オフィス賃料の決め方|相場だけではNGな理由と判断基準(前編)
オフィス賃料は「相場」に合わせるだけでは、適切に設定することはできません。
一般的に言われる相場は募集賃料の平均であり、実際の収益性や空室リスクを十分に反映していないためです。
賃料設定を誤ると、空室期間の長期化や収益低下につながる可能性があります。
本記事では、相場に依存しないオフィス賃料の決め方と、判断する際に押さえておきたいポイントを解説します。
オフィス賃料の「相場」とは何か?
オーナーが賃料を検討する際「このエリアは坪○○円くらい」といった相場情報を参考にするケースが一般的です。しかし、この「相場」という言葉には注意が必要です。
多くの場合、相場とは「募集賃料(=希望条件)」の平均値に過ぎません。実際には以下のような違いがあります。
- 募集賃料:ポータルサイトに掲載される希望賃料
- 成約賃料:実際に契約された賃料
- 実効賃料(NER):フリーレントや工事負担を差し引いた実際の収入
つまり一般的に見える「相場」は、実際の収益を正確に表していない不完全な指標です。
さらに重要なのは、これらの情報の多くが公開されていない点です。特に実効賃料(NER)は当事者間でしか把握できないケースが多く、表に出ている相場だけで判断すると現実とのズレが生じやすくなります。
この前提を理解せずに賃料を決めると、判断を誤るリスクがあります。
相場に合わせるだけでは危険な3つの理由
- 「安心できる価格」になりやすい
相場に合わせると「周囲と同じだから安心」という心理が働きます。しかしこれは「正しい価格」ではなく「責任を回避しやすい価格」に過ぎません。結果として、以下のような機会損失が発生します。
- 本来もっと高く取れる物件で収益を逃す
- 逆に強気すぎて空室が長引く
- 物件ごとの価値が無視される
同じエリアでも、オフィスビルの価値は大きく異なります。例えば、
- 動線の良さ
- 視認性
- 管理状態
- 設備性能
こうした要素によって、テナントの評価は大きく変わります。
しかし相場はこれらを平均化してしまうため、「自分の物件が選ばれる理由」が反映されないという問題があります。
テナントは「平均」を選ぶのではなく、「最も条件に合う物件」を選びます。
その視点を無視した賃料設定では、競争に勝つことができません。
- 空室リスクを見落としやすい
相場に合わせたからといって、必ず早く決まるわけではありません。むしろ、強気設定+空室長期化になるケースも多くあります。オフィス賃貸では、空室期間もコストです。
- 空室中は収入ゼロ
- 維持費は発生し続ける
つまり「いくらで貸すか」だけでなく「どれくらいで決まるか」も重要になります。
オフィス賃料は「時間」で考える
賃料設定で重要なのは価格ではなく「時間」です。
例えば以下の2つを比較すると、後者の方が実際の収益が高くなることも珍しくありません。
- 高い賃料で3ヶ月空室
- 少し下げてすぐ成約
これは空室期間が実効賃料(NER)を押し下げるためです。
さらに、賃料が決まるまでの期間はエリアや物件特性によって大きく異なります。
都心の人気エリアであれば短期間で決まることもありますが、条件によっては数ヶ月以上かかることもあります。賃料は「単価」ではなく「回転」で考える必要があります。
例えば、空室期間が1ヶ月伸びるだけでも年間収益に与える影響は小さくありません。特に複数区画を保有している場合、その影響はさらに大きくなります。そのため、賃料設定は単発の判断ではなく、長期的な運用視点で考えることが重要です。
賃料を決めるための3つの判断基準
- 相場は「基準」ではなく「参考」にする
相場はあくまで出発点です。そのまま当てはめるのではなく、以下で補正する必要があります。
これらを踏まえて、自物件のポジションを見極めることが重要です。
- 立地(ブランド・人流)
- ビルの個別性(動線・視認性)
- 建物の質(設備・管理)
- 自物件の強みを言語化する
賃料を上げられるかどうかは「なぜこの価格なのか説明できるか」で決まります。
例えば、以下のような強みを明確にすることで、相場以上の賃料も成立します。
逆に、強みが曖昧なままでは価格競争に巻き込まれやすくなります。
- 来客動線が良い
- 管理品質が高い
- レイアウト効率が良い
- 空室期間を前提に設計する
賃料は「いくらにするか」ではなく「何ヶ月で決めるか」から逆算するのが重要です。
例えば、次のようなルールを事前に決めておくことで、判断がブレなくなります。
- 3ヶ月決まらなければ見直す
- 内見がなければ調整する
また、賃料設定は一度決めて終わりではなく、市場の反応を見ながら柔軟に調整することが重要です。
さらに重要なのは、市場の反応を見ながら柔軟に調整していく姿勢です。募集を開始してから一定期間が経過しても問い合わせや内見が少ない場合は、賃料や条件の見直しを検討する必要があります。逆に短期間で反響が集まる場合は、価格設定が適正である可能性が高いと判断できます。
また、エリアの需給バランスや時期によっても成約スピードは大きく変わります。例えば年度末や企業の移転シーズンには需要が高まりやすく、多少強気な設定でも決まりやすい傾向があります。一方で需要が落ち着く時期には、柔軟な条件設定が求められます。
このように、賃料設定は一度決めて終わりではなく「募集→反応確認→調整」というサイクルを回し続けることが重要です。継続的に改善を重ねることで、収益と稼働率のバランスを最適化することができます。
まとめ
オフィス賃料は相場に合わせるだけでは適切に決めることはできません。
重要なのは、相場を参考にしながら、自物件の価値と空室リスクを踏まえて判断することです。
賃料設定は「いくらで貸すか」ではなく「どのように回すか」という運営の問題でもあります。相場に依存せず、物件ごとの特性と市場の動きを踏まえた判断を行うことで、安定した収益と空室リスクの最小化を実現できます。本記事を参考に、より実態に即した賃料設定を検討してみてください。
空室期間と賃料の関係については、後編の記事でより詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2026年4月20日執筆