オフィスのリフォーム事例と費用感を解説

皆さんこんにちは。
株式会社スペースライブラリの鶴谷です。
この記事はオフィスのリフォーム事例と費用感についてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。
少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思っています。
どうぞよろしくお願い致します。
本コラムでは、オフィスビルの空室対策として、リフォーム・リノベーション事例を通じて「具体的な費用感はどれぐらいなのか」「どのような部分がテナントに評価されるのか」を分かりやすく解説していきます。特に、本稿で紹介する事例である「オフィスA」と「オフィスB」は、いずれも築数十年を経て古い印象を与えていたビルをリノベーションによって再生した事案です。当社では単なるリフォームよりもより家賃収入の増加するリノベーションをお勧めしています。オフィスオーナーや管理会社の皆様にとって、今後のリノベーションを検討する際の参考になれば幸いです。
1. リノベーションが空室対策につながる理由
1-1. テナントの第一印象を左右する共用部
オフィスビルを内見する際、まず最初に目に入るのは「エントランス」「エレベーターホール」「廊下」などの共用部です。仮に専有部の間取りや眺望、広さが理想的であったとしても、共用部の老朽化や暗い雰囲気、汚れなどが目立つと、見学者は「ここで働きたい」「ここにクライアントを招きたい」とは感じにくくなります。とりわけトイレが古いと、毎日使用する設備として不快感をもたらしてしまい、入居意欲の大きな減点要素になることが少なくありません。
1-2. 企業イメージやブランド力への影響
オフィスはテナント企業にとっての「顔」です。取引先や顧客を迎え入れる場であり、働く社員のモチベーションにも大きく関わります。したがって、築年数の経過を感じさせない「清潔感」や「先進性」「上質感」が演出できる空間は、企業のブランド価値を高めるうえで重要な要素です。オフィスビル全体としてのリノベーションを行うことで、企業が入居後に「自社ブランドのイメージに合ったオフィス」として活用しやすくなるため、空室を埋める強い動機づけになります。
1-3. 安易な賃料値下げによる損失回避
リノベーションを行わないまま空室が長引くと、オーナーや管理会社としては賃料を下げてでも埋めたいと考えるかもしれません。しかし、値下げをしても入居が決まらず、さらに値下げを繰り返す“負のサイクル”に陥る可能性があります。
一方で、リノベーションによって「魅力的なオフィス」を提供できれば、相場賃料を下げずにテナントを呼び込めるばかりか、場合によっては多少の上乗せができる可能性すら出てきます。早期に空室が埋まり、かつ賃料面での値下げを行わなくて済むのであれば、リノベーション工事費用を投資として回収するスピードも速くなりやすいのです。
2. 具体的な事例紹介:オフィスA
2-1. 概要と空室の課題
- 所在地:新大塚駅から徒歩3分
- 建物規模:地上10階建て
- 築年数:30年
- 空室フロア:5階
オフィスAは駅から徒歩3分という好立地でありながら、5階に空室が出て長期間埋まらない状況が続いていました。PM(プロパティマネジメント)を担っていた当社は、専有部ではなく「共用部」に問題があるのではないかと分析しました。築30年という年月が経過し、特にトイレが古く、カラーリングも一昔前の趣が強かったのがネックとなっていたのです。
2-2. リノベーションの方針と提案内容
そこで当社は、専有部の改修ではなく、フロア共用部であるトイレと給湯コーナーにフォーカスしたリノベーションをオーナー様に提案しました。新築オフィスビルのような最新設備とはいかないまでも、スタイリッシュな印象を与えつつ、清潔感と使いやすさを両立させることを目指したのです。
- デザインコンセプト:
「品のある」「スタイリッシュ」かつ「利用者が快適に使える空間」
- 改修範囲:
男女トイレ+給湯コーナー(同フロア内)
2-3. リノベーション内容の詳細
1. 洗面台
- シンプルで機能的かつデザイン性も備えたものを選定。
- 鏡を壁に直接貼り付けるのではなく、少し浮かせるように設置し、鏡の裏側にLED照明を仕込んで空間に奥行きと明るさを演出。
- 女性用洗面台は、お化粧道具などを置けるスペースを十分に確保。
2. 便器・個室の選定
- 丸みを帯びた親しみやすいシルエットでありながら、スタイリッシュなデザインのものを採用。
- 日常的に使用する空間であるからこそ「癒される場所」というコンセプトを重視。
- 個室内の床や壁面には、汚れが目立ちにくく、掃除もしやすい素材を選び、メンテナンス性にも配慮。
3. 給湯コーナー
- 照明やカラースキームをトイレと統一感のあるものにし、フロアのイメージを統一。
- シンクやカウンターの素材は、水回りの清掃性を高めるためにステンレスや耐水性に優れた材料を選定。
