“やったのに決まらない”の正体とは?―築古オフィス改善の判断設計を考える
皆さん、こんにちは。
株式会社スペースライブラリの飯野です。
この記事は「“やったのに決まらない”の正体とは?―築古オフィス改善の判断設計を考える」のタイトルで、2025年12月17日に執筆しています。
少しでも、皆様のお役に立てる記事にできればと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
はじめに
「うちも、やるべきことはやってるんですよ。ただ、なぜか決まらないんです。」
築年数を重ねた中小規模の賃貸オフィスビルのオーナーや管理担当者から、そうした声が聞かれることは少なくありません。
実際、エントランスの改修、共用部の清掃強化、条件面の見直しなど、一定のコスト、手間暇をかけた対応が行われているビルも多くあります。
それでも空室が、なかなかすぐに埋まらない。
内見の反応は鈍く、問い合わせの数も伸びない。
「やれることはやっているのに、なぜ決まらないのか」という、答えの見えにくい徒労感だけが現場に残る。
そうした状況は、いまや築古の賃貸オフィスビルに共通する構造的な課題となっています。
そもそも、築古の賃貸オフィスビルの建物は老朽化しており、設備仕様も最新でもなく、現在の賃料水準を維持すること自体、望むべくもないという悲観論に組することもなく、できる限りの対応策を打ってきたのに、決まらない。
このような決まらなさの原因を、そもそも、対応策など意味がないということでなく、「選び方」や「優先順位」、「見え方」といった判断の軸が、どこかでズレていたということなのかもしれません。
さらに深く見ていくと、判断の支えになるはずの「過去の実務経験」や「他物件との比較」が、かえって意思決定を鈍らせている場面も見られます。
つまり、対応したのにうまくいかないのは、「改善が足りない」からではなく、「改善の選び方」そのものがズレているからではないかということです。
本コラムでは、築古の賃貸オフィスビルが直面するこうしたズレの実態を読み解きながら、次のような論点を整理していきます:
・なぜ対応しても成果に結びつかないのか
・過去の実務が、今の改善判断を曇らせている構造
・空振りに終わりがちな改善の典型パターン
・成果につながる「順番」と選び方の工夫
・判断を設計し、選択肢を再構築するための視点
どう判断し、どう進めるかという前提そのものを問い直すこと。
それこそが、築古の賃貸オフィスビルが選ばれる側に再び立ち返るための出発点になるのではないか――
そんな問題意識から、本コラムを始めたいと思います。
第1章:なぜ「対応・改善しているのに決まらない」のか?
「いや、うちも何もしていないわけじゃないんですよ。照明器具はLED化しましたし、トイレも一昨年にリニューアルして。共用部の床材も一部、貼り替えました。でも、それでも内見が増えないんです。」
築30年以上の中小賃貸オフィスビルを所有するあるオーナーの言葉です。ビル管理会社と連携しながら、予算の範囲内でできる限りの対応を重ねてきた。それでも空室が長引いてしまう。そうした声は、東京の築古の賃貸オフィスビルの現場で決して珍しくありません。
実際、設備や内装にまったく手を加えていない物件の方が、今ではむしろ少数派です。空調、照明、エレベーターなど、あらかじめ計画された設備更新に加えて、トイレ、館内サイン、共用部の床材、掲示物まわりの整理まで、テナントの目に触れる部分を一通りリニューアルしているビルも少なくないのです。
それでも「決まらない」。その原因は、対応・改善を「やったか・やらなかった」かではなく、「誰に向けてどのような改善を、どの順番で進めるのか」を選定し、判断するプロセスのズレにあるのかもしれません。
“方向性のズレ”が、決まらなさを生む
ある物件では、エントランスに木目調の化粧パネルと間接照明を組み合わせ、床には石目調の長尺シートを使用するなど、落ち着いたトーンで整えるリニューアルが施されていました。小規模なビルながら、清掃状態も良好で、空調設備も修繕計画通りに更新済み。築年数を考えれば、全体としては丁寧に維持管理されている印象でした。
この物件を内見の案内をしたリーシング担当から見て、内見したテナント社員のリアクションは、どこか控えめで、明確な手応えは感じられなかったといいます。
後日、その企業は別の物件を選びました。先方からの説明は「立地が希望と若干ずれていた」と簡潔なものでした。
内見時に感じられた「違和感」は、案内担当者レベルでは確かに残っていたものの、それが「改善の効果の検証材料」として社内で議論されることはありませんでした。社内ミーティングで軽く話題にされた程度で、リニューアル=改善、を担当した部署には届かず、定例のオーナー報告でも空室継続の事実だけが淡々と報告されたにとどまりました。
内見時の手応えの薄さは、あくまで主観的なものであり、「たまたま相性が悪かっただけかもしれない」「賃料設定のほうが大きかったのでは」と解釈されやすく、組織の中では判断材料として後回しにされがちです。
