に貸会議室を設置し、テナントがWEBで予約して気軽に利用できるようにしています。場合によって、ラウンジや待合室を作ることも可能でしょう。このように、エントランスの活用法を工夫することで、単なる通路を超えた「魅力的な交流空間」として機能させることも可能です。 4. セキュリティ 4-1. オフィスビルにおけるセキュリティの重要性 オフィスビルでは、企業の機密情報や高価な設備が保管されているケースが多く、セキュリティのニーズは年々高まっています。特に個人情報保護の観点から、従来の鍵やICカードだけでは対応が難しい場面も増えてきました。安全かつスムーズな入退室管理を実現し、テナントに安心して利用してもらうために、セキュリティシステムを最新化することは非常に有効です。 4-2. 非接触の「顔認証」システム 最近では、非接触で入退室を管理できる「顔認証」システムへの関心が高まっています。ICカードによる入退室には、紛失や盗難、カードの複製リスクといった問題がありました。一方、顔認証は顔の特徴をデータ化して照合する仕組みのため、他人が不正に使用するリスクが低く、ウォークスルーで入退室できる利便性も兼ね備えています。 4-3. セキュリティ導入のコストとメリット 顔認証を含む高度なセキュリティシステムを導入する場合、初期投資はどうしても高額になります。しかし、以下のメリットによって、長期的には十分な投資効果が得られる可能性があります。 テナント企業からの信頼度が向上不正侵入や盗難リスクの大幅低減ビル全体の管理コスト削減(受付人員の削減など)家賃アップにつながる付加価値の提供 テナントにとってはセキュリティの高さが企業イメージに直結することもあり、「セキュリティがしっかりしているビルに入りたい」というニーズは年々強まっています。 4-4. 他のセキュリティ手段との比較 セキュリティゲートやセキュリティカメラ、警備会社との連携など、顔認証以外のシステムも含めて総合的に検討すると良いでしょう。顔認証は便利ですが、初期費用が高いなどのデメリットもあります。複数の業者の見積もりを比較し、ビル全体の規模や利用状況に合ったシステムを導入することが望ましいです。 5. リノベ設計・PM・BMに強いリノベーション会社の選定 5-1. リノベ設計の重要性 リノベーションにおいて設計は、単に「図面を起こす」だけではありません。市場ニーズを見極め、テナントが望む機能やデザインを盛り込みながら、ビル全体の価値を最大化するための企画をすることが設計者の重要な役割となります。古いビルにとっては構造上の制限や法令遵守など、考慮すべき事項が多岐にわたるため、経験豊富な設計会社をパートナーに選ぶことが成功のカギとなります。 5-2. “目利き”力のある設計会社とは “目利き”力のある設計会社は、以下のような特長を持ちます。 1. 市場やトレンドの理解が深い エリアの賃料相場を把握し、ターゲットとなるテナント層を分析できる。最新のオフィスデザインの傾向をキャッチアップしている。 2. 柔軟な発想と実現力 古いビルの構造的な制約を踏まえつつ、最適なプランを提案できる。各種法規制(建築基準法や消防法など)を遵守しながら、魅力的な設計を実現できる。 3. コミュニケーション能力 オーナーやPMとの打ち合わせで、要望を的確に理解し、図面や資料でわかりやすく提示する。工事会社や設備業者との連携をスムーズに行い、トラブルを未然に防ぐ。 5-3. PM(プロパティマネジメント)の実績 PMは、不動産の経営管理全般を担う業務です。テナントの募集や契約管理、施設維持管理、収支の管理などを行い、ビルオーナーに代わって建物の価値最大化を目指します。PMの実績が豊富な会社は、以下の点でリノベーション設計において優位性があります。 テナント目線の設計提案が可能周辺市場や競合物件の情報をリアルタイムに収集適正賃料設定や収支計画の作成が得意 5-4. BM(ビルメンテナンス)の蓄積 BM(ビルメンテナンス)を日常的に行う会社は、建物の不具合やテナントからのクレーム内容に精通しています。エアコンの故障や水漏れ、トイレのトラブルなど、建物の弱点を把握しているため、リノベーションで改善すべきポイントを具体的に提案できます。BMの経験が豊富だと、竣工後のメンテナンスのしやすさも考慮した設計が可能になります。 5-5. 会社選定のポイント リノベーション会社を選ぶ際は、以下のような観点で比較検討すると良いでしょう。 1. 業務範囲の明確さ 設計・施工・PM・BMすべてを包括的に行う会社か、それぞれ別なのか。 2. 実績の有無 似たような規模や築年数のオフィスビルでのリノベ実績があるか。具体的な事例写真やビフォーアフターの紹介があるか。 3. 費用と納期の妥当性 相見積もりを行い、コストやスケジュールの面で比較する。 4. アフターサポート リノベーション後の不具合に対する保証内容やメンテナンス対応の体制はどうか。 6. 費用・収入・延払い・融資 6-1. リノベーション費用と家賃収入のシミュレーション リノベーションを検討する際、まずは「どの部分をどの程度改修するか」によって費用が大きく変わります。たとえば「トイレだけ改修する」「エントランスだけ改修する」などポイント改修を選ぶ場合と、「動線計画からファサードまでフルリノベーションする」場合では、費用と期待される収益増加の幅が全く異なります。費用と収入がどのように変化するか、複数パターンのシミュレーションを行い、投資回収期間をイメージすることが大切です。 