- スタッフが気持ちよく利用できるよう、換気や採光面にも留意。
2-4. 費用感と投資回収
- リノベーション費用:
約600万円(税抜)
- 回収期間の目安:
入居が決まれば、おおよそ半年程度で回収可能
築30年のビルであり、フロアの広さや間取りにもよりますが、トイレと給湯室の改修のみで約600万円というのは比較的リーズナブルな費用感です。もちろん、仕上げ材や設備機器のグレードによって上下はしますが、古いトイレを使い続けたまま空室が埋まらないリスクを考えれば、「半年で回収可能」という投資判断は十分妥当性があります。
3. 具体的な事例紹介:オフィスB
3-1. 概要と課題
- 所在地:五反田駅から徒歩4分
- 建物規模:地上10階地下1階建て
- 築年数:35年
- 空室フロア数:10フロアのうち5フロアが空室
オフィスBは五反田の好立地にありながら、10フロア中5フロアが空室という厳しい状況でした。そこでオーナー様は、この機会に大規模なリノベーションを実施して、ビルの価値を大きく向上させたいと考えたのです。
3-2. リノベーション範囲とコンセプト
オフィスBでは、単一フロアではなく下記の範囲での「トータルリノベーション」を実施しました。
- 空室5フロアのトイレ・キッチン・エレベーターホール
- エントランスホール
「白漆喰を使った上品な空間」というデザインコンセプトを掲げ、誰が見ても“清潔感と上品さ”を感じられるオフィスを目指しました。五反田エリアではIT企業など若い層の多い企業も多く、感性に訴えかけるスタイリッシュなデザインは入居テナントの期待に応えやすいと判断したのです。
3-3. 具体的な改修ポイント
1. エントランスホール
- 壁面を白漆喰で仕上げ、柔らかな光の反射と清潔感を演出。
- 既存の床や天井を活かしてコストを抑え、全体として統一感を出す。
2. エレベーターホールと事務室の間仕切り
- ガラスの建具を採用し、視覚的な拡がりを確保。
- エレベーターを降りた瞬間の圧迫感をなくし、透明感を出すことでフロアが広く感じられる効果を狙う。
3. トイレ・キッチン設備
- 衛生陶器は白を基調とし、どの年代・どの業種にも好印象を与えやすいシンプルなデザインを選択。
- キッチンはステンレス素材の製作ものとし、耐久性と清潔感を両立。
- 天井や壁の照明にも配慮し、暗さや閉塞感を感じさせない構成に。
3-4. 費用と回収見込み
- 費用内訳:
- 各フロア(トイレ・キッチン・エレベーターホール・建具)の改修費:1フロアあたり約900万円
- エントランス改修費:約400万円
- 全体の費用:
現場管理費・諸経費を含めて約5,500万円(税抜)
一見、高額に感じられるかもしれませんが、5フロア分とエントランスホールの大規模改修という点を考慮すれば妥当な範囲といえます。テナントがすぐに決まれば、おおよそ1年半ほどで回収が可能というシミュレーションでした。
4. リノベーションを実施しない場合のリスク
ここで改めて、リノベーションを行わない場合のリスクを整理します。空室を抱え続けると、以下のような状況に陥りやすくなります。
1. 賃料の大幅な値下げ
- 空室が続けば、なんとか埋めようと賃料を下げざるを得なくなる。
- 一時的にテナントが決まっても、周辺相場より安い賃料で契約せざるを得ず、収益が安定しない。
2. ビル全体の資産価値低下
- 古い共用部のままではビル自体のイメージが悪く、空室率が高止まりする。
- オフィスビルの評価額も低下し、将来的な売却やリファイナンスの際に不利になる。
3. 負のサイクル
- 入居が決まらない → さらに賃料を下げる → テナントの質が下がり、追加の改修コスト発生 → オーナー収益悪化 → ビル維持費すら捻出しにくくなる
- 一度こうしたサイクルに陥ると、抜け出すのに大きなコストと時間が必要。
行動しないリスクを考えると、リノベーションこそが「最良の空室対策」であると言っても過言ではありません。
5. リノベーション会社の選定ポイント
リノベーションを成功させるためには、実績とノウハウを持ったパートナー企業の選定が不可欠です。オフィスリノベーションを検討する際は、以下のような観点で比較検討すると良いでしょう。
5-1. 業務範囲の明確さ
- 設計、施工、PM(プロパティマネジメント)、BM(ビルメンテナンス)など、どこまで包括的に対応してくれるのか確認しましょう。
- ワンストップで全工程を任せられる会社もあれば、設計は設計事務所、施工は別会社と分離しているケースもあります。
- 窓口が分散するほどコミュニケーションロスが発生しやすく、工期延長やトラブルの原因になりかねません。
5-2. 実績の有無
- 似たような規模や築年数のオフィスビルでのリノベ実績があるかどうかをチェックします。
- 事例が豊富なほど、想定外のトラブルへの対応経験も積み上がっており、安心感があります。
