-
ビルリノベーション
オフィスのリフォーム事例と費用感を解説
皆さんこんにちは。株式会社スペースライブラリの鶴谷です。この記事はオフィスのリフォーム事例と費用感についてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思っています。どうぞよろしくお願い致します。本コラムでは、オフィスビルの空室対策として、リフォーム・リノベーション事例を通じて「具体的な費用感はどれぐらいなのか」「どのような部分がテナントに評価されるのか」を分かりやすく解説していきます。特に、本稿で紹介する事例である「オフィスA」と「オフィスB」は、いずれも築数十年を経て古い印象を与えていたビルをリノベーションによって再生した事案です。当社では単なるリフォームよりもより家賃収入の増加するリノベーションをお勧めしています。オフィスオーナーや管理会社の皆様にとって、今後のリノベーションを検討する際の参考になれば幸いです。 目次1. リノベーションが空室対策につながる理由1-1. テナントの第一印象を左右する共用部1-2. 企業イメージやブランド力への影響1-3. 安易な賃料値下げによる損失回避2. 具体的な事例紹介:オフィスA2-1. 概要と空室の課題2-2. リノベーションの方針と提案内容2-3. リノベーション内容の詳細2-4. 費用感と投資回収3. 具体的な事例紹介:オフィスB3-1. 概要と課題3-2. リノベーション範囲とコンセプト3-3. 具体的な改修ポイント3-4. 費用と回収見込み4. リノベーションを実施しない場合のリスク5. リノベーション会社の選定ポイント5-1. 業務範囲の明確さ5-2. 実績の有無5-3. アフターサポート6. オフィスリノベーション成功へのステップ7. まとめ:リノベーションがもたらす未来 1. リノベーションが空室対策につながる理由 1-1. テナントの第一印象を左右する共用部 オフィスビルを内見する際、まず最初に目に入るのは「エントランス」「エレベーターホール」「廊下」などの共用部です。仮に専有部の間取りや眺望、広さが理想的であったとしても、共用部の老朽化や暗い雰囲気、汚れなどが目立つと、見学者は「ここで働きたい」「ここにクライアントを招きたい」とは感じにくくなります。とりわけトイレが古いと、毎日使用する設備として不快感をもたらしてしまい、入居意欲の大きな減点要素になることが少なくありません。 1-2. 企業イメージやブランド力への影響 オフィスはテナント企業にとっての「顔」です。取引先や顧客を迎え入れる場であり、働く社員のモチベーションにも大きく関わります。したがって、築年数の経過を感じさせない「清潔感」や「先進性」「上質感」が演出できる空間は、企業のブランド価値を高めるうえで重要な要素です。オフィスビル全体としてのリノベーションを行うことで、企業が入居後に「自社ブランドのイメージに合ったオフィス」として活用しやすくなるため、空室を埋める強い動機づけになります。 1-3. 安易な賃料値下げによる損失回避 リノベーションを行わないまま空室が長引くと、オーナーや管理会社としては賃料を下げてでも埋めたいと考えるかもしれません。しかし、値下げをしても入居が決まらず、さらに値下げを繰り返す“負のサイクル”に陥る可能性があります。一方で、リノベーションによって「魅力的なオフィス」を提供できれば、相場賃料を下げずにテナントを呼び込めるばかりか、場合によっては多少の上乗せができる可能性すら出てきます。早期に空室が埋まり、かつ賃料面での値下げを行わなくて済むのであれば、リノベーション工事費用を投資として回収するスピードも速くなりやすいのです。 2. 具体的な事例紹介:オフィスA 2-1. 概要と空室の課題 所在地:新大塚駅から徒歩3分建物規模:地上10階建て築年数:30年空室フロア:5階 オフィスAは駅から徒歩3分という好立地でありながら、5階に空室が出て長期間埋まらない状況が続いていました。PM(プロパティマネジメント)を担っていた当社は、専有部ではなく「共用部」に問題があるのではないかと分析しました。築30年という年月が経過し、特にトイレが古く、カラーリングも一昔前の趣が強かったのがネックとなっていたのです。 2-2. リノベーションの方針と提案内容 そこで当社は、専有部の改修ではなく、フロア共用部であるトイレと給湯コーナーにフォーカスしたリノベーションをオーナー様に提案しました。新築オフィスビルのような最新設備とはいかないまでも、スタイリッシュな印象を与えつつ、清潔感と使いやすさを両立させることを目指したのです。 デザインコンセプト:「品のある」「スタイリッシュ」かつ「利用者が快適に使える空間」改修範囲:男女トイレ+給湯コーナー(同フロア内) 2-3. リノベーション内容の詳細 1. 洗面台シンプルで機能的かつデザイン性も備えたものを選定。鏡を壁に直接貼り付けるのではなく、少し浮かせるように設置し、鏡の裏側にLED照明を仕込んで空間に奥行きと明るさを演出。女性用洗面台は、お化粧道具などを置けるスペースを十分に確保。2. 便器・個室の選定丸みを帯びた親しみやすいシルエットでありながら、スタイリッシュなデザインのものを採用。日常的に使用する空間であるからこそ「癒される場所」というコンセプトを重視。個室内の床や壁面には、汚れが目立ちにくく、掃除もしやすい素材を選び、メンテナンス性にも配慮。3. 給湯コーナー照明やカラースキームをトイレと統一感のあるものにし、フロアのイメージを統一。シンクやカウンターの素材は、水回りの清掃性を高めるためにステンレスや耐水性に優れた材料を選定。スタッフが気持ちよく利用できるよう、換気や採光面にも留意。 2-4. 費用感と投資回収 リノベーション費用:約600万円(税抜)回収期間の目安:入居が決まれば、おおよそ半年程度で回収可能 築30年のビルであり、フロアの広さや間取りにもよりますが、トイレと給湯室の改修のみで約600万円というのは比較的リーズナブルな費用感です。もちろん、仕上げ材や設備機器のグレードによって上下はしますが、古いトイレを使い続けたまま空室が埋まらないリスクを考えれば、「半年で回収可能」という投資判断は十分妥当性があります。 3. 具体的な事例紹介:オフィスB 3-1. 概要と課題 所在地:五反田駅から徒歩4分建物規模:地上10階地下1階建て築年数:35年空室フロア数:10フロアのうち5フロアが空室 オフィスBは五反田の好立地にありながら、10フロア中5フロアが空室という厳しい状況でした。そこでオーナー様は、この機会に大規模なリノベーションを実施して、ビルの価値を大きく向上させたいと考えたのです。 3-2. リノベーション範囲とコンセプト オフィスBでは、単一フロアではなく下記の範囲での「トータルリノベーション」を実施しました。 空室5フロアのトイレ・キッチン・エレベーターホールエントランスホール 「白漆喰を使った上品な空間」というデザインコンセプトを掲げ、誰が見ても“清潔感と上品さ”を感じられるオフィスを目指しました。五反田エリアではIT企業など若い層の多い企業も多く、感性に訴えかけるスタイリッシュなデザインは入居テナントの期待に応えやすいと判断したのです。 3-3. 具体的な改修ポイント ※画像5枚※ 1. エントランスホール壁面を白漆喰で仕上げ、柔らかな光の反射と清潔感を演出。既存の床や天井を活かしてコストを抑え、全体として統一感を出す。2. エレベーターホールと事務室の間仕切りガラスの建具を採用し、視覚的な拡がりを確保。エレベーターを降りた瞬間の圧迫感をなくし、透明感を出すことでフロアが広く感じられる効果を狙う。3. トイレ・キッチン設備衛生陶器は白を基調とし、どの年代・どの業種にも好印象を与えやすいシンプルなデザインを選択。キッチンはステンレス素材の製作ものとし、耐久性と清潔感を両立。天井や壁の照明にも配慮し、暗さや閉塞感を感じさせない構成に。 3-4. 費用と回収見込み 費用内訳:各フロア(トイレ・キッチン・エレベーターホール・建具)の改修費:1フロアあたり約900万円エントランス改修費:約400万円全体の費用:現場管理費・諸経費を含めて約5,500万円(税抜) 一見、高額に感じられるかもしれませんが、5フロア分とエントランスホールの大規模改修という点を考慮すれば妥当な範囲といえます。テナントがすぐに決まれば、おおよそ1年半ほどで回収が可能というシミュレーションでした。 4. リノベーションを実施しない場合のリスク ここで改めて、リノベーションを行わない場合のリスクを整理します。空室を抱え続けると、以下のような状況に陥りやすくなります。 1. 賃料の大幅な値下げ空室が続けば、なんとか埋めようと賃料を下げざるを得なくなる。一時的にテナントが決まっても、周辺相場より安い賃料で契約せざるを得ず、収益が安定しない。2. ビル全体の資産価値低下古い共用部のままではビル自体のイメージが悪く、空室率が高止まりする。オフィスビルの評価額も低下し、将来的な売却やリファイナンスの際に不利になる。3. 負のサイクル入居が決まらない → さらに賃料を下げる → テナントの質が下がり、追加の改修コスト発生 → オーナー収益悪化 → ビル維持費すら捻出しにくくなる一度こうしたサイクルに陥ると、抜け出すのに大きなコストと時間が必要。 行動しないリスクを考えると、リノベーションこそが「最良の空室対策」であると言っても過言ではありません。 5. リノベーション会社の選定ポイント リノベーションを成功させるためには、実績とノウハウを持ったパートナー企業の選定が不可欠です。オフィスリノベーションを検討する際は、以下のような観点で比較検討すると良いでしょう。 5-1. 業務範囲の明確さ 設計、施工、PM(プロパティマネジメント)、BM(ビルメンテナンス)など、どこまで包括的に対応してくれるのか確認しましょう。ワンストップで全工程を任せられる会社もあれば、設計は設計事務所、施工は別会社と分離しているケースもあります。窓口が分散するほどコミュニケーションロスが発生しやすく、工期延長やトラブルの原因になりかねません。 5-2. 実績の有無 似たような規模や築年数のオフィスビルでのリノベ実績があるかどうかをチェックします。事例が豊富なほど、想定外のトラブルへの対応経験も積み上がっており、安心感があります。事前に実際の施工事例(写真や図面)を見せてもらい、デザインや仕上がりのテイストを確認すると失敗が少なくなります。 5-3. アフターサポート リノベーション後の不具合についてどの程度の期間、保証してくれるのか。メンテナンスや定期点検、トラブル時の連絡体制などはどうなっているのか。工事後のフォローが手厚い会社であれば、安心して長期的にビル運営を続けることができます。 6. オフィスリノベーション成功へのステップ ここまでオフィスリノベーションの事例や費用感、リノベーション会社の選定ポイントを述べてきましたが、具体的に進めるにあたってどのようなステップを踏むべきかを整理しましょう。 1. 現状分析と課題抽出空室状況やテナントの退去理由、周辺の競合オフィスの特徴などを調査し、現状の課題を洗い出します。例えば「トイレの老朽化がネック」「エントランスに魅力がない」など、優先順位をつけて改善すべき点を絞り込みます。2. リノベーションの目的・コンセプト設定投資回収を念頭に置いたうえで、「どのようなテナントをターゲットにしたいのか」「ブランドイメージをどう変えたいのか」を明確にします。オーナーや管理会社、リノベーション会社で方向性をしっかり共有することで、工事内容のブレを防ぎます。3. 概算費用の試算・資金計画リノベーションにかけられる予算を決め、どの程度の仕上がりを目指すかを調整します。金融機関からの借入や自己資金の投入など、資金計画を具体化し、想定賃料収入とのバランスを検討します。4. プランニングとデザイン検討設計担当者と打ち合わせを重ね、設備機器の仕様、内装デザイン、レイアウトなどを詰めていきます。実際の使用場面を想定しながら、メンテナンス性や耐久性、将来的なリフォームのしやすさなどにも配慮します。5. 施工・現場管理工事が始まったら、現場管理者が進捗や品質をチェックしながら工程を進めます。テナントや近隣ビルへの配慮、騒音・振動対策など、トラブルが起きないよう注意しつつ作業を遂行します。6. 引き渡し・アフターサポート竣工後には、オーナー・管理会社立会いのもとで最終チェックを行い、問題がなければ引き渡しを受けます。不具合が見つかった場合は速やかに補修を行い、保証期間やメンテナンス体制も確認しておきます。 7. まとめ:リノベーションがもたらす未来 オフィスビルの空室対策としてのリノベーションは、単なる「古い設備を新しくする」だけでなく、ビルの資産価値そのものを高め、入居テナントの満足度を劇的に向上させる力を持っています。オフィスAのように1フロアのトイレ・給湯室の改修であっても、短期間で投資を回収でき、空室を埋める効果を発揮します。また、オフィスBのように複数フロアとエントランスをまとめてリノベーションする大規模プロジェクトは、さらに大きなインパクトを生み出し、ビル全体のブランディングを一新することが可能です。もしリノベーションを行わず放置してしまえば、空室期間の長期化や賃料値下げのリスクが高まります。とりわけ建物が築数十年を超えてくると、設備の老朽化が進行し、ビルのイメージダウンが避けられません。こうした状況を打破するには、適切なタイミングでリノベーションに投資し、収益アップとビルの長寿命化を両立させる戦略が重要になります。最後に、リノベーションの成否を左右するのは「どの会社に依頼するか」「どれだけ明確なコンセプトを持って進められるか」です。費用対効果のシミュレーションを行い、信頼できるパートナーと協力して計画を進めることで、オーナーにとってもテナントにとっても魅力あふれるオフィスを実現することができるでしょう。オフィスビルが生まれ変わる瞬間は、オーナーにとっても大きな楽しみの一つです。美しく改修されたトイレやエントランス、明るいエレベーターホールを見ると、「これならきっとテナントに選ばれる」と確信が持てるはずです。そして実際に、そのビルで働くテナント企業の社員が快適に日々を過ごし、ビジネスを発展させていく姿は、オーナーや管理者にとっても誇りや喜びにつながるのではないでしょうか。一度きりの改修ではなく、長期的に建物を維持・運営していく視点を忘れずに、定期的なメンテナンスや部分的なリノベーションを計画的に進めていくことで、建物の価値を着実に保ち、さらには高めていくことができます。ぜひ本稿で紹介した事例を参考に、皆様のオフィスビルでも最適なリノベーション計画を練ってみることをお勧めします。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ 設計チーム 鶴谷 嘉平 1994年東京大学建築学科を卒業。同大学大学院にて集合住宅の再生に関する研究を行いました。 一級建築士として、集合住宅、オフィス、保育園、結婚式場などの設計に携わってきました。 2024年に当社に入社し、オフィスのリノベーション設計や、開発・設計(オフィス・マンション)を行っています。 2025年8月25日執筆2025年08月25日 -
ビルリノベーション
築古の賃貸オフィスビルを魅力的に再生するリノベーション戦略
皆さんこんにちは。株式会社スペースライブラリの飯野です。この記事は築古の賃貸オフィスビルを魅力的に再生するリノベーション戦略についてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思います。どうぞよろしくお願い致します。 目次はじめに:新しい価値を創造する“リノベーション思考”第1章:既存ビルのポテンシャルを最大化するために —— まずはビル診断1-1. 外壁・構造・設備の劣化状況を正確に把握1-2. 全体像を押さえつつ、投資配分を計画第2章:大胆なファサード刷新を“身近なもの”にするためのポイント2-1. 大規模ビルで培われた“外壁改修のノウハウ”2-2. 中小規模ビルにおける工期・コストメリット第3章:内装の意匠更新で“古さ”を感じさせない空間へ3-1. エレベーターの内壁と制御装置の改修3-2. 洗面所・流し台の刷新でクリーンなイメージを第4章:機能面とデザイン面のバランス —— “見える改修”と“見えない改修”をどう同時 進行させるか4-1. 基幹設備の老朽化対策4-2. “見えるところ”と“見えないところ”の投資配分第5章:投資効果を高めるためのプレゼン —— 数字とストーリーの両面で説得5-1. 賃料アップ・空室率低減のシミュレーション5-2. ランニングコスト削減と補助金活用第6章:中小規模ビルでの“大胆リノベ”を成功させるステップ6-1. ビル診断と課題整理6-2. 外観・内装と基幹設備のバランス検討6-3. 投資効果のシミュレーション6-4. 設計・施工の実施とPRまとめ:大規模ビルと同じ発想を“自分サイズ”に応用する はじめに:新しい価値を創造する“リノベーション思考” 築古、築30年内外の賃貸オフィスビルが抱える課題は、外観や内装の老朽化、陳腐化だけにとどまりません。企業の働き方やテナントニーズが大きく変化しているなかで、既存ビルがどう再生し、時代の要請に応えるかという視点が、今や不可欠となっています。近年、都市の再開発エリアでは、大型ビルが先進的なファサード改修や内装リノベーション、設備アップデートなどを積極的に取り入れ、テナント誘致や賃料アップに成功する事例が増えてきました。しかし、これは大規模ビルだけの専売特許ではありません。中小規模の築古ビルでも「的確な診断と戦略的な投資」を行えば、見違えるほどイメージアップし、収益改善が見込めるのです。本コラムでは、そうしたノウハウを「築30年前後のオフィスビル」にも十分応用できる点に焦点を当てながら、ビルオーナーが“投資したくなる”リノベーション提案の具体策を探っていきます。市場データや専門家(スペースライブラリ)の視点を交えつつ、事例を盛り込み、長期的にメリットを生む戦略づくりのポイントを解説します。 第1章:既存ビルのポテンシャルを最大化するために —— まずはビル診断 1-1. 外壁・構造・設備の劣化状況を正確に把握 リノベーションに取り組む際、まずはビル自体の現状を正確に把握することが肝心です。築30年のオフィスビルでは、外観の古さや設備の老朽化によるトラブルが潜在的な大きなリスクとなる一方で、丁寧に診断・調査すれば「まだ十分使える部分」や「効果的に刷新すべき部分」が明確化されます。 外壁ひび割れ・タイルの剥落リスク見た目の問題にとどまらず、安全性の観点でも大きな懸念。雨漏りや内部構造へのダメージを防ぐため、微小な亀裂でも早期のチェックが不可欠です。屋上防水の劣化雨風・紫外線にさらされる屋上は最も劣化が進みやすい箇所。漏水が起きれば内装や電気設備へのダメージに直結します。空調・電気・給排水設備の老朽度故障リスクが増すだけでなく、エネルギー効率が落ち、ランニングコストが上がる要因にも。エレベーターの制御装置・安全基準運行停止や緊急時の安全機能に関わるため、最新基準とのギャップを早めに認識する必要があります。 ★スペースライブラリの視点「築30年ビルの場合、外観だけでなく基幹設備に意外な負担が蓄積していることが多く、診断結果で“ここまで劣化が進んでいたのか”と驚かれることがあります。特に外壁や屋上防水は、雨漏りリスクを放置するとトラブルが大きくなるため、総合診断で必ずチェックリストを作って優先度を判断します。」 1-2. 全体像を押さえつつ、投資配分を計画 総合診断の結果、ビルのどこに大きな問題があり、どこを優先的に改修すべきかが見えてきます。ここからは、ビルオーナーがどれくらいの予算を投資し、どこに力を入れるかを検討する段階です。 「見た目の印象」と「安全性・省エネ性能」のバランスファサードやエントランスのデザイン変更はテナント誘致に直結しますが、基幹設備の更新を後回しにすると大きなリスクが残ります。投資の配分をどう調整するかがポイントです。段階的な投資アプローチ中小ビルの場合、一気にフルリノベするのではなく、外壁改修は今期、内装刷新は次期など、段階的に行う方法も一般的です。工事期間の長期化やテナントへの影響を最小限に抑えながら、“ポイント改修”でイメージを大幅に変えることが可能です。 ★スペースライブラリの視点「投資の優先順位をどう決めるかは、ビルオーナーの資金力やビルの将来計画次第。まずは大きなリスクを除去し、そのうえで“テナントにアピールできる部分”をしっかり手を入れるのが定石。改修後のレントロール(賃料収支)を想定し、投資回収シミュレーションを早めに提示するのが大切です。」 第2章:大胆なファサード刷新を“身近なもの”にするためのポイント 2-1. 大規模ビルで培われた“外壁改修のノウハウ” 再開発エリアの大型ビルでは、ガラスカーテンウォールやメタルパネルの採用で外観を一新し、大きな差別化を実現しています。しかしこの手法は、決して大規模ビルだけの特権ではありません。中小規模ビルでも以下のような方法でモダンなファサードが得られます。 1. 既存外壁を下地として活用完全撤去のコストを抑えつつ、新素材を重ね貼りや上貼りすることで、施工期間短縮・コスト削減とデザイン刷新の両立を図ります。2. 先進的な素材の組み合わせガラス、メタルパネル、セラミックタイルなどを併用し、視覚的な変化と耐久性を両立。3. 外断熱+省エネ性能向上外壁改修のタイミングで断熱性能を高めれば、光熱費削減やテナント企業の環境負荷低減に繋がり、付加価値となります。 ★スペースライブラリの視点「外壁改修の際は足場を組むため、一度の設置で複数の作業(下地補修、防水工事、サイン変更)をまとめて行うのが得策です。中小ビルの場合、施工面積が限られている分、工期が短く済むメリットがあり、テナントへの影響も少なく抑えられます。」 2-2. 中小規模ビルにおける工期・コストメリット 中小規模ビルのリノベーションは、大規模ビルほど施工範囲が広大ではないため、以下の点で有利になります。 迅速な施工でビル稼働への影響を最小化足場解体や資材搬入が短期で完了し、テナントや周辺住民との調整がスムーズ。