しかし、こうした「違和感の共有漏れ」や「曖昧なままの感覚のスルー」が積み重なることで、改善の方向性が少しずつ現場の肌感覚とズレていく構造が生まれてしまうのです。
この事例でも、改修がそもそも誤っていたとまでは言えません。客観的に、限られた予算の中で実施された、まっとうなリニューアル=改善だったともいえます。
ただ、「誰に対して、どのような効果を想定するのか」という視点が、ほんの少しだけズレていた。その微細なズレが、フィードバックとして返ってくることがほとんどなかったので、オーナーや管理者は「改善したのに決まらない」という状況に、理由が見えないまま直面することになります。
「改善」しようとすることで、かえって遠ざかることもある
築年数を重ねた賃貸オフィスビルを改善し見映えをよくしようとすること自体が悪いわけではありません。
たとえば、アロマやBGM、エントランス・マット、サイン、観葉植物などを組み合わせて設置し、共用部の印象を整える対応をとったとします。
見た目の印象はたしかに向上し、ビル管理の丁寧さも伝わる――そのような意図で実施された改善であったとしても、それがテナントの選定理由になるかどうかは、まったく別の話です。
むしろ、こうした見映えの底上げそのものが、テナントによっては次のように受け取られてしまうことすらあります。
「築古ビルが無理をしているようで、かえって痛々しい」「過剰な演出によって、むしろ古さが際立ち、ここで働くイメージが湧きにくくなった」――。
つまり、丁寧に整えたはずの演出が、逆に現実とのギャップを強調してしまう場合があるということです。
また、ビルの外観や共用部の見映えにフォーカスした結果、トイレや空調、セキュリティといった「不満の出やすいポイント」への対応が後回しになっている物件も見受けられます。本来であれば、こうした日常的な接点にこそ優先順位があるべきなのです。
つまり、空室対策の本質は何をやったかではなく、どこにどう配分したか。改善の配列や重みづけを間違えることで、対応し、改善しているのに選ばれないという状態が生まれてしまうのです。
「改善疲れ」に陥る前に、選び方そのものを問い直す
オーナーやビル管理会社の努力が足りないわけではありません。むしろ、努力を重ねているからこそ、「なぜこれでも決まらないのか」が見えにくくなっているのだと思います。
本コラムでは、個々の改修項目の良し悪し以前に、「なぜその改善を選んだのか」「他の可能性は検討されたか」「改善の順番は適切だったか」といった、判断の前提条件そのものを問い直すことをテーマにしています。
次章では、このズレがなぜ繰り返されるのか、そしてその背景にある「実務の摩耗」や「慣性の意思決定」について、より構造的に考察していきます。
第2章:実務の摩耗がズレを生む
築古の賃貸オフィスビルの改善をめぐる意思決定の現場では、「やることはやっているのに、なぜ決まらないのか」という問題が、繰り返し起こります。そして、そのたびに「今度はここを直してみよう」「あのビルがやっていたあれを真似してみよう」といった個別の対応が積み重ねられていきます。
しかし、こうした対応の多くは、その場しのぎの連続になってしまっているケースが少なくありません。なぜなら、判断の根拠が、蓄積された経験則や過去の成功体験にもとづいているだけで、現状を客観的に再評価する機会が極端に少ないからです。
判断の“繰り返し”が、判断力そのものを摩耗させる
築30年を超える物件であれば、10年、20年単位でテナントの入れ替わりや改修履歴が蓄積されているはずです。そうした履歴は本来、改善の方針を柔軟に導くための材料となるべきものです。
ところが、実際には「前回もこの対応で決まったから」「以前、これでうまくいった」という過去の正解に寄りかかったまま、現状に対する目線のアップデートが行われていないケースが目立ちます。
たとえば、「うちはトイレを改修すると決まりやすい」という経験にもとづいて、5年おきに内装だけを更新してきた物件。ところが最近は、それでもなかなか決まらない。にもかかわらず、「やるべきことはやっている」と判断し、それ以上の検証を止めてしまう──こうした思考の摩耗が、改善の視野をじわじわと狭めていきます。
このように、過去の蓄積がむしろ意思決定の柔軟性を奪ってしまう構造は、築古の賃貸オフィスビル管理の現場では決して珍しくありません。
「物件を知っている人」が、“変化に気づきにくい人”になる
長年にわたって対象物件を見てきたビル管理の担当者や、テナント対応に慣れたスタッフの存在は、賃貸オフィスビルの運営における大きな安心材料です。彼らの経験は、修繕の判断やトラブル対応において欠かせないものです。
しかし、こうした「慣れた目線」が、物件の魅力や弱点を“見慣れてしまう”ことによって、かえって改善のポイントを見逃すリスクも孕んでいます。
