築古の賃貸オフィスビルを魅力的に再生するリノベーション戦略

皆さんこんにちは。
株式会社スペースライブラリの飯野です。
この記事は築古の賃貸オフィスビルを魅力的に再生するリノベーション戦略についてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。
少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願い致します。
はじめに:新しい価値を創造する“リノベーション思考”
築古、築30年内外の賃貸オフィスビルが抱える課題は、外観や内装の老朽化、陳腐化だけにとどまりません。企業の働き方やテナントニーズが大きく変化しているなかで、既存ビルがどう再生し、時代の要請に応えるかという視点が、今や不可欠となっています。
近年、都市の再開発エリアでは、大型ビルが先進的なファサード改修や内装リノベーション、設備アップデートなどを積極的に取り入れ、テナント誘致や賃料アップに成功する事例が増えてきました。しかし、これは大規模ビルだけの専売特許ではありません。中小規模の築古ビルでも「的確な診断と戦略的な投資」を行えば、見違えるほどイメージアップし、収益改善が見込めるのです。
本コラムでは、そうしたノウハウを「築30年前後のオフィスビル」にも十分応用できる点に焦点を当てながら、ビルオーナーが“投資したくなる”リノベーション提案の具体策を探っていきます。市場データや専門家(スペースライブラリ)の視点を交えつつ、事例を盛り込み、長期的にメリットを生む戦略づくりのポイントを解説します。
第1章:既存ビルのポテンシャルを最大化するために —— まずはビル診断
1-1. 外壁・構造・設備の劣化状況を正確に把握
リノベーションに取り組む際、まずはビル自体の現状を正確に把握することが肝心です。築30年のオフィスビルでは、外観の古さや設備の老朽化によるトラブルが潜在的な大きなリスクとなる一方で、丁寧に診断・調査すれば「まだ十分使える部分」や「効果的に刷新すべき部分」が明確化されます。
- 外壁ひび割れ・タイルの剥落リスク
見た目の問題にとどまらず、安全性の観点でも大きな懸念。雨漏りや内部構造へのダメージを防ぐため、微小な亀裂でも早期のチェックが不可欠です。
- 屋上防水の劣化
雨風・紫外線にさらされる屋上は最も劣化が進みやすい箇所。漏水が起きれば内装や電気設備へのダメージに直結します。
- 空調・電気・給排水設備の老朽度
故障リスクが増すだけでなく、エネルギー効率が落ち、ランニングコストが上がる要因にも。
- エレベーターの制御装置・安全基準
運行停止や緊急時の安全機能に関わるため、最新基準とのギャップを早めに認識する必要があります。
★スペースライブラリの視点
「築30年ビルの場合、外観だけでなく基幹設備に意外な負担が蓄積していることが多く、診断結果で“ここまで劣化が進んでいたのか”と驚かれることがあります。特に外壁や屋上防水は、雨漏りリスクを放置するとトラブルが大きくなるため、総合診断で必ずチェックリストを作って優先度を判断します。」
1-2. 全体像を押さえつつ、投資配分を計画
総合診断の結果、ビルのどこに大きな問題があり、どこを優先的に改修すべきかが見えてきます。ここからは、ビルオーナーがどれくらいの予算を投資し、どこに力を入れるかを検討する段階です。
- 「見た目の印象」と「安全性・省エネ性能」のバランス
ファサードやエントランスのデザイン変更はテナント誘致に直結しますが、基幹設備の更新を後回しにすると大きなリスクが残ります。投資の配分をどう調整するかがポイントです。
- 段階的な投資アプローチ
中小ビルの場合、一気にフルリノベするのではなく、外壁改修は今期、内装刷新は次期など、段階的に行う方法も一般的です。工事期間の長期化やテナントへの影響を最小限に抑えながら、“ポイント改修”でイメージを大幅に変えることが可能です。
★スペースライブラリの視点