コスト面での優位性面積が小さい分、外壁改修にかかる総コストは少額に抑えやすい。賃料アップや空室率改善への即効性外観が大きく変われば、テナントからの問い合わせや内覧が増えやすく、改修の成果が早期に表れやすい。 ★スペースライブラリの視点「外壁を替えると、ビルの印象が“古くさい建物”から“現代的なビル”へ劇的に変わるので、入居する企業も“ここならお客様を招きたい”と思いやすくなります。工期が短くなるメリットは、中小ビルにとって大きい利点と言えます。」 第3章:内装の意匠更新で“古さ”を感じさせない空間へ 3-1. エレベーターの内壁と制御装置の改修 テナントが朝晩必ず利用するエレベーターは、“ビルの印象”を左右する重要なスペースです。 1. 制御装置の更新古い制御システムは故障率が高く、メンテナンス費もかさみます。最新の制御装置に更新すれば、故障リスクの低減やエネルギー効率向上を実現します。2. 安全機能の強化バックアップ電源や非常停止装置など、安全面のアップデートでテナントの安心感を高めます。3. キャビン内装リニューアルパネル素材や照明を一新し、モダンなデザインへ。高耐久・防汚素材を用いると清掃が楽になり、管理コストも下がります。 ★スペースライブラリの視点「エレベーター改修の良いところは、機能更新によってビルの安全性と快適性を一気に底上げできる点。見た目の変化も大きく、テナントが毎日“このビルっていいね”と感じるきっかけづくりになります。」 3-2. 洗面所・流し台の刷新でクリーンなイメージを オフィスのトイレや給湯室は“ハード”だけでなく、テナントのワークスタイルや衛生意識にも影響を与える場所です。 1. レイアウト変更やバリアフリー対応通路幅を広げ、スムーズに動線が確保されるデザインを採用。車椅子対応や多目的トイレの設置で対応力を高めます。2. 最新設備の導入節水型や自動洗浄・自動水栓などの衛生陶器を導入し、清潔感・省エネ性をアップ。3. 照明と収納スペースの工夫照明を明るく、かつ人感センサーにすると安全性と省エネを両立。小物や清掃用品を収納できるスペースも整え、見た目の雑多感を解消。 ★スペースライブラリの視点「トイレや給湯室の改修は、意外なほどテナントからの評価が上がります。特に女性スタッフの多い企業や外部来訪者が多いオフィスでは、“水回りが綺麗”というのがビル選定の大きなポイントになるのです。」 第4章:機能面とデザイン面のバランス —— “見える改修”と“見えない改修”をどう同時 進行させるか 4-1. 基幹設備の老朽化対策 築古ビルで深刻化しがちな基幹設備の劣化は、稼働停止や事故のリスクに直結します。 給排水管の更新サビや漏水リスクを考慮し、耐食性・耐久性の高い素材に切り替え。局部的な補修に終始せず、一部フロアや系統ごとの完全更新を検討することも。受変電設備の交換老朽化が進むと停電・火災リスクが高まり、最新機器へのアップデートで安全性と省エネ効果を高めます。空調機器の高効率化インバーター式や省エネモデルを導入し、テナントの快適度と電気代削減を同時に達成。 ★スペースライブラリの視点「基幹設備を後回しにすると、一度事故が起きた際のコストやイメージダウンが甚大です。テナント満足度だけでなく、ビル全体の経営リスク軽減を意識しながら、見えない部分にもしっかり投資することが長期的な安定収益に繋がります。」 4-2. “見えるところ”と“見えないところ”の投資配分 見える投資:外壁・エントランス・エレベーターホール・トイレ内装など、“一目で変わった!”とわかる部分。テナント誘致や賃料アップへ直結しやすい。見えない投資:電気系統や空調機、配管、制御装置など、普段は目に触れないが故障時のリスクが大きい部分。建物寿命や安全性を左右するため、優先度も高い。 ★スペースライブラリの視点「『見せる改修』でテナントにアピールしつつ、同時に『見えない改修』をコツコツ進めるのが理想形です。大きな“裏のリスク”を先に解消しておけば、改修後のビルに企業が安心して長く入居し続けてくれます。」 第5章:投資効果を高めるためのプレゼン —— 数字とストーリーの両面で説得 5-1. 賃料アップ・空室率低減のシミュレーション 改修前後の家賃シナリオ周辺相場を参考に、家賃がどの程度アップできるかを具体的に示す。空室だったフロアが最終的にどれくらい埋まるかを複数シナリオで想定。空室率改善と実質収益投資前は平均空室期間が6ヶ月あったのが、改修後2ヶ月に短縮すれば、年間収入増がどれほどになるかを見える化する。 ★スペースライブラリの視点「『どれくらい賃料を上げられるか』だけでなく、『どれくらい空室が減るか』も重要。実際、空室率低減効果が大きいなら、トータル収益が明確に向上します。数字で実証すれば、ビルオーナーの投資意欲を高める後押しになります。」 5-2. ランニングコスト削減と補助金活用 LED照明・高効率空調ランニングコスト低減をシミュレーションし、長期の光熱費削減メリットを提示。BCP対策災害時の継続稼働性を高める設備投資(非常用電源・断熱改修など)で、企業の防災ニーズに応えられるビルとなるアピールも有効。 ★スペースライブラリの視点「ランニングコスト削減効果や公的支援を上手く組み込めば、投資回収シミュレーションが現実味を帯びてきます。特に省エネ設備導入で得られる補助金は見逃せないポイントです。」 第6章:中小規模ビルでの“大胆リノベ”を成功させるステップ 6-1. ビル診断と課題整理 専門家の総合診断を受け、外壁・基幹設備・内装などの問題点を洗い出し、“今すぐ対処すべき”と“後回しでもOK”を分けます。 現場写真や測定データの提示客観的根拠を持ってビルオーナーや投資家に現状を説明できるよう、報告書を作成。予算見積りとリスク評価改修費の大枠、放置した場合のリスクコストを比較し、優先度を決定。 ★スペースライブラリの視点「建物診断のレポートがしっかりしていれば、ビルオーナーが投資判断しやすくなります。見た目が平気そうでも、実は配管や防水が危険水域になっていたなんてケースもあるので、データと写真で“今、何をしなければいけないか”を明確にします。」 6-2. 外観・内装と基幹設備のバランス検討 ビルの将来計画(ターゲットテナント、想定賃料、運用期間)に合わせ、以下のプランを試作。 見た目重視プラン:ファサード変更、エントランス刷新に多くの予算を割き、インパクトを狙う機能面重視プラン:給排水・空調・電気系統などを最優先にアップグレードバランス型プラン:外観やエントランスを適度に更新しつつ、基幹設備にも一定投資を行い、リスク回避とイメージアップを両立 ★スペースライブラリの視点「目立つ改修でテナント誘致力を大きく上げるか、トラブルを防ぐためにまず基幹設備を改修するか。ビルオーナーの意向や資金計画に応じ、少なくとも“絶対やらねばならない部分”と“後回しでも影響が小さい部分”を区分しておくのがコツです。」 6-3. 投資効果のシミュレーション 賃料アップ率:ビフォーアフターで家賃がどの程度上げられるか、周辺競合物件の事例を参照。空室率改善:改修後、問い合わせ数が増え、フロア稼働率がどれくらい上昇するかを見込み。ランニングコスト削減:空調・照明更新でのエネルギー費の減少、修繕費の削減などを数値化。 ★スペースライブラリの視点「シミュレーションには、保守的なケースと楽観的なケースの両方を用意すると、ビルオーナーにとってリスクとリターンをイメージしやすいです。成功事例だけでなく、そこから学ぶ失敗事例も織り交ぜると説得力が増します。」 6-4. 設計・施工の実施とPR テナントとのコミュニケーション:工事スケジュールや騒音への配慮を丁寧に伝え、協力を得る。改修後のイメージ発信:SNSやメディアを活用して“こんなビルに生まれ変わります”を写真・動画で紹介。プロジェクト全体のストーリーづくり:築30年のビルが“未来を担うオフィス”へ変貌するプロセスを共有することで、周囲の共感や話題化を誘発。 ★スペースライブラリの視点「工事中はテナントに負担がかかりがちですが、“完成後の魅力”を明確に示すことで理解を得やすくなります。工事過程をオープンにしたり、ラウンジスペースの進捗写真を掲示したり、期待感を演出することが重要です。」 まとめ:大規模ビルと同じ発想を“自分サイズ”に応用する 築30年を超えるオフィスビルでも、的確な診断+効果的なリノベーション投資により、テナントから「ここで働きたい」「ブランドイメージに合う」と思われる物件へと生まれ変わらせることができます。大規模ビルが用いる先進ノウハウを、中小ビル規模に合わせてアレンジすれば、費用対効果を高めることも十分可能です。 外壁の新素材重ね工法:塗装リニューアルだけでなく、メタルやガラス素材で大胆に外観を刷新エレベーター更新:制御装置と内装を変えて、毎日の利用シーンを快適に洗面所や流し台の近代化:バリアフリーや節水型設備で、利用者が“気持ちいい”と思える空間へ基幹設備の更新で安全性と省エネ向上:配管や空調など“見えない部分”も同時に整備し、長期的リスクを低減投資効果を数値化して提示:賃料アップ、空室率改善、ランニングコスト削減など、複数シナリオで回収期間を見せる ★スペースライブラリの総評「リノベーションは、ビルオーナーや投資家からすれば大きな決断ですが、築30年ビルでも成果が出やすい“ポイント改修”を戦略的に組み合わせれば、投資リスクを抑えながら大きく収益を伸ばすことができます。設備や外観の“見える改修”でイメージアップを狙いつつ、“見えない基幹設備”を更新することでテナントが安心して長く使えるビルへ。そんな両輪が回れば、テナント誘致力が高まり、賃料アップや空室削減に繋がります。」新築を建てるには資金も時間もかかる一方、既存ビルが築いてきた立地や構造の強みは依然として大きな資産です。そこに最新のデザインや設備を組み合わせ、“攻め”と“守り”のバランスをとったリノベーション計画を練り上げれば、築古ビルでも十分に競争力を取り戻せるでしょう。テナント企業が“このビルに入って良かった”と感じる改修を施し、さらに投資メリットをビルオーナーにしっかり伝えることが、持続可能な賃貸経営への近道となるのです。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム 飯野 仁 東京大学経済学部を卒業 日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。 年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。 2025年8月25日執筆2025年08月25日 -
プロパティマネジメント
複数賃貸ビルオーナー必見:マルチ・マネージャー戦略:管理会社を複数活用してリスク分散と安定運営を両立する戦略
皆さん、こんにちは。株式会社スペースライブラリの飯野です。この記事は「賃貸オフィスビルの管理会社を探る~ビル管理業務の基本、大手管理会社の特徴、中小管理会社との比較ポイント~」のタイトルで、2025年8月25日に執筆しています。少しでも、皆様のお役に立てる記事にできればと思います。どうぞよろしくお願い致します。 目次1. はじめに:複数ビルを保有するオーナーの悩み2. マルチ・マネージャー戦略とは何か2-1. 単一管理 vs. 複数管理の基本的な違い2-2. マルチ・マネージャー戦略が注目される背景3. リスク分散の意義3-1. 管理会社固有リスクとは3-2. 市場変化や地域特性のリスク4. マルチ・マネージャー戦略導入のメリット4-1. リーシング力・営業力の強化4-2. テナント満足度向上と収益安定化4-3. 専門性の使い分けでサービス向上4-4. 管理コストの最適化4-5. ノウハウの多元化とイノベーション5.マルチ・マネージャー戦略導入のデメリット・注意点5-1. 総コストの上昇5-2. 管理対象の切り分け5-3. 統一的な方針・品質管理の困難さ5-4. 情報・ノウハウの分散リスク6. ケーススタディ:実際の活用例6-1. 都心部でオフィスビルを複数保有する事例6-2. 新築オフィスビルと既存ビルを組み合わせた運営事例6-3. 複数会社の組み合わせパターン7. マルチ・マネージャー戦略の運営ポイント7-1. 初期方針の策定とビル特性の分類7-2. 業務範囲と連携ルールの明確化7-3. 定期的なレビューと評価制度7-4. 総合窓口(コーディネーター)の活用7-5. コミュニケーション手段の整備とIT活用8. 管理会社の選び方:チェックリスト8-1. 実績・専門分野の把握8-2. 費用体系と見積もり比較8-3. チーム体制と担当者の安定性8-4. 組織の健全性と信頼度8-5. レポーティングや契約更新条件9. マルチ・マネージャー戦略の具体的な導入ステップ9-1. 現状分析と社内(オーナー側)意見集約9-2. 管理会社へのRFP(提案依頼)9-3. 比較検討とプレゼンテーション9-4. 複数契約の締結と業務開始準備9-5. モニタリングとPDCAサイクル10. 今後の展望:多様化する管理ニーズにどう備えるか10-1. テナント満足度向上とブランド強化10-2. リスク分散からイノベーション創出へ10-3. DX・IT活用の加速と複数社連携11. まとめ:マルチ・マネージャー戦略はオーナーと管理会社のWin-Winを生む 1. はじめに:複数ビルを保有するオーナーの悩み 東京都心部のオフィス事情と変化東京都内、とりわけ都心部では、オフィスビルの需要と供給が刻々と変化しています。景気動向や企業の新陳代謝、さらにはテレワークやハイブリッドワークの普及によって、以前ほどの面積を必要としないテナント企業も増えました。一方で、ITベンチャー企業やスタートアップを中心に、リモートを前提としつつも「コア拠点」となるオフィスを確保しようとする動きも見られます。こうした多様化するニーズに対して、複数棟のオフィスビルを保有するオーナーは、「空室率をいかに抑えるか」「建物の管理品質とブランドイメージをどう維持・向上させるか」という課題と常に向き合っています。コスト最適化を図ろうと、一社の管理会社にまとめて任せるのも一つの選択肢ですが、実際には以下のような懸念を持つオーナーも多いでしょう。 一社に任せきりだと、管理の質が落ちたときに打つ手が少ない地域やビル特性に見合ったきめ細かい対応ができていないもっとアグレッシブなリーシング施策を試したいが提案が少ない そこで近年注目されつつあるのが、「複数の管理会社と契約する」というマルチ・マネージャー戦略です。本レポートでは、複数管理会社導入によるマルチ・マネージャー戦略のメリット・デメリットや具体的な進め方を紹介し、東京都内で複数のオフィスビルを保有するオーナーの皆様にとって有益なヒントを提供します。 2. マルチ・マネージャー戦略とは何か 2-1. 単一管理 vs. 複数管理の基本的な違い 単一管理(フル一括委託) 特徴:所有する複数ビルすべてを、一社の管理会社に委託する形態です。メリット:窓口の一本化:オーナーは一社とのみコミュニケーションを取ればよく、管理業務の煩雑さが軽減されます。契約管理の簡素化:契約書やレポートが統一され、管理業務が効率化されます。ボリュームディスカウント:所有ビル数や延床面積に応じて、管理料率の優遇を受けられる可能性があります。デメリット:リスクの集中:管理会社の経営状況や担当者の能力に大きく依存し、リスクが集中します。画一的な管理:地域やビル特性に合わせた柔軟な対応が難しく、画一的な管理になりがちです。切り替えコストの高さ:管理会社の変更には、全ビルの管理体制を見直す必要があり、時間と費用がかかります。 マルチ・マネージャー戦略(複数管理) 特徴:ビルごと、エリアごと、または機能(リーシング、BMなど)ごとに、複数の管理会社と契約する形態です。メリット:リスクの分散:一社の経営悪化やトラブルが発生しても、全体への影響を最小限に抑えられます。相互評価と透明性:各社の実績を比較評価しやすく、競争原理が働くことで、管理品質の向上を促進します。専門性の活用:各社の得意分野を組み合わせ、ビル特性やテナントニーズに合わせた最適な管理が可能です。デメリット:コミュニケーションの複雑化:複数社との連携が必要となり、調整業務が増加します。ブランド・品質の統一性:管理会社ごとのサービス品質にばらつきが生じ、ビル全体のブランドイメージを維持するのが難しくなる可能性があります。コストの増加:管理業務の重複や調整コストが発生し、全体的なコストが増加する可能性があります。 2-2. マルチ・マネージャー戦略が注目される背景 不動産投資や資産保有が多様化する中で、地域や用途の異なる複数ビルを所有するオーナーが増えています。ビルごとに需要構造やテナント層が違うため、一社の管理ノウハウだけでは十分対応できない場合があるのです。東京都内のオフィスビル市場は、グレードや立地、テナント層の多様化が顕著です。例えば、スタートアップ企業には柔軟な契約条件や共用スペースの充実が求められる一方、大企業にはセキュリティ対策やブランドイメージの維持が求められます。また、超高層ビルに大企業が集約していた時代から一変し、シェアオフィスやコワーキングスペース、ベンチャー向けの中小規模オフィスなど、「オフィスのあり方」が細分化しています。大手管理会社に全ビルを一括委託していると、以下のような問題に直面しがちです。 地域ニーズを捉えきれない:都心五区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)と城東エリアではテナント特性が大きく異なっており、地域ごとのニーズを担当者が十分に把握できていな場合があります。大手同士の横並び施策:同レベルの賃料設定や画一的な内装提案に留まり、付加価値が生まれにくい状況となりがちです。提案力の停滞:大手管理会社からすると無数の物件の一つに過ぎず、機械的に画一的なサービスを提供しがちであり、オーナー固有のニーズを深堀りして、ビルごとの個性を活かした付加価値の創出を目指した提案が滞りがちです。 こうした懸念を解消するために、複数の管理会社と契約し、マルチ・マネージャー戦略を採用して、それぞれの強みを活かしつつリスクを分散するアプローチを選ぶオーナーが増えています。一つの管理会社に依存しない運営体制を整えることで、大手管理会社の豊富なネットワークを活用しながらも、別の管理会社によるきめ細かなサービスを補完的に受ける、といった柔軟性を確保できるのです。結果として、空室リスクが分散され、家賃水準の維持やテナント満足度の向上にも繋がりやすくなります。 3. リスク分散の意義 3-1. 管理会社固有リスクとは 管理会社にも企業としての固有リスクがあります。東京都内のビル管理を得意とする会社といっても、下記のようなリスクをゼロにはできません。 1 経営状態の悪化 管理会社もしくはその親会社が、突然の業績不振や合併・吸収により、担当部門の組織変更が発生するリスク。サービス品質の低下や担当者大量離脱に繋がるケースもあります。 2 優先度の問題 特に、大手管理会社の場合、「もっと大規模・高グレードの物件」を優先し、オーナーの物件が後回しにされることが起こり得ます。 3 担当者の異動・退職 管理の要となるのは、現場を仕切るPM(プロパティマネージャー)やBM(ビルマネージャー)担当者です。大手管理会社でも実際の最前線は担当者個人の力量に依存します。優秀な人材が抜けると、それだけでクオリティが下がる可能性があります。 3-2. 市場変化や地域特性のリスク 都心と郊外、オフィス街と商業エリアでは、必要とされるリーシング手法やテナント誘致のネットワークが異なります。一社だけで全エリア・全ジャンルをカバーしようとすると、ローカルな動向(地域特有のテナントニーズや賃料相場)を掴みきれないまま画一的な手法を押し通してしまう恐れがあり、結局どこかで最適化不足が起こり、空室やテナント離脱につながるリスクが大きいといえます。特に東京のオフィスビル市場は、エリアごとに特性が大きく異なります。例えば、丸の内エリアでは大企業向けのハイグレードオフィスビルが中心である一方、渋谷エリアではスタートアップ企業向けのクリエイティブオフィスビルが中心です。それぞれのエリア特性に合わせた管理戦略が必要となります。 4. マルチ・マネージャー戦略導入のメリット 4-1. リーシング力・営業力の強化 複数の管理会社が同時にオフィス空室を埋めようと動けば、管理会社間の競合が生まれます。各社が自社ネットワークや仲介チャネルをフルに活用し、少しでも早くテナントを決めようと努力するため、結果的にオーナーの空室率低減に寄与しやすくなります。 4-2. テナント満足度向上と収益安定化 ビルごとに最適化された提案や細やかなサポートが受けられるため、テナントからのクレームや要望にも素早く対応しやすくなります。テナント満足度が高まれば、長期入居率が上昇し、収益の安定化につながります。 4-3. 専門性の使い分けでサービス向上 ベンチャー向けオフィスに強い:IT系スタートアップの集客ノウハウやコミュニティづくり大手企業向けオフィスに強い:充実した施設管理メニューや高グレードな内装提案サブリースや一棟貸しに強い会社など このように、物件のタイプや立地に合わせて複数の管理会社を組み合わせれば、トータルの運営品質が一社委託時よりも高まる可能性があります。 4-4. 管理コストの最適化 一見、複数社に委託するとコストが増えるように思えます。しかし、必要なサービスだけを選択して発注できるため、無駄なパッケージ料金を払わなくても済むケースがあります。また、複数社に見積もりを取る過程でコスト比較ができ、結果的に管理料の引き下げ交渉が進むこともあるでしょう。 4-5. ノウハウの多元化とイノベーション 複数の管理会社と意見交換するうちに、オーナー自身が異なる管理モデルや運営手法を学べるメリットは大きいです。たとえば、ある会社が提案する最新のオフィスレイアウトやテナント誘致策を、別のビルでも横展開できるかもしれません。この過程でオーナーとしての経営スキルが向上し、不動産運用全体のイノベーションにつながることがあります。 5.