たとえば、共用部の照明器具が更新されずに、少し古びていたとしても、「このビルはもともとこういう雰囲気ですから」と判断してスルーされてしまう、掲示物や注意書きが貼られたままの掲示板も、「入れ替えの時期はいつもこのくらいですし」と見過ごされる、本来であれば、いまこの物件がどう見られているかを、改めて「初見の目線」で再確認すべきタイミングにもかかわらず、既視感がそれを上書きしてしまうのです。
賃貸オフィスビルの管理側にとっての「定例対応」が、テナントにとっての「違和感」になることも
さらに厄介なのは、賃貸オフィスビルの管理側にとっては当たり前になっている対応が、初めてビルを見るテナントにとっては、むしろ引っかかりとして残る場合があることです。
たとえば、ポストに入りきらない郵便物が一時的に管理室に取り置かれている、エレベーターホールに空きテナントの案内資料が山積みになっている……。
こうした状況は、管理側にとっては「よくあること」「特に支障のない運用」かもしれませんが、テナント側から見ると、「本当にここで働くことを前提にしてもいいのか」と感じさせてしまう微細な不信感につながることもあります。
このように、賃貸オフィスビル管理の現場実務がこなれていく過程で、かえって細部の見直しが抜け落ちるのは、築古の賃貸オフィスビルの管理・運営においては起こりやすい現象とも言えます。
“慣れた実務”に、問い直しの視点を差し込む
もちろん、過去の経験がすべて無効になるわけではありません。大切なのは、「これまでの正解」を一度フラットに見直し、現状と照らし合わせて再構成する視点を持つことです。
そのためには、オーナー自身、および、賃貸オフィスビル管理の実務担当者があえて初見の目線に立ち返ること、あるいは別の担当者・別部署・外部の専門家など他者の視点を介在させる仕組みを設けることが有効です。
たとえば、リーシングの現場担当者が持つ感覚を、賃貸オフィスビル管理会社のビル・メンテナンスのマネージャークラスの判断に組み込めているか。リニューアル方針の検証に、内見の反応が活用されているか。そうした「共有と再検証」の視点が、改善のズレを防ぐ鍵となります。
改善のズレは、失敗の結果ではありません。過去の成功体験に足を取られ、現場の変化に対する再評価が抜け落ちることで生じているのです。
次章では、こうしたズレた改善がどのような施策に現れやすいのか、現場でよく見られる改善策の空振りパターンを具体的に見ていきます。
第3章:ズレた“改善策”が現場で繰り返される理由
築古の賃貸オフィスビルの空室対策では、「改善しても決まらない」「どのように整えても反応が薄い」という悩みが繰り返し語られます。そのたびに新たな対応策が提案され、検討されるわけですが、それらの事例をよく見ていると、どこかで見たような施策が、別の賃貸オフィスビルでも繰り返されている光景によく出くわします。
それらは「他物件で成果があったから」「提案書のテンプレートに含まれていたから」といった、いわば無難に選択された改善提案を機械的に実施しただけで、それらがその対象物件、その立地、そのテナントのターゲットにとって最適かどうかは、ほとんど検証されていないことも少なくありません。
成功事例の“形式”だけがコピーされていく
ある賃貸オフィスビル管理会社では、数年前に実施した物件での「アートと観葉植物による共用部の演出」が成功し、業界雑誌等でも好意的に取り上げられたことをキッカケに、その後、同様の提案を複数物件に展開するようになりました。たしかに、一定の演出効果や印象改善にはつながったケースもあるでしょう。
しかしある別物件では、同じように植物とアートを配置したものの、「ちょっと過剰じゃないですか」「うちの業種には合わないかも」といった反応が、一部の内見した企業の担当者の本音めいた反応も仄聞されたといいます。
どんな施策も、「何を、なぜ、どこで行うのか」という前提が、ターゲットのテナントと共有されていなければ、単なる演出の上塗りに終わるリスクがあります。成功事例の「形式」だけを取り入れても、単に流行り廃りをなぞっただけなので、その改善の効果が発揮されることはありません。
競合物件との“表層的な比較”が判断を狂わせる
改善策の選定にあたって、「周辺の競合ビルがどこまでやっているか」という視点は重要です。ただし、その比較が表層的な見た目や、いくらコストをかけたのかという点に偏ってしまうと、判断基準が曖昧になりがちです。
たとえば、「近くのAビルではエントランスを明るくしたから、うちも照明を変えてみよう」「Bビルは入居が決まったので、あの床材と同じようなデザインにしよう」といった判断。それ自体は根拠もあり一見合理的にも見えますが、それらの改善が対象物件のポジションやテナントのターゲットと整合しているかが検討されていなければ、その改善はうまく機能しません。
競合物件で空室がすぐに決まった理由は、改装された床材や照明ではなく、「募集条件の柔軟さ」や「入居時期のマッチング」、あるいは「担当者のクロージング力」といった要素かもしれません。
