オフィス賃料の決め方|相場だけではNGな理由と判断基準(前編)
オフィスビルの賃料は、周辺相場に合わせれば適正になるとは限りません。
公開されている相場は募集賃料が中心であり、実際の収益や建物ごとの評価までは反映されていないためです。
本コラムでは、相場を見る際の注意点を整理するとともに、自社ビルの価値を踏まえた賃料設定の考え方や、オーナーが確認したい判断基準について解説します。
- どんな人向け?
- オフィスビルの賃料設定や募集条件を見直したいオーナー
- 周辺相場をどのように活用すべきか知りたい方
- 建物の価値を適正に賃料へ反映させたい方
- 本コラムのポイント
- 募集賃料・成約賃料・実効賃料(NER)の違いが分かる
- 相場だけでは適正賃料を判断できない理由が分かる
- 自社ビルの価値を踏まえた賃料設定の考え方が分かる
- 結論
オフィスビルの賃料は、周辺相場だけで決めるものではありません。
相場を参考にしながら、自社ビルの立地や建物の品質、市場での評価を踏まえて総合的に判断することが重要です。
その考え方が、適正な賃料設定と長期的な収益の安定につながります。
オフィス賃料の「相場」とは何か?
オフィスビルの賃料を決める際、多くのオーナーは周辺物件の「相場」を参考にします。
しかし、相場だけを基準に賃料を決める考え方には注意が必要です。
一般的に公開されている賃料相場は募集賃料をもとにしていますが、実際の契約では賃料交渉やフリーレント、貸主側の工事負担などによって、実際の収益は変わることがあります。
そのため、公開されている相場はあくまでも市場の目安であり、そのまま自社ビルの賃料設定に当てはめられるものではありません。
まずは、賃料に関する主な項目の違いを整理しておきましょう。
| 項目 | 内容 | オーナーが確認したいこと |
|---|---|---|
| 募集賃料 | 募集時に公開されている価格 | 相場の目安として確認する |
| 成約賃料 | 実際に契約した賃料 | 市場で受け入れられた価格を把握する |
| 実効賃料(NER) | フリーレントなどを考慮した実際の収益 | 実質的な収益を確認する |
| 空室期間 | 成約までに要した期間 | 市場での募集状況を把握する |
また、成約賃料や実効賃料は一般には公開されないケースが多く、表面上の募集賃料だけでは市場の実態を把握できません。
そのため、相場は「基準」ではなく「判断材料の一つ」と考えることが重要です。
相場だけでは賃料を決められない理由
相場が参考になることは間違いありません。
しかし、同じ駅周辺であっても、すべてのオフィスビルが同じ賃料になるわけではありません。
その理由は、オフィスビルには立地以外にも評価される要素が数多く存在するためです。
例えば、賃料を左右する主なポイントは次の3つです。
| 項目 | 主な内容 |
|---|---|
| エリアの価値 | 再開発、複数路線へのアクセス、人の流れ、エリアブランド |
| 立地条件 | 信号の数、坂道の有無、雨の日の歩きやすさ、前面道路の広さ、視認性 |
| 建物の品質 | エントランスの印象、レイアウトしやすい間取り、空調設備、共用部の清掃状況、設備管理 |
同じ駅徒歩5分の物件でも、駅から建物までの歩きやすさや建物の視認性によって、テナントが受ける印象は変わります。
また、築年数が同じでも、共用部の清掃や設備管理が行き届いているビルは、安心して利用できる建物として評価されやすくなります。
反対に、設備や管理状態に課題がある建物では、相場より低い賃料で募集しても問い合わせが伸びないことがあります。
つまり、テナントは相場ではなく、自社に合った物件を選んでいます。
自社ビルの価値を賃料へ反映する
周辺相場だけを見るのではなく、自社ビルが市場でどのように評価されるかを整理することが適正な賃料設定につながります。
相場だけに合わせる考え方には、次のようなリスクがあります。
- 本来より低い賃料で募集し、収益機会を逃す
- 建物の魅力が伝わらず、空室が長期化する