マルチ・マネージャー戦略導入のデメリット・注意点 複数管理会社を導入する際には、以下の点に注意が必要です。 5-1. 総コストの上昇 一括契約と比較してボリュームディスカウントが適用されにくいため、管理報酬全体が上昇する可能性があります。複数の管理会社の調整を外部コンサルタントに委託する場合、追加費用が発生します。 5-2. 管理対象の切り分け 複数棟の建物や隣接する複数のビルを管理する場合、管理会社の担当範囲を明確に定める必要があります。責任範囲が曖昧になると、トラブル発生時の対応が遅れる可能性があります。契約段階で詳細な取り決めが必要です。 5-3. 統一的な方針・品質管理の困難さ 複数の管理会社が関わることで、各社のオペレーションの違いから、統一感のあるビル管理やブランディングが難しくなる場合があります。オーナーが求める一定水準の管理・保守品質を維持するために、管理会社間の連携と情報共有が重要です。 5-4. 情報・ノウハウの分散リスク 管理会社ごとにレポート形式やKPI設定が異なると、オーナー側での情報集約・分析が困難になります。管理会社が情報を囲い込むことで、オーナーが全体の状況を把握しにくくなるリスクがあります。必要な情報を一元化する仕組みを構築し、情報共有を促進することが重要です。 6. ケーススタディ:実際の活用例 6-1. 都心部でオフィスビルを複数保有する事例 A氏は東京都港区に2棟、千代田区に1棟のオフィスビルを保有していた。最初は大手管理会社Xに一括で委託していたが、空室率や賃料水準が思うように改善しない状況に不満を感じていた。X社にとってA氏の3棟は「ミドルグレードのビル」であり、より大型・高額案件に比べ後回しにされている印象がありました。そこで、港区の2棟はX社のまま、千代田区の1棟を別のY社へ切り替えた。Y社は千代田区周辺の高層ビルや中規模オフィスへのリーシング実績が豊富で、かつ地元の仲介業者との関係が強かった。結果的に空室区画にIT系企業をすばやく誘致し、競合ビルより高い賃料設定で成約できた。この成功を機にA氏は残り1棟も徐々にY社へ移行し、結果的にお互いの成長を促す形になりました。 6-2. 新築オフィスビルと既存ビルを組み合わせた運営事例 このビルのオーナーは、すでに御徒町周辺で複数のオフィスビルを保有していましたが、これまでは主に大手管理会社A社に任せていました。しかし、新築ビルが加わったことで、「従来からの中小規模ビル」と「最新鋭の高グレードビル」を別々の管理会社に委託するようにしました。 既存ビル群:地域密着型で中小テナント誘致に長けたB社に継続依頼新築ビル:空室埋めや大手企業への訴求に実績のあるC社に委託 この結果、B社は従来と変わらないかたちで周辺マーケットを熟知した営業を行い、一方のC社は新築ビルの魅力を活かしたバリュエーションを積極的にPRする方針を打ち出した。両社が各々の物件で実績を競い合うため、テナント探しの速度や提案内容に相乗効果が生まれ、オーナー全体のポートフォリオ安定にも寄与しました。 6-3. 複数会社の組み合わせパターン パターンA:大手管理会社+地域密着型管理会社大手のネットワークを活かしつつ、地域特性に強い小回りの利く会社を補完的に活用パターンB:用途別・グレード別に管理会社を切り分ける同じ港区内でも、ハイグレードビルとミドルグレードビルを別会社に割り振るパターンC:リーシング特化型とBM特化型を分けるリーシング部門の強い会社に空室対策を重点的に依頼し、日々の設備管理や清掃は設備・清掃系に強い別会社が担当 7. マルチ・マネージャー戦略の運営ポイント 7-1. 初期方針の策定とビル特性の分類 まずは、「なぜ複数管理会社を導入するのか」を明確にしましょう。 空室率の改善リスク分散新築ビルのブランド戦略修繕等、トラブル対応の迅速化 それぞれのビルの築年数・グレード・立地・ターゲットテナント層を一覧化し、どのような管理会社が最適かを検討します。 7-2. 業務範囲と連携ルールの明確化 複数管理会社が接する部分(例えば駐車場や共有エントランス)がある場合、契約書で責任範囲を明確化しないと、清掃や設備点検に漏れが生じやすいです。「会社Aは日常清掃を担当し、会社Bは定期清掃・設備保守を担当」といった具合に、業務分担をきちんと定義しておくことが大切です。 7-3. 定期的なレビューと評価制度 複数管理会社を導入する最大の強みは、比較検討がしやすい点です。各社が提出するレポートを定期的に見比べ、空室率の変化、家賃単価の推移、テナント満足度のヒアリング結果などを可視化しましょう。成果を上げている会社にはインセンティブを与え、伸び悩んでいる会社には改善要求を行うことで、長期にわたるモチベーションを維持できます。 7-4. 総合窓口(コーディネーター)の活用 複数の管理会社が関わると、オーナー自身がすべてを把握するのは大変です。とくに10棟以上保有するような大型オーナーの場合は、複数の管理会社のコーディネーターを立てるのも有効です。社内に専門人材を配置してもいいですし、外部のコンサル会社に依頼してもかまいません。複数の管理会社との連絡・調整を一本化し、オーナーは最終意思決定に注力する体制が整えば、複数管理会社のメリットを享受しやすくなります。 7-5. コミュニケーション手段の整備とIT活用 進捗共有やタスク管理を一元化、管理レポート、必要な書類や写真、図面などを閲覧できるクラウド型プロジェクト管理ツールの導入も検討課題です。このようなITツールを駆使することにより、物件ごとに管理会社が異なっても、見落としや二重対応を防ぎ、複数の管理会社の連絡・調整を効率的に行うことができるかもしれません。 8. 管理会社の選び方:チェックリスト 最適な管理会社を選ぶためには、以下の項目を慎重に評価することが重要です。 8-1. 実績・専門分野の把握 エリア実績:管理会社が重点を置いているエリアを確認します。特に、所有物件が所在するエリアでの実績は重要です。例:中央区、港区、新宿区、渋谷区など、特定のエリアに強みを持っているか。テナント層:管理会社が得意とするテナント層を確認します。例:大手・上場企業が多いか、中小・ベンチャー企業が多いか。成功事例:類似規模・グレードのビルにおける成功事例を確認します。具体的な成果や実績を把握することで、信頼性を判断できます。 8-2. 費用体系と見積もり比較 PMフィー(プロパティマネジメント費用):家賃収入に対する割合(◯%)や固定金額など、費用体系を確認します。リーシング手数料:テナント成約時の手数料を確認します。例:月額賃料の◯ヶ月分など。BM費用(ビルマネジメント費用):設備点検、清掃、警備などの実費やマージンを確認します。追加サービス:リニューアル提案、改修プロジェクト管理などのコンサルティング費用を確認します。費用対効果:最安値だけでなく、サービス内容や付加価値とのバランスを考慮することが重要です。 8-3. チーム体制と担当者の安定性 担当者の経験と能力:担当者の経験年数や専門知識を確認します。サポート体制:担当者へのサポート体制やバックアップ人員の有無を確認します。担当者の安定性:担当者の異動頻度を確認し、長期的な関係を築けるかを見極めます。 8-4. 組織の健全性と信頼度 財務状況:過度な赤字決算や債務超過がないかを確認します。コンプライアンス意識:不正請求や下請けトラブルの有無を確認します。社内教育・研修体制:担当者を育成する仕組みが整っているかを確認します。 8-5. レポーティングや契約更新条件 報告フォーマットの統一:複数管理会社を利用する場合、最低限のレポート項目を統一できるかを確認します。契約更新条件:契約更新のタイミングや手続き、解約時のペナルティなどを確認します。緊急対応の体制:夜間・休日のトラブル時に迅速に対応できるかを確認します。 9. マルチ・マネージャー戦略の具体的な導入ステップ マルチ・マネージャー戦略をスムーズに導入するためには、以下のステップを踏むことが重要です。 9-1. 現状分析と社内(オーナー側)意見集約 現状分析:現在の管理体制における問題点を洗い出し、複数管理会社化の目的を明確にします。社内意見集約:経営陣、財務担当、運営担当などの意見をまとめ、優先順位を設定します。 9-2. 管理会社へのRFP(提案依頼) RFP作成:複数の候補管理会社に対し、ビルの概要、現状の課題、要望をまとめたRFPを提示します。提案内容の比較:各社の提案内容、見積もり、チーム編成などを比較しやすいようにフォーマットを統一します。 9-3. 比較検討とプレゼンテーション 候補の絞り込み:RFP回答をもとに、費用、担当者、実績などの総合点で上位候補を絞り込みます。プレゼンテーション:最終候補の数社にプレゼンテーションを依頼し、担当予定者と直接面談してフィーリングを確認します。 9-4. 複数契約の締結と業務開始準備 契約締結:契約条件を慎重に確認し、契約を締結します。業務開始準備:鍵やセキュリティの移管、テナントへの周知、清掃・保守業者との連携切り替えなど、管理会社ごとに調整を行います。進捗管理:プロジェクト管理ツールなどを活用し、進捗を可視化します。 9-5. モニタリングとPDCAサイクル 定期レポートとKPIモニタリング:運営開始後は、定期レポートやKPIモニタリングをもとにPDCAサイクルを回します。評価と改善:空室率、賃料推移、修繕やトラブルの対応状況などを総合的に評価し、必要に応じて契約内容や運営方針を修正します。 10. 今後の展望:多様化する管理ニーズにどう備えるか オフィスビル市場は、テクノロジーの進化、働き方の変化、テナントの多様化など、多くの要因によって急速に変化しています。このような状況下で、ビルオーナーは将来を見据え、多様化する管理ニーズに柔軟に対応していく必要があります。 10-1. テナント満足度向上とブランド強化 競争によるサービス向上:複数管理会社の導入は、サービス品質の向上を促します。各社が競争することで、テナントへの対応速度、設備管理の質、清掃の徹底度など、あらゆる面でサービスの向上が期待できます。テナントは、より質の高いサービスを提供するビルを選ぶ傾向にあります。複数管理会社によるサービス競争は、テナント満足度を高め、結果としてビルのブランド価値向上につながります。差別化されたサービス:各管理会社が独自の強みを生かしたサービスを提供することで、ビル全体の付加価値を高めることができます。例えば、ある会社はテナント交流イベントの企画に強く、別の会社は最新の省エネ技術に精通しているといった具合です。テナントの多様なニーズに応じた、きめ細やかなサービスを提供することで、テナントの満足度を向上させ、長期的な入居を促進します。 10-2. リスク分散からイノベーション創出へ 多角的な視点とアイデア:複数管理会社の導入は、リスク分散だけでなく、イノベーションの創出にもつながります。各社が持つ異なるノウハウやアイデアが融合することで、新たなサービスや管理手法が生まれる可能性があります。例えば、テナント向けの内装提案、共用スペースの有効活用、地域コミュニティとの連携など、多岐にわたるアイデアが生まれることが期待されます。オーナーと管理会社の共創:オーナーと管理会社が協力し、ビルの付加価値を高める取り組みが重要になります。管理会社の専門知識とオーナーのビジョンを組み合わせることで、テナントにとって魅力的なビルを実現できます。管理会社同士のノウハウの共有をオーナーが促すことで、よりイノベイティブな提案が生まれやすくなります。 10-3. DX・IT活用の加速と複数社連携 データ連携と効率化:クラウドシステムやIoT機器を活用したビル管理が普及する中、複数管理会社とのデータ連携が重要になります。オーナーが共通のプラットフォームを提供し、各社がデータを共有することで、効率的なビル管理が可能になります。例えば、エネルギー消費量、設備稼働状況、テナントからの問い合わせ情報などを一元管理することで、迅速な意思決定や問題解決が可能になります。AIによる高度な管理:将来的には、AIを活用したビル管理がさらに進化することが予想されます。空調管理の最適化、テナント満足度の予測、異常検知など、AIによる高度な分析と自動化が進むでしょう。複数社で、AIなどを活用したデータを共有することで、より精度の高い予測や、より効率的な管理が可能となります。セキュリティの強化:DX化が進むと同時に、サイバーセキュリティ対策も重要になります。複数社でセキュリティ情報を共有し、連携して対策を行うことで、より強固なセキュリティ体制を構築できます。 11. まとめ:マルチ・マネージャー戦略はオーナーと管理会社のWin-Winを生む 東京都内で複数のオフィスビルを保有するオーナーにとって、一社への一括委託は分かりやすい反面、リスク集中やサービス停滞の問題をはらんでいます。そこで注目されるのが、物件の特性やエリアに合わせて複数の管理会社と契約、マルチ・マネージャー戦略を採用し、リスク分散とサービス最適化を同時に狙うアプローチです。 メリット:競争原理によるサービス向上、専門性の使い分け、オーナー自身の運営ノウハウ向上などデメリット:コミュニケーションの複雑化、コスト増、品質管理のばらつきなど しかし、適切な方針策定や契約範囲の明確化、定期的な評価システムの導入により、これらのデメリットは十分にコントロール可能です。むしろ、複数管理会社それぞれが強みを発揮し、お互いに成長を促す関係が築ければ、オーナー側は安定した収益と物件価値向上を得られ、管理会社側も顧客満足度の高い実績を積むことができます。ニュースでも、新築のオフィスビルが竣工する際に、あえて管理会社を分けて運用するオーナーが増えてきています。今後、働き方改革やDX化の進展に伴い、オフィスニーズはさらに多様化し、物件ごとに最適な管理手法を選ぶ重要性が増すでしょう。最後に、本レポートの要点を振り返ると以下のとおりです。 マルチ・マネージャー戦略導入の背景:都内のオフィスマーケット変化や管理会社リスクへの対処メリットとデメリットの整理:サービス向上やリスク分散、反面コミュニケーション難度やコスト増ケーススタディ:都心の複数ビルオーナーA氏や、NEWS X 御徒町ビルの新築運営事例など運営ポイント:明確な方針設定、責任範囲の定義、総合窓口やIT活用による調整の効率化将来展望:DXやテナントニーズ多様化に対応し、リスク分散がイノベーションを促す可能性 複数ビルを保有しているからこそ、物件ごとに最適な管理会社を組み合わせられるという強みを活かし、ビルオーナーとしての資産価値最大化を図ってみてはいかがでしょうか。複数社と協業することで生じる新たな気づきやノウハウの蓄積は、長期的な不動産経営の安定と成長をもたらすはずです。マルチ・マネージャー戦略の活用は、オーナーと管理会社の両者がWin-Winの関係を構築できる手段として、今後ますます重要になっていくでしょう。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム 飯野 仁 東京大学経済学部を卒業 日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。 年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。 2025年8月25日執筆2025年08月25日 -
ビルメンテナンス
ビル管理の基本と快適な空間を実現する方法 ~現役ビルメンの視点から徹底解説~
皆さん、こんにちは。株式会社スペースライブラリの飯野です。この記事は「ビル管理の基本と快適な空間を実現する方法~現役ビルメンの視点から徹底解説~」のタイトルで、2025年8月25日に執筆しています。少しでも、皆様のお役に立てる記事にできればと思います。どうぞよろしくお願い致します。 目次1. はじめに:ビル管理が支える「快適な空間」とは2. ビル管理の仕事内容:縁の下の力持ち3. ビル管理で特に重要なポイント:安全と快適性の両立 4. 日常点検・定期点検:建物を守る最前線5. 具体的チェックリスト:現場目線での確認項目 6. ビルメンならではの作業内容とエピソード 7. テナント対応とコミュニケーション:快適空間は人との関わりから8. ビル管理の魅力と人材育成のポイント9. 現役ビルメンの想い:プロとしての誇り 1. はじめに:ビル管理が支える「快適な空間」とは オフィスビルや商業施設、マンションなど、私たちが日常的に利用する建物には、快適に過ごせるためのさまざまな工夫と管理の手が行き届いています。なかでもビル管理(ビルメンテナンス)は、建物や設備を安全・安心かつ快適に利用できるように維持するための仕事です。空調、電気、給排水、セキュリティ、清掃など業務範囲は実に多岐にわたり、縁の下の力持ちとして人々を支えています。このコラムでは、ビル管理の基本から、具体的な点検作業の内容、快適性を高める工夫、さらには現場でのエピソードや最新のスマートビルディングの動向まで、幅広く解説していきます。現役ビルメンの視点を通じて、普段はあまり注目されない「建物の裏側」を少しでも身近に感じていただければ幸いです。 2. ビル管理の仕事内容:縁の下の力持ち ビル管理の仕事は、以下のように多岐にわたります。建物全体の安全性・快適性・経済性を保つために欠かせない、いわば“縁の下の力持ち”のような存在です。それぞれの業務が専門的であるだけでなく、相互に密接に関係しているため、建物全体をバランスよく維持管理することが求められます。 2-1. 日常点検と定期点検 ・電気設備受変電設備や照明、コンセントなどの電気設備は、漏電やショートなどのトラブルが大事故につながる可能性があります。日常点検では、電力メーターの検針の際、配線の状態や温度異常、機器の動作音などをこまめにチェックし、異常の兆候がないか確認します。定期点検時には、専門業者と連携し、精密な計測機器を用いて電圧・電流の状態を測定するなど、より詳細な検査を行います。・空調設備エアコンや換気設備は、ビルの利用者が快適に過ごすために非常に重要です。フィルターの目詰まりや送風能力の低下は空調効率の悪化に直結します。日常点検では、巡回時、異臭や異音がしないか、運転状況が正常かを把握します。定期点検では、冷媒ガスの圧力計測や配管の状態確認など、専門業者と連携した検査も実施します。・給排水設備給水ポンプや排水ポンプ、貯水槽などは水回りの基盤となる設備です。水漏れやポンプの動作不良は建物の機能に大きな影響を及ぼすため、日常点検では、巡回時、バルブの状態や異常音を確認するなど、早期発見に努めます。定期点検ではポンプの分解整備や貯水槽の清掃・消毒を行い、安全な水供給を維持します。・消防設備火災報知器や消火器、スプリンクラーなどの消防設備は、緊急時の初動を左右する重要な設備です。日常点検では、巡回時、ランプの点灯を確認し、法令に基づく定期点検では消防署への報告や、専門業者による詳細検査を行います。・昇降機設備エレベーターやエスカレーターは、ビルの利用者にとって欠かせない移動手段です。安全装置やドア開閉の状態、異音の有無などを、巡回時に日頃からチェックし、定期点検ではワイヤーの摩耗状況やモーターの状態などを専門業者が詳しく検査し、安全性を確保します。日常点検では、異常を早期発見することが最優先です。小さな兆候を見逃さず、必要に応じて迅速に対処することで、大きなトラブルを未然に防ぎます。定期点検は、法令や安全基準に従って専門業者と連携して行われ、より高度かつ精密な検査によって設備を計画的に維持管理していきます。 2-2. 修繕・保守 ・設備不具合時の修理・交換電気設備のトラブルや空調機器の故障などが発生した場合は、原因を特定し、部品の修理や交換を行います。社内営繕チームでの対応が可能な小規模な修繕対応で済む場合もあれば、専門設備業者と連携して、大掛かりな交換作業が必要になる場合もあります。・建物の老朽化対応外壁補修や屋上防水、配管交換など、老朽化に伴う修繕が必要な箇所は時期を見計らって計画的に工事を行います。長期的な視点で修繕計画を立てることにより、建物の資産価値を維持し、大規模なトラブルの発生を抑止できます。 特に、当社では社内に営繕チームを有しているため、自社スタッフが迅速に原因を調査し、必要な対応をスピーディーかつ的確に行える点が強みです。 2-3. 清掃・衛生管理 ・共用部の清掃エントランスや廊下、トイレなどの共用部を中心に、日常的に床清掃・窓ガラス清掃・トイレ清掃などを行い、常に清潔な状態を保ちます。また、月に一度は洗剤を使ってモップ掛けを行うなど、必要に応じたメンテナンスを実施します。・テナントスペースへの対応テナントが希望する場合は、専有部の清掃も委託対応が可能です。テナントが快適に働ける環境を提供するために、要望に合った清掃や維持管理を提案することも重要です。・衛生管理日常的に、水回り、トイレの衛生状態を高水準に保ち、ゴミの分別・処理が適切に行われていることを確認しています。必要に応じて害虫駆除の手配のほか、法令に定められた空気環境測定や水質検査にも対応します。 清掃は単に“きれいにする”だけではなく、建物の利用者が快適に過ごせる環境をつくる基礎となる大切な役割です。 2-4. 安全管理 ・セキュリティシステムの監視防犯カメラ、人感赤外線センサーなどを用いて24時間監視を行い、建物への不正侵入や事故を未然に防ぎます。ICカード認証・顔認証により、出入管理を実施し、異常があれば、警備会社と連携して、迅速に対応する体制を整えています。・防災対策と訓練災害発生時の避難誘導マニュアルの作成や、防災訓練の企画・実施も行います。地震や火災などの緊急時に備えて、テナントと連携しながら対応手順を周知させることが重要です。 安全管理は、建物にいるすべての人の安心と命を守るための非常に大切な業務であり、常に最新の知識・技術が求められます。 2-5. エネルギー管理 ・使用量の計測・分析電気・水道などの使用量を定期的に検針して、計測・分析し、使用パターンを把握します。省エネルギーの提案や環境負荷の低減に役立てるため、利用状況をデータで可視化し、テナントやオーナーにレポートを提出します。・高効率設備の導入・管理省エネ型の空調システムやLED照明、太陽光発電などの導入を検討・管理することもビル管理の大切な役割です。