成功事例の見た目だけを模倣しても、「なぜ決まらないか」という本質には届かず、改善コストばかりが嵩んでしまうことになりかねません。
「やっておけば安心」な改善が“決め手”になるとは限らない
現場には「最低限これだけはやっておきたい」という改善項目がいくつか存在します。たとえば、壁クロスや床材の貼り替え、エントランスのサイン更新、古びた照明器具のLED化、トイレの美装などは、どこかでやらなくてはいけないものでもあり、コストを抑えながらも効果のある、実務的な改善として、多くの場面で採用されています。
実際、これらの対応は当社の別コラムでも、内装や照明など比較的低コストで実行可能な改善策の一例として紹介していますし、現場での第一歩として有効です。
ここで問題になるのは、それらの改善を「やっておけば安心だから」という理由だけで、その目的や、ターゲットとするテナントのことを深く考えずに実施してしまうケースです。
たとえ改善の実施内容自体は適切だったとしても、「なぜそれを行ったのか」「どんな効果を与えたいのか」が読み取れない場合、費やした時間やコストの割に空振りに見えてしまうことがあります。
ひとつひとつは意味のある対応であったとしても、テナントに「ここに決めよう」と思わせる決定打になるとは限らないのです。
逆に言えば、「この物件らしさ」や「この立地だからこそ」という意図を伝える工夫が加えられていなければ、内見時にただ整っているうわべの印象だけが残り、心には届かない―そうしたリスクもあるということです。
「改善したのに決まらない」を繰り返さないために
こうしたズレた改善が繰り返される背景には、オーナー側の判断が曖昧なまま、その物件にとって本当に必要なことは何か、誰に向けて何を伝えるべきかといった視点が置き去りにされていることがあります。
それぞれの改善が誤っていたというわけではありません。
ただ、「このタイミングで、なぜこれを行うのか」「テナントがどのように受け取るのか」という目線が抜けてしまえば、せっかくの改善も狙った効果を発揮できなくなってしまいます。
たとえば、賃貸オフィスを「きれいになった」と感じさせることと、「ここで働くイメージが持てる」と感じさせることは、まったく別の話です。
テナントが重視しているのは、現実的に自社の働き方や価値観と合っているかどうかであり、空間の印象はその判断における大切な手がかりとなります。
だからこそ、改善の目的と内容が、その物件の立地や規模、テナントのターゲットとしっかり結びついていない場合、「なぜこうしたのかがよく分からない」ということになり、ズレた改善として見なされるリスクがあるのです。
もちろん、改善の価値は説明や演出だけで決まるものではありません。丁寧な仕上がりや更新された設備、美装された共用部など、施工そのものの価値は確かなものです。
ただ、その価値がテナントにきちんと伝わらなければ、「ここに入ろう」という意思決定にはつながりにくいのもまた現実です。
大切なのは、その改善が「誰に、どう見られるか」をあらかじめ意識し、「なぜそれが必要なのか」を具体的に考えたうえで取り組むことです。
そうした配慮があって初めて、ズレた改善を避けることができ、取り組んだ内容が効果として伝わり、結果として空室の解消にもつながっていくのです。
第4章:「何から動くか」の優先順位―ズレた判断が成果を遠ざける
第3章では、「せっかく改善したのに決まらない」という現象の背景に、ズレた改善がありえることを見てきました。
そこでは、改善の内容そのものが間違っていたというよりも、「誰に、どんな効果を与えたいのか」を考えずに形だけ改善しようとしたことが、結果につながらなかった理由として浮かび上がっていました。
では、見映えや管理運用まわりの改善をちゃんと考えて実行したとしても、それでも決まらないとしたら、何がズレていたのか。
実はそこには、「改善したけれど、肝心なリーシング条件調整の判断が甘かった」という、判断の順番のズレが関係していることがあります。
本章では、「やったこと」そのものよりも、「どこから、どの順に、どう動くべきだったのか」という優先順位の組み立てに視点を置いて、改善しても決まらない構造をもう一歩深掘りしていきます。
動けることは複数ある。だからこそ「順番」が問われる
賃貸オフィスビルの空室対策として、現場ですぐに可能なこととして取り上げられがちなのは、たとえば次のようなものです。
・床や照明、トイレの内装更新といった、軽めのリニューアル
・掲示物の整理、共用部の清掃頻度の見直しなど、日常的な管理運用の見直し
・賃料、フリーレントの調整など、リーシング条件の調整
いずれも、「効果がありそう」です。
問題は、「どれを、どの順番で実行するか」の見立てがズレてしまうと、ひとつひとつの動きは効果があるはずなのに、空室解消という成果にはつながらないことがありえるということです。
一方、空調や給排水、換気などの設備の本格的な整備は、費用や工期の規模が大きく、すぐに対応可能かどうか、オーナーごとに置かれた事情に大きく左右されるため、本コラムでは踏み込まず、比較的動きやすい「小さな改善」と「条件調整」の順番判断に焦点を当てます。