例1:最小限の改修 改修内容: トイレの内装・衛生陶器の交換のみ想定費用: 1フロアあたり数百万円程度期待効果: 清潔感の向上、小幅の家賃アップまたは空室率改善 例2:部分的なリノベーション 改修内容: トイレの位置変更(動線改善)+エントランスの内装リニューアル想定費用: 1フロア+共用部で数千万円規模期待効果: 空室率改善、家賃アップ、ビルブランドイメージの向上 例3:フルリノベーション 改修内容: 外装ファサードの変更、動線計画の抜本的見直し、エントランス・エレベーターホール・トイレ・執務室の全面改修想定費用: 1億円以上の大規模投資期待効果: 大幅な空室率改善、家賃大幅アップ、ビルの資産価値向上また、リノベーションは単なる「修繕」ではないため減価償却することができ、耐用年数に渡って税負担を軽減することが可能となります。 6-2. 延払いの可能性 近年、リノベーション費用の負担を和らげる手段として「延払い」を取り入れる事例が増えています。これは工事費を一括で支払うのではなく、一定期間に分割して支払う仕組みです。キャッシュフローが厳しいオーナーでも、大規模リノベーションに踏み切りやすいメリットがあります。 延払いのメリット 大きな初期費用負担を避けられるリノベーション効果による家賃収入増を工事費に回せる 延払いのデメリット 長期にわたる支払い負担金利や手数料が発生する場合がある 6-3. 金融機関からの融資 リノベーション費用を金融機関の融資で賄う方法も一般的です。築年数やビルの担保価値、オーナー自身の信用状況などに応じて融資額や金利が決定されます。リノベーションによってビルの価値が向上し、空室率が低下する見込みがあると判断されれば、比較的有利な条件で融資を受けられる可能性があります。 6-4. 会社によるサポート体制 リノベーション会社の中には、金融機関を紹介してくれたり、金融機関との交渉や融資の相談に同行してくれるところもあります。特にPM・BM実績がある会社は、銀行からの信用も高い場合が多く、融資条件の交渉において心強い存在となるでしょう。自己資金を温存したい場合や資金繰りに不安を感じる場合には、こうしたサポート体制を備えた会社を選択することが大切です。 まとめ オフィスビルのリノベーションは、単に「建物を新しく見せる」だけでなく、「テナントが働きやすく、入居したくなる空間」を作るための投資です。ポイントとしては以下の6つが特に重要でした。 1. 平面図(動線計画)の見直し トイレの配置、動線分離の工夫、プライバシー確保 2. トイレの内装・衛生陶器のデザイン性 清潔感+デザイン性で企業の満足度とブランドイメージを向上 3. エントランスホール・エレベーターホール 「ビルの顔」としての演出で第一印象を大きく変える部分改修からフルリノベまで、コストと効果をバランスよく検討 4. セキュリティ 非接触型の「顔認証」など最新システムによる安心感の提供コストと利便性を比較して最適な導入方法を選択 5. リノベ設計・PM・BMに強い会社の選定 “目利き”力のある設計会社を選び、市場ニーズを的確に反映PM・BM実績が豊富なパートナーによる総合的な建物価値向上 6. 費用・収入・延払い・融資 シミュレーションで投資回収期間を算出延払い・融資など多様な資金調達手段を活用し、自己資金負担を軽減 リノベーションの成功は「適切な目標設定」と「信頼できるパートナー選び」から最後に、リノベーションを成功に導くためには、明確な目的とターゲット設定が欠かせません。「空室率を何%まで下げたいのか」「どんな企業に入居してほしいのか」「家賃単価をどこまで上げたいのか」などを具体化し、その目標を達成するために必要な改修内容を逆算しながら計画を立てましょう。また、信頼できるパートナー—特に、設計・施工だけでなく、PM・BMの実績を兼ね備えたリノベーション会社との協力は、成功の大きな鍵となります。これらのポイントを踏まえ、オフィスビルのリノベーションを進めれば、築年数が古くても「魅力的で価値の高いビル」に再生できる可能性は十分にあります。企業が「働く場所」にこだわりを持つ現代だからこそ、ビルオーナーにとってリノベーションは、収益改善だけでなく、地域活性化や働く人々のワークライフクオリティ向上にも寄与する意義ある投資だといえるでしょう。テナントから「ここで働きたい」「ここに来るのが楽しみだ」と思われるオフィス環境づくりを目指し、最適なリノベーション計画を検討してみてください。以上が、オフィスビルをリノベーションする際に検討すべき主なポイントです。それぞれの項目が連動し合いながら、最終的にはビルの総合的な価値向上、そして安定した収益につながっていきます。時代の変化に合わせて、オフィスとしての在り方を絶えずアップデートしていくことが、これからのビル経営ではますます重要になるでしょう。ぜひ本稿の内容を参考に、リノベーションによるオフィス価値の最大化に取り組んでいただければ幸いです。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ 設計チーム 鶴谷 嘉平 1994年東京大学建築学科を卒業。同大学大学院にて集合住宅の再生に関する研究を行いました。 一級建築士として、集合住宅、オフィス、保育園、結婚式場などの設計に携わってきました。 2024年に当社に入社し、オフィスのリノベーション設計や、開発・設計(オフィス・マンション)を行っています。 2025年8月25日執筆
 
 
 
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