- 事前に実際の施工事例(写真や図面)を見せてもらい、デザインや仕上がりのテイストを確認すると失敗が少なくなります。
5-3. アフターサポート
- リノベーション後の不具合についてどの程度の期間、保証してくれるのか。
- メンテナンスや定期点検、トラブル時の連絡体制などはどうなっているのか。
- 工事後のフォローが手厚い会社であれば、安心して長期的にビル運営を続けることができます。
6. オフィスリノベーション成功へのステップ
ここまでオフィスリノベーションの事例や費用感、リノベーション会社の選定ポイントを述べてきましたが、具体的に進めるにあたってどのようなステップを踏むべきかを整理しましょう。
1. 現状分析と課題抽出
- 空室状況やテナントの退去理由、周辺の競合オフィスの特徴などを調査し、現状の課題を洗い出します。
- 例えば「トイレの老朽化がネック」「エントランスに魅力がない」など、優先順位をつけて改善すべき点を絞り込みます。
2. リノベーションの目的・コンセプト設定
- 投資回収を念頭に置いたうえで、「どのようなテナントをターゲットにしたいのか」「ブランドイメージをどう変えたいのか」を明確にします。
- オーナーや管理会社、リノベーション会社で方向性をしっかり共有することで、工事内容のブレを防ぎます。
3. 概算費用の試算・資金計画
- リノベーションにかけられる予算を決め、どの程度の仕上がりを目指すかを調整します。
- 金融機関からの借入や自己資金の投入など、資金計画を具体化し、想定賃料収入とのバランスを検討します。
4. プランニングとデザイン検討
- 設計担当者と打ち合わせを重ね、設備機器の仕様、内装デザイン、レイアウトなどを詰めていきます。
- 実際の使用場面を想定しながら、メンテナンス性や耐久性、将来的なリフォームのしやすさなどにも配慮します。
5. 施工・現場管理
- 工事が始まったら、現場管理者が進捗や品質をチェックしながら工程を進めます。
- テナントや近隣ビルへの配慮、騒音・振動対策など、トラブルが起きないよう注意しつつ作業を遂行します。
6. 引き渡し・アフターサポート
- 竣工後には、オーナー・管理会社立会いのもとで最終チェックを行い、問題がなければ引き渡しを受けます。
- 不具合が見つかった場合は速やかに補修を行い、保証期間やメンテナンス体制も確認しておきます。
7. まとめ:リノベーションがもたらす未来
オフィスビルの空室対策としてのリノベーションは、単なる「古い設備を新しくする」だけでなく、ビルの資産価値そのものを高め、入居テナントの満足度を劇的に向上させる力を持っています。オフィスAのように1フロアのトイレ・給湯室の改修であっても、短期間で投資を回収でき、空室を埋める効果を発揮します。また、オフィスBのように複数フロアとエントランスをまとめてリノベーションする大規模プロジェクトは、さらに大きなインパクトを生み出し、ビル全体のブランディングを一新することが可能です。
もしリノベーションを行わず放置してしまえば、空室期間の長期化や賃料値下げのリスクが高まります。とりわけ建物が築数十年を超えてくると、設備の老朽化が進行し、ビルのイメージダウンが避けられません。こうした状況を打破するには、適切なタイミングでリノベーションに投資し、収益アップとビルの長寿命化を両立させる戦略が重要になります。
最後に、リノベーションの成否を左右するのは「どの会社に依頼するか」「どれだけ明確なコンセプトを持って進められるか」です。費用対効果のシミュレーションを行い、信頼できるパートナーと協力して計画を進めることで、オーナーにとってもテナントにとっても魅力あふれるオフィスを実現することができるでしょう。
オフィスビルが生まれ変わる瞬間は、オーナーにとっても大きな楽しみの一つです。
美しく改修されたトイレやエントランス、明るいエレベーターホールを見ると、「これならきっとテナントに選ばれる」と確信が持てるはずです。そして実際に、そのビルで働くテナント企業の社員が快適に日々を過ごし、ビジネスを発展させていく姿は、オーナーや管理者にとっても誇りや喜びにつながるのではないでしょうか。
一度きりの改修ではなく、長期的に建物を維持・運営していく視点を忘れずに、定期的なメンテナンスや部分的なリノベーションを計画的に進めていくことで、建物の価値を着実に保ち、さらには高めていくことができます。ぜひ本稿で紹介した事例を参考に、皆様のオフィスビルでも最適なリノベーション計画を練ってみることをお勧めします。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
設計チーム
鶴谷 嘉平
1994年東京大学建築学科を卒業。同大学大学院にて集合住宅の再生に関する研究を行いました。
一級建築士として、集合住宅、オフィス、保育園、結婚式場などの設計に携わってきました。
2024年に当社に入社し、オフィスのリノベーション設計や、開発・設計(オフィス・マンション)を行っています。
2025年8月25日執筆
