セットアップ・オフィスとは?なぜ東京で増えているのか理由を解説
近年、セットアップ・オフィスの供給が増えています。
工事費の上昇や工期の長期化を背景に、テナントはより早く入居できる物件を求めるようになりました。
一方で、セットアップ化には一定の投資が必要です。
本コラムでは、導入が向く物件の特徴や投資回収の考え方をオーナー目線で解説します。
- どんな人向け?
- オフィスビルの空室対策を検討しているオーナー
- セットアップ化を提案されたが投資判断に迷っている方
- 賃料アップや募集力向上を検討している方
- 本コラムのポイント
- セットアップ・オフィスは「内装」ではなく「入居判断を早める仕組み」
- すべての物件に有効ではなく、向き・不向きがある
- 投資回収と役割分担を見据えた設計が重要
- 結論
セットアップ・オフィスは、工事負担や入居までの時間を減らしたいテナントから支持される一方、すべての物件で高い効果が得られるわけではありません。
導入の成否は、物件特性に合った投資額の設定と貸主が整備する範囲を明確にできるかに左右されます。
セットアップ・オフィスとは
セットアップ・オフィスとは、貸主があらかじめ内装や会議室を整備し、テナントが短期間で入居できる状態にしたオフィスです。
その本質は、単に内装を整えることではありません。
テナントが負担する工事や意思決定の手間を減らし、入居までのプロセスを効率化することにあります。
ここで理解しておきたいのが、賃貸オフィス特有の工事区分です。
| 工事区分 | 負担・手配区分 | 内容 |
|---|---|---|
| A工事 | 貸主負担・貸主手配 | 建物の基幹設備に関わる工事 |
| B工事 | テナント負担・貸主指定業者施工 | 費用や工期が見えにくく、トラブルになりやすい領域 |
| C工事 | テナント負担・テナント手配 | 家具やLAN配線など |
特にB工事は、費用負担はテナントでありながら業者を選べないため、以下のような不安が生じやすい領域です。
- 工事費が妥当なのか分からない
- 工期が読みにくい
- 相見積もりが取りにくい
セットアップ・オフィスは、こうしたB工事の多くとC工事の一部を貸主側であらかじめ整備しておく仕組みです。
テナントは追加工事や調整業務を減らすことができるため、移転判断を進めやすくなります。
セットアップ化が向く物件・向かない物件
セットアップ・オフィスは、すべての物件で同じ効果が得られるわけではありません。
まずはターゲットテナントを整理し、自社物件との相性を確認することが重要です。
セットアップ化と相性が良い物件
- 30〜80坪程度の中小規模オフィス
- 移転コストや工期短縮を重視する企業が多いエリア
- テナントの入れ替わりが比較的発生しやすい物件
- 競合物件との差別化が必要な区画
慎重に検討したい物件
- 150坪を超える大型区画
- 研究施設や特殊用途の区画
- 独自レイアウトの要望が強いテナントが中心の物件
- 駅距離や立地条件に課題を抱える物件
セットアップ化は募集力を高める手法の一つですが、物件そのものの競争力を根本的に改善するものではありません。
まずは「誰に貸したいのか」を明確にしたうえで導入を検討する必要があります。
自社ビルの適性を診断しませんか?