環境意識の高まりに伴い、各種助成金の活用や長期的な費用削減効果を踏まえた提案が求められます。 企業の環境経営が重視される中、ビル管理が果たす省エネルギー推進の役割はますます重要になっています。 2-6. テナント対応 ・設備トラブル時の迅速対応テナントからの問い合わせに対して、設備の故障や鍵の紛失、空調の不具合など、多岐にわたるトラブルに柔軟に対応します。原因を特定し、修理・交換手配をスムーズに進めることでテナントの満足度を維持します。・レイアウト変更や内装工事のサポートオフィスのレイアウト変更や内装工事を行う場合には、事前に電気や空調、通信インフラへの影響を確認し、関係業者との調整を行います。工事期間中の安全確保やスケジュール管理も重要なポイントです。 テナントが安心してビジネスを行うためには、迅速かつ丁寧な対応が欠かせません。小さなトラブルであっても誠意を持って対応することで、テナントとの信頼関係が深まります。 以下では、「安全管理」と「快適性の維持」をさらに詳しく説明しつつ、他のセクションとの重複をなるべく避ける形で文章を膨らませてみました。最小限の設備・人員で業務を進めている場合や、積極的にシステム・ツールを導入していない状況でも成り立つ内容を意識しています。 3. ビル管理で特に重要なポイント:安全と快適性の両立 ビル管理においては、「安全管理」と「快適性の維持」をいかにバランスよく実現するかが大きな課題となります。大掛かりなシステム導入や大人数のスタッフがいなくとも、基本的な業務を着実に行うだけで、これら2つの要素を高い次元で両立させることは十分可能です。 3-1.安全管理 (1). 早期発見・早期対策巡回時、小さな異常を発見したらすぐに対応を検討します。例えば、機器の動作音や温度上昇など、目視や感覚だけで異常を捉えられるケースも多々あります。異常が見つかった際は、現場、社内営繕での一次対応で済ませるのか、専門業者への連絡が必要かを迅速に判断することで、トラブル拡大を防ぎます。 (2). 法令順守消防法や建築基準法など、建物の安全性を確保するための基本となる法令を定期的にチェックし、必要な検査や届出を確実に実施します。設備点検や書類作成には時間やコストがかかる一方、これを怠ると建物の信頼性だけでなく、事故発生時の責任問題が大きくなるため、長い目で見れば不可欠な投資と考えられます。 (3). リスク管理事故や災害が発生した場合に備え、マニュアル整備を行い、スタッフ間で基本的な流れを共有しておきます。例えば、火災や停電が起きた時の連絡先や対処手順など、最低限の情報をまとめておくだけでも初動がスムーズです。すべてを高度にマニュアル化するのが難しい場合も、職場内の簡易的な教育(定期的に口頭で確認し合う、など)を行うだけでもリスク対応力は大きく向上します。 ポイント:「現場をしっかり見て回る」ことと「やるべき点検をきちんとこなす」ことだけで、安全管理の質は格段に高まります。トラブルが起きても、ダメージを最小限に抑えられる体制を作っておくことが重要です。 3-2. 快適性の維持 (1). 空調と照明温度・湿度・照度を適切に保つことは、ビル利用者のストレス低減につながります。外気温や季節に応じて空調の設定を調整するだけでも、大幅に快適性が向上します。 (2). 清潔感建物全体の印象を決める上で、汚れや悪臭は致命的なマイナス要因となりやすいです。共用部のこまめな清掃を着実に実施するだけで、ビル全体の印象は大きく変わります。特にトイレやゴミ置き場などは、すぐに異臭が発生しやすい箇所でもあるため、日常的な清掃の品質を確保する工夫が欠かせません。 (3). 騒音対策機械設備の稼働音や外部の騒音を和らげるには、機器のメンテナンス(部品の交換、潤滑油の点検など)を定期的に行うことが効果的です。完全な遮音や吸音対策が難しい場合でも、窓枠やドアの隙間を調整したり、防振ゴムを追加したりするだけである程度の騒音を抑えられます。 (4). コミュニケーションのあり方テナントの要望やクレームには、素早く対処する姿勢を見せることで、利用者に「管理が行き届いている」という印象を与えられます。全件に細かく応えられなくても、優先度を整理し、対応できる範囲で最善を尽くすことが大切です。 ポイント: 快適性は人によって感じ方が違うため、100点満点を目指すより、基本をしっかり押さえるほうが無理なく実践できます。清掃や機器点検の頻度を一定水準以上に保つだけでも、利用者からの大きな不満は減少しやすくなります。 4. 日常点検・定期点検:建物を守る最前線 建物を安全かつ快適に保つには、日々のルーティンである「日常点検」と、専門家や業者との連携で行う「定期点検」が欠かせません。 4-1. 日常点検 巡回:建物をくまなく歩き回り、目視や耳で異常を見つける小さなサインを見逃さない:わずかな異音、異臭、温度変化に敏感になるチェックシートの活用:担当者ごとに属人的にならないよう、チェックリストやタブレットで確認項目を統一 4-2. 定期点検 法定点検:エレベーターや消防設備、高圧受変電設備など、法律で定められた頻度と手順を守って専門業者が点検専門技術を要する検査:水質検査、騒音測定など、高度な機器を使うことも多い点検記録の管理:結果を蓄積し、経年劣化の傾向や将来的な修繕計画に反映 日常点検と定期点検を組み合わせることで、突発的なトラブルや設備寿命の限界を見越した対応が可能になります。 ビル規模・用途別:法令上必要となる主な検査・点検・届出の一覧 規模・用途 該当し得る主な法令・規定 必要となる主な検査・点検・届出 備考 小規模ビル(延べ床面積 3,000㎡ 未満) - 建築基準法 - 消防法 - 廃棄物処理法 - 水道法/下水道法 等 建築基準法関連 - エレベーター・小荷物専用昇降機がある場合、定期検査(年1回) - 非常照明、排煙設備などの定期報告(建物用途による) 消防法関連 - 消火器、自動火災報知設備、誘導灯等の法定点検(6ヶ月~1年に1回) - 防火管理者の選任(一定規模以上・用途による) 上下水道関連 - 受水槽設置時の水質検査・清掃(年1回が一般的) 廃棄物処理法関連 - 事業系一般廃棄物および産業廃棄物の適正処理(委託契約・マニフェスト管理など) - 3,000㎡未満の場合、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管法)」の適用は受けないケースが多い 中規模ビル(延べ床面積 3,000㎡以上/ 1万㎡未満 ) - 建築基準法 - 消防法 - 建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管法) - 廃棄物処理法 - 水道法/下水道法 - 労働安全衛生法(スタッフ規模による) - 場合により, 省エネ法 等 建築基準法関連 - エレベーター・エスカレーター等の定期検査(年1回)と報告 - 排煙設備・非常用照明・避難設備などの定期報告(用途・構造による) ビル管法(特定建築物) - 建物環境衛生管理技術者の選任 - 空気環境測定(2ヶ月に1回)、給排水設備・水質検査、清掃、害虫駆除等の定期実施と記録 消防法関連 - 消防設備の定期点検、総合点検- 防火管理者 or 防災管理者の選任と消防訓練 廃棄物処理法関連 - 事業系廃棄物の区分・収集運搬委託・マニフェスト管理 水道法 / 下水道法 / 水質汚濁防止法 - 受水槽の水質検査・清掃、グリーストラップ管理 等 - 延べ床面積3,000㎡以上で不特定多数が利用する建物は「ビル管法(建物環境衛生の特定建築物)」の対象となり、空気環境や給排水・清掃などの管理基準が強化される。 - テナント数が多い場合、各テナントから出る廃棄物の管理や消防・防災計画の一元管理が必要。 5. 具体的チェックリスト:現場目線での確認項目 以下では、「共用部(エントランス・廊下・トイレなど)」「専用部(テナントスペースやオフィス区画)」「外周(敷地・外壁・屋上)」それぞれのチェックポイントを、もう少し丁寧に掘り下げてご紹介します。建物の規模や構造によってチェック項目は変化しますが、日常巡回や定期点検で“つい見落としがちな部分”に注目することで、不具合の早期発見と利用者の満足度向上に大いに役立ちます。 5-1. 共用部(エントランス・廊下・トイレなど)のチェックポイント (1) エントランス・ホール照明・サイン・電球やLEDランプの切れ、照度不足による暗さの有無・案内板・案内サインの破損や汚れ、視認性の低下床・壁・天井・汚れやキズ、タイル・カーペットの剥がれ、段差によるつまずきリスク・天井パネルや装飾物のゆるみ、落下防止部品の劣化空調・換気設備・吹き出し口・吸込み口のホコリやフィルタの目詰まり・夏場・冬場の温度ムラや異臭の発生がないか (2) 廊下・階段・エレベーターホール手すり・段差・手すりのガタつきやサビ、段差やステップの破損・すべり止め(ノンスリップテープ・マット)が剥がれていないか扉・ドアクローザー・開閉時の異音や閉まり方が急すぎる/遅すぎると感じる箇所の調整・非常口ドアの施錠状態を確認し、防災上の問題がないかエレベーター・内部の照明・非常灯、操作パネルの表示切れ・故障・ドア周辺やかご内の異臭・異音、清掃状態 (3) トイレ・共用水回り衛生状態・清掃が行き届いているか、便器や洗面台の汚れ・カビ・水垢・ゴミ箱の容量オーバーや悪臭が発生していないか水道・排水設備・蛇口やフラッシュバルブの水漏れ・水圧異常・排水口の詰まりや、異臭・逆流防止トラップの劣化換気・消臭・換気扇の動作確認、フィルタの汚れ・消臭器の設置状況や芳香剤の使いすぎによる不快感など チェックのポイント: 共用部は利用者の満足度に直結しやすい場所です。小さな汚れや照明切れがあるだけで印象が悪くなることもあるため、頻度の高い巡回と軽微な修繕・清掃をこまめに行う習慣が重要です。 5-2. 専用部(オフィス・テナントスペース)のチェックポイント (1) 専用区画の空調・照明温度・湿度・空調設備の運転状況が適正か(冷房・暖房・換気・除湿が機能しているか)・テナント側で行うフィルタの定期清掃がしっかり実施されているか局所的な不快感・照明が暗い/明るすぎる、エアコンの風が直接当たり続けることでのクレーム防止など (2) オフィス什器・設備机・椅子・パーティション・破損やぐらつきによるケガ防止・配置による避難経路の妨げがないか情報機器・配線・ケーブル類が床に散乱していないか(転倒事故や火災リスク)・サーバールームや電源ラックの冷却環境と温度管理 (3) セキュリティ・リスク対応出入口管理・鍵の破損、カードリーダーやセキュリティゲートの誤作動・退去済みテナントが利用できるキーや入館証が放置されていないか火災・防災設備・室内の火災報知器や消火器の設置位置は適切か・廊下と同様に、非常口の確保(荷物やパーティションでふさがれていないか)スタッフ・テナントとの情報共有・トラブルや小さな不具合を、迅速に管理者へ報告する体制の有無・ビル全体で実施される防災訓練や省エネ施策など、周知漏れがないか チェックのポイント: 専用部はテナントによって利用形態が異なるため、“標準的なチェックリスト”だけでは不十分なケースもあります。オフィス仕様なら配線・OA機器の取り扱い、店舗仕様なら水回りやガス設備など、実際の使用状況に即した巡回を行うと、思わぬトラブルを未然に防げます。 5-3. 外周エリア(敷地・外壁・屋上)のチェックポイント (1) 敷地・外構植栽・緑地管理・雑草が伸びすぎていないか、枝葉が通行の妨げになっていないか・害虫や害獣の巣がないか(特に放置されやすい植え込みやゴミ置き場周辺など)駐車場・駐輪場・路面のひび割れ、段差や水たまりの有無・照明設備(街灯・センサーライト)の故障や劣化(夜間の防犯や転倒事故防止のため)排水溝・側溝・グレーチング・落ち葉やごみなどで詰まっていないか(豪雨時の浸水リスク防止)・グレーチングのガタつきや破損の有無 (2) 外壁・屋上外壁のクラック(ひび割れ)や剥落・ひび割れの進行状況を定期的に観察し、大きくなっていないか・塗装の剥がれやタイルの浮きがないか(落下事故の危険防止)屋上防水・排水設備・防水層の劣化、コンクリートの亀裂やふくれ、雨漏りの痕跡・ドレン(排水口)に枯れ葉やゴミが溜まっていないか看板や外部装飾の固定状態・台風・強風時に飛散や落下しないよう、取付金具やアンカーボルトの点検・錆(さび)の進行や腐食による強度不足の有無避雷針やアンテナ類・ケーブルの断線、金具の緩み、落雷対策用のアース接続の状態 チェックのポイント: 外周部は利用者や通行人の目につきやすく、印象を左右するだけでなく、落下物や転倒事故などの安全リスクにも直結する重要エリアです。視覚的なチェックはもちろん、触れてみて異常なぐらつきがないかなど、五感を活用して確認することを心がけましょう。 5-4. チェックリストを運用する際の注意点 (1). 点検頻度とチェック項目の優先度すべてを毎日チェックするのは非現実的な場合が多いので、日常巡回で必ず見る項目と“週次・月次点検”で詳しく見る項目を分けておくと効率的です。重要度やリスク度合いによってリストを作成し、緊急性の高い箇所(消防設備・漏電が疑われる電気設備など)はこまめにチェックする体制を。 (2). スタッフやテナントとの情報共有報告・連絡・相談のフローを簡潔かつ分かりやすく整備し、異常を発見したら誰に伝えるかを明確にしておきます。テナントから出てくるクレームや意見は、チェックリストに載っていない盲点を補う貴重なデータになります。 (3). 法定点検との連携消防法や建築基準法、ビル管法などに基づく法定点検を行う際は、日常チェックリストと併用して確認漏れを防止します。法定点検の結果や業者が出す指摘事項を共有し、日常的な巡回でも重点的にウォッチするようにすると効率的です。 (4). 柔軟なアップデート建物の設備更新やテナントの入退去、季節によるリスク(台風・豪雨・雪害)など、環境が変化すると点検の重要ポイントも変わります。定期的にリストを見直し、現場の声を反映させながら常に最新の状態を保つことが大切です。 建物の外周、共用部、専用部という三つの視点でチェックすることで、「建物全体を俯瞰しながら、使う人目線で細部まで目を配る」ことができます。特に日常巡回では、視覚・嗅覚・触覚をフル活用して異常を捉えること小さなサイン(異臭、汚れ、振動、音など)を見逃さず記録することが早期発見につながります。定期的にメンテナンスを行っているつもりでも、チェックリストを活用して改めて細部を見直すと、新たな改善点が見つかることも多いものです。こうした日々の積み重ねによって、大きなトラブルを未然に防ぎ、利用者の安心・快適性を維持することが、ビル管理・ビルメンテナンスの醍醐味といえるでしょう。 6. ビルメンならではの作業内容とエピソード 6-1. 急な設備トラブルへの対応 週末のトイレ詰まり、専門業者不在のピンチを救う「週末の夜間に、テナントのトイレが詰まってしまい、水が溢れそうになっている」という連絡は、ビルメンスタッフにとっては“あるある”の緊急コールです。通常であれば専門の排水業者を呼ぶところですが、夜間・休日で対応が難しい時間帯だったため、ビルメンスタッフが現場へ急行。 応急処置の技術ラバーカップや専用工具を使い、まずは排水口の詰まりを一時的に解除。さらに、周囲に汚水が漏れ出さないよう拭き取り・洗浄を行い、消毒薬を使って衛生面もケアします。トラブルを未然に拡大させないテナントが多いビルでは、1カ所のトイレの詰まりが共有部全体の混乱につながる可能性も。即座に対処することで、他のテナントから「トイレが使えない」「不衛生だ」というクレームが広がる事態を回避できました。後追い対応も重要週明けには専門業者を手配し、配管のチェックや根本的な原因調査を行うなど、完全復旧へ向けた手配を実施。ビルメンが可能な範囲で応急処置をすることで“その場しのぎ”だけで終わらせず、大きなトラブルに発展する前の土台づくりを行えるところに意義があります。 エピソードのポイント「トイレ詰まりくらい…」と思われがちですが、利用者にとっては切実な問題。ビルメンがオールラウンドに対応できるという安心感は、テナントやビルオーナーにとって非常に心強い存在です。 6-2. センサーの誤作動と迅速確認 深夜の火災報知器が鳴り響き、人命第一で動くビル管理において、夜間の火災警報は心臓が凍りつくような緊急事態です。ある深夜、突如鳴り出した火災報知器のベルに驚いたテナントが、ビルメンの緊急連絡先に通報してきました。 誤作動でも初動は本番同様実際にはビル内で塗装作業が行われており、その蒸気(揮発成分)が感知器の閾値を超えて誤作動を起こしたケースでした。しかし、「誤報かも」と安易に判断せず、まずはマニュアル通りに避難ルートの確認やエレベーター停止等、初動措置を徹底。火災の可能性を排除できるまでは“最悪の事態”を想定します。テナントへの説明と連携現場を確認したところ塗装作業による煙感知が原因と判明すると、すぐにテナントへ状況を説明。誤報であっても夜間作業がある場合は事前に申告をするなど、今後の対策や連絡ルールを再確認する機会にもなりました。抜かりなく復旧作業を行う火災報知器を一度作動させると、リセット作業や警備会社・消防署への連絡確認など、細かな手続きが必要になることも。ビルメンが迅速かつ正確に復旧することで、深夜の混乱を最小限に抑えることができました。 エピソードのポイント誤報でも、まずは人命第一の行動を優先できるのがプロの証。ビルメンスタッフはテナントや来館者の安全を守るだけでなく、ビルオーナーが負うリスクを最小化する上でも重要な役割を担っています。 6-3. 空調のフィルター清掃で体感温度が激変 フィルター目詰まりひとつで、まるで別世界のような快適空間に夏場や冬場に「空調が全然効かない」とクレームが増えるフロアがある場合、その原因の多くは大掛かりな設備不具合ではなく、フィルターの目詰まりが一因というケースもしばしば。 現場点検から始まる原因究明温度設定を確認しても正常、送風状態も一見問題なし…それでも冷房が効かないときは、室内機や天井埋込み型のフィルターをチェックしてみると、ホコリやチリで完全に目詰まりしていたということがよくあります。効果絶大なクイックメンテナンスフィルターを洗浄したり交換するだけで、空調効率が大幅にアップ。テナントから「こんなに涼しくなるなんて!」という驚きの声が上がるほどで、電力消費も安定して削減できるメリットがあります。小まめな清掃が安定した快適性を支える空調設備は、一度にまとめてクリーニングするより、こまめにフィルター清掃を実施するほうがトラブルを防ぎやすいです。定期点検のスケジュールに組み込むことで、利用者にとって快適な環境を長く持続させられます。 エピソードのポイント「機械が故障かも?」と大げさに構えがちなトラブルでも、ビルメンスタッフの地道な点検が大きな功を奏するケースがあります。結果的にコストダウンや省エネルギーにもつながるため、オーナー・テナント双方に喜ばれる“縁の下の力持ち”といえるでしょう。 7. テナント対応とコミュニケーション:快適空間は人との関わりから クレーム対応は迅速かつ丁寧 ビルメンテナンスの現場では、テナントや来館者からさまざまなクレームが寄せられます。例えば、「空調が暑すぎる・寒すぎる」「水漏れが起きている」「排気の臭いが気になる」など、内容は多岐にわたります。こうしたクレームに対しては、いかに素早く“現場を確認して一時対応に着手できるか”が鍵となります。対応が遅れると、不満が広まって施設全体の評判にも影響することがあるため、ビルメンスタッフは「早さ」と「丁寧さ」の両方を意識しながら動きます。相手が置かれている状況を察知し、「いつまでに、どのように対応するのか」を具体的に伝えることで、安心感を与えることができます。 ヒアリング力 クレームの背後には、「実は別の原因が潜んでいる」「利用者の使い方に問題がある」など、表面化していない要素が隠れている場合もあります。そこで重要になるのがヒアリング力です。 どの場所で、何時頃、どういった現象が起きているのかどのくらいの範囲で問題が発生しているのかいつから続いているのか こうした情報を正確に収集することで、真の原因を突き止めやすくなります。相手の話をただ聞くだけでなく、状況確認に必要なポイントを整理し、要領よく質問を投げかける力がクレーム対応の質を大きく左右します。 信頼関係の構築 クレーム対応というと「嫌な仕事」というイメージがあるかもしれませんが、一方でテナントや利用者と信頼関係を深める大きなチャンスでもあります。 小さな相談でも真剣に耳を傾ける必要に応じて写真やメモで記録を残し、後から報告する再発防止策を講じて、きちんとフィードバックする こうした姿勢が見えると、テナントは「この管理会社はきちんとしている」「このスタッフは頼りになる」と感じ、長期的な良好関係につながります。 8. ビル管理の魅力と人材育成のポイント 8-1. 目に見える成果 ビルメンの仕事は、トラブルを解決して終わりではありません。むしろ、解決策の効果が利用者の感謝や「本当に助かった」という声として返ってくるのが大きな魅力です。例えば、エアコンのフィルター清掃で「オフィスが格段に快適になった」給排水管の修繕で「水が安心して使えるようになった」エレベーターの安全装置を定期点検で整備し直したおかげで「乗っているときに変な揺れや音がなくなった」こうした“目に見える成果”が、そのままモチベーションややりがいへとつながります。 8-2. 業務の標準化と研修 チェックリスト・マニュアルビル管理業務は、経験や勘に頼りすぎると属人化してしまうことが多々あります。そこで、チェックリストやマニュアルを整備し、誰が見ても一定の水準以上の点検・対処ができるようにしておくことが大切です。 例えば、「空調フィルターの清掃手順」や「夜間緊急対応の連絡フロー」など、頻度の高い項目を優先してマニュアル化。ベテランスタッフのノウハウを集約して、全体の底上げを図ります。 研修・勉強会技術や法令は日進月歩で変化しています。消防法の改正や新しい省エネ設備の登場などに対応するためには、定期的な社内研修や勉強会が欠かせません。