セットアップ・オフィスとは?なぜ東京で増えているのか理由を解説
近年、東京のオフィス市場で「セットアップ・オフィス」という言葉を耳にする機会が急増しています。しかし、その実態や、なぜ貸主・借主双方がこれほどまでに注目しているのか、その本質的な理由はあまり語られていません。
本コラムでは、最新の供給データを出発点に、仕様設計の考え方や「B工事」に潜むリスク、さらにはプロの視点による投資回収のシミュレーションまで徹底解説します。
なぜ今、東京でセットアップ・オフィスが急増しているのか
東京23区におけるセットアップ・オフィスの供給量は、ここ数年で加速度的に拡大しています。
| 年度 | 供給件数 | 供給面積(㎡) |
|---|---|---|
| 2022年 | 721件 | 122,826㎡ |
| 2023年 | 1,056件 | 190,130㎡ |
| 2024年 | 1,494件 | 268,438㎡ |
背景にあるのは、単なる「流行」ではなく、オフィス移転に伴う「不確実性の排除」です。
通常、賃貸オフィスではテナント側が内装工事を行いますが、人手不足や資材高騰により、工期が延び、コストが読みづらくなっています。特に「B工事(指定業者による工事)」の不透明さは、多くのテナントにとって移転のブレーキとなってきました。
こうした「手間」と「リスク」を貸主側が肩代わりし、「即座にビジネスを開始できる状態」を提供することが、今の東京市場における最大の付加価値となっています。
セットアップ・オフィスの仕組みと「工事区分」の整理
セットアップ・オフィスとは、本来テナントが負担する工事の大部分を、貸主側があらかじめ整えて募集するモデルです。ここで重要になるのが、賃貸オフィス特有の工事区分(A・B・C)の理解です。
- A工事(貸主負担・手配): 建物の根幹に関わるインフラ。
- B工事(テナント負担・貸主指定業者手配): ここが最もトラブルになりやすい領域です。費用負担はテナントなのに、業者の選定権がないため、価格や工期がブラックボックス化しがちです。
- C工事(テナント負担・手配): 家具やLAN配線など。
セットアップ・オフィスは、この「B工事のすべて」と「C工事の一部」を貸主が先んじて完了させておく仕組みです。
これにより、テナント側の「モヤモヤ」を解消し、スピーディーな意思決定を促します。
仕様設計の核:会議室と「第3のスペース」
セットアップ・オフィスの成否は、会議室の配置と、「会議室以外」のスペースの作り込みで決まります。
- 基本形は「型A:6名室 × 1 + 4名室 × 1」
100坪以下の中規模オフィスにおいて、最も汎用性が高いのはこの組み合わせです。
- 4名室:集中会議、1on1、オンライン商談の受け皿。
- 6名室:標準的な来客、社内会議の受け皿。
- 「打ち合わせの居場所」を3つに分ける
現代のオフィスでは、会議室に吸い込まれない「短い用件」の居場所を作ることが重要です。
- オープン・ミーティング: 立ち話や5分程度の確認用。
- ハドルスペース: 2〜4人で10〜30分。会議室を予約するほどではないが、自席では話しにくい内容。
- ブース(1人用): 急増するリモート会議の受け皿。自席への音漏れを防ぐ防波堤となります。
投資回収のシミュレーション:坪単価プラスアルファの視点
貸主側にとって、セットアップ・オフィスへの投資(内装費)をどう回収するかは最大の論点です。
- 投下コストの目安(数式)
2年間の賃貸借契約で投資を回収して一定の利益を確保する場合、投下できるコストの目安は以下の数式で導き出せます。
投下コストの目安 ≈ A × P × 12 × T ÷ (1 + m)
A:面積(坪)
P:賃料プレミアム(坪単価の増額分)
T:回収期間(年)
m:目標利益率
例:30坪、2年回収、利益率30%の場合
賃料プレミアムを5,000円/坪と設定すると、投下できる金額は約220万円(坪あたり約7.4万円)となります。
- 空室期間短縮による「隠れた収益」
賃料アップだけでなく、「空室期間の短縮」も大きな利益です。 例えば、通常賃料15,000円/坪の30坪物件で、成約が2か月早まれば、それだけで90万円の損失回避に繋がります。
結び:オフィス移転を「段取り」の問題として解決する
セットアップ・オフィスは、単なる「内装の提案」ではありません。 テナントが直面する「どう決めて、いつ入るか」という意思決定の障害を取り除く仕組みです。
特に、白金高輪エリアや恵比寿エリアのような、機動力の高い中小ビルが並ぶエリアでは、このセットアップの手法がリーシングの強力な武器となります。
貸主が「現実的な出発点」を提供することで、テナントは自社のコア業務に集中できる。この Win-Win の関係こそが、セットアップ・オフィスが東京で増え続ける真の理由です。
執筆者紹介
株式会社スペースライブラリ
プロパティマネジメントチーム
飯野 仁
東京大学経済学部を卒業
日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。
年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。
2026年4月16日執筆