「投資の優先順位をどう決めるかは、ビルオーナーの資金力やビルの将来計画次第。まずは大きなリスクを除去し、そのうえで“テナントにアピールできる部分”をしっかり手を入れるのが定石。改修後のレントロール(賃料収支)を想定し、投資回収シミュレーションを早めに提示するのが大切です。」
第2章:大胆なファサード刷新を“身近なもの”にするためのポイント
2-1. 大規模ビルで培われた“外壁改修のノウハウ”
再開発エリアの大型ビルでは、ガラスカーテンウォールやメタルパネルの採用で外観を一新し、大きな差別化を実現しています。しかしこの手法は、決して大規模ビルだけの特権ではありません。中小規模ビルでも以下のような方法でモダンなファサードが得られます。
1. 既存外壁を下地として活用
完全撤去のコストを抑えつつ、新素材を重ね貼りや上貼りすることで、施工期間短縮・コスト削減とデザイン刷新の両立を図ります。
2. 先進的な素材の組み合わせ
ガラス、メタルパネル、セラミックタイルなどを併用し、視覚的な変化と耐久性を両立。
3. 外断熱+省エネ性能向上
外壁改修のタイミングで断熱性能を高めれば、光熱費削減やテナント企業の環境負荷低減に繋がり、付加価値となります。
★スペースライブラリの視点
「外壁改修の際は足場を組むため、一度の設置で複数の作業(下地補修、防水工事、サイン変更)をまとめて行うのが得策です。中小ビルの場合、施工面積が限られている分、工期が短く済むメリットがあり、テナントへの影響も少なく抑えられます。」
2-2. 中小規模ビルにおける工期・コストメリット
中小規模ビルのリノベーションは、大規模ビルほど施工範囲が広大ではないため、以下の点で有利になります。
- 迅速な施工でビル稼働への影響を最小化
足場解体や資材搬入が短期で完了し、テナントや周辺住民との調整がスムーズ。
- コスト面での優位性
面積が小さい分、外壁改修にかかる総コストは少額に抑えやすい。
- 賃料アップや空室率改善への即効性
外観が大きく変われば、テナントからの問い合わせや内覧が増えやすく、改修の成果が早期に表れやすい。
★スペースライブラリの視点
「外壁を替えると、ビルの印象が“古くさい建物”から“現代的なビル”へ劇的に変わるので、入居する企業も“ここならお客様を招きたい”と思いやすくなります。工期が短くなるメリットは、中小ビルにとって大きい利点と言えます。」
第3章:内装の意匠更新で“古さ”を感じさせない空間へ
3-1. エレベーターの内壁と制御装置の改修
テナントが朝晩必ず利用するエレベーターは、“ビルの印象”を左右する重要なスペースです。
1. 制御装置の更新
古い制御システムは故障率が高く、メンテナンス費もかさみます。最新の制御装置に更新すれば、故障リスクの低減やエネルギー効率向上を実現します。
2. 安全機能の強化
バックアップ電源や非常停止装置など、安全面のアップデートでテナントの安心感を高めます。
3. キャビン内装リニューアル
パネル素材や照明を一新し、モダンなデザインへ。高耐久・防汚素材を用いると清掃が楽になり、管理コストも下がります。
★スペースライブラリの視点
「エレベーター改修の良いところは、機能更新によってビルの安全性と快適性を一気に底上げできる点。見た目の変化も大きく、テナントが毎日“このビルっていいね”と感じるきっかけづくりになります。」
3-2. 洗面所・流し台の刷新でクリーンなイメージを
オフィスのトイレや給湯室は“ハード”だけでなく、テナントのワークスタイルや衛生意識にも影響を与える場所です。
1. レイアウト変更やバリアフリー対応
通路幅を広げ、スムーズに動線が確保されるデザインを採用。車椅子対応や多目的トイレの設置で対応力を高めます。
2. 最新設備の導入
節水型や自動洗浄・自動水栓などの衛生陶器を導入し、清潔感・省エネ性をアップ。
3. 照明と収納スペースの工夫
照明を明るく、かつ人感センサーにすると安全性と省エネを両立。小物や清掃用品を収納できるスペースも整え、見た目の雑多感を解消。
★スペースライブラリの視点
「トイレや給湯室の改修は、意外なほどテナントからの評価が上がります。特に女性スタッフの多い企業や外部来訪者が多いオフィスでは、“水回りが綺麗”というのがビル選定の大きなポイントになるのです。」