セットアップ導入の投資対効果について、専門スタッフが簡易シミュレーションいたします。
あわせて読みたい: [ 【無料】投資対効果の試算を相談する ]
B工事の不透明性を解消する価値
セットアップ・オフィスが評価される理由の一つに、B工事に対する不満の解消があります。
B工事は借主負担でありながら貸主指定業者が施工するため、テナントからは費用や工期の妥当性が見えにくい傾向があります。
テナントが感じやすい不安
- 工事費が適正なのか分からない
- 相見積もりが取りにくい
- 工事完了時期が読みにくい
- 設計や仕様の自由度が低い
貸主側で会議室や基本内装をあらかじめ整備しておけば、テナントは追加工事や業者との調整にかかる手間を減らすことができます。
その結果、入居判断が早まり、移転準備の負担も軽減されます。
オーナーにとっては、空室期間の短縮や募集競争力の向上といった効果も期待できるでしょう。
貸主が整備すべき範囲を明確にする
オーナーが最も悩みやすいのが「どこまで貸主が整備するべきか」という点です。
重要なのは、共通ニーズが高いものは貸主が整備し、企業ごとの差が大きいものはテナント判断に委ねることです。
| 項目 | 貸主が整備する内容 | テナントが判断する内容 |
|---|---|---|
| 内装 | 床・壁・天井・照明 | 特殊仕上げ・意匠変更 |
| 空間 | 会議室など基本間仕切り | 詳細なレイアウト変更 |
| 設備 | 空調・セキュリティ | ネットワーク環境 |
| 什器 | 標準デスク・チェア(フルの場合) | 特殊什器・自社什器 |
募集段階で貸主負担とテナント負担の境界線を明確にしておくことで、入居後の認識違いを防ぎやすくなります。
ハーフセットアップとフルセットアップの考え方
セットアップには大きく分けて「ハーフ」と「フル」の2種類があります。
| 区分 | 貸主が用意する範囲 | テナントが用意する範囲 |
|---|---|---|
| ハーフ | 会議室・基本内装 | 執務什器・IT環境 |
| フル | 会議室・基本内装・執務什器 | IT環境 |
ハーフセットアップは柔軟性を残しながら初期工事を削減できる点が特徴です。
一方、フルセットアップは入居後すぐに業務を開始できる点が強みですが、募集資料には想定席数を明確に記載しておくことが不可欠です。
席数が曖昧なまま募集すると、入居後のトラブルにつながる可能性があります。
会議室を増やす前に考えたいこと
会議室は多ければ良いというものではありません。
会議室を増やしすぎると執務席数が減り、結果として募集条件の競争力が下がる場合があります。
30席前後のオフィスであれば、会議室2室程度を一つの目安として考えるとよいでしょう。
また、会議室不足を補うために次のようなスペースを組み合わせる方法もあります。
- オープンスペース(短時間の相談用)
- ハドルスペース(2〜4名程度の打合せ用)
- 個別ブース(オンライン会議用)
重要なのは会議室の数ではなく、テナントが使いやすい環境をつくることです。
限られた面積でも、多様な用途に対応できるスペース構成を意識することで、使い勝手の良いオフィスを計画しやすくなります。
セットアップ投資はどう回収するか
オーナーにとって最も重要なのは投資回収の見通しです。
導入の判断は、感覚ではなく収支シミュレーションをもとに行うことが重要です。
回収検討時の目安
- 賃料プレミアム:坪4,000〜7,000円程度
- 内装投資額:坪7〜13万円程度
- 回収期間:2年程度を目安
また、投資効果は賃料上昇だけではありません。
投資効果として考慮したい要素
- 賃料プレミアム
- 空室期間の短縮
- 募集競争力の向上
- 次回リーシング時の優位性
さらに、間仕切りや床など再利用可能な設備を選定しておけば、次回のテナント入替時の工事費を抑えることも可能です。
短期的な費用だけでなく、中長期的な運営コストも含めて判断することが重要です。
まとめ
セットアップ・オフィスは、流行だから導入するものではなく、募集戦略の一つとして検討すべき投資です。
すべての物件に有効な手法ではありませんが、次の条件が揃う物件では有力な選択肢になります。
- ターゲットとなるテナント像が明確である
- 貸主とテナントの役割分担が整理されている
- 投資回収の見通しが立っている
豪華な内装をつくることが目的ではありません。
「いつ入居できるのか」「何を準備すればよいのか」という不確定要素を減らすことが、セットアップ・オフィスの本質です。
まずは自社物件がセットアップ化に向く条件を備えているかを確認し、募集戦略の一環として検討してみてはいかがでしょうか。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2026年4月16日執筆


