都心立地の価値は今後も続くのか?築古オフィスビルの生き残り戦略を考える
都心部の築古オフィスビルは、これまで「立地の強さ」に支えられながら一定の需要を維持してきました。
しかし、テレワークの普及や働き方の変化により、都心にあるだけで競争力を保てる時代ではなくなりつつあります。
本コラムでは、都心立地の価値が今後どう変化するのかを整理しながら、築古オフィスビルが収益を維持し続けるために考えたいポイントを解説します。
- どんな人向け?
- 都心部で築古オフィスビルを所有し、今後の収益性や将来性に不安を感じている方
- 建替え・リニューアル・継続保有のどれを選ぶべきか判断に悩んでいる方
- 資産価値だけでなく、安定した賃貸経営の視点でビル運営を見直したい方
- 本コラムのポイント
- 都心立地の価値は今後も残る一方、「立地だけ」で選ばれる時代ではなくなりつつある
- 築古ビルの競争力は築年数ではなく、維持管理や運営改善の積み重ねで決まる
- 建替えだけを前提にせず、継続保有や部分リニューアルも含めて比較検討することが重要である
- 結論
都心立地の価値は今後も残る可能性が高い一方で「都心にあるだけ」で競争力を維持できる時代ではなくなっています。
築古オフィスビルの将来性を左右するのは築年数そのものではなく、立地特性を活かした運営や適切な改善を継続できるかどうかです。
建替えありきで考えるのではなく、収益力と市場ニーズの両面から最適な選択肢を見極めることが重要です。
都心立地という強みは今後も続くのか
東京のオフィス市場は長年にわたり、政治・経済・文化の中枢機能を集約することで独自の価値を形成してきました。
その結果、築年数が古いビルであっても「東京の中心部にある」という理由だけで一定の需要を獲得できる環境が続いてきました。
実際に、都心部では築30年以上のビルであっても安定した稼働率を維持している事例が少なくありません。
その理由は、企業がオフィスを選ぶ際に、単純な設備スペックだけで判断しているわけではないからです。
都心立地が持つ価値
| 要素 | テナントにとっての価値 |
|---|---|
| 交通利便性 | 通勤や営業活動の効率化 |
| 企業イメージ | 採用力や信用力の向上 |
| 顧客との距離 | 商談機会の確保 |
| 周辺環境 | 従業員満足度の向上 |
つまり、旧耐震ビルの価値を考える際は建物性能だけでなく「場所の力」を見ることが重要です。
しかし、その優位性が今後も変わらず続くとは限りません。
テレワークの普及や働き方の多様化により、企業はオフィスのあり方そのものを見直しています。
都心立地に影響を与える変化
| 変化 | 影響 |
|---|---|
| テレワークの普及 | オフィス依存度の低下 |
| 働き方の多様化 | 拠点戦略の見直し |
| コスト意識の高まり | 賃料負担への厳しい目線 |
| 地方分散の進展 | 一極集中の緩和 |
かつては「都心にあるだけ」で競争力を維持できたビルもありました。
しかし現在は、立地に加えてどのような運営や改善が行われているかが問われる時代になっています。
築年数そのものが問題なのではなく、築年数に対して適切な維持管理や改善が行われているかが重要なのです。
築古ビルの競争力は、建物そのものだけでなく運営体制によっても大きく変わります。
PM会社の役割や見直しの考え方については、こちらのコラムで詳しく解説しています。
あわせて読みたい: [ オフィスビルのPM(プロパティマネジメント)会社見直し ]
ストック価値と収益力のズレを意識する
近年の都心不動産市場では売買価格が上昇する一方で、賃料の上昇には一定の限界があります。
オフィス賃料は最終的にテナント企業の事業収益から支払われるため、地価や売買価格が上昇し続けても賃料が同じペースで上がり続けるとは限りません。
築古ビル経営で起こりやすい課題
| 状況 | 発生する問題 |
|---|---|
| 建物価格は上昇 | 投資期待が高まる |
| 賃料は横ばい | 収益改善が進まない |
| 修繕費は増加 | キャッシュフローを圧迫 |
| 投資を先送り | 建物競争力が低下 |
このように、資産価値と収益力が一致しないケースが増えています。
そのため、築古ビル経営では市場価格だけを見るのではなく、実際にどれだけ安定した収益を生み出せるかという視点が欠かせません。
築古ビルが生き残るための5つのポイント
築古ビルは新築ビルと同じ土俵で戦う必要はありません。
重要なのは「何が不足しているか」ではなく、どのようなテナントに選ばれるかを考えることです。
- エリア特性:街の個性を差別化に活用
- 小規模ならではの柔軟性:テナント要望への迅速な対応
- 過剰投資を避ける:必要な部分へ重点投資
- 建物のストーリー:歴史や独自性を価値に変える
- 多様な用途への対応:サテライトオフィスや営業拠点需要を取り込む
近年では、どこにでもあるようなオフィスよりも、そのビルならではの特徴を持つオフィスを選ぶ企業も増えています。
築古であること自体が弱みではなく、場合によっては他のビルとの差別化要因になることもあります。
建替えだけが正解ではない
旧耐震ビルの将来を考える際、建替えを検討するオーナーも多いでしょう。
しかし、中小規模オフィスビルの場合は建替えによって必ずしも収益性が向上するとは限りません。
建築費の高騰や工事期間中の賃料収入停止、融資条件の変化などを考慮すると、建替え後の収支計画が想定通りに進まないケースもあります。
| 現状 | 検討したい方向性 |
|---|---|
| 稼働率が高い | 継続保有 |
| 設備競争力が低下 | 部分リニューアル |
| 空室が長期化 | 運営体制の見直し |
| 建物性能が限界 | 建替え検討 |
重要なのは「建替えるか、建替えないか」の二択で考えないことです。
継続保有、部分的なリニューアル、運営体制の見直し、建替えなど市場環境と収支計画の両面から冷静に比較検討してください。
特に築古ビルでは、ただ設備を新しくしたりリニューアルを行ったりするだけでは、期待した収益改善につながらないケースが多々あります。 改善策を講じる際は「その投資が、自社ビルを求めるテナントのニーズと本当に合致しているか」を冷静に照らし合わせることが不可欠です。
あわせて読みたい: [ なぜ空室が埋まらないのか|築古オフィスビルで見落とされがちな「改善のズレ」 ]
都市に必要な「余白」としての築古ビル
築古ビルの価値は、単に賃料や利回りだけで測れるものではありません。
歴史ある企業、創業間もないスタートアップ、期間限定のプロジェクトチームなど、多くの企業が「今の事業規模や予算に合った場所」を必要としています。
築古ビルは、そうした多様なニーズを受け止める都市の「余白」として機能しています。
すべての建物が最新設備を備えた高額オフィスになれば、都市の選択肢はむしろ狭くなってしまいます。
だからこそ、築古ビルには新築ビルとは異なる役割があります。
旧耐震ビルの経営を考える際は「古いから価値がない」と判断するのではなく、その場所が持つ価値や市場の中で果たしている役割を冷静に見極めることが大切です。
建物の年数だけでは見えない可能性が、そこには残されているかもしれません。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2026年1月5日執筆