例①:改善を先に実施したことで、リーシング条件の対応が鈍ったケース
ある中小ビルでは、エントランス照明と床材の貼り替えを先に実施しました。
見映えは改善され、内見数も一定程度は増えましたが、成約にはつながらず、次はどこを直すべきかという議論になっていました。
そんな中、内見者からは「もう少しフリーレントがあれば」「周辺の競合物件と比較すると賃菅込みで割高感が残る」といったコメントも聞いてはいたのですが、オーナー側には、「ここまで改善したのに、さらに条件を譲るのは気が進まない」という心理が芽生えていました。
改善自体は間違っていなかったとしても、ここで一区切りつけた感覚が生まれてしまったために、リーシング条件交渉の柔軟さが失われて、タイミングを逸してしまいました。
こうした判断の硬直が、結果的に機会を逃す原因になることは、実際によく起こりがちです。
例②:リーシング条件の調整を先に進めたが、築古ビルのネガティブな印象が先行して失注したケース
別の物件では、フリーレントの余地を引上げ、実質的な賃料引下げにまで踏み込んだので、早々に問合せがあり、いくつかの内見のアポを取り付けました。
しかし、実際に物件を内見したテナント担当者からは、「床が古く、使用感が気になった」「照明が暗めに感じられて、印象がぼやけた」といった感想があり、最終的に成約には至りませんでした。
条件面では前向きだったのに、肝心の築古ビルの印象が先行してしまって、一歩届きませんでした。見映え改善のため、なにかをしておけば、多少なりとも印象を挽回できた可能性があったかもしれません。
このように、「どこから手をつけるべきだったか」の順番がズレるだけで、成果を逸することがあるのです。
二者択一ではなく、順番の組み立ての問題
この例から学ぶべきは、「リーシング条件と見映え改善、どちらを先にやるべきか」という正解探しの話ではないということです。
空室を埋めるために効果的な対応はどちらか一つでもありませんし、どちらを先にするのかという順番に絶対はありません。
大事なのは、その物件の状況、周辺環境、テナントのターゲット像、募集のスケジュール感などを踏まえて、「どこから手をつけるべきか」を組み立てる視点を持っているかどうかです。限られた時間や予算の中で「どこから着手するか」を見極めることが、結果の差につながるのです。
ズレた改善の多くは、実は「改善が間違っていた」のではなく、「その改善を今やるべきだったのかという順番の見誤り」に起因しています。
「やったのに決まらない」と感じたときこそ、次の問いとして、「順番は正しかったか?」を静かに差し込んでみる。
そうした視点の有無が、空室の長期化と早期成約の分かれ道になるかもしれません。
第5章:「選ばれない」理由が伝わってこない構造
空室が長期化している物件に共通するのは、「改善はしているし、管理にも手をかけている。なのに、決まらない」というオーナー・ビル管理会社側の実感です。
そしてもう一つ、現場でよく聞かれるのが、「なぜ選ばれなかったのかが分からない」「特に悪いと言われたわけでもないのに、他の物件に決まってしまった」という声です。
この理由の見えなさは、テナント側の意思決定の特性だけでなく、情報がすれ違う構造そのものに起因していると考える必要があります。
テナントは「選ばない理由」を語らない
テナントが物件を決めるとき、その理由はシンプルなことが多く、「条件が合ったから」「担当者の対応が良かったから」といった前向きな説明で語られます。
しかし、逆に「なぜ選ばなかったのか」は、あまり明確に伝えられることがありません。
それが「とくに悪くはなかったんだけど…」のような、曖昧な印象の差に帰着してしまうことも多いのです。
とくに中小規模の賃貸オフィスでは、テナントの意思決定が少人数でなされることも多く、感覚的な要素が判断に与える影響が大きいにもかかわらず、そうした「印象の引っかかり」が明示的にフィードバックされることは稀です。
その結果、オーナー・ビル管理会社側は「悪かったのはここです」とは言われずに、悪くはなかったのに選ばれなかったというモヤモヤした感覚だけが残ることになります。
フィードバックが共有されにくい構造
この理由の不在をさらに見えづらくしているのが、現場の情報が組織内で共有されづらい構造です。
内見時のテナントの様子や、何気ない発言のニュアンスから、「少し使いづらそうだったかもしれない」「雰囲気が合わなかったのかもしれない」と感じたとしても、それが担当者の個人的な印象として止まってしまい、オーナーとビル管理会社が情報、認識を共有するには至らないというケースは多く見られます。
また、ビル管理会社のリーシング担当とビル・メンテナンス(BM)担当といった縦割り組織の情報断絶も、見逃すべきではありません。