第4章:機能面とデザイン面のバランス —— “見える改修”と“見えない改修”をどう同時 進行させるか
4-1. 基幹設備の老朽化対策
築古ビルで深刻化しがちな基幹設備の劣化は、稼働停止や事故のリスクに直結します。
- 給排水管の更新
サビや漏水リスクを考慮し、耐食性・耐久性の高い素材に切り替え。局部的な補修に終始せず、一部フロアや系統ごとの完全更新を検討することも。
- 受変電設備の交換
老朽化が進むと停電・火災リスクが高まり、最新機器へのアップデートで安全性と省エネ効果を高めます。
- 空調機器の高効率化
インバーター式や省エネモデルを導入し、テナントの快適度と電気代削減を同時に達成。
★スペースライブラリの視点
「基幹設備を後回しにすると、一度事故が起きた際のコストやイメージダウンが甚大です。テナント満足度だけでなく、ビル全体の経営リスク軽減を意識しながら、見えない部分にもしっかり投資することが長期的な安定収益に繋がります。」
4-2. “見えるところ”と“見えないところ”の投資配分
- 見える投資:外壁・エントランス・エレベーターホール・トイレ内装など、“一目で変わった!”とわかる部分。テナント誘致や賃料アップへ直結しやすい。
- 見えない投資:電気系統や空調機、配管、制御装置など、普段は目に触れないが故障時のリスクが大きい部分。建物寿命や安全性を左右するため、優先度も高い。
★スペースライブラリの視点
「『見せる改修』でテナントにアピールしつつ、同時に『見えない改修』をコツコツ進めるのが理想形です。大きな“裏のリスク”を先に解消しておけば、改修後のビルに企業が安心して長く入居し続けてくれます。」
第5章:投資効果を高めるためのプレゼン —— 数字とストーリーの両面で説得
5-1. 賃料アップ・空室率低減のシミュレーション
- 改修前後の家賃シナリオ
周辺相場を参考に、家賃がどの程度アップできるかを具体的に示す。空室だったフロアが最終的にどれくらい埋まるかを複数シナリオで想定。
- 空室率改善と実質収益
投資前は平均空室期間が6ヶ月あったのが、改修後2ヶ月に短縮すれば、年間収入増がどれほどになるかを見える化する。
★スペースライブラリの視点
「『どれくらい賃料を上げられるか』だけでなく、『どれくらい空室が減るか』も重要。実際、空室率低減効果が大きいなら、トータル収益が明確に向上します。数字で実証すれば、ビルオーナーの投資意欲を高める後押しになります。」
5-2. ランニングコスト削減と補助金活用
- LED照明・高効率空調
ランニングコスト低減をシミュレーションし、長期の光熱費削減メリットを提示。
- BCP対策
災害時の継続稼働性を高める設備投資(非常用電源・断熱改修など)で、企業の防災ニーズに応えられるビルとなるアピールも有効。
★スペースライブラリの視点
「ランニングコスト削減効果や公的支援を上手く組み込めば、投資回収シミュレーションが現実味を帯びてきます。特に省エネ設備導入で得られる補助金は見逃せないポイントです。」
第6章:中小規模ビルでの“大胆リノベ”を成功させるステップ
6-1. ビル診断と課題整理
専門家の総合診断を受け、外壁・基幹設備・内装などの問題点を洗い出し、“今すぐ対処すべき”と“後回しでもOK”を分けます。
- 現場写真や測定データの提示
客観的根拠を持ってビルオーナーや投資家に現状を説明できるよう、報告書を作成。
- 予算見積りとリスク評価
改修費の大枠、放置した場合のリスクコストを比較し、優先度を決定。
★スペースライブラリの視点
「建物診断のレポートがしっかりしていれば、ビルオーナーが投資判断しやすくなります。見た目が平気そうでも、実は配管や防水が危険水域になっていたなんてケースもあるので、データと写真で“今、何をしなければいけないか”を明確にします。」
6-2. 外観・内装と基幹設備のバランス検討
ビルの将来計画(ターゲットテナント、想定賃料、運用期間)に合わせ、以下のプランを試作。
