オフィス賃料の決め方|実効賃料(NER)と空室リスクを踏まえた運用(後編)
オフィスビルの収益は、募集賃料だけで決まるものではありません。
フリーレントや空室期間、貸主負担の工事費などによって、実際に得られる収益は大きく変わります。
そのため、賃料は一度決めたら終わりではなく、市場の反応を見ながら継続的に運用することが重要です。
本コラムでは、実効賃料(NER)の考え方や空室リスク、募集条件を見直すポイントについて解説します。
- どんな人向け?
- オフィスビルの収益性を高めたいオーナー
- 空室リスクを踏まえた賃料運用を知りたい方
- 実効賃料(NER)の考え方を理解したい方
- 本コラムのポイント
- 実効賃料(NER)が収益に与える影響が分かる
- 空室期間を含めた収益の考え方が分かる
- 市場の反応を踏まえた賃料運用のポイントが分かる
- 結論
オフィスビルの収益を高めるためには、募集賃料だけで判断するのではなく、実効賃料(NER)や空室期間を踏まえて運用することが重要です。
市場の反応を継続的に確認しながら募集条件を見直すことで、安定した収益と資産価値の維持につながります。
なお、本コラムの前提となる「相場に依存しない賃料設定の基本」については、前編にて詳しく解説しています。
あわせて読みたい: [ オフィス賃料の決め方|相場だけではNGな理由と判断基準(前編) ]
実効賃料(NER)で収益を考える
前編では、オフィス賃料は周辺相場だけで決められるものではなく、自社ビルの特徴や市場での評価を踏まえて判断することが重要であると解説しました。
しかし、適正な賃料を設定できたとしてもそれだけで収益が最大化するとは限りません。
実際のオフィスビル経営では「実効賃料(NER:Net Effective Rent)」という考え方が重要になります。
実効賃料とは、フリーレントや空室期間、貸主負担の工事費などを考慮した実際の収益に近い賃料です。
オフィス賃料を考える際は坪単価や月額賃料が基準になりますが、実際の収益はそれだけでは判断できません。
実際には、次のような要素が収益へ影響します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| フリーレント | 一定期間の賃料免除 |
| 貸主工事 | オーナーが負担する内装工事など |
| 空室期間 | 成約まで賃料収入が発生しない期間 |
| 仲介手数料・広告費 | 募集時に発生する費用 |
例えば、月額60万円で募集しても、成約まで6か月かかり、フリーレントを3か月設定すれば年間収益は想定より大きく下がります。
一方で、月額57万円でも短期間で成約してフリーレントも短く済めば、結果として年間収益が高くなることがあります。
このように、表面上の賃料が高いことと収益が高いことは必ずしも一致しません。
そのため、賃料は提示価格ではなく、実効賃料(NER)を踏まえて最終的にどれだけ収益を確保できるかという視点で判断することが重要です。
空室期間は「見えないコスト」
オフィス賃貸では、空室期間そのものが大きなコストになります。
空室中も建物の維持にはさまざまな費用が発生します。
- 共用部の電気代
- 清掃・管理費
- 固定資産税
- 設備の維持管理費
- 本来得られるはずだった賃料収入(機会損失)
例えば、月額50万円の貸室が3か月空室になれば、150万円の賃料収入を失うことになります。
この損失は会計上の支出としては見えにくい一方で、収益には大きく影響します。
そのため「高い賃料で募集したが決まらない」という状態は「収益を守っている」のではなく「収益機会を失っている」可能性もあります。
もちろん、すぐに値下げをすれば良いというわけではありません。
重要なのは、現在の募集条件が市場で受け入れられているのかを見極めながら判断することです。
賃料は単価だけではなく、空室期間まで含めて考えることで初めて適正な判断ができます。
市場の反応を見ながら賃料を運用する
賃料は一度設定したら終わりではありません。
募集を開始した後は、市場の反応を確認しながら調整していくことが重要です。
特に確認したいポイントは、次の4つです。
| 確認項目 | 判断のポイント |
|---|---|
| 空室期間 | 想定どおりの期間で成約しているか |
| 問い合わせ数 | 募集条件が市場に合っているか |
| 内見数 | 比較対象として選ばれているか |
| 成約率 | 内見後に契約へ進んでいるか |
これらを確認することで、募集条件が市場に合っているかを判断しやすくなります。
例えば、市場の反応は次のように読み取ることができます。
- 問い合わせが少ない:賃料や募集条件が市場とかけ離れている可能性
- 問い合わせはあるが内見につながらない:募集資料や写真、設備情報の見せ方に改善の余地
- 内見はあるが契約に至らない:建物自体に課題がある可能性
例えば、共用部やエントランスの雰囲気、空調設備、レイアウトの使いやすさ、管理品質はテナントの入居判断に影響する要素です。
市場の反応を分析することで、募集条件を見直すべきか、建物の改善が必要か、を整理しやすくなります。
そのため、募集開始後は放置せず「募集 → 反響確認 → 条件の見直し」を繰り返すことが安定した収益につながります。
賃料を見直すタイミング
市場環境や建物の評価は時間の経過とともに変化するため、賃料も定期的に見直すことが重要です。
例えば、次のような状況では募集条件を確認するタイミングといえます。
- 周辺で再開発が進んだ
人の流れやエリアブランドが変化し、以前と同じ賃料設定が適切とは限りません。
- 周辺相場が変化した
周辺物件の募集状況や賃料水準が変わると、自社ビルとの価格差を見直す必要があります。
- 空室期間が以前より長くなった
市場とのズレが生じていないか、募集条件や建物の強みを確認することが重要です。
- 設備更新やリニューアルを実施した
建物の魅力が高まった場合は、従来より高い賃料でも受け入れられる可能性があります。
- テナントからの評価が変化した
テナントニーズや競合物件との比較を踏まえ、賃料水準を見直すことも検討しましょう。
さらに、周辺物件と比較する際は坪単価だけで判断しないことも重要です。
フリーレントの有無や共益費、設備仕様、管理品質、契約条件まで含めて比較することで自社ビルの市場での立ち位置を把握しやすくなります。
賃料は固定するものではなく、市場や建物の変化に応じて見直していくことが重要です。
まとめ
オフィスビルの収益は、表面上の賃料だけでは決まりません。
実効賃料(NER)や空室期間まで含めて判断することが、安定した収益につながります。
そのためには、次の点を意識しましょう。
- 実効賃料(NER)で収益を判断する
- 空室期間をコストとして捉える
- 問い合わせ・内見・成約率を確認する
- 市場の反応に応じて募集条件を見直す
- 市場環境の変化に合わせて賃料を運用する
賃料設定は、一度決めたら終わりではありません。
募集状況や市場環境を確認しながら継続的に見直すことで、安定した収益と資産価値の維持・向上につながります。
前編では、相場だけに頼らない賃料設定の考え方を解説しています。
あわせて読みたい: [ オフィス賃料の決め方|相場だけではNGな理由と判断基準(前編)
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2026年4月21日執筆