実際、「物件の印象は良かったです」という、内見時のテナントの表面的なコメントが社内日報で共有されたとしても、どこがあと一歩足りなかったのかといった本質的な感覚は、ほとんど伝わっていないことがよくあります。
「選ばれなかった理由」は、そもそも記録されていない
構造的な問題は、「選ばれた理由」は、成約レポートのなかでコメントされて残るのに対して、「選ばれなかった理由」は記録されないという点にもあります。
テナント側が検討の末に選ばなかったとしても、その選ばなかった理由は、問い合わせのメールのやり取りのなかの1行、電話での一言、現場スタッフの主観的な印象の中に断片的に感じとられる他なく、それがきちんとレポートされることはほとんどありません。
この結果、オーナー・ビル管理会社側が「どこを見直すべきだったのか」を判断するデータが蓄積されず、同じようなズレた改善が繰り返される温床にもなっています。
「選ばれなかった理由」をつかむには、言語化されない部分を拾うしかない
この構造のなかで、唯一改善のヒントになるとすれば、それは内見時のテナントの微細な反応や、曖昧な感想の行間にある「小さな違和感」です。
- ・どのタイミングで、見学のテンポが変わったか
- ・どこで質問が止まったか
- ・図面に印をつけなかったポイントはどこだったか
- ・なるほど」と言われたあとに、目線が沈んでいた箇所はどこか
こうした非言語的な拒否反応をどう拾うかが、次の改善や対応の質を左右する手がかりになります。
それは、明確な「ここが悪かった」という批判ではなく、言語化されないまま流されていく不一致の感覚を、現場がどう捉えるかにかかっているのです。
まとめ:「伝えられる理由」に頼らず、「伝わらない違和感」を拾い直す
選ばれない理由が明示されない以上、オーナー・ビル管理会社側がすべきなのは、「選ばれなかったのはなぜか?」という問いに、直接の答えを求めることではありません。
むしろ、「この改善は、誰にどう見られ、どう受け止められていたのか」を、伝えられなかったサインの中から逆算していく作業が必要なのです。
「とくに悪いとは言われなかった」というのは、何も悪くなかったのではなく、よくするための違和感が共有されなかったというだけかもしれない。
その認識の違いこそが、ズレた改善、ズレた順番、ズレた判断につながっていくのです。
第6章:「わかっているのに動けない」――実務の制約と意思決定の限界
ここまでの章では、「なぜ改善しても決まらないのか」「何がズレていたのか」について、多角的に見てきました。
どの章でも繰り返し浮かび上がったのは、対応そのものが悪いのではない。ズレていただけだという構造です。
改善の方向性を問い直し、優先順位を整理し、感覚的な違和感を拾い上げていくことで、成果につながりやすい判断のあり方が見えてくる。
そのような整理ができれば、次は「どう動くか」の段階です。
しかし実務の現場では、「それでも実際にはなかなか動けない」という壁にぶつかることも少なくありません。
「やるべきことは見えてきた。でも、動けない」。
本章では、その動けなさの背景にある構造と、改善の実行可能性をどう捉えるかという論点に目を向けていきます。
わかっていても、動けない。という現実
たとえば、「見映えの改善だけでは足りない。リーシング条件の柔軟な対応が必要だ」「もう少し早くトイレを更新しておけば、テナントの反応が違ったかもしれない」といった振り返りが、ビル管理会社内で共有されたとします。
そうした共通認識があれば、「次こそは正しく対応しよう」という前向きな意識が生まれるのが自然です。
ところが、いざ「では次に何をやるか」となると、話が止まってしまう。
オーナーの意向確認、工期やテナントとの調整といった現実的な手間に加え、「失敗したくない」「動いても成果が保証されないかもしれない」という心理的な迷いもまた、実行判断をためらわせる要因となります。
改善を止める“限界”は二種類ある
そもそも、改善に踏み切れない理由の説明には困りません。
まず、築古の賃貸オフィスビルには、構造的・法的に避けられない物理的限界があります。
・天井高が足りず、照明や仕上げによる印象改善にも限界がある
・空調のゾーニングが分かれておらず、柔軟なレイアウト変更に対応しにくい
・給排水の位置の関係で、トイレ、水回りの移設や間取りの柔軟化が困難
・エレベーターや共用部の位置が構造上、固定され、導線が変えられない
・消防法や建築基準法が改修内容を制限している
こうした条件は、「やったほうがいいと分かっていても、そもそもできない」明確な壁として存在します。
また、それ以上に動きを止めているのが、戦略的な判断によるブレーキです。
これは、物理的に不可能なわけではないが、「やっても回収できない」「費用対効果が読めない」という判断のブレーキです。
・この立地・築年数・広さで、どこまで賃料プレミアムを狙えるのか?
・100万円以上かけた改善が、どれだけ成約に寄与するのか?
・いままで十分に改善してきたのに、さらにコストを投下して、満足なROI(投資収益率)を確保できるのか?