- 見た目重視プラン:ファサード変更、エントランス刷新に多くの予算を割き、インパクトを狙う
- 機能面重視プラン:給排水・空調・電気系統などを最優先にアップグレード
- バランス型プラン:外観やエントランスを適度に更新しつつ、基幹設備にも一定投資を行い、リスク回避とイメージアップを両立
★スペースライブラリの視点
「目立つ改修でテナント誘致力を大きく上げるか、トラブルを防ぐためにまず基幹設備を改修するか。ビルオーナーの意向や資金計画に応じ、少なくとも“絶対やらねばならない部分”と“後回しでも影響が小さい部分”を区分しておくのがコツです。」
6-3. 投資効果のシミュレーション
- 賃料アップ率:ビフォーアフターで家賃がどの程度上げられるか、周辺競合物件の事例を参照。
- 空室率改善:改修後、問い合わせ数が増え、フロア稼働率がどれくらい上昇するかを見込み。
- ランニングコスト削減:空調・照明更新でのエネルギー費の減少、修繕費の削減などを数値化。
★スペースライブラリの視点
「シミュレーションには、保守的なケースと楽観的なケースの両方を用意すると、ビルオーナーにとってリスクとリターンをイメージしやすいです。成功事例だけでなく、そこから学ぶ失敗事例も織り交ぜると説得力が増します。」
6-4. 設計・施工の実施とPR
- テナントとのコミュニケーション:工事スケジュールや騒音への配慮を丁寧に伝え、協力を得る。
- 改修後のイメージ発信:SNSやメディアを活用して“こんなビルに生まれ変わります”を写真・動画で紹介。
- プロジェクト全体のストーリーづくり:築30年のビルが“未来を担うオフィス”へ変貌するプロセスを共有することで、周囲の共感や話題化を誘発。
★スペースライブラリの視点
「工事中はテナントに負担がかかりがちですが、“完成後の魅力”を明確に示すことで理解を得やすくなります。工事過程をオープンにしたり、ラウンジスペースの進捗写真を掲示したり、期待感を演出することが重要です。」
まとめ:大規模ビルと同じ発想を“自分サイズ”に応用する
築30年を超えるオフィスビルでも、的確な診断+効果的なリノベーション投資により、テナントから「ここで働きたい」「ブランドイメージに合う」と思われる物件へと生まれ変わらせることができます。大規模ビルが用いる先進ノウハウを、中小ビル規模に合わせてアレンジすれば、費用対効果を高めることも十分可能です。
- 外壁の新素材重ね工法:塗装リニューアルだけでなく、メタルやガラス素材で大胆に外観を刷新
- エレベーター更新:制御装置と内装を変えて、毎日の利用シーンを快適に
- 洗面所や流し台の近代化:バリアフリーや節水型設備で、利用者が“気持ちいい”と思える空間へ
- 基幹設備の更新で安全性と省エネ向上:配管や空調など“見えない部分”も同時に整備し、長期的リスクを低減
- 投資効果を数値化して提示:賃料アップ、空室率改善、ランニングコスト削減など、複数シナリオで回収期間を見せる
★スペースライブラリの総評
「リノベーションは、ビルオーナーや投資家からすれば大きな決断ですが、築30年ビルでも成果が出やすい“ポイント改修”を戦略的に組み合わせれば、投資リスクを抑えながら大きく収益を伸ばすことができます。設備や外観の“見える改修”でイメージアップを狙いつつ、“見えない基幹設備”を更新することでテナントが安心して長く使えるビルへ。そんな両輪が回れば、テナント誘致力が高まり、賃料アップや空室削減に繋がります。」
新築を建てるには資金も時間もかかる一方、既存ビルが築いてきた立地や構造の強みは依然として大きな資産です。そこに最新のデザインや設備を組み合わせ、“攻め”と“守り”のバランスをとったリノベーション計画を練り上げれば、築古ビルでも十分に競争力を取り戻せるでしょう。テナント企業が“このビルに入って良かった”と感じる改修を施し、さらに投資メリットをビルオーナーにしっかり伝えることが、持続可能な賃貸経営への近道となるのです。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2025年8月25日執筆