- 建物の特徴が賃料に反映されず、価格競争に巻き込まれやすくなる
相場はあくまでも市場の目安です。
重要なのは、自社ビルの立地条件や建物の品質、市場での評価を踏まえたうえで適正な賃料を判断することです。
そのためには、相場に合わせることではなく、自社ビルの価値を把握して賃料へ適切に反映するという視点が欠かせません。
賃料を決めるための3つの判断基準
相場はあくまでも参考情報です。
適正な賃料を設定するためには、相場だけでなく自社ビルの状況も踏まえて判断する必要があります。
特にオーナーが確認したいポイントは、次の3つです。
1.相場は「基準」ではなく「参考」にする
相場をそのまま自社ビルへ当てはめるのではなく、まずは市場の目安として捉えます。
そのうえで以下を比較し、自社ビルの立ち位置を整理することが重要です。
- エリアブランド
- 建物が建つ場所の条件
- 建物の品質
例えば、同じエリアでも駅から建物までの動線が良く、視認性も高いビルであれば、相場より高い賃料でも選ばれます。
反対に、立地条件や建物の印象で不利な点があれば、設備更新や管理品質の改善など賃料以外で価値を高める視点も必要です。
相場を見る目的は、価格を合わせることではなく、自社ビルとの差を把握することです。
2.建物の特徴や強みを整理する
賃料は数字だけで決まるものではありません。
テナントに「この賃料でも借りたい」と思ってもらうためには、その価格に見合う理由が必要です。
例えば、次のような点は建物の強みになります。
- 来客動線が分かりやすい
- エントランスや共用部の印象が良い
- レイアウトしやすい間取り
- 管理が行き届いている
- 設備更新が計画的に行われている
これらの特徴が明確になれば、価格だけで比較されにくくなります。
一方で、強みを整理できていないまま募集すると他物件との差が伝わらず、価格競争に巻き込まれやすくなります。
まずは、自社ビルが選ばれている理由を整理することが、適正な賃料設定の第一歩です。
テナントが建物をどのような視点で評価しているのかについては、以下のコラムでも詳しく解説しています。
あわせて読みたい: [ 選ばれる築古オフィスビルとは?|テナントの声から考える競争力向上のポイント ]
3.建物の価値を維持・向上させる
価格だけでテナントを集めようとすると、最終的には賃料を下げ続けることになります。
長期的に収益を安定させるためには、価格ではなく建物の価値で選ばれる状態を目指すことが重要です。
例えば、次のような取り組みは建物全体の印象を改善し、賃料維持にもつながります。
- エントランスを清潔に保つ
- 共用部を定期的に更新する
- 設備を計画的に修繕する
- 管理が行き届いた状態を維持する
テナントが評価しているのは、新しい設備だけではありません。
「安心して利用できる」「管理が行き届いている」という印象も、入居判断に大きく影響します。
そのため、適正賃料を維持するためには、建物全体の品質を継続的に高める視点が欠かせません。
まとめ
オフィスビルの賃料設定では、周辺相場だけを基準に判断することはできません。
重要なのは、相場を参考にしながら、自社ビルの特徴や市場での評価を踏まえて総合的に判断することです。
そのためには、次の点を意識しましょう。
- 募集賃料だけでなく実際の収益も確認する
- 建物の特徴や強みを客観的に整理する
- 価格競争に頼らず建物の価値を高める
- 市場環境の変化に応じて賃料を見直す
賃料は「周辺相場に合わせるもの」ではなく、市場と建物の状況を踏まえて判断するものです。
こうした視点を持つことで、収益性だけでなく長期的な資産価値の維持にもつながります。
空室期間と収益の関係、実効賃料(NER)の考え方、市場の反応を踏まえた賃料運用については、後編で詳しく解説します。
あわせて読みたい: [ オフィス賃料の決め方|実効賃料(NER)と空室リスクを踏まえた運用(後編) ]
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2026年4月20日執筆