“実行しない”ことも判断。ただし、停滞とは違う
もちろん、「改善しない」こと自体が、即誤りだとは限りません。
上記で説明したように実行が物理的に出来ない限界もありますし、戦略的な判断として動かないこともありえます。検証された根拠と戦略的な狙いが伴えば、判断としての静止であり、十分に合理的です。
しかし問題なのは、その判断が明確に言語化されず、結果として“動いていないだけ”になってしまうケースです。
・誰も「やらない」とは言っていない
・しかし「やる」とも言われない
・話は出ているが、進捗がない
・判断の責任が明確でなく、話が止まってしまう
こうした宙づりの状態では、改善が遅れているというよりも、「止まっていることに慣れてしまっている」と言ったほうが適切かもしれません。
この静かな停滞こそが、空室長期化の背景にある構造の一つと言えようかと思います。
まとめ:できることに集中するために、“できないこと”を整理する
改善には限界があります。動かない理由にも、根拠があります。
だからこそ、「何ができるか」だけでなく、「何ができないか」も含めて、自分たちの判断軸を明確にしておくことが、空室対策の出発点となります。
・どこまでが物理的な制約なのか
・どこからが心理的なブレーキなのか
・どこまでが戦略的な判断なのか
・何をあきらめ、何に集中すべきなのか
こうした点を明らかにしないで、「とにかく何かやろう」と闇雲に動いてしまえば、それはそれで、またしてもズレた改善に陥るリスクがあります。
本当に必要なのは、「やるか・やらないか」の二者択一の判断ではなく、
「どこまでやれるのかを冷静に見極め、そのうえで確実に動く」という判断の質です。
動けない理由を言い訳にせず、選びきる力として意思決定を再設計すること。
それが、築古の賃貸オフィスビルが再び選ばれる存在へと近づくための、もう一つの条件なのではないでしょうか。
第7章:「全部はできない」から考える――空間の構成を再設計する
築古の中小型オフィスビルでは、「すべてを完璧にすれば選ばれる」という発想自体が、現実的ではありません。
物理的な制約、予算、判断力の限界もある。とはいえ、何もしなければ空室は埋まりません。
では、「全部はできない」状況の中で、何をどう構成すればよいのか。
本章では、その空間の構成の再設計について考えていきます。
「どこをやるか」ではなく、「どこまでにしておくか」
改善の効果は、必ずしも「手をかけた量」と比例するわけではありません。
むしろ、どこまで手を加えるか、どこで止めるか――そのバランスの見極めこそが、結果を左右します。
・体の佇まいに対して、エントランスだけが妙に華美で浮いてしまっている
・古さを打ち消そうとして一部の設備だけを更新した結果、周囲との違和感が目立つ
こうした「ちぐはぐさ」こそ、テナントが敏感に察知するズレの正体です。
これは設備の新旧やスペックの優劣ではなく、「空間全体の構成の問題」そのものです。
「ズレない空間構成」は、足し算よりも引き算に宿る
改めて強調したいのは、「ズレのない構成」とは、派手な演出や目に見える差別化を狙うことではないということです。
むしろ、余計なものを削ぎ落とし、建物としてのまとまりを乱さないことのほうが、結果としてテナントに選ばれる物件へとつながります。
・ビルの規模や立地と調和した素材を選ぶ
・既存の構造や動線を邪魔しない照明・サイン計画
・明確な意図が読み取れる、シンプルで過不足のない内装デザイン
これは、「目立つ差別化」ではなく、「自然な調和」を重視することが、テナントに安心感や納得感を与えるということでもあります。
ブルーノ・タウトが桂離宮に見た、「構成の美学」
この「空間構成による改善」の考え方を深める上で、ブルーノ・タウトの桂離宮の見方が、意外にも参考になります。
タウトは桂離宮を訪れた際、「泣きたくなるほど美しい」と評し、その美の本質を次のように語りました。
「趣味が洗練の極致に達し、しかもその表現が極度に控え目である」
※ブルーノ・タウト『日本美の再発見』(岩波書店)より。
つまり、装飾を削ぎ落とし、空間の関係性と要素同士のバランスにすべてを委ねることこそが、桂離宮の美しさであると指摘したのです。
桂離宮には、豪華な装飾や圧倒的なシンボル性は存在しません。
しかしその空間には、過不足のない均衡と自然な連続性があり、使い手が何の説明も受けなくとも納得できる、明快な構成が施されています。
この姿勢は、築古の中小規模オフィスビルの改装にあたっても、深く通じるものがあるのではないでしょうか。
限られた条件の中で、余分なものを足さず、むしろ「空間全体を調律する」こと。
それこそが、今改めて求められる実務的な「改善の本質」なのではないでしょうか。
まとめ:「構成する」とは、空間を信じて余白を残すこと
築古の賃貸オフィスビルの改善で迷ったときに求められるのは、「もっと良く見せよう」と付け足すことではなく、「違和感のない状態で止める」という決断です。
それは、華やかさやコストをどこまでかさ増しできるのかを追求するのではなく、「建物の文脈に合った素直な空間構成」を選択することです。
つまり、「何も説明しなくても意図が伝わる空間」をつくるということです。