資格試験対策も含めて、学習の機会をしっかり提供する会社は、人材が育ちやすい環境といえるでしょう。 チームワークの強化ビルは24時間、365日動き続ける“生き物”のような存在です。スタッフ同士の連携不足は、トラブル時に大きなリスクとなります。定例ミーティングやデジタルツールを活用して、日々の巡回結果や設備状況、クレーム内容などを共有し合うことで、緊急時でもスムーズに対応できる体制が整います。 9. 現役ビルメンの想い:プロとしての誇り 「建物を利用するすべての人の安全と快適を支えたい」「普段は目立たなくても、実はビルの守護神のような存在になりたい」――。現場で働くビルメンスタッフには、こうした“誇り”や“使命感”を持つ人が少なくありません。 安全を最優先に考え、人命や資産を守る大規模なトラブルや事故が起きれば、利用者の命やビジネスに甚大な被害を及ぼす可能性があります。火災報知器の点検ひとつとっても、実は「見えないところで大きなリスクを排除している」作業であり、その瞬間瞬間にプロとしての誇りが宿っています。環境保全や省エネにも貢献したいビルメンは空調や照明などの運転管理を通じて、省エネルギーを実現する立場にあります。特に近年は、環境に配慮したビル運営が求められており、利用者の快適性とエコロジーの両立を図るのも大切な使命です。人とのふれあいが生むやりがい建物には数多くのテナントや来館者が出入りし、多様な要望やトラブルが発生します。決して表舞台に立つ仕事ではありませんが、利用者からの「助かった」「ありがとうございます」が大きな糧になり、「もっと良い環境を作りたい」という意欲へとつながります。 10. まとめ:感謝と敬意を込めて 最後に改めて、ビルメンテナンスの重要性と意義を振り返ってみましょう。 安全と快適の両立建物内のあらゆる設備を点検し、異常を発見すれば即対応。利用者が安心して過ごせる空間を保つのは、ビルメンの地道な巡回や管理があってこそです。最新技術と日々の工夫スマートビル化や省エネ技術の進化に伴い、ビルメンの業務も高度化しています。それでも、地道なフィルター清掃やパッキン交換などの“小さな積み重ね”が、快適環境の基盤を形作っている点は変わりません。チェックリストを活用した丁寧な点検経験や勘に頼るだけでなく、マニュアルやチェックリストを活用して作業の標準化を図ることで、誰が担当しても一定以上の品質を保てる体制を築きます。人とのコミュニケーションから生まれる信頼関係クレーム対応や事前情報共有など、テナントとのやり取りを大切にすることで、安心感や満足度は大きく向上します。ビルメンとテナントが“顔の見える関係”を築くことが、長期的な良好関係を支える秘訣です。 こうしたすべての要素が組み合わさり、建物は長く使われ、多くの人々の生活やビジネスの場として機能し続けます。いわば、ビルメンテナンスは“裏方のプロフェッショナル”として社会を下支えする存在です。 「建物が何事もなく運用されている」という“当たり前”が、実は当たり前ではなく、ビルメンの努力によって成り立っている。だからこそ、利用者やオーナーからの「ありがとう」「助かったよ」の一言が、ビルメンたちにとっては何よりの励みになります。 これからもスマートビル化や環境配慮技術の発展によって、ビル管理の世界は新たな可能性を広げていくでしょう。しかし、その根底を支えているのは、今も昔も変わらず建物を愛し、人を大切に思うビルメンテナンスの方々の真摯な姿勢と誇りです。私たち利用者は、その存在に感謝と敬意を払いながら、快適なオフィスや商業空間をこれからも享受していきたいものですね。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム 飯野 仁 東京大学経済学部を卒業 日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。 年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。 2025年8月25日執筆2025年08月25日 -
プロパティマネジメント
もう悩まない! 賃貸管理ストレスを減少させる具体策とは?――築古オフィスビルオーナー向けコラム
皆さん、こんにちは。株式会社スペースライブラリの飯野です。この記事は「もう悩まない! 賃貸管理ストレスを減少させる具体策とは?」のタイトルで、2025年8月25日に執筆しています。少しでも、皆様のお役に立てる記事にできればと思います。どうぞよろしくお願い致します。 目次 【1. イントロダクション】 【2. 賃貸管理の“ストレス要因”の整理】【3. ストレスを減らすための具体策】 【4. 築古オフィスビルでも勝ち残るためのアイデア例】 【5. 専門家の適切な活用事例】【6. 将来展望とまとめ】【まとめ】 【1. イントロダクション】 1-1. オーナー視点の共感 築古オフィスビルのオーナーが直面する悩みは多岐にわたります。例えば、 「築年数が古いことで建物の外観が見劣りし、テナントが決まらない」「設備の老朽化により頻繁に修繕費用がかかる」「周囲の再開発や新築ビルの台頭で、競合環境が厳しくなった」「コミュニケーションコストが大きく、管理会社やテナントとのやりとりが負担」 こうした現実的な悩みが積み重なることで、オーナー自身のメンタル面への負荷が増し、物件運営が苦痛に感じられるケースも少なくありません。本コラムを読むことで、同じ悩みを抱える読者の方々が「自分の状況と似ている」「こうした改善方法があるのか」という気づきを得て、前向きに管理を進めるきっかけとなれば幸いです。 1-2. コラムの目的を明確化 ここでは大きく以下のポイントを取り上げ、ストレスを減らすための具体策を提示していきます。 ストレス要因の整理:まず、築古物件特有の課題やオフィスビルならではの問題点を整理する具体的なストレス軽減策:管理会社との連携方法や投資・リニューアルの考え方、ITツール活用などを解説事例紹介・インタビュー:実際に成功しているオーナーや専門家との連携事例を紹介長期的視点の重要性:将来的な市場動向や出口戦略など、視野を広げた運営方法付加的な要素:チェックリストや用語解説、問い合わせ誘導など、読者の行動を後押しする要素 まずは、どのようなストレス要因があるのかをきちんと把握するところから始めてみましょう。 【2. 賃貸管理の“ストレス要因”の整理】 築古オフィスビルのオーナーが感じるストレスの主な要因を大きく3つに分けて考えてみましょう。ここでしっかり問題点を分析することが、後ほど紹介する対策を効果的に実行するカギとなります。 2-1. 築古物件特有の課題 設備の老朽化や頻繁なメンテナンスへの対応エアコン・給排水・電気系統など、設備が古くなると不具合が起こりやすい臨時の修理費用が重なり、キャッシュフローを圧迫する交換部品の手が難しい場合、修理が長引くリスクもある見た目(外観や共用部)の古さによる空室リスク新築やリノベ済みビルと比較され、競争力が下がる内見時に古い印象を与えやすく、テナントから敬遠されやすい共用部の暗さや汚れが目立つと、建物全体へのマイナスイメージが強まる 2-2. オフィスビルならではの問題 周囲のビルの賃料相場が上昇しているのについていけない築古ビルは賃料を上げにくく、相場から取り残される傾向かといって賃料を低く据え置いたままだと収益性が上がらず、管理費用が嵩むため、収支悪化に拍車がかかるリーシングに苦労しがちで、空室期間が長期化オフィス需要が減少・盛り上がりに欠けるエリアでは、テナント誘致がそもそも難しい老朽化に伴うリノベ費用の発生を嫌い、築古物件を敬遠する借り手も少なくないテナントが入れ替わるたびに改装の手間が発生退去後の原状回復や間取り変更など、コストや労力がかかる次のテナントに合わせた内装工事を効率よく進めるリソースが不可欠オフィス需要の変化についていってるか不安大規模ビルや駅直結ビルに需要が流れる中、中小型ビルの戦略が見えない 2-3. オーナー自身の負担やメンタル面 管理会社やテナントとのコミュニケーションコスト問い合わせ対応やクレーム処理に追われ、時間や労力が奪われがち管理会社に委託していても、最終判断や報告確認はオーナーに求められる修繕費や投資費用に対するリターンの不安大規模な改修投資をしても、十分なテナント獲得に結びつかないリスク将来的にいつ売却や建て替えを考えるべきか、判断材料が揃わず悩みが深まる。 築古オフィスビルは、新築と比べると建物の状態や立地条件、オーナー自身の負担など多方面で複雑な問題が生じやすいのが特徴です。上述のような課題同士が絡み合うことで、管理ストレスがますます増大し、オーナーの精神的・時間的コストが膨れ上がってしまいます。では、こうしたストレスをどうやって軽減するか、次に具体的なアイデアを見ていきましょう。 【3. ストレスを減らすための具体策】 ここからは、主に以下の5つのアクションに分けてストレス軽減策を解説します。 プロパティマネジメント・管理会社との連携強化設備や内装へのリニューアル投資の優先度を整理収益改善の視点を取り入れるITツール導入による管理・コミュニケーションの効率化長期的視野での資産管理 3-1. プロパティマネジメント・管理会社との連携強化 定期的なミーティングでの情報共有がカギ管理会社やプロパティマネジメント会社をうまく活用することで、日々の細かな対応やリーシング活動のコストを減らせます。ただし、任せきりにするのではなく、オーナーも定期的な打ち合わせや情報共有を行い、双方の期待値をすり合わせることが重要です。毎月のミーティング物件の稼働状況や空室率、内見数、問い合わせ件数などを共有修繕計画やクレーム対応の進捗を確認し、費用予測を立てやすくするコミュニケーションツールの統一チャットツールやグループウェアを活用し、管理会社・オーナー・テナント間の連絡を効率化ミーティングであらためて共有しなくても、日々のやり取りが見える化できる委託範囲の明確化管理会社が担当する業務と、オーナーが判断すべき事項を事前に区分責任の所在が曖昧にならないよう、契約や業務分担を細かく規定 3-2. 設備や内装のリニューアル投資の優先度を整理 “やるべきこと”と“後回しでも良いこと”を線引きする築古物件をリニューアルする際、全てを一気に変えるのは予算的に難しい場合がほとんど。重要なのは優先度をつけ、費用対効果の高い部分から手をつけていくことです。基本設備の修繕・更新給排水・空調・電気など、テナントの業務に直結する設備は最優先不具合があるとクレーム増加や退去につながるため、計画的に投資外観・エントランスなど第一印象を左右する部分への投資共用部が古く暗いと、それだけで物件全体の魅力を下げる壁や床の更新、照明の明るさ調整など、見た目の改善効果は大きい個別対応が必要な内装・仕様変更テナントの業態や規模によって求める仕様は異なるある程度の柔軟性を持たせて、最小限の変更工事で対応できるような間取りを検討 3-3. 収益改善の視点を取り入れる 空室リスクを下げる工夫とビル全体の印象を高める空間構成の実現コスト削減だけでなく、収益面の改善策を取り入れることでキャッシュフローの安定化を図り、オーナーの不安を減らすことができます。小規模オフィス需要への対応近年ではスタートアップやリモートワーク併用企業など、小規模区画への需要が増加大型区画を小割にするリノベーションが、結果的に稼働率アップにつながる事例も見られるビル全体の印象を高める空間構成エントランスや廊下、エレベーターホールなど共用部のデザインを一貫性のあるイメージにリニューアルし、ビル全体の雰囲気を向上テナントや来訪者への印象を一新し、付加価値向上につなげていく戦略オフィス機能に必要最低限の設備(セキュリティ関連)を整えつつ、カフェやラウンジなど大規模な共用施設を設けることなく差別化を図ることが可能 3-4. ITツール導入による管理・コミュニケーションの効率化 デジタル化がオーナーの負担を大幅に軽減する賃貸管理や契約更新、クレーム対応など、日々の業務をデジタルツールで一元化することで、情報の錯綜や連絡ミスを防げます。オンライン管理システムの活用契約書、支払履歴、修繕履歴などをクラウド上で管理いつでも必要な情報にアクセス可能な環境請求の電子化家賃や共益費の請求・入金確認を電子化して、郵送費用を削減しつつDX化を推進 3-5. 長期的視野での資産管理 築古でも“持続可能なビル運営”が鍵になる防災性・耐震性の強化大地震や災害に備えた構造補強は、安全面だけでなくテナント誘致の観点からも重要出口戦略やサブリース活用将来的に建て替えや売却を視野に入れる場合、どのタイミングが最適かを検討サブリース契約による空室リスクの低減も検討課題。定期的なメンテナンス計画の立案“緊急対応”ではなく“予防的なメンテナンス”にシフトすることで、長期的なコストを制御し、抑制専門性の高い管理会社と連携し、5年・10年先を見据えた修繕計画を作成 3-6. ミドルエイジクライシスや健康リスクを踏まえた視点 物件管理のストレスは、オーナー自身のライフステージによっても増減します。特に50代後半~60代前後のオーナーの場合、ミドルエイジクライシスや健康リスクへの不安が重なり、“これからの人生どうするか”という視点で物件運営を考えるケースが少なくありません。 1. 管理負担を軽減する仕組みづくりと健康面を関連づける管理業務のストレスが、生活習慣病やメンタル不調のリスクを高めている可能性はないか? 日々のクレーム対応や、予期せぬ修繕費用の発生に精神的に疲弊し、生活リズムが乱れてしまうことが多い。睡眠不足や運動不足が重なると、体調を崩しやすくなるだけでなく、冷静な意思決定を妨げる要因にもなり得る。“ダブルチェック”のイメージで健康診断と物件点検をセットに 「年1回の健康診断を受けるタイミングに合わせ、管理会社と定例ミーティングを実施し、ビルの状態も総点検する」というスケジュールを組む。こうした仕組みづくりにより、オーナー自身の健康面と物件の健全度を同時にケアでき、長期的なトラブル予防に役立つ。 2. 実体験・エピソード:健康不安をきっかけに管理会社との協力体制を見直したオーナーの事例「築古ビルを20年以上所有してきたオーナーXさんは、60歳の節目に健康診断で生活習慣病予備軍と診断されました。 当初は“もう若くないし、投資よりも身を守ることが先”という消極的な気持ちもあったそうですが、医師からのアドバイスでストレスを軽減し、生活リズムを整える重要性を痛感。 そこで『毎日の雑務を少しでも減らせないか』と管理会社と再度話し合い、以下の施策を実行しました。 クラウド管理システムを導入し、家賃・契約情報を一元化問い合わせ窓口を一本化し、オーナーへの連絡回数を絞る決裁フローを明確化して、オーナーが休日にまで追われない仕組みづくり 結果として、オーナーXさんの作業負担は大幅に減少。ストレス要因が少なくなったことで、定期的にウォーキングをする余裕も生まれました。ほどなくして体調面の改善兆候が見られ、物件管理への意欲も回復。管理の質も安定し、テナントからのクレーム対応スピードが上がったことにより、空室リスクも低下したそうです。」 ミドルエイジ・クライシスからの新しいチャレンジ 「オーナーYさん(当時59歳)は、築古ビルを相続後、数年かけて管理に携わってきました。しかし、60歳を目前にして『今さら大きな投資をするのは怖い』と感じ、なかなか踏み出せずにいたそうです。ところが、“人生100年時代”という考え方に触発され、思い切ってリノベーションに踏み切ることを決意。設備投資は最小限に抑えつつも、ユニークな内装デザインなど建物全体のイメージ刷新を重視する戦略を採用したところ、既存のテナントからも好評を博し、内見に訪れた新たな企業にも高い評価を得ることができました。Yさん自身も、これまでとは違う“華やいだ空気”を感じるようになり、心境の変化から前向きに物件管理へ取り組めるようになったといいます。結果として空室率は大幅に改善し、見込み客が増えたことで賃料交渉の条件も強気に設定できる環境が整いました。『悩んでいた頃の自分には想像できなかった未来が開けた』と語るYさんは、今では新しい活用アイデアに挑戦する意欲も高まっているとのことです。」**このような実体験を交えることで、賃貸管理が単なるビジネス視点だけでなく、オーナーのライフステージや健康状況といった要素と深く結びついていることを示しやすくなります。最終的には、次世代への資産継承やセカンドライフ設計など、人生全体を視野に入れた管理戦略へ発展しやすい点が大きなメリットです。 【4. 築古オフィスビルでも勝ち残るためのアイデア例】 築古ビルのリノベーション提案──“レトロ”と“モダン”を融合したバリューアップ1. テナントの職種や働き方の変化に合わせた内装改修多様な働き方を望むテナントを想定した設計スタートアップやクリエイティブ系企業のみならず、大手企業のサテライトオフィスや部門単位の入居にも対応できるよう、区画の大きさやレイアウトを柔軟にアレンジできるプランを用意します。新旧のバランスを巧みに演出電源やインターネット配線など、基礎的なインフラ整備は現代基準でしっかり行う内装や天井、壁面などには築古ビルのレトロな味わいを部分的に残し、トレンドのデザインテイストを上手に組み合わせることで、ユニークな空間を演出 2. 共用部をデザイン性の高い空間にアップデート物件の“顔”としてのエントランスや廊下、エレベーターホール統一感のあるデザインやコンセプトを設定し、レトロテイストをベースにモダンアートのエッセンスを加えて、古さの中にも新しさを感じさせる雰囲気を創出アクセント照明やサイン計画を見直し、来訪者にとって分かりやすく、かつ印象に残る導線を確保レトロタイルやレンガを再利用した“温かみ”の演出既存の建材を活かしつつ、モダンなカラーリングや小物、ディスプレイを加えることで、昔ながらの趣と洗練されたイメージを両立「使い古されている」からこそ出せるアンティーク感や独特の風合いが、ビル全体の記憶やストーリーを引き立てるファサード(外観)との一貫性を大切に外壁の素材感やカラーリングを、共用部の内装とトーンを揃えることで、“トータルデザイン”を演出建物の内と外が連動したコンセプトを形づくることで、テナントや来訪者の“特別感”を一段と高め、賃料アップや空室率改善にもつながる 3. “レトロ感”をブランディングに活かす歴史ある素材や構造を“個性”として打ち出すコンクリート打ちっぱなしの壁、高天井、レトロな階段など、築古物件にしかない要素を魅力的なアクセントとして活用築古ビルだからこそ作り出せる「ノスタルジック&クリエイティブ」な空間が、ブランドイメージを重視する企業にとって大きな魅力となる 築古ビルのリノベーションには、老朽化した設備の更新やデザイン刷新という基本的な課題に加えて、“レトロ感”を魅力に変えるという大きなチャンスが潜んでいます。働き方の変化に合った柔軟な区画設計共用部のデザインアップデートによる物件全体のブランディングレトロな素材・空間を敢えて残し、SNS時代に映える“個性”を演出これらを総合的に取り入れることで、古いビルがただの「古さ」ではなく、「現代にない味わい」を体現する差別化要素へと変わり、賃料アップや空室率改善へ導く大きな可能性を持ちます。築古ビルのオーナーにとって、こうしたリノベーション戦略は資産価値の向上だけでなく、テナント満足度や運営のモチベーションを高めるうえでも有効なアプローチとなるでしょう。 【5. 専門家の適切な活用事例】 オーナーが自力ですべてを対応しようとすると、空室対策・リノベーション計画・費用管理・テナント交渉など、多岐にわたる業務がのしかかり、精神的負担と時間的コストが増大してしまいます。しかし、専門家、プロパティマネジメントに強い管理会社の知見を借りれば、的確な戦略立案と実行が可能になり、結果的にオーナーのストレスは大きく軽減されます。 5-1. 専門家との連携で解消できる悩み プロパティマネジメントに強い管理会社は、たんなるビル管理だけではなく、ビルの付加価値を維持・増大させるために必要なリーシング(テナント誘致)にも精通しています。また、リノベーションに関するノウハウも豊富で、バリューアップのための戦略立案から実行までトータルでサポートできるのが大きな特徴です。 1. リーシング(テナント誘致)にも精通している会社との協業同じビルであっても、仲介力や契約交渉力には大きな差が出る地元の事情や対象となるテナント層のニーズを的確に把握している会社を選ぶことが重要周辺相場や競合の動向にあわせた適切な賃料設定や募集活動を行い、空室期間の短縮を図る2. リノベーションに知見を持っている会社によるデザイン提案・コスト管理建物の老朽部分やデザインの刷新が必要な箇所を見極め、投資効果が高いリノベーションを提案建築士やデザイナーと連携し、テナントが重視するポイント(エントランスの印象・照明・動線など)を的確に押さえた計画を立案無駄な投資を避けつつも、物件の魅力を最大化するリノベーションを実行し、物件価値を継続的に向上させる 5-2. 成功したオーナー事例のミニインタビュー 以下は、築古オフィスビルを所有するオーナーDさんが、プロパティマネジメントに強い管理会社を活用することで空室問題や管理ストレスを解消した事例です。 オーナーDさん(築35年オフィスビル保有)へのインタビューQ: 長くテナントが決まらないフロアがあり、管理会社を変えるかどうか迷っていたとお聞きしましたが、実際はどのような方法を取りましたか?A: はい、当初は「管理会社を変えれば解決するだろう」と安易に考えていました。ですが、いざ調べてみると、単に不動産管理をしている会社と、総合的に付加価値を高めるプロパティマネジメント(PM)を提供する会社は必ずしも同じではないと気づいたんです。そこで、従来から付き合いのある仲介専門の会社にはリーシング面を引き続き任せながら、より戦略的にビルのバリューアップを提案してくれるPM会社に相談することにしました。結果的に、仲介会社の方も驚くほど反響が増え, 空室はほぼ解消しました。Q: リノベーションコストや投資についても、専門家を活用されたそうですね?A: そうですね。築35年の建物なので、設備や内装がかなり老朽化していました。建築士やリノベーション会社に相談すると、「照明の更新やエントランスのデザイン変更だけでもガラッと印象が変わる」とアドバイスを受けまして。実際にエントランスの照明・内装を明るくリニューアルしてみたところ、見学に来た企業からの評価が見違えるほど良くなったんです。専門家の視点がなかったら、あれもこれも一気に改修してしまい、必要以上にコストをかける恐れがあったので助かりました。Q: オーナー自身のストレスは軽減されましたか?A: 大幅に減りました。 それまでは「自分が全て決めなければいけない」と思い込み、やることも不安も山積みでした。でも、今は専門家や管理会社とチームを組む形になったので、必要な情報や提案が向こうから上がってきますし、定期ミーティングで確認だけすれば十分なのです。日常的なやり取りも少なくて済むようになり、物件管理に追われるストレスから解放されましたね。 【6. 将来展望とまとめ】 6-1. これからの賃貸オフィス市場動向 大手仲介会社のレポートを見ると、大規模ビルの需要動向ばかりが強調されがちですが、中小規模のオフィスビルには中小企業やスタートアップなど特定のニーズが存在します。また、リモートワークが進んでも、完全にオフィスが不要になるわけではなく、社員が集まる拠点としての役割は残るはずです。 中型ビルに対する中小企業の需要大規模ビルの高額な賃料を負担できない企業がターゲットになる郊外や地方都市でも、利便性やコストパフォーマンスが良ければ需要は見込める必要最低限のリニューアルや設備投資を行えば、築古でも競合力を維持できる 6-2. オーナーが取るべきアクションアイテム 定期的なメンテナンスと改修のバランス大きな修繕だけでなく、小さな問題を早めに対処し、後々の高額コストを回避オーナー自身が管理負担を軽くする仕組みづくり管理会社との連携、ITツール活用などで日常的な負荷を低減長期的な運営戦略や出口戦略の重要性将来の市場動向を把握しつつ、建て替え・売却・リノベ再投資など複数の選択肢を常に検討 築古だからこそ大きな可能性が潜んでいます。古い建物には、新築にはない独特の風合いや魅力があり、リノベーションや再活用の工夫次第で差別化しやすいのも事実です。また、管理負担や先行きの不安を軽減する手段は確立されており、ここで紹介した実例や専門家との連携方法を取り入れることで、ストレスを減らしながら収益性や資産価値を高めていくことが十分可能です。 【まとめ】 築古オフィスビルのオーナーにとって、賃貸管理は新築物件に比べて一筋縄ではいかない課題が多いのも事実です。しかし、その一方で、古さを活かしたバリューアップリノベや共用スペースのコミュニティ活用など、独自性で勝負できる余地が大きいとも言えます。本コラムで取り上げたポイントを要約すると、以下のようになります。問題点の整理:築古特有の課題、オフィスビルならではの課題、オーナーの負担ストレス軽減策:管理会社との連携強化、リニューアル投資の優先度づけ、ITツール導入などバリューアップ事例:レトロ感を活かすリノベやコワーキングスペースへの転用専門家の活用:リーシング・リノベーション・プロパティマネジメントなど築古だからといって悲観するのではなく、むしろ“古さ”を再価値化するアプローチや、専門家の力を借りる方法があります。何より大切なのは、オーナー自身が「ストレスを溜めずに運営できる仕組み」を構築することです。今後も市場動向は変化していきますが、中小企業やスタートアップ企業にとっては、大規模ビルにない魅力やコストメリットを持つ中型・小型ビルのニーズが確実に存在します。柔軟な発想と計画的な投資、そして適切な専門家との連携を行えば、築古オフィスビルであっても十分に収益を生み出し、資産価値を維持・向上させることが可能なのです。最後に: オーナーの皆さまには、ぜひ本コラムのアイデアや事例を参考に、ご自身のビル運営を客観的に見直していただければと思います。一歩踏み出すことで、これまで悩みの種だった築古ビルが、個性的で魅力あふれる物件へと生まれ変わる可能性を秘めています。「もう悩まない!」と言える日が来るよう、ぜひ前向きに取り組んでみてください。本コラムが、築古オフィスビルをお持ちのオーナーの皆さまにとって、少しでもストレスを減らし、前向きに物件を運営するヒントになれば幸いです。実践的な方法から一歩踏み込んだ戦略まで、できるところから取り入れてみてください。もし具体的なご相談や質問がありましたら、ぜひ、当社を含めた、プロパティマネジメントに強い管理会社にご相談いただければよろしいかと思います。皆さまがストレスを減らし、築古オフィスビルの潜在力を最大限に引き出せるよう応援しております。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム 飯野 仁 東京大学経済学部を卒業 日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。 年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。 2025年8月25日執筆2025年08月25日 -
ビルリノベーション
オフィスをリノベーションする際に検討すべきポイント6点
皆さんこんにちは。株式会社スペースライブラリの鶴谷です。この記事はオフィスをリノベーションする際に検討すべきポイントについてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思っています。どうぞよろしくお願い致します。 近年、日本のオフィス需要は多様化の一途をたどっています。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、テレワークやハイブリッドワークが普及し、多くの企業が「働く場所」そのものを見直す動きが活発化しました。一方で、オフィスビルのオーナーや管理会社にとって、オフィス空室率の上昇は深刻な問題です。特に築年数の経ったビルでは、競合物件と比較して設備が古く、内装も時代遅れに感じられてしまい、テナント候補から敬遠されがちです。 そうした課題に対する解決策の一つが「リノベーション(改修)」です。オフィスビルの印象を一新し、設備やデザインをアップデートすれば、入居率の向上や家賃アップにもつながる可能性があります。本稿では、ビルオーナーやプロパティマネジャーに向けて、オフィスをリノベーションする際に特に検討しておきたい6つのポイントを詳しく解説します。 目次1. ビルの印象を左右する「動線計画(平面図の活用)」2. トイレの内装・衛生陶器のデザイン性3. エントランスホール・エレベーターホールの演出4. セキュリティ5. リノベ設計・PM・BMに強いリノベーション会社の選定6. 費用・収入・延払い・融資まとめ 1. ビルの印象を左右する「動線計画(平面図の活用)」 1-1. 動線計画が重要な理由 オフィスビルの空室対策を考えるうえで、まず初めに着目したいのが「動線計画」です。動線は、利用者がどのようにビル内を移動するかを左右するものであり、オフィスの快適性やプライバシー確保の度合いを大きく左右します。たとえ内装や設備を最新にアップグレードしても、使い勝手の悪い動線や不快感を与えるレイアウトでは、入居テナントから十分な評価が得られない場合があります。 1-2. 竣工図面の読み込みとチェックポイント 既存の建物には「竣工図面」や「管理図面」が存在することが多いです。リノベーションをする際には、まずそれらをもとにして現状の間取りや配管経路、柱や梁の位置などを正確に把握する必要があります。具体的なチェックポイントとしては、以下が挙げられます。 1. エレベーターホールとトイレ・給湯室の位置関係 エレベーターホールからトイレへ向かう動線が執務エリアから分離されているか。エレベーターホールからトイレの扉が直接見えないか。 2. 廊下の幅や扉の位置 ユニバーサルデザインに配慮し、車椅子や台車が通りやすい幅があるか。避難経路として十分な幅と安全性が確保されているか。 3. 配管・配線ルート トイレや給湯室を移動する場合、上下階の配管経路との整合性が取れるか。空調や電気配線を変更する際の工事範囲はどの程度か。 1-3. トイレが執務室から直接入る形式の問題点 既存のビルでは、かつての設計思想から「執務室から直接トイレに入る」形式が採用されているケースがあります。この形式には以下のようなデメリットが存在します。 音や気配が執務スペースに伝わりやすいトイレの使用状況が周囲にわかりやすい衛生面への不安感が高まりやすい こうした問題を解消するためには、廊下を新設または再配置して、トイレへのアプローチを執務スペースから切り離すリノベーションが有効です。 1-4. トイレの扉がエレベータホールから見える場合の対処 エレベーターホールからトイレの扉が丸見えになっていると、エレベーターを待つ人がトイレの出入りを目撃してしまい、利用者がプライバシーを確保しづらくなり、来訪者も不快に思ってしまうといった問題があります。扉を別の位置に移動したり、間仕切り壁を設置したり、あるいは目隠し用のスクリーンを設置したりすることで、ビル全体の雰囲気を損なわずにプライバシーを確保することができます。 1-5. 動線計画の重要性とコストメリット 動線計画を最適化するには、壁の新設や扉の移動に伴う工事費が発生しますが、そこに投資する価値は高いです。動線が改善されることで、テナントの満足度や入居率が上がり、長期的には家賃増収や空室リスクの低減が期待できます。投資コストとリターンを比較検討し、「本当に必要な改修は何か」を考えることが重要です。 2. トイレの内装・衛生陶器のデザイン性 2-1. トイレがオフィスビルの価値を左右する理由 トイレは来訪者や従業員が必ず利用する場所であると同時に、清潔感と快適性が求められる空間です。オフィスビルを選ぶ際、テナントは執務スペースだけでなく、水回りの状態を重視するケースが多々あります。とりわけ築年数の古いビルでは、トイレ設備が古くて狭い、デザインが時代遅れである、清掃が行き届いていない、といったイメージを抱かれやすくなります。 2-2. トイレに求められる機能とデザイン トイレは、単に用を足す場所ではなく「リフレッシュスペース」としての役割も果たします。たとえば洗面台周りに間接照明を設置したり、壁面にアートや植物を配置したりすることで、トイレを落ち着いた雰囲気に演出することが可能です。男子と女子を分けるのはもちろん、女子トイレの洗面台鏡を大きくし小物を置けるようにしたり男子トイレには小便器を設けることは、スペースの許す限り行うべきでしょう。また、以下のような機能とデザインを備えると、さらにテナント満足度が向上します。 自動洗浄機能やウォシュレット機能自動便座開閉機能洗面カウンターの広さと使いやすさセンサー付きの蛇口や照明抗菌・防臭性の高い仕上げ材明るい色合いとスタイリッシュな衛生陶器の採用 2-3. 上品かつ格調高いデザインの重要性 高級ホテルのような雰囲気を目指すオフィスビルも増えています。特に都心部やブランドイメージを重視する企業が多いエリアでは、トイレや給湯室が「ビルのステータス」を示す指標として捉えられることも珍しくありません。デザイン性の高い衛生陶器やタイル、間接照明を組み合わせることで、「このビルに入居するのは快適である」と感じさせることができます。テナントが内覧した際、最終的に「ここに決めたい」と思ってもらえるかどうかは、トイレ・給湯室のインパクトが影響を及ぼすケースも多いのです。 2-4. デザイン性のないトイレがもたらすデメリット もしデザイン性のない器具を導入してしまった場合、せっかく執務スペースを最新仕様に改修していても、テナントからは「設備が古臭いビルだ」というイメージをもたれがちです。特に若い世代の従業員が多い企業では、SNSの発達により職場環境が話題になることも珍しくありません。トイレがおしゃれで快適なスペースであることは、企業ブランドの向上や社員のモチベーションアップにもつながります。(トイレは共用部なのでオーナー様が設えるべき部分になります。) 2-5. 実例:照明演出によるトイレ改修の効果 あるビルオーナーが行った実例では、築30年のビルで老朽化したトイレを全面改修し、照明計画に力を入れました。洗面カウンターに間接照明を取り入れ、鏡面の裏側にLEDを仕込むことで、利用者の顔をほのかに照らす工夫を施しました。結果として、女性スタッフの多い企業から高い評価を得て、空室が一気に解消したケースもあります。このように、トイレの印象アップが意外なほど大きなリターンにつながることもあるのです。 3. エントランスホール・エレベーターホールの演出 3-1. 「ビルの顔」を演出する重要性 エントランスは、ビル全体の第一印象を決定づける「顔」のような存在です。来訪者が初めてビルに足を踏み入れる際、エントランスが洗練されていれば「このビルはきちんと管理されている」「ここで働くのは気持ちが良さそうだ」というポジティブな印象を持ちます。逆に暗くて狭いエントランスや、老朽化が目立つエレベーターホールでは、魅力を感じてもらえず、テナント候補に敬遠されがちです。 3-2. 空間デザインのポイント エントランスホールやエレベーターホールのリノベーションには、多くの場合で以下の要素が検討されます。 1. 広さと解放感 無駄な壁や柱がないか。少し広めにスペースを確保できる余地があるか。 2. 素材選び 床や壁の仕上げ材に高品質・耐久性のある素材を使う。大理石や御影石、セラミックタイル、漆喰など、グレードアップしやすい素材を検討。 3. 照明計画 明るさだけでなく、演出照明を配置して空間に奥行きや高級感を与える。LEDダウンライトや間接照明を用いるなど、照明のバリエーションを増やす。 4. カラーコーディネート ビルのコンセプトカラーを設定し、壁や床、サインに統一感を持たせる。テナントや来訪者の嗜好を踏まえた、落ち着いたカラーリングあるいはガラスや白い壁で透明感のある空間にする。 3-3. 家賃収入とのバランス エントランスやエレベーターホールがリニューアルされ、外観・内観のクオリティが高まれば、結果として家賃の引き上げや空室率の低下が期待できます。どの程度コストをかけるかは、改修後の家賃収入や投資回収期間とのバランスで決めることが大切です。例えば、フルリノベーションに1億円かかる場合でも、その後の家賃収入が年間で2,000万円増加する見込みがあれば、5年程度で回収できる計算になります。もちろん家賃が上がるだけでなく、稼働率が上がればトータルの家賃収入は増加します。また、次回の修繕あるいはリノベーションはいついくらを予定しておくか。こうしたシミュレーションを行い、投資リスクとリターンを比較して判断しましょう。 3-4. 実例:エントランスに貸会議室を設置 あるビルでは、エントランスホールの一部に貸会議室を設置し、テナントがWEBで予約して気軽に利用できるようにしています。場合によって、ラウンジや待合室を作ることも可能でしょう。このように、エントランスの活用法を工夫することで、単なる通路を超えた「魅力的な交流空間」として機能させることも可能です。 4. セキュリティ 4-1. オフィスビルにおけるセキュリティの重要性 オフィスビルでは、企業の機密情報や高価な設備が保管されているケースが多く、セキュリティのニーズは年々高まっています。特に個人情報保護の観点から、従来の鍵やICカードだけでは対応が難しい場面も増えてきました。安全かつスムーズな入退室管理を実現し、テナントに安心して利用してもらうために、セキュリティシステムを最新化することは非常に有効です。 4-2. 非接触の「顔認証」システム 最近では、非接触で入退室を管理できる「顔認証」システムへの関心が高まっています。ICカードによる入退室には、紛失や盗難、カードの複製リスクといった問題がありました。一方、顔認証は顔の特徴をデータ化して照合する仕組みのため、他人が不正に使用するリスクが低く、ウォークスルーで入退室できる利便性も兼ね備えています。 4-3. セキュリティ導入のコストとメリット 顔認証を含む高度なセキュリティシステムを導入する場合、初期投資はどうしても高額になります。しかし、以下のメリットによって、長期的には十分な投資効果が得られる可能性があります。 テナント企業からの信頼度が向上不正侵入や盗難リスクの大幅低減ビル全体の管理コスト削減(受付人員の削減など)家賃アップにつながる付加価値の提供 テナントにとってはセキュリティの高さが企業イメージに直結することもあり、「セキュリティがしっかりしているビルに入りたい」というニーズは年々強まっています。 4-4. 他のセキュリティ手段との比較 セキュリティゲートやセキュリティカメラ、警備会社との連携など、顔認証以外のシステムも含めて総合的に検討すると良いでしょう。顔認証は便利ですが、初期費用が高いなどのデメリットもあります。複数の業者の見積もりを比較し、ビル全体の規模や利用状況に合ったシステムを導入することが望ましいです。 5. リノベ設計・PM・BMに強いリノベーション会社の選定 5-1. リノベ設計の重要性 リノベーションにおいて設計は、単に「図面を起こす」だけではありません。市場ニーズを見極め、テナントが望む機能やデザインを盛り込みながら、ビル全体の価値を最大化するための企画をすることが設計者の重要な役割となります。古いビルにとっては構造上の制限や法令遵守など、考慮すべき事項が多岐にわたるため、経験豊富な設計会社をパートナーに選ぶことが成功のカギとなります。 5-2. “目利き”力のある設計会社とは “目利き”力のある設計会社は、以下のような特長を持ちます。 1. 市場やトレンドの理解が深い エリアの賃料相場を把握し、ターゲットとなるテナント層を分析できる。最新のオフィスデザインの傾向をキャッチアップしている。 2. 柔軟な発想と実現力 古いビルの構造的な制約を踏まえつつ、最適なプランを提案できる。各種法規制(建築基準法や消防法など)を遵守しながら、魅力的な設計を実現できる。 3. コミュニケーション能力 オーナーやPMとの打ち合わせで、要望を的確に理解し、図面や資料でわかりやすく提示する。工事会社や設備業者との連携をスムーズに行い、トラブルを未然に防ぐ。 5-3. PM(プロパティマネジメント)の実績 PMは、不動産の経営管理全般を担う業務です。テナントの募集や契約管理、施設維持管理、収支の管理などを行い、ビルオーナーに代わって建物の価値最大化を目指します。PMの実績が豊富な会社は、以下の点でリノベーション設計において優位性があります。 テナント目線の設計提案が可能周辺市場や競合物件の情報をリアルタイムに収集適正賃料設定や収支計画の作成が得意 5-4. BM(ビルメンテナンス)の蓄積 BM(ビルメンテナンス)を日常的に行う会社は、建物の不具合やテナントからのクレーム内容に精通しています。エアコンの故障や水漏れ、トイレのトラブルなど、建物の弱点を把握しているため、リノベーションで改善すべきポイントを具体的に提案できます。BMの経験が豊富だと、竣工後のメンテナンスのしやすさも考慮した設計が可能になります。 5-5. 会社選定のポイント リノベーション会社を選ぶ際は、以下のような観点で比較検討すると良いでしょう。 1. 業務範囲の明確さ 設計・施工・PM・BMすべてを包括的に行う会社か、それぞれ別なのか。 2. 実績の有無 似たような規模や築年数のオフィスビルでのリノベ実績があるか。具体的な事例写真やビフォーアフターの紹介があるか。 3. 費用と納期の妥当性 相見積もりを行い、コストやスケジュールの面で比較する。 4. アフターサポート リノベーション後の不具合に対する保証内容やメンテナンス対応の体制はどうか。 6. 費用・収入・延払い・融資 6-1. リノベーション費用と家賃収入のシミュレーション リノベーションを検討する際、まずは「どの部分をどの程度改修するか」によって費用が大きく変わります。たとえば「トイレだけ改修する」「エントランスだけ改修する」などポイント改修を選ぶ場合と、「動線計画からファサードまでフルリノベーションする」場合では、費用と期待される収益増加の幅が全く異なります。費用と収入がどのように変化するか、複数パターンのシミュレーションを行い、投資回収期間をイメージすることが大切です。 例1:最小限の改修 改修内容: トイレの内装・衛生陶器の交換のみ想定費用: 1フロアあたり数百万円程度期待効果: 清潔感の向上、小幅の家賃アップまたは空室率改善 例2:部分的なリノベーション 改修内容: トイレの位置変更(動線改善)+エントランスの内装リニューアル想定費用: 1フロア+共用部で数千万円規模期待効果: 空室率改善、家賃アップ、ビルブランドイメージの向上 例3:フルリノベーション 改修内容: 外装ファサードの変更、動線計画の抜本的見直し、エントランス・エレベーターホール・トイレ・執務室の全面改修想定費用: 1億円以上の大規模投資期待効果: 大幅な空室率改善、家賃大幅アップ、ビルの資産価値向上また、リノベーションは単なる「修繕」ではないため減価償却することができ、耐用年数に渡って税負担を軽減することが可能となります。 6-2. 延払いの可能性 近年、リノベーション費用の負担を和らげる手段として「延払い」を取り入れる事例が増えています。これは工事費を一括で支払うのではなく、一定期間に分割して支払う仕組みです。キャッシュフローが厳しいオーナーでも、大規模リノベーションに踏み切りやすいメリットがあります。 延払いのメリット 大きな初期費用負担を避けられるリノベーション効果による家賃収入増を工事費に回せる 延払いのデメリット 長期にわたる支払い負担金利や手数料が発生する場合がある 6-3. 金融機関からの融資 リノベーション費用を金融機関の融資で賄う方法も一般的です。築年数やビルの担保価値、オーナー自身の信用状況などに応じて融資額や金利が決定されます。リノベーションによってビルの価値が向上し、空室率が低下する見込みがあると判断されれば、比較的有利な条件で融資を受けられる可能性があります。 6-4. 会社によるサポート体制 リノベーション会社の中には、金融機関を紹介してくれたり、金融機関との交渉や融資の相談に同行してくれるところもあります。