・手を加えすぎない。
・装飾しすぎない。
・背伸びしすぎない。
それでも「なぜか納得できる」とテナントに感じさせる空間構成には、「設計の精度」と「空間そのものへの信頼」が宿っています。
改善の本当の価値は、こうした構成への意識的な見極めと選択の蓄積によってこそ生まれる――
「全部はできない」からこそ、選ばれる空間の作り方が徐々に見えてくるのではないでしょうか。
もちろん、桂離宮のような完成度を築古オフィスビルにそのまま持ち込むことはできません。
しかし、そのような空間を意識して設計を見直すことが、「構成の精度」を高めるための、第一歩になるはずです。
第8章:「改善する」から「選ばれる」へ――築古ビルがとるべき次の一手
ここまで本コラムでは、築古の中小規模オフィスビルにおいて、どのような取り組みが「決まらなさ」につながってしまうのかを検証してきました。
・改善の方向性のわずかなズレが、その効果をブレさせる
・対策を講じているのに、なぜか選ばれない
・判断は繰り返され、なぜか停滞する
・やったことが評価されず、やらなかった部分だけが印象に残る
こうしたなぜかうまくいかない現象の背後には、改善そのものではなく、その選び方や組み立て方の問題が潜んでいました。
本章では、その総まとめとして、「では何が選ばれる結果を生み出しているのか」を、あらためて捉え直してみます。
問題の本質は、“何をしたか”よりも、“どう構成されたか”にある
これまで取り上げてきたように、多くの築古の賃貸オフィスビルでは、一定の対応がすでに施されています。
・トイレは数年前に更新済み
・照明器具はすでにLED化済み
・エントランスも改装済で、一応はキレイになっている
それでも、反応が薄い。手応えがない。
このときに見落とされているのは、ひとつひとつの施策の良し悪しではなく、それらの「組み合わせ方」「見え方」「伝わり方」です。
選ばれなかった理由は、それぞれの施策がダメだったからではなく、「全体として何かがちぐはぐに見えた」から。
つまり、結果に影響するのは“判断の構成”そのものなのです。
必要なのは、“意味が通る仕上がり”であること
なにがしか改善して、設備を新しくすれば、清掃を強化すれば、効果が上がって、テナントの印象が上が――それは一部では正しいかもしれません。
しかし今、テナントが感じ取っているのは、そうした「改善の量」ではなく、場としての説得力や、一貫した背景の見え方です。
・ぜこの部分だけ新しく、他はそのままなのか
・なぜ余白があるのか、あるいはなぜ埋め尽くされているのか
・実際に使う場面を想像したとき、どこに「違和感」が出てくるのか
この「違和感のなさ」こそが、選ばれる理由になりつつあります。
それは、個々の部分の出来ではなく、空間全体の構成としての納得感に寄与する要素です。
桂離宮に見る、“構成の精度”という考え方
前章でも触れたブルーノ・タウトによる桂離宮の評価は、まさにこの「構成の精度」への着眼でした。
装飾に頼らず、素材の力を引き出し、配置の釣合いによって全体を成立させる――
この考え方は、築古ビルにおける改修判断にも通じるものがあります。
派手な演出を施さずとも、空間の連続性や要素の呼応がきちんと感じられるかどうか。
仕上がりが目立たないことで、むしろ好印象を残すこともある。
このような「何も主張しないことで、意味が通る仕上がり」は、これからの賃貸オフィスビルの選ばれ方を考えるにあたっても、ひとつの方向になるでしょう。
重要なのは、どこまでやるかではなく、なぜそうしたのかが説明できるか
築古の賃貸オフィスビルを改善するにあたって、予算や構造上の制約が必ずあります。
全部を刷新できるわけではない。けれども、どこを触り、どこを触らないかという選択の精度が高ければ、結果には大きな差が出ます。
・あえて手を入れなかった箇所が、空間全体の呼吸をつくっている
・目立たない処理が、入居後の安心感を下支えしている
・「ここまででいい」と判断された更新が、逆に信頼を生んでいる
こうした仕上がり方には、計画と実行のあいだの判断が丁寧に組み立てられていることが共通しています。
まとめ:仕上げるのではなく、“選ばれる構成”を組み立てる
本コラムの冒頭で触れたように、「対応して、改善しているのに決まらない」という悩みは、いまや築古の賃貸オフィスビルにおいて共通する課題となっています。
それに対する答えは、単に「もっとやる」「もっと見せる」ことではありません。
むしろ、「どこまでで十分か」「どう見せればズレが起きないか」――そうした判断の濃度と構成が、差を生んでいます。
選ばれるビルには、目立たないけれど、判断の一貫性と背景の納得感がある。
その空気をつくるのは、建材や演出ではなく、計画の構え方です。
築古の賃貸オフィスビルが目指すべきは、過剰でも不足でもないちょうどよさを、自分たちなりの構成で言葉にできるようにすること。
それが、これからの賃貸オフィスビル市場において「選ばれること」への最短距離ではないでしょうか。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2025年12月17日執筆