特にPM・BM実績がある会社は、銀行からの信用も高い場合が多く、融資条件の交渉において心強い存在となるでしょう。自己資金を温存したい場合や資金繰りに不安を感じる場合には、こうしたサポート体制を備えた会社を選択することが大切です。 まとめ オフィスビルのリノベーションは、単に「建物を新しく見せる」だけでなく、「テナントが働きやすく、入居したくなる空間」を作るための投資です。ポイントとしては以下の6つが特に重要でした。 1. 平面図(動線計画)の見直し トイレの配置、動線分離の工夫、プライバシー確保 2. トイレの内装・衛生陶器のデザイン性 清潔感+デザイン性で企業の満足度とブランドイメージを向上 3. エントランスホール・エレベーターホール 「ビルの顔」としての演出で第一印象を大きく変える部分改修からフルリノベまで、コストと効果をバランスよく検討 4. セキュリティ 非接触型の「顔認証」など最新システムによる安心感の提供コストと利便性を比較して最適な導入方法を選択 5. リノベ設計・PM・BMに強い会社の選定 “目利き”力のある設計会社を選び、市場ニーズを的確に反映PM・BM実績が豊富なパートナーによる総合的な建物価値向上 6. 費用・収入・延払い・融資 シミュレーションで投資回収期間を算出延払い・融資など多様な資金調達手段を活用し、自己資金負担を軽減 リノベーションの成功は「適切な目標設定」と「信頼できるパートナー選び」から最後に、リノベーションを成功に導くためには、明確な目的とターゲット設定が欠かせません。「空室率を何%まで下げたいのか」「どんな企業に入居してほしいのか」「家賃単価をどこまで上げたいのか」などを具体化し、その目標を達成するために必要な改修内容を逆算しながら計画を立てましょう。また、信頼できるパートナー—特に、設計・施工だけでなく、PM・BMの実績を兼ね備えたリノベーション会社との協力は、成功の大きな鍵となります。これらのポイントを踏まえ、オフィスビルのリノベーションを進めれば、築年数が古くても「魅力的で価値の高いビル」に再生できる可能性は十分にあります。企業が「働く場所」にこだわりを持つ現代だからこそ、ビルオーナーにとってリノベーションは、収益改善だけでなく、地域活性化や働く人々のワークライフクオリティ向上にも寄与する意義ある投資だといえるでしょう。テナントから「ここで働きたい」「ここに来るのが楽しみだ」と思われるオフィス環境づくりを目指し、最適なリノベーション計画を検討してみてください。以上が、オフィスビルをリノベーションする際に検討すべき主なポイントです。それぞれの項目が連動し合いながら、最終的にはビルの総合的な価値向上、そして安定した収益につながっていきます。時代の変化に合わせて、オフィスとしての在り方を絶えずアップデートしていくことが、これからのビル経営ではますます重要になるでしょう。ぜひ本稿の内容を参考に、リノベーションによるオフィス価値の最大化に取り組んでいただければ幸いです。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ 設計チーム 鶴谷 嘉平 1994年東京大学建築学科を卒業。同大学大学院にて集合住宅の再生に関する研究を行いました。 一級建築士として、集合住宅、オフィス、保育園、結婚式場などの設計に携わってきました。 2024年に当社に入社し、オフィスのリノベーション設計や、開発・設計(オフィス・マンション)を行っています。 2025年8月25日執筆2025年08月25日 -
ビルメンテナンス
【完全版】オフィスビルのBM管理会社の選び方と賢い活用ポイントガイド
皆さん、こんにちは。株式会社スペースライブラリの飯野です。この記事は「【完全版】オフィスビルのBM管理会社の選び方と賢い活用ポイントガイド」のタイトルで、2025年8月25日に執筆しています。少しでも、皆様のお役に立てる記事にできればと思います。どうぞよろしくお願い致します。 目次はじめに1. オフィスビルにおけるBMの重要性1-1. テナント企業が安心して働ける環境づくり1-2. 資産価値と競争力の維持・向上2. BMがカバーする主な業務領域2-1. 設備管理・保守点検2-2. 清掃・衛生管理2-3. セキュリティ・防犯体制2-4. トラブル・クレーム対応3. 管理会社選定の基本ポイント3-1. オフィスビル特化の実績・ノウハウ 3-2. コスト構造とサービス範囲の透明性3-3. 担当者の専門性とコミュニケーション力3-4. トラブル・緊急時対応 3-5. 最新技術やデジタルツールへの対応4. 清掃業務:バランスよく注力するポイント4-1. 清掃スケジュールの策定4-2. 水回り・共用部の清掃品質4-3. 清掃スタッフの管理と情報共有4-4. コストとクオリティのバランス5. 知っておきたい営繕(修繕業務)の最適化アプローチ5-1. すべて外部委託する場合5-2. 一部内製化する場合5-3. 最適化の考え方6. BMをより効果的に活用するための6つのヒント (1) オーナーの運営方針を管理会社と共有(2) 定期的な打ち合わせと報告確認(3) 設備更新のタイミングを見極める(4) 清掃の質を上げて印象アップ(5) トラブル対応フローの周知(6) デジタルツールを活用7. トラブル事例から見るBMの実際 7-1. エレベーター停止トラブル7-2. 給排水の水漏れ 7-3. セキュリティの不審者侵入7-4. 外部ガラス面の汚れ・落下物リスクの安全確認 8. よくある質問(BMに関するFAQ)Q1. 大手管理会社と中小管理会社、どちらがBMに向いている?Q2. 24時間対応は絶対に必要でしょうか?Q3. BM担当者が変わるたびに、トラブルが繰り返されるのでは?9. 当社サービス紹介10. 今後の展望:オフィスビルのBMはどこへ向かうのか11. まとめ:バランス感覚がカギとなるBM運用おわりに はじめに 現代の働き方が多様化する中で、賃貸オフィスビルの運営スタイルにも大きな変革が求められています。かつては「とりあえず都心のオフィスへ出社」という形が一般的でしたが、在宅勤務の普及やシェアオフィスの拡大により、テナント企業が求めるオフィスの機能や環境は大きく変容しています。 こうした背景の中、ビルオーナーにとって欠かせないのは、BM(ビルマネジメント)業務を担う管理会社の存在です。オフィスビルという資産を運営するにあたって、BMの質はテナントの満足度や建物の資産価値を左右する非常に重要な要素となります。BMがカバーする業務範囲は、設備管理、清掃、セキュリティ、クレーム対応など多岐にわたり、これらを総合的かつ継続的に見守ることによって、安心してビルを利用できる環境が整えられるのです。 しかし、オーナー自らがこれらの手配や監督を行うとなると、膨大な時間と高度な専門知識が必要となり、その負担は非常に大きいのが現実です。また、オフィスビル特有の要望や規模感に応じた最適な運営方法を理解しておくことも不可欠です。そこで、BM業務をどの管理会社に委託し、どこまで外部に任せるべきかという判断は、非常に重要なポイントとなります。 実際、BMを専門とする管理会社は数多く存在し、それぞれのコスト構造、サービスの質、対応スピードなどに大きなばらつきがあります。適切な会社を選定し、しっかりと連携を図らなければ、テナントの満足度が低下し、ひいては建物の資産価値を損なうリスクも高まるでしょう。 本稿では、オフィスビルのBMに焦点をあて、管理会社選定のポイントや、日常的に発生する設備管理、清掃、セキュリティ対応といった業務の要点をバランスよく紹介していきます。ぜひ最後までお読みいただき、オーナーの皆様や物件管理に携わる方々の、実践的なビル運営の指針としてお役立ていただければ幸いです。 1. オフィスビルにおけるBMの重要性 1-1. テナント企業が安心して働ける環境づくり オフィスビルは、言うまでもなくテナント企業の“職場”です。職場の快適性や安全性は、従業員の生産性・モチベーションに影響を与えます。たとえば、空調が適切に管理されていない環境では、社員の体調不良や業務効率の低下を招く可能性があるでしょう。防災・セキュリティが不十分ならば、情報漏洩リスクや事故・犯罪リスクが高まってしまいます。BMの目的は、こうしたリスクを最小限に抑えつつ、テナントが安心してビジネスを展開できる環境を持続的につくることにあります。 1-2. 資産価値と競争力の維持・向上 オフィスビルには、空調設備やエレベーター、防災システムなどの高額なインフラが集約されています。これらを適切に保守管理することで建物の劣化を防ぎ、結果的にビルとしての資産価値や競争力を保ち続けられます。一方で、そうした管理を怠ると、突然の故障やクレームが頻発し、テナント離れを招くケースも少なくありません。BM業務を担う管理会社との連携がスムーズであれば、計画的な点検やリニューアルの提案などを通じて、ビルの「寿命」を延ばしながらブランド力を高めることが可能になります。 2. BMがカバーする主な業務領域 BMは多岐にわたるため、全体像を把握しておくことが大切です。代表的な4つの領域を簡単に整理してみましょう。 2-1. 設備管理・保守点検 オフィスビルでは空調・エレベーター・給排水・電気・防災システムなど、多種多様な設備が日々稼働しています。これらの設備を定期的に点検・メンテナンスし、故障や事故を未然に防ぐのがBMの基本的な役割です。 空調は室内環境を左右するため、フィルター清掃や冷媒・ダクトの点検を欠かさず行うエレベーターの定期検査や部品交換は、利用者の安全確保に直結防災設備(消防設備、避難経路表示など)の点検と訓練もBMの重要業務の一環 2-2. 清掃・衛生管理 オフィスビルの美観と衛生環境を支えるのが清掃・衛生管理です。共用部(エントランス、廊下、トイレなど)が常に清潔な状態に保たれていれば、来訪者やテナント企業の従業員に好印象を与えられます。 床材やカーペットなど、素材に合わせた適切な清掃方法を選ぶトイレや給湯室などの水回りは、利用頻度が高く、汚れが目立ちやすいエリア建物の劣化を早めるような汚れや水垢・カビを放置しないためにも、計画的なクリーニングが欠かせない 2-3. セキュリティ・防犯体制 オフィスビルには、情報漏洩リスクや備品盗難リスクなど、企業独自の課題が存在します。これらに対応するため、管理会社は、専門の警備会社とも連携しつつ、以下のような活動を行います。 入退館管理システム(ICカードや顔認証)による不正侵入の防止監視カメラや赤外線センサーを配置して専門の警備会社とも連携して、夜間対応も含めたモニタリング定期的な防犯設備の点検 2-4. トラブル・クレーム対応 オフィスビルで発生するトラブルは様々です。空調の突然停止、給排水の漏水、共用部での騒音問題など、いつ発生してもおかしくありません。BM担当者の役目は、これらのトラブルに迅速に対処し、ビジネスへの影響を最小限に抑えることです。 エレベーターの停止 → 速やかなメーカー連絡・救出対応漏水 → 原因箇所の特定と応急処置、修繕業者の手配テナント間クレーム → 当事者同士の調整・解決策の提案 トラブル対応が遅れると、テナント満足度の低下や被害拡大を招く可能性があるため、管理会社の“腕の見せ所”ともいえます。 3. 管理会社選定の基本ポイント 以上のようなBM業務をしっかりカバーしてくれる管理会社を見極めるために、最初に押さえるべき基本ポイントを紹介します。 3-1. オフィスビル特化の実績・ノウハウ マンションや商業施設の管理とオフィスビルの管理では、必要となる知識やノウハウに大きな違いがあります。 空調負荷が高いオフィスビル特有の運用知識を持っているか昼間稼働がメインであるオフィスビルならではの清掃スケジュールやトラブル対応を理解しているかビジネス用途に適したセキュリティ対策の経験があるか これらを踏まえた管理ができるかどうかは、管理会社を選定する際の最重要チェック項目です。 3-2. コスト構造とサービス範囲の透明性 BMにかかるコストは、清掃や設備点検の頻度・規模、常駐人員の有無、セキュリティレベルなどによって大きく変動します。 基本委託料に含まれる範囲はどこまでか緊急対応や追加業務が発生した際の料金体系はどうなっているか大規模修繕時の管理費やコーディネート費用が明確化されているか 不透明な項目があると、契約後に「聞いていなかった追加料金が請求された」というトラブルが発生しやすいので、事前の確認が重要です。 3-3. 担当者の専門性とコミュニケーション力 BMはテナントとの密なやり取りが求められるため、管理会社の担当者がどれだけ柔軟にコミュニケーションできるかが重要となります。 設備管理や清掃、セキュリティなど各領域に一定以上の知識があるかテナントのクレームに迅速かつ丁寧に対応できる体制があるか担当者が変わる場合の引き継ぎルールやマニュアルが整備されているか これらの要素は、安定した運営やテナント満足度の向上に直結します。 3-4. トラブル・緊急時対応 オフィスビルの利用時間帯は、平日の日中が中心となります。ただし、企業によっては夜間や休日に工事等の作業を行う場合もあるでしょう。24時間対応が必須かどうかは物件やテナント属性によって変わりますが、いざというときに誰が一次対応をし、どのような手順で修繕業者を手配するのか、明確なフローを用意している管理会社を選ぶことが大切です。 3-5. 最新技術やデジタルツールへの対応 近年では、IoTセンサーやビル管理システム(BMS)、クラウド型監視・報告ツールなど、デジタル技術を活用したBMが注目されています。こうしたシステムを活用することで、点検や修繕時期の可視化、遠隔監視による迅速なトラブル対応などが可能になります。管理会社がどの程度最新技術を取り入れているかも、将来的な運営効率やコスト削減に影響してくるでしょう。 4. 清掃業務:バランスよく注力するポイント 清掃はBMのなかでも非常に“目に見える”業務です。とはいえ、清掃だけを過度に重視すれば良いわけではありません。ビル全体の運用バランスを考えつつ、清潔かつ衛生的な空間を維持するためには以下のポイントを押さえると良いでしょう。 4-1. 清掃スケジュールの策定 オフィスビルでは人の出入りが多い時間帯に清掃を行うと、テナント企業の業務を妨げるケースがあります。逆に、夜間や早朝ばかりに清掃を集中させると、清掃スタッフの人件費が高くなったり、巡回回数が十分でなくなったりする懸念もあります。 日次清掃・週次清掃・定期清掃をそれぞれ計画し、テナントと調整流動的に人が出入りするエリア(エントランスやエレベーターホール)と、執務エリアでは、適切なタイミング・頻度を変える 4-2. 水回り・共用部の清掃品質 トイレや給湯室などは利用頻度が高く、衛生状態がダイレクトに評価されるため、注意が必要です。 消耗品(ペーパータオルやトイレットペーパー)の補充管理水垢やカビの予防のための定期的な専門清掃ニオイ対策や換気の改善など、快適性を維持する工夫 また、建材によっては汚れの蓄積や劣化の進行が異なるため、プロの清掃会社や管理会社と協力して最適な洗剤やクリーニング手法を選ぶことが大切です。 4-3. 清掃スタッフの管理と情報共有 清掃は人が行う業務ですから、最終的な品質はスタッフのスキルやモチベーション次第と言っても過言ではありません。 清掃手順や使用する洗剤などをマニュアル化して統一定期的な研修やミーティングを通じてスキル向上を図る清掃中に気づいた設備の不具合を管理会社の設備担当へ迅速に共有 こうした連携が、ビル全体のトラブル発見や維持管理にも役立ちます。 4-4. コストとクオリティのバランス 清掃の頻度を上げればクオリティは上がりますが、人件費や清掃費用も増大します。逆にコストを削減しすぎると、清掃不良やクレームが多発し、結果的にビルの評価低下につながるかもしれません。 ビルの規模や利用状況に応じて、必要十分な清掃回数や時間を見極める他業務(設備点検など)と連携し、スタッフが重複して巡回できるタイミングを調整 こうした調整によって、清掃コストとクオリティの最適点を探ることがポイントです。 5. 知っておきたい営繕(修繕業務)の最適化アプローチ BMには日常点検や清掃のほか、故障・劣化にともなう修繕業務(営繕)が含まれます。営繕をどの程度外部委託するか、あるいは内製化するかは、オーナーや管理会社ごとに方針が異なります。以下では「すべて外部委託」と「一部内製化」の双方のメリット・デメリットを見てみましょう。 5-1. すべて外部委託する場合 メリット その都度、専門業者を選定できるため、工事内容に合わせて最適な会社を見つけやすい。自社で営繕スタッフを抱えなくて済むため、人件費や設備投資費用を抑制できる。大掛かりな改修や特殊工事にも、柔軟に対応できる。 デメリット 緊急トラブル発生時に見積もりや契約手続きを経るため、対応が遅れるリスクがあるビル固有の事情(構造・設備のクセなど)を外部業者が熟知していないケースがあり、適切な工法・費用をすり合わせるのに時間がかかる施工内容や費用面のチェックが不十分だと、割高になったり、品質にムラが出たりする可能性がある 5-2. 一部内製化する場合 メリット 小規模な修繕や簡易的な補修であれば、自社スタッフが迅速に対応できるため、スピード感が求められる現場に有利。社内にノウハウが蓄積されるため、建物の履歴管理や設備特性の把握が容易になる。施工費用を外部発注に比べて抑えられるケースがある。 デメリット 専門スタッフの人件費や、必要な資格の取得・維持費など、運用コストが増大する。大規模な改修工事や専門的な施工が求められる場合、最終的には外部委託が必要となるケースがある。スタッフの技術レベルが十分でない場合、業務範囲をカバーしきれず、トラブルやミスが発生する恐れがある。 5-3. 最適化の考え方 営繕の最適化は、単に「全部外注する」か「全部内製化する」という二者択一ではなく、建物の規模・用途、オーナーの方針、さらには管理会社の得意分野などを考慮し、どの部分を内製化し、どの部分を外部委託するかを柔軟に組み合わせることが重要です。例えば、日常的な小規模修繕(壁の穴埋めや小さな水漏れ修理など)は内製化して迅速に対応し、同時に大規模なリニューアルや専門性の高い設備工事は、実績のある外部業者に一括委託する、といった運用が考えられます。管理会社によっては、営繕業務を部分的に内製化しているケースも多く、その場合は迅速な対応とコストメリットを享受しやすいと言えます。ただし、最も大切なのは、オーナーの意向、予算、そして建物の状態に合わせ、最適な方法を常に模索する姿勢です。 6. BMをより効果的に活用するための6つのヒント (1) オーナーの運営方針を管理会社と共有 「高級路線で行きたい」「共用部をカジュアルに使いやすくしたい」など、オーナーの理想像を明確に示すと、管理会社も具体的な運用プランを立てやすくなります。ビルのコンセプトやブランディング方針を最初から共有しておきましょう。 (2) 定期的な打ち合わせと報告確認 BM業務は日常のルーティンが中心となりがちですが、定期的(例えば月1回や四半期ごと)に報告を受ける機会を設けると良いでしょう。清掃状況や設備の稼働具合、不具合の有無などを確認しながら、必要な改善策を検討します。 (3) 設備更新のタイミングを見極める 空調やエレベーターの大型設備は、故障が起きるとテナントの業務にダメージが及びます。BM担当者と連携し、メーカー推奨寿命を参考にしながら、計画的に更新計画を立案することがリスク回避のポイントです。 (4) 清掃の質を上げて印象アップ エントランスや共用部が汚れていると、「このビルは管理が行き届いていない」と見られがちです。日常清掃だけでなく、専門業者による定期クリーニングを組み合わせることで、常に美観を保ちましょう。 (5) トラブル対応フローの周知 空調停止や漏水などのトラブルは、オフィスビルの日中に起こると企業活動そのものに影響します。テナント向けに「何か問題があったらどこに連絡すればよいか」を明確に周知し、管理会社の緊急連絡先や休日対応の可否を共有することが重要です。 (6) デジタルツールを活用 IoTセンサーやクラウド管理システムを導入することで、清掃・設備管理の効率化や可視化が可能になります。BM担当者と相談しながら、ビルやテナントのニーズに合った技術を選ぶと効果的です。 7. トラブル事例から見るBMの実際 BMがどのように機能するかを理解するためには、具体的なトラブル事例を見てみるのが一番わかりやすいでしょう。以下に、オフィスビルでありがちなトラブルと、BMによる解決例を示します。 7-1. エレベーター停止トラブル 【状況】朝の出勤時にエレベーターが停止し、乗客が閉じ込められた。 【BM対応】 管理会社の緊急連絡網を通じて警備・設備担当が即座に駆け、メーカーとも連絡を取りながら、非常時対応マニュアルに沿って乗客を救出メーカーに障害原因の調査を依頼通常業務時間帯だったため、テナント企業へ遅延や混雑を回避するための周知を行う。メーカーによる調査結果を受けて、部品交換や再点検を実施テナント各社へ経緯や再発防止策を報告 スピードと適切なコミュニケーションが被害拡大を防ぐカギとなります。 7-2. 給排水の水漏れ 【状況】テナントから「女性トイレの床に水が溜まっている」と通報があり、担当者が直行、点検したところ配管のパッキン劣化が原因。 【BM対応例】 担当者が状況確認後、すぐに営繕担当へ連絡社内営繕チームが即日パッキン交換 → 漏水被害を最小限に影響範囲を確認し、念のため周辺部位も一緒に点検。周辺施設への二次被害を防ぐため、必要に応じて、除湿・清掃対応も手配。オーナーとテナントに対し、再発防止策と経緯報告を迅速に共有 【ポイント】社内営繕チームが対応して、外部業者手配の手間やコストを省略でき、テナントの不満も抑えられた 7-3. セキュリティの不審者侵入 【状況】夜間に、ICカードを持たない外部者が建物内で徘徊しているとの人感赤外線センサーで通報。 【BM対応】 警備会社の担当が状況確認の上、現場に急行し、声掛け・退去指示入退館システムのログを照合し、不正アクセスの有無を調べるオーナーやテナントへ状況報告と再発防止策(セキュリティレベル引き上げなど)を提案 【ポイント】警備会社との連携を踏まえた、日頃の警備体制やマニュアルが整備されているかが、こうした緊急時に試されます。 7-4. 外部ガラス面の汚れ・落下物リスクの安全確認 【状況】ビルの外壁ガラス部分に汚れや蜘蛛の巣が目立ち、入居企業からクレームが発生。念のため、落下物リスクを想定した安全点検を実施。 【BM対応例】 定期的なガラス清掃とは別に、別途対応清掃時に外壁や窓枠の劣化具合を点検し、必要があれば営繕チームへ補修依頼作業を行う際、テナント企業や近隣への安全告知を徹底 【ポイント】 高所清掃は専門業者と連携が必要。清掃と点検を同時に行うべく手配し、追加工事や日程調整の手間を省く 8. よくある質問(BMに関するFAQ) Q1. 大手管理会社と中小管理会社、どちらがBMに向いている? A. 大手は広範囲にわたる実績とネットワークを持ち、最新技術の導入や大量発注によるコストメリットなどを活かしやすいです。一方、中小の管理会社は地域密着型のきめ細かい対応や迅速な現場対応が期待できます。物件の規模や所在エリア、オーナーが求めるサービス水準に合致する方を選ぶのがベストです。 Q2. 24時間対応は絶対に必要でしょうか? A. オフィスビルの稼働時間帯やテナント企業の業務形態によって異なります。コールセンター等、夜間・休日に稼働するテナントが入居している場合は24時間対応が望ましいですが、通常の業務時間帯のみ稼働する企業が大半であれば、緊急時の一次対応フローだけ明確にしておけば事足りるケースもあります。 Q3. BM担当者が変わるたびに、トラブルが繰り返されるのでは? A. 管理会社によっては担当者異動が頻繁に起きることもあります。大切なのは引き継ぎの仕組みがしっかり整備されているかです。オーナーやテナントが要望や過去の経緯を何度も説明しなくても済むよう、履歴管理や業務マニュアルが整っているかを確認しましょう。 9. 当社サービス紹介 弊社では、オフィスビルのBMサービスについて、設備管理・清掃・セキュリティ・緊急対応などをトータルにサポートしております。 設備管理 定期点検や保守スケジュールの立案・実行を行い、稼働状況を可視化して改善提案を続けます。ンプライアンスを重視した法定点検も、それぞれ有資格者により実施します。 清掃・衛生管理 プロフェッショナルな清掃スタッフが日常清掃から定期クリーニングまでをカバー。当社基準に基づいた仕様を業者と取り交わし、定期的な現場チェックも行い、品質維持に努めています。 セキュリティ・防犯 警備会社と連携して、監視カメラや人感赤外線センサーの配置、最新のICカードシステム・顔認証による入出管理を行い、建物全体の安全性を確保します。 営繕対応 小規模修繕は内製化チームで迅速に対応可能。大規模改修や専門工事が必要な場合でも、信頼できる外部パートナーと連携します。 原状回復工事、オフィス設計工事 テナントの退去後の原状回復工事、リノヴェーション対応のオフィス設計工事等、オーナー様の基本仕様に基づき、工事施工、工事管理を実施します。 デジタルツールの活用 オーナー様向けのオンラインポータルを設置し、トラブル報告等もスムーズに行えます。 このように、BMのあらゆる領域で柔軟に対応する体制を整えており、オーナー様の運営方針・ご予算に合わせた最適なプランをご提案いたします。 10. 今後の展望:オフィスビルのBMはどこへ向かうのか リモートワークの普及により、オフィスビルの稼働率や利用形態は大きく変化していくと考えられます。ただし、「一定数の従業員がオフィスに集まって働く」スタイルが完全になくなるわけではなく、企業の中でもチームワークや対面コミュニケーションを重視する働き方は依然として求められています。 フレキシブルオフィスの需要 テナントがコワーキングスペースや小規模会議室をフレキシブルに利用できる環境を整える動きが進むでしょう。これに伴い、清掃のタイミングやエリアの増減などをより緻密に管理する必要が出てきます。 スペースの多用途化と清掃の複雑化 休憩スペースやカフェラウンジ的な共用部が増えれば、その分だけ清掃・メンテナンスの範囲も広がることに。利用時間帯や利用方法に合わせた柔軟な清掃計画が求められます。 IoT技術のさらなる普及 空調・照明の自動制御だけでなく、利用者の動線把握や混雑状況のリアルタイム表示など、新たな管理手法が続々と登場。清掃や営繕にもAIを活用した予知保全の仕組みが広がっていく可能性があります。 これらの変化に追随できるBM会社を選び、継続的なコミュニケーションを取ることが、ビルオーナーにとっては重要な経営戦略の一部となるでしょう。 11. まとめ:バランス感覚がカギとなるBM運用 オフィスビルのBMは、単に一つの要素(清掃、設備管理、セキュリティなど)を重視すればよいというものではなく、全体を俯瞰してバランスよく整えることが求められます。日常清掃や設備点検、トラブル対応など、多様な業務を横断的に管理できるプロフェッショナルとの連携こそが、テナント企業の満足度とビルの資産価値を高める近道です。 清掃:美観や衛生環境を維持し、テナントや来訪者の第一印象を向上 設備管理:故障リスクを抑え、安定稼働を実現 セキュリティ:情報漏洩や不正侵入などのリスクを低減 営繕:トラブルや劣化を早期に発見し、必要に応じて迅速修繕 また、営繕を完全に外部委託するか、一部を内製化するかは、建物の状況やオーナーの方針によって最適解が異なります。管理会社がどこまで対応可能か、どういった場合にどの業者を選ぶかなど、細かいフローを確認しながら、メリット・デメリットをしっかりすり合わせるのが大切です。最後に重要なのは、オーナー自身も管理会社に丸投げせず、定期的にコミュニケーションを取りながら改善を続ける姿勢です。BMは長期的な視点で取り組むほど効果が高まり、テナントとの信頼関係も深まっていきます。ぜひ本稿を参考に、オフィスビル運営におけるBMの役割や管理会社選びのポイントを今一度見直し、より安定したビル経営を実現していただければ幸いです。 おわりに オフィスビルにおけるBMは、ビルの安定稼働と資産価値の維持・向上を担う要です。清掃や設備管理、セキュリティ、トラブル対応まで、多くの業務が連携し合うことで、テナント企業が安心して働ける環境が実現します。 管理会社を選ぶ際は、オフィスビル特有のニーズに応えられる専門性やコミュニケーション力、コスト構造の透明性、緊急時対応の迅速さなど、複数の観点から検討することが必要です。また、営繕については、すべて外部に委託する方法から一部内製化まで様々な形があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。オーナーの方針とビルの現状を踏まえながら、最適なバランスを模索していきましょう。 本稿が、ビルオーナーや管理担当者の皆様の課題整理や、より良い管理会社との連携構築に少しでもお役に立てば幸いです。テナントからの信頼を得るうえでも、日常の運用品質を高め、将来的なリニューアルや設備更新を計画的に進められるBM体制を目指していただければと思います。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム 飯野 仁 東京大学経済学部を卒業 日本興業銀行(現みずほ銀行)で市場・リスク・資産運用業務に携わり、外資系運用会社2社を経て、プライム上場企業で執行役員。 年金総合研究センター研究員も歴任。証券アナリスト協会検定会員。 2025年8月25日執筆2025年08月25日 -
貸ビル・貸事務所
新富町駅周辺のオフィス・貸事務所賃料相場|不動産会社が解説
皆さんこんにちは。株式会社スペースライブラリの藤岡です。この記事は新富町駅周辺のオフィス・貸事務所賃料相場についてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思います。どうぞよろしくお願い致します。 目次新富町駅周辺の特徴とトレンド新富町駅周辺の入居企業の傾向新富町駅周辺のオフィス・貸事務所の賃料相場 新富町駅周辺の特徴とトレンド 新富町駅周辺は、東京メトロ有楽町線で「銀座一丁目駅」までわずか1駅であり、東京メトロ日比谷線「築地駅」、都営浅草線「宝町駅」、JR京葉線・日比谷線「八丁堀駅」、東京メトロ銀座線「京橋駅」など、複数の駅が徒歩圏内というの利用が可能なエリアです。有楽町線自体が日比谷・有楽町・永田町など都心部を縦断する路線であり、ビジネスエリアへの移動に便利であることもあり、オフィスの拠点として恵まれた立地といえるでしょう。新富町駅周辺の環境は、オフィス街と住宅街が混在する落ち着いた雰囲気が特徴です。銀座や築地といった華やかなエリアに近接しながら、一歩中に入れば閑静な街並みが広がり、落ち着いて仕事がしやすい環境となっています。オフィスワーカーに便利な施設やサービスも一通り揃っている他、近年「奥銀座」「裏銀座」としてバル、ワインバーから大衆的なレストランまで、飲食店が増えており、多彩なグルメを楽しめます。新富町駅周辺のオフィス・貸事務所の坪単価は、上記のアクセス及び環境の良さの割に、比較的手頃な水準にあることからスタートアップ企業にとって魅力的な立地となっています。 新富町駅周辺の入居企業の傾向 新富町駅周辺は、オフィスビルと飲食店が混在するエリアであり、古くから印刷・出版関連企業が多いエリアでしたし、現在も印刷所や製本業者が点在しています。しかしながら、かつて多かった印刷・製本などの製造業系テナントは、デジタル化の進展に伴い事業所数が減少傾向にあります。これと入れ替わるように、2010年代から小規模な飲食店の新規出店が相次ぎ、新富町周辺でも個性的な飲食店が増加しました。さらに近年はオフィスビルの新築・再開発も見られ、テナントの業種構成に変化をもたらしています。このような新築ビルにはIT、クリエイティブ、コンサルティングなど新たな業種の企業が入居するケースが増えており、新富町エリアのテナント構成は従来型の業種から多様化しつつあります。 新富町駅周辺のオフィス・貸事務所の賃料相場 新富町駅周辺のオフィス・貸事務所の賃料相場は次の通りです。 賃料下限賃料上限20~50坪約12,000円約24,000円50~100坪約13,000円約28,000円100~200坪約16,000円約30,000円200坪以上約16,000円約30,000円 ※法人登記できる実際のオフィスのみを対象としており、バーチャルオフィスは含めていません。※調査は当社が把握している物件情報を対象としておりますが、把握していない物件もあることから正確性を担保するものではありません。※賃料はおおよその目安として掲載しております。賃料下限の物件は、築年数が古く設備も古いケースが多い傾向があります。※飛びぬけて安い、あるいは飛びぬけて高いハイグレード物件の情報は省いています。 ご希望条件をお伝えいただければ、当社の担当よりオフィス・貸事務所のご提案をさせていただきますので、お気軽にご相談ください。Webサイトには公開されていない物件情報も存在します。お気軽にご相談ください。 物件の無料提案を依頼してみる 新富町駅周辺で募集中のオフィス・貸事務所をお探しの企業様、富町駅周辺で安定したビル経営を望まれているビルオーナー様は、こちらよりお気軽にご相談ください。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム 藤岡 涼 入社以来20年以上にわたり、東京23区のオフィスビルを中心にプロパティマネジメント・リーシング・建物管理を担当。 年間多数の交渉やトラブル対応経験を活かし、現場目線に立った迅速かつ的確な提案を通じて、オーナー様とテナント様双方の満足度向上に努めています。 2025年8月25日執筆2025年08月25日 -
貸ビル・貸事務所
築地駅周辺のオフィス・貸事務所賃料相場|不動産会社が解説
皆さんこんにちは。株式会社スペースライブラリの藤岡です。この記事は築地駅周辺のオフィス・貸事務所賃料相場についてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思います。どうぞよろしくお願い致します。 目次築地駅周辺の特徴とトレンド築地駅周辺の入居企業の傾向築地駅周辺のオフィス・貸事務所の賃料相場 築地駅周辺の特徴とトレンド 築地駅周辺は、築地駅(東京メトロ日比谷線)のほか、徒歩10分以内に有楽町線の新富町駅や都営大江戸線の築地市場駅があり、交通利便性が高いエリアです。実際、築地駅を最寄りに5駅6路線ものアクセスが可能で、八重洲や日本橋など主要ビジネス街にも近く、銀座へも徒歩圏内と非常に利便性に優れていることから、都心各所への移動・通勤もしやすく、ビジネス拠点として恵まれた立地といえるでしょう。周辺の生活環境・利便施設も充実しています。 築地市場の場内市場は移転しましたが、築地場外市場には現在も多数の店舗や飲食店が営業しており、海鮮を中心に有名店も多い他、一般的な飲食店も多く、ランチにも困りません。コンビニエンスストアや銀行などの金融機関も揃っているため日常の利便性は高い地域です。築地駅周辺のオフィス・貸事務所の坪単価は、規模によっては隣接する銀座の半額程度と割安です。一方で、旧築地市場の跡地再開発計画が本格化しており、大規模集客施設(多目的スタジアム)を中心に、MICE(国際会議)施設やホテル、商業施設、オフィス、レジデンス等から成る大規模プロジェクトが進行中であることから、築地エリアの価値向上が見込まれています。今後オフィス需要や賃料も上昇傾向になる可能性があります。築地駅周辺は、立地・コストメリットの観点から、新規出店や移転を検討する企業から引き続き高い関心を集めているエリアです。 築地駅周辺の入居企業の傾向 築地駅周辺は、築地市場に由来する水産・食料品卸や飲食チェーンなど食分野に強い企業が多いのが特徴ですが、上記の立地・コストメリットから物流、エンタメ、金融、メディア、旅行関連などの大手企業が集積・混在するエリアとなっています。さらに、2018年10月の築地市場豊洲移転後、築地は市場の街から一般的な商業オフィス街へと転換が一層進み、周辺の銀座などに比べ賃料水準が割安なことも相まってコスト重視の企業による移転が増加しています。また、再開発によるビジネス拠点としての価値向上を見越して築地に拠点を移す企業も増えており、再開発計画は周辺オフィス市況にポジティブな追い風となっています。 築地駅周辺のオフィス・貸事務所の賃料相場 築地駅周辺のオフィス・貸事務所の賃料相場は次の通りです。 賃料下限賃料上限20~50坪約13,000円約24,000円50~100坪約14,000円約30,000円100~200坪約16,000円約30,000円200坪以上約16,000円約30,000円 ※法人登記できる実際のオフィスのみを対象としており、バーチャルオフィスは含めていません。※調査は当社が把握している物件情報を対象としておりますが、把握していない物件もあることから正確性を担保するものではありません。※賃料はおおよその目安として掲載しております。賃料下限の物件は、築年数が古く設備も古いケースが多い傾向があります。※飛びぬけて安い、あるいは飛びぬけて高いハイグレード物件の情報は省いています。 ご希望条件をお伝えいただければ、当社の担当よりオフィス・貸事務所のご提案をさせていただきますので、お気軽にご相談ください。Webサイトには公開されていない物件情報も存在します。お気軽にご相談ください。 物件の無料提案を依頼してみる 築地駅周辺で募集中のオフィス・貸事務所をお探しの企業様、築地駅前周辺で安定したビル経営を望まれているビルオーナー様は、こちらよりお気軽にご相談ください。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム 藤岡 涼 入社以来20年以上にわたり、東京23区のオフィスビルを中心にプロパティマネジメント・リーシング・建物管理を担当。 年間多数の交渉やトラブル対応経験を活かし、現場目線に立った迅速かつ的確な提案を通じて、オーナー様とテナント様双方の満足度向上に努めています。 2025年8月25日執筆2025年08月25日 -
貸ビル・貸事務所
飯田橋駅周辺のオフィス・貸事務所賃料相場|不動産会社が解説
皆さんこんにちは。株式会社スペースライブラリの藤岡です。この記事は飯田橋駅周辺のオフィス・貸事務所賃料相場についてまとめたもので、2025年8月25日に執筆しています。少しでも皆様のお役に立てる記事にできればと思います。どうぞよろしくお願い致します。 目次飯田橋駅周辺の特徴とトレンド飯田橋駅周辺の入居企業の傾向飯田橋駅周辺のオフィス・貸事務所の賃料相場飯田橋駅周辺で募集中のオフィス・貸事務所の一例 飯田橋駅周辺の特徴とトレンド 飯田橋駅周辺のオフィスビルは、中小規模ビルが中心で、ハイグレードの大型ビルの数は限られています。中規模以下のビルが大部分を占めていることから、1棟丸ごと、あるいは連続フロアを確保しやすいという特長があります。また、ビルの築年は全体的に古く、中小規模オフィスビルの8割以上が築20年以上と指摘されており、新築供給は限定的となっていることから、コスト重視のテナントには一棟借りなど柔軟な選択肢を提供できるという特長があります。とはいえ、近年は耐震・設備面で競争力を維持するためのリニューアルも進んでいますし、ハイグレードオフィスビルの開業も出てきていることから、ビルの新陳代謝も着実に進んでいるエリアでもあります。特に、飯田橋はJR中央・総武線や地下鉄複数路線が集まり都内全域へのアクセスが良い「隠れた交通利便性の高さ」が評価されており、拠点集約の移転先として一定の需要があります。 飯田橋駅周辺の入居企業の傾向 飯田橋駅周辺には、出版社や教育機関(予備校・学会など)のオフィスが古くから多い一方、近年はIT企業や情報通信系の進出も目立っています。また、賃料水準が抑えられていることや、中小規模オフィスが豊富なことから、スタートアップ企業やベンチャーにも利用しやすいエリアであるとも言えます。一方、外資系企業の進出状況は限定的で、グローバル企業の多くは六本木や丸の内など別のビジネス中心地を選好する傾向があります。飯田橋エリアに拠点を構える外資系企業もありますが、その業種は製薬や通信など専門分野が中心です。総じて飯田橋周辺は国内の中堅・ベンチャー主体のテナント構成となっており、安定した需要基盤を保ちながらも新興企業の取り込みによる活性化が進んでいる状況と言えるでしょう。 飯田橋駅周辺のオフィス・貸事務所の賃料相場 飯田橋駅周辺のオフィス・貸事務所の賃料相場は次の通りです。 賃料下限賃料上限20~50坪約10,000円約19,000円50~100坪約12,000円約19,000円100~200坪約15,000円約25,000円200坪以上約16,000円約25,000円 ※法人登記できる実際のオフィスのみを対象としており、バーチャルオフィスは含めていません。※調査は当社が把握している物件情報を対象としておりますが、把握していない物件もあることから正確性を担保するものではありません。※賃料はおおよその目安として掲載しております。賃料下限の物件は、築年数が古く設備も古いケースが多い傾向があります。※飛びぬけて安い、あるいは飛びぬけて高いハイグレード物件の情報は省いています。 飯田橋駅周辺で募集中のオフィス・貸事務所の一例 ヒキタカ飯田橋ビル 住所:千代田区飯田橋3丁目11番15号 GoogleMapで見る 階/号室:8~9階 坪単価:相談 面積坪:57.540 入居日:2025年07月28日 詳細はこちら ご希望条件をお伝えいただければ、当社の担当よりオフィス・貸事務所のご提案をさせていただきますので、お気軽にご相談ください。Webサイトには公開されていない物件情報も存在します。お気軽にご相談ください。 物件の無料提案を依頼してみる 飯田橋駅周辺で募集中のオフィス・貸事務所をお探しの企業様、飯田橋駅周辺で安定したビル経営を望まれているビルオーナー様は、こちらよりお気軽にご相談ください。 執筆者紹介 株式会社スペースライブラリ プロパティマネジメントチーム 藤岡 涼 入社以来20年以上にわたり、東京23区のオフィスビルを中心にプロパティマネジメント・リーシング・建物管理を担当。 年間多数の交渉やトラブル対応経験を活かし、現場目線に立った迅速かつ的確な提案を通じて、オーナー様とテナント様双方の満足度向上に努めています。 2025年8月25日執筆2025年08月25日
Our Business
事業概要
-
Buildings and offices for rent
貸ビル・貸事務所
事業の成長に最適なオフィスを提案し、豊富な選択肢と専門的なサポートで理想のオフィス選びを実現します。移転計画から契約交渉、レイアウト工事の設計・施工まで一貫して対応します。 -
Building Renovation
ビルリノベーション
老朽化したビルの単なる修繕はリフォームと呼ばれますが、ある程度の広さを総合的に改修して建物の性能を向上させたり、価値を高めたりすることをリノベーションと呼びます。 -
Property Management
プロパティマネジメント
不動産オーナーやアセットマネージャーに代わって、不動産の管理や運営を行います。不動産の資産価値や収益を最大化することを目的としています。 -
Building Maintenance
ビルメンテナンス
建物を維持・管理し、ご利用の方が快適に過ごせる環境を保ちます。ビルメンテナンスがカバーする領域は幅広く、それぞれに専門的な知識・技術が要求されます。 有資格者のみができる業務も少なくありません。 -
Building Development
ビル開発
賃貸ビルは長期安定収益を目指した事業です。当社は賃貸オフィスビルと賃貸マンションの開発で多数の実績があり、オフィスでは80棟超・マンションでは東京建築賞(東京都建築士事務所協会主催)を3回受賞等数々の実績があります。当社はビル開発に伴う、全ての業務を